表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/153

アプローチ ( ダンス )の時間 ~ミネルとエウロ、そして~

曲も終わり、足を止めてカウイと向かい合う。


「一度、戻ろうか」

「一度?」


カウイの言葉が気になり聞き返す。


「うん。アリアと踊りたい人は、まだいるからね」


私の質問に、カウイが優しい笑顔で答える。

言われるがまま、今まで踊っていた場所から少し外れると、タイミングよくミネルが歩いてきた。



「──思っていたより、長引いた」


ミネル、少し疲れた表情をしている?


「終わったみたいだね。お疲れ様」

「ああ、やっと終わった。いい報告ができそうだ、とだけ話しておく」


私の横で、ミネルとカウイが話している。


「さて……僕はアリアと踊るから、カウイはもう戻っていいぞ」


ミネルらしい物言いに、カウイが静かに笑っている。

戻っていくカウイの背中を見送ると、ミネルがすぐに私の正面へと立った。


「この為に今日は頑張ったようなものだ。アリア、踊るぞ」


踊る前提で言い切る所もミネルらしい。


「体力だけはあるから、まだまだ踊れるだろう?」

「そりゃ、踊れるけど。“体力だけは”って。体力以外も自慢できる事は色々ありますから」


私の返しにミネルが、くくっと笑っている。

ミネルと軽く言い合いながら移動し、曲に合わせて踊り始めた。


んー、やっぱり踊り方にも性格がでるんだなぁ。

ミネルのダンスは、きっちりと正確だ。



……そういえば。


「さっき話してた『この為に頑張った』って、踊る為?」

「……普通、当人がそういう事を素直に質問するか?」


そんなに踊る事が好きだったとは……。

と思って聞いたけど、違ったんだろうか?


もう一度、ミネルの言った言葉をよーく考えてみる。


当人=私 ……という事は?

……私と踊る為に頑張った、って事!!?


何も考えずに発言してしまったけど、よく考えれば分かる事だった!

なんて恥ずかしい質問をしてしまったのだろう!


みるみる自分の顔が熱くなっていくのを感じる。

私が照れているのに気がついたのか、ミネルがニヤッと笑った。


「もう気がついたと思うが、質問の答えはイエスだ」

「……いや、うん」


もう分かったから、これ以上辱めないでぇー!!


動揺する私の姿を楽しそうに眺めつつ、ミネルが少しだけ視線を下げた。


「プレゼントしたドレス……着た姿を見ていなかったが、ようやく見れたな」


オーダーメイドで注文したドレス。

出来上がった後、真っ直ぐ私の家に届けてもらったから、ミネルには届いた事しか伝えていなかった。


そうか。今日、初めて見てもらえたんだ。

改めてお礼を伝えようとミネルを見ると、なんだか嬉しそうな顔をしているように見える。


「ミネル、何か機嫌いい?」

「あ、ああ。そうだな」


満足そうにミネルが話を続ける。



「好きな女性が、自分の贈ったドレスを大勢の前で着ているというだけで最高の気分だ」



ミネルにしては珍しく、終始笑顔で話している。


……本当に嬉しいんだ。

そして普通に『好きな女性』とか言われると、照れるんですけど。


「僕は自分が思っていた以上に今日を楽しみにしていたらしい」

「…………」


黙って話を聞いていると、ミネルがまたしてもニヤニヤしている。


「『そうなの?』とは、さすがに聞かないのか?」

「……う、うん」


はい。

ミネルが何を言いたいのか、今度は気がつきましたから。


「アリアの恋愛脳は破壊されていると思っていたが、修復されてきているようで安心した」


えっ! 破壊!! ……されてたの?

私の恋愛脳って!?


「後は、僕を好きになれば完璧だな。まぁ、時間の問題だろう」

「……その自信はどこから?」


自信満々のミネルを見て、思わず聞いてしまった。


「頭が良く、大抵の事は何でも出来る。その上顔が整っていて、家柄だって申し分ない。好きになるしかないだろう?」


『自分の事をそこまで褒める?』 って言いたかったけど。

……その通り過ぎて、何も言えない。


「まぁ、厄介なのは同じスペックを持っている奴らが周りにいる事だが……アリアは単純だからな。言い続ければ、好きになってくれそうだ」


それは“ミネル教”と言う名の洗脳と言うのでは!?

ん? その前に単純って言った??


「それに僕を好きになれば、将来ウィズが義妹になるぞ」


うっ! な、なんという魅惑的な誘惑を!

将来的に『あーちゃん』から『アリアお姉さま』に? ……すごくいい!!



……いやいやいや! その前に!!


「ミネルの良い所は、顔とか家柄だけじゃないよ。口が悪いから誤解されやすいけど、優しいし、思いやりも……わずかにある!」


そう断言すれば、ミネルが分かりやすく顔をしかめてみせた。


「それは……褒めているのか?」


ミネルの疑問は一旦聞かなかった事にして、会話を続ける。


「それに難しい事や新しい事に挑戦する時、活き活きと楽しそうな表情を見せるでしょ? そういう姿を見ていると私も楽しくなってくるし、何でも出来るような気持ちになる! というか、何でも出来る気持ちにさせてくれるのがミネルなんだと思う」


一気に話し終えると、ふぅ、と軽く息を吐き出した。

……はっ! ついつい力説してしまった。


「……そうか」


一言だけ返し、ミネルが黙り込んでしまう。


えっ! ちゃんと伝わった!?

そっとミネルの表情をうかがうも、見事なくらい無表情だ。


「そろそろ、戻るぞ」


ミネルが私の手を引き、静かに歩き出した。

……どうしちゃったのかな?



「ミネ──」

「い、いたー!」


ミネルに話し掛けようとした瞬間、エウロが急いで私たちの元へやって来た。


「間に合った!! ……っと、ミネルは? これから踊るのか?」

「いや、踊り終わった。……アリア、また後で」


振り向きもせず、ミネルがスタスタといなくなってしまった。

『また後で』という事は、怒ってはいないと思うけど……?


「ミネル……少し顔が赤い気がしたけど、体調悪いのか?」


心配そうにエウロが私に聞いてきた。


「えっ! そうだったの!?」


そういえば、さっき少し疲れた表情をしていた。


「今日ミネルは忙しかったから、疲れたのかもしれない。少し休めるといいな」

「そうだね」


2人でミネルの歩いている姿を眺める。


うーん……歩き方だけ見ると、いつも通りに見えるけどなぁ。

疲れを見せないようにしているのかもしれない。


「ええと、アリア」

「どうしたの?」


声を掛けられ、視線を元に戻す。

すると、エウロがどこか緊張した面持ちで私を見つめていた。


「俺、踊れるんだ」

「うん?」


何の宣言??


「エウロは、運動神経いいから踊れそうだよね」

「……ありがとう」


あれ? 反応が悪い。何か間違えた??

エウロが少しうなだれているように見える。


あっ! そうだ!

エウロに聞きたい事があったんだ!!


「マイヤは? サウロさんと踊った!?」


サウロさんは、マイヤにダンスを申し込んだのかな?

申し込んでいてほしい!!


「──ああ! あそこ」


エウロが広間の中央を指差す。

そこには幸せそうな顔で踊っているマイヤとサウロさんの姿が見えた。


「マイヤが知らない男性に言い寄られてたから、兄様に『マイヤを誘って助けてあげたら?』って話したんだ。兄様は正義感にあふれてるからな。すぐに声を掛けてたよ」

「エ、エウロー!!」


エウロのファインプレーに思わず抱きつきそうになってしまった。

危ない、危ない。


「いや、でも、話したい事はその事じゃなくて……」

「うん?」


他にも言いたい事があるらしく、エウロが大きく深呼吸をしている。


「よ、よければ、俺とも踊らないか?」

「うん? もちろん」


私の返事を聞き、エウロが全身で喜びを表している。

こんなに喜んでくれるんだ。


「じゃあ、行くか!」

「うん……」


私が言うのもなんだけど、大丈夫かな?

これから戦いに挑むような気合の入りようだけど……。


エウロの緊張が伝わる中、ダンスの輪に入って踊り始める。


踊りも……緊張しているのか、少しぎこちない。

だけど──


「エウロも私と同じでダンスが苦手だって話してたよね? それなのに普通に踊れるなんて……」

「『踊れるなんて?』……なんだ?」


私の言葉に、エウロが少し興奮気味に聞き返してくる。


「さすがだなぁと思って」

「……そっか、そうだよなぁ」


んん? 少し落ち込んでいる?


「アリアなら、そう言うよなぁ。俺はまだまだだな」


んん? まだまだ??



「アリアをドキドキさせれないなんて、まだまだだ」



……それを面と向かって言われると、ドキドキしちゃうのですが……。

戸惑っていると、エウロがきょとんとした顔で私を見つめてきた。


「どうした? 俺、何か変な事を言ったか?」


さらに無自覚ですか。


「ううん、変な事は(多分)言ってないよ」

「そうか、良かった。もっと上手くアリアをリードして踊る予定だったんだけどなー」


エウロが肩を落としている。

……そうだったんだ。


「ぎこちなさはあるけど、ちゃんとリードできてるよ?」

「アリアが驚くくらいのダンスを見せたかったんだ!」


驚くくらいのダンスって、どんなダンスなんだろう?


エウロが少しテンパってるからかな?

多分、無意識に何でも話しているエウロが少し面白くもあり、可愛くも見える。


「エウロは向上心が高いよね。いつも現状で満足していない気がする」

「そうか?」


エウロの問いに、こくりと頷く。


「うん。実は幼なじみの中で一番向上心が高いのかも。それって、すごく素敵な事だよね」

「えっ!?」

「えっ!?」


そんなに驚かれるとは思っていなかったので、私まで驚いてしまった。


「まさか想像していた事を言われるとは思っていなかった」

「想像?」


私が聞き返すと、エウロが「うんうん」と何かに納得している。


「いや、こっちの話だから気にしなくていいんだ。……俺、もっと頑張るから!」

「うん!?」


明るいエウロの声につられて、つい返事をしてしまった。

だけど……一体、何を頑張るんだろう?


途中からは緊張も解け、無事に踊り終える事が出来た。


エウロと楽しく会話をしながら戻っていると、壁沿いにリーセさんが立っているのが目に入った。

誰かを待っているようにも見える。


「どうしたんですか? リーセさん?」

「ああ、ルナを待っているんだ」


ああ、ルナ?

そういえば姿を見かけないけど、どこに行ったのかな?


「どうやら、もう少し時間が掛かりそうでね。もしよければ、ルナを待っている間、私と踊ってくれるかい?」


リーセさんが優しく口元を緩める。


「あっ、はい。エウロ、行ってくるね」

「なんて自然な誘い方なんだ……」


エウロがなぜか感心したように、リーセさんを見つめている。


そのままエウロと別れ、リーセさんにエスコートされながら広間の中央へと向かう。

上手くリードされながら踊っていると、リーセさんがゆっくりと口を開いた。


「ルナがね……『アリアと踊れるのが男性陣ばかりでずるい』とずっと話していてね」

「は、はぁ?」


突然どうしたんだろう?

珍しくリーセさんが、口を濁している。


「『準備が終わるまで、兄様は必ずアリアと踊ってて』と言われたんだ」

「ああ、なるほど。それでダンスを申し込んでくれたんですね」


ルナの準備って、何だろう?


「ごめん、ごめん。誤解される言い方をしてしまったね。ルナに頼まれなくてもアリアにはダンスを申し込んでいたよ」


申し訳なさそうに肩をすくめつつ、リーセさんが柔らかく目を細める。


「あ、ありがとうございます。それで、ルナはどうしたんですか?」

「ああ、うん。ルナが信じられない計画を思いついてね」

「は、はぁ??」


信じられない計画……?

困惑する私に対し、リーセさんは苦笑いを浮かべている。


「うーん、アリアならきっと笑ってくれると思うんだけど……」

「あのー、先ほどから何の話をしているのか……」


状況がさっぱり呑み込めずに首を傾げていると、ふいにリーセさんが私の奥へと目を向けた。


「──あっ、きた」


きた??


踊りながら、リーセさんの視線の先を追う。

その先には髪を後ろで1つに束ね、黒のタキシードに黒の蝶タイをつけた人が立っていた。



──えっ!!

ま、まさか、あれって……ル、ルナ!?


いや、まさかじゃなく、ルナだ!!

んん? さっきまで、キレイなドレスを着ていたよね??


「……ルナが来たから、行こうか」

「あっ、はい?」


踊るのを止め、2人でルナの所まで歩いて行く。

ルナを見に来たのか、いつの間にか幼なじみ達も集まっていた。


「ルナ、どうしたのよ? その格好は!?」


呆れた表情で、セレスがルナに話し掛けている。


「アリアと踊ろうと思って、2着持ってきた」

「ほ、本当に踊るの? 男性のパートを?」


マイヤは驚きすぎて、“表の顔”を完全に忘れている。


「うん、完璧だし」


一見無表情に見えるルナだけど、(私から見ると)得意げな顔をしている。


うん!

遠目でも思ったけど、スタイルがいいからタキシード姿も似合ってる!


「ルナは、何でも着こなすね」


笑顔で褒めると、ルナが(分かりにくいけど)嬉しそうに頷いた。


「アリアなら、そう言ってくれると思った。私も兄様とは踊り終わったから、後はアリアだけ。アリア、私とも踊って」


なるほど。

リーセさんの歯切れが悪かった理由はこれかぁ。


すごい! こんな事、全然思いつかなかったよ!

ルナって……発想が面白い!!


「あはは。踊ろう、踊ろう」


ルナの手を取り、歩き出す。

すると、ルナが一度足を止め、後ろにいる幼なじみ達を見た。



「アリアと最後に踊るのは、“私”だから」



ルナの口角が微妙に上がった(ように見えた)。


後ろから、ミネルとオーンの声が聞こえてくる。


「あいつを参加させたのが間違いだった(家に閉じ込めておけば良かった)」

「……これがルナの作戦だとしたら、やられたね(アリアの印象に残るのがルナになってしまう)」


エレとミネルの妹ウィズちゃんの可愛い声も聞こえてくる。


「ちなみに最初に踊った……アリアの初めては“僕”ですから」

「じゃあ、ウィズは最後、あーちゃんに抱きつきます(兄さまを巻き込んで抱きつくので、任せて下さい)」

「……させないよ」


驚いているエウロと冷静なカウイの声も聞こえる。


「えっ? あ、あれは、ルナなのか!?」

「気がつかないなんて、エウロらしいね」


心底悔しそうなセレスと、呆れ返ったマイヤの声も聞こえる。


「悔しいわ! こんな手があったなんて!! ……知らない男性と踊るより、“心の友”と踊る方が……!! 」


「もう何からツッコんでいいのか、分からないわ。ここで悔しがるセレスちゃんもおかしいわよ。何より誰もルナちゃんの行動について、ツッコまないのがおかしいわよ(そして、エウロくんは、いつもずれてるのよ!!)」



本日何度目かのダンスホールへと戻り、早速ルナと踊り始める。


背が高い上にあまりにも堂々としているせいか、周りはルナが女性だと気づいていないらしい。

顔の整ったキレイな男性と思っているのかな??



いや、そんな事より……な、なんと完璧なダンス!

リードも完璧です!!


「面白い事を考えたね、ルナ」

「うん。ミネルより……じゃなかった。ミネル達より、私と兄様の方がアリアを好きだし。仲もいいし」


ミネルの強調が強い(笑)


「それなのに踊れないのはズルいと思って(邪魔したかったし)」


そう言って、少し拗ねるルナが可愛い。


「あはは。貴重な体験というか、私もルナと踊れて嬉しい。友だちと踊るのも楽しいね!」

「うん、私も楽しい」


ルナがくしゃっと顔を綻ばせた。

私の大好きな笑顔だ。



それにしても、まさかラストに踊る人がルナになるとは……。

予想外の結末ではあったけれど、パーティーは何とか無事? に終了した。


お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ