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アプローチ ( ダンス )の時間 ~オーンとカウイ、リーセ~

リーセさんにエスコートされながら会場内を回る。

私に歩幅を合わせてくれるので、歩きやすいし、安心感がある。


“魔法の色”が見えた人物を見かけると、手をぎゅっと握り、その人物の方へと視線を送る。

リーセさんに伝わっているか不安で、ついつい毎回チラッと見てしまう。


その度に『大丈夫』と言うかのように笑い掛けてくれるのが……少し恥ずかしい。


「アリアが着ているドレス、ミネルがプレゼントしたと聞いたよ」

「そうなんです。ミネルから聞いたんですか?」


周りを見渡しながら、会話を続ける。


「メーテさん(ミネル母)が、嬉しそうに話していたよ」


メ、メーテさん!? なんで??

たまたまドレスの話題にでもなったのかな?


「親たちが騒いで大変だった。アリアは人気者だね」


その時の光景を思い出したのか、リーセさんが苦笑している。


「少し妬けるね。もし私がプレゼントしていたら、私が選んだドレスを着てくれていたかな?」


茶目っ気のある笑顔で、リーセさんが尋ねてきた。


んー、難題だ。

……どうしてたかな?


「はは。困らせてごめんね。仮定の話だから気にしないで」


ああ、冗談だったんだ!

真剣に考えちゃった。


リーセさんの落ち着く笑顔を見ていたら、ふと恋愛について話を聞いてみたくなった。


現在進行形で、傍から見れば、刺されてもおかしくないくらい贅沢な恋愛の悩みを抱えている。

色々あったし、参考というか……誰かの話を聞きたくなったのかもしれない。


思えば、ルナからリーセさんの話はよく聞くけど、恋愛話を聞いた事や尋ねた事はなかったなぁ。


「……リーセさんは、今まで婚約者を作ろうと思った事はありますか?」


『婚約者になってほしいと思える人に出会った事はありますか?』と、聞こうとも思った。

それだとプライベートに踏み込みすぎな気がして、曖昧な質問になってしまった。


「突然、こんな事を聞いて……すいません」

「構わないよ。アリアがそんな事を聞くなんて……なるほどね」


何か納得したように微笑んでいる。


「一度もないよ」


一切の迷いなく、リーセさんが答えた。


「今までお付き合いした女性とは……お互いに婚約までは考えられなかったから」


そうだったんだ。


……少し意外かも。

女性の方は『リーセさんと結婚したい!』と、思いそうだけどな。


「不思議かい?」

「あっ、いえ……と言いたい所ですが。はい、少し」


リーセさんが、クスッと笑った。


「私はルナを優先してしまうからね。学生時代、ゆっくりデートらしいデートはしてあげれてないんだ」


なるほど。

週末は家に帰って、ルナと過ごしていたんだっけ?


リーセさんは、理由を明言していない。

だけど、彼女さんとしては不満? 不安? だったのかなぁ?


「本来、婚約者がいてもおかしくない年齢だけどね。親が親だから、好きにさせてもらっているよ」


リーセさんの両親は、どちらかというとルナに似ている気がする。

そう考えると、確かに自由そうだ。


「“一生添い遂げたい”と思える女性に出会えたら、婚約者になってほしいと思うんじゃないかな?」


リーセさんが、優しく諭すように話す。


「中途半端な気持ちで無理に答えを出さなくていいし、焦る必要もないと思っているよ。……答えになったかな?」

「は、はい、ありがとうございます」


今のは……リーセさんの気持ちというより、私に掛けてくれた言葉のような気がする。


「……これで全部回れたかな。戻ろうか」

「はい。お付き合い頂いて、ありがとうございます」


リーセさんに軽く会釈をする。

そのまま元いた場所へ向かって歩いていると、リーセさんがどこか労わるように語り掛けてきた。


「いつも一生懸命に頑張るアリアも素敵だけど、たまには息抜きをする事も大切だよ」


……? 急にどうしたのかな?



「相談したい事があれば、いつでもおいで。弱音を吐きたくなったら、私の胸を貸すからね」



ドキッとするような穏やかな表情。


「できれば、アリアの迷っている心の中に私も入れてくれると嬉しいな」

「えっ……と」


そうかと思えば、すぐに人懐っこい笑顔へと変わった。


「それと、今はお付き合いしている女性はいないからね?」

「はい?」

「アリアには伝えておかないと」


んー、リーセさんのモテる理由が分かる気がする。


戻る途中、偶然近くにいたのか、オーンが私たちに声を掛けてきた。


「リーセさん。アリアのエスコート、ありがとうございます」

「はは。オーンにお礼を言われる事はしていないよ」


お互い物腰柔らかに会話をしている。


「これからアリアと踊りたいので、替わって頂いてもよろしいですか?」

「もちろん構わないよ。では、また後で」


リーセさんが軽く片手を上げ、去って行った。


ところで今、オーンは『アリアと踊りたい』って言ったよね?

急な事に動揺していると、オーンが私に向かって片手を差し出した。


「私と踊って頂けますか?」


いつもと違う口調に少し緊張する。


「は、はい。よろこんで」


私のぎこちない返答にオーンがスッと顔をそらした。


……肩が震えている。

これは笑いを堪えているに違いない。


それにしても、オーンと踊るからかな?

周りから注目されている気がする。


これはオーンの名誉の為にも──絶対に失敗できない!!


「気を張らないで大丈夫だよ。足さえ踏まなければ、ね」


くっ! イジワルだ。

私の様子を見て、オーンがずっと笑っている。


何とか気を取り直し、差し出された手の上に自分の手を乗せた。

ダンスホールまでエスコートされると、早速、向かい合って踊り始める。


うん、やっぱり踊り慣れている。

それに私が踊りやすいよう、気を遣ってくれている。


「……思っていたより、踊れている」


少し驚いた表情でオーンが話している。

……どれくらい踊れないと思われていたのだろう。


「ふふっ、きちんと練習してきたからね」


少し得意げにオーンに伝える。


「やっぱり、アリアは努力もあると思うけど、素質もあるよね」

「ど、どうしたの?」


まさか褒められるとは思っていなかったので、ついつい戸惑ってしまう。


「ううん。アリアはもっと自己評価が高くていいと思っただけだよ」


そ、そうなのかな?

と、いうか……。


「私って、自己評価低いの?」

「そう言われると難しいけど、高くはないと思ってるよ」


そうなんだ。

考えた事、なかったな。


「きっと小さい頃から、私……いや、私たちと比較される事も多かっただろう? そのせいかな?」


オーンに言われてみると、思い当たる節はある。


幼なじみ達は初めてする事でも、教えられればすぐに出来てしまう。

その度に『自分は平凡だなぁ』と思う事は多かったかもしれない。


……そういえば、最近比較される事も嫌味を言われたりする事もなくなったような?

いつも庇ってくれる幼なじみのお陰かな?


「私がたくさんアリアを褒めるよ」


さらりと告げ、オーンが頬を緩めた。


「アリアはいつも輝いていて素敵だ。誰よりも可愛くて美しい」


その後も次々出てくるオーンの褒め言葉に、堪えきれずに笑ってしまう。


「あはっ、なんか適当に言ってない?」


私とは、あまりにもかけ離れた言葉ばかりだ。

冗談だろうと思っていると、オーンがジッと私の眼を見つめてきた。


「そんな事はないよ。どれも真実だ」


今まで笑っていたオーンの表情が真剣なものへと変わる。



「アリア以外、目に入らない」



……ずるい。

ここで、急に真剣な表情へと変わるなんて。


私が困った顔を見せると、オーンはすぐに表情を緩めた。


「ごめんね。アリアの困った顔も好きなんだ」

「…………ありがとう」


小さな声でお礼を伝える。


「どういたしまして──あっ」


何かを思い出したのか、突然、オーンが冷ややかな表情を浮かべた。


「そういえば、ウィズ(ミネル妹)が“わざわざ”私の所に来て、親切に教えてくれたよ」


愛しのウィズちゃんが!?

私の所には来てないのに!!


「そのドレス、ミネルがプレゼントしたと……」

「あっ、うん。そうなんだ」


あれ? さっきも似たような話題をしたな??


「ミネルに似た笑顔で、嬉しそうに話していたよ。あの感じだと、色々な方に話しているだろう。いつの間に……参ったね」


ミネルに似た笑顔?


冷静に思い返してみると……確かに!

ウィズちゃんは、たまにミネルに似た表情をしているかもしれない!


「えー! 可愛いウィズちゃんが、ミネルに染まっていく姿を見たくないよー!!」

「……アリア。気にしてほしい所は“そこ”ではない」


ん? “そこ”ではない!?


「気にしてほしいのは、“ミネルがプレゼントしたドレスを着ている”という所と、”私が独占欲が強い”という所だから」

「…………」


さすがの私もオーンが何を言いたいのか分かる。

また、返答に困る事を……。


オーンが「くすくす」と笑っている。


「すごく残念だけど、そろそろアリアとのダンスが終わる時間だ」


オーンの言葉通り、踊っていた曲が終わり、新たに演奏が始まった。

輪の外へと移動すると、2人で少し立ち話をする。


……やっぱり、大勢の人から注目されているなぁ。

“オーンと踊る”という事は、そういう事なんだ。


私の様子に気がついたオーンが、少し心配そうに声を掛けた。


「……嫌になった?」

「私が!? ううん、全く!」


“人間の慣れ”というものは怖い。

長い学生生活で、人から見られる事にはすっかり慣れてしまった。


私の返答が意外だったのかな?

オーンが不思議そうな表情をしている。


「ただ、オーンの心が休まる時があるのか心配になっただけ」


私の言葉にオーンがわずかに目を伏せた。


「ありがとう」

「どういたしまして?」


返事として、合ってる??

「あはは」とオーンが笑いながら私を見た。


「アリアと話している時、アリアを思い出している時は、不思議と心が休まるんだ」

「や、休まる時があるなら……良かった」


そう言ってもらえる事は嬉しいけど、またまた返事に困るっ!

こんな返事しか思いつかなかった……。


「(もっと困って僕の事だけ考えればいい)それと、ごめんね?」


突如、オーンが私に謝った。

脈略がなさすぎて意味が分からない。何が『ごめん』??


「今日はアリアも注目されると思うよ? 私はアリア以外の誰とも踊っていないんだ。それに他の方と踊る気もないんだ」


……へっ!? それって、どういう……。




「──オーン交代だよ?」


ふいに横から現れたカウイが、ポンとオーンの肩に手を置いた。


「……いいタイミングで、やってくるね」

「いいタイミングなら、良かったよ」


オーンの言葉にカウイが笑顔で返している。


「アリア、次は俺と踊ってくれる?」

「う、うん」


戸惑いながらもカウイの手を取り、再び広間の中央へと歩き出す。

オーンのセリフが少しだけ気にはなったけれど、一旦、気持ちを切り替える。


「もし疲れているなら、少し休んだ後でも大丈夫だけど?」

「ううん、大丈夫! ありがとう」


それにしてもオーンの次にカウイと踊るなんて。

傍目から見たら、なんて贅沢なんだろう。


予想通り、カウイもダンスが上手だった。

自然にリードして踊ってくれている。


「カウイは、パーティーに参加する機会は多いの?」

「参加した事はあるけど、少ないよ。こういう集まりは、あまり得意じゃないから」


そっか。

大勢の人が集まる所は苦手だもんね。


「カウイは話すよりも聞き上手だから、大勢の人がいると沢山の人の話を聞いてあげたいと思って疲れちゃうのかもね」

「…………」


カウイが黙って、私を見つめている。

いつも微笑んでいるカウイには珍しく、きょとんとした顔だ。


何か変な事を言ってしまったのかな?


「……そんな事、考えた事もなかったな」

「そうなんだ。それに『得意じゃない』って言っても、カウイはいつでも穏やかで余裕がある感じがするな」


カウイの優しさから、そういう風に見えるだけかもしれないけど。

あっ。いつもの妖艶な笑顔になった。


「余裕……そんな事はないよ」


やんわりとカウイが否定する。


「……本当は」


少し躊躇ためらいながらも、カウイが口を開く。


「アリアに『他の人とは踊ってほしくない』という気持ちが全くないと言ったら嘘になるから。そう考えると、余裕はないんだと思う」


思ってもみなかった言葉に、照れるよりも先に驚いてしまう。

カウイがそんな事を思ってくれていたなんて、意外かも。


「好きな人が見ている前では、いつだって余裕に見せたいだけなのかもしれない」


私を見つめて、微笑む。


カウイは、いつも真っすぐ自分の気持ちを伝えてくれる。

そして、さらっとドキッとするセリフを言うよね。


「ただ、“踊ってほしくない”気持ち以上にアリアには自分の思うままにいてほしいと思うんだ」


カウイの温かさが伝わってくる。


「んー、要するに」


要するに……?



「俺は“アリアのもの”だけど、アリアは”誰のもの”でもないし、“誰のもの”にもなりえないという事かな?」



俺はアリアの……えっ! へっ!?

ど、どういう事!?


カウイの発言に困惑していると、すぐに申し訳なさそうな表情をした。


「ごめん。そもそもアリアに対して“もの”扱いが失礼だった」


いやいや、そういう事じゃない!


「そ、それならカウイだって、そうだよ!」


すぐさま私が言うと、カウイが微笑する。


「俺はいいの。“アリアのもの”だって、自分で思っている事だから」


えっ! そ、そうなの?

自分で思った事だといいの!?


ややパニック状態に陥っている私に対し、カウイは気にせず話を続けている。


「もうすぐ曲も終わるね。パーティーに参加して、初めてダンスが楽しいと思えた。幸せな時間だったよ」

「……わ、私も緊張したけど、楽しかったよ」


ドキドキしながらも、カウイに笑い掛ける。

緊張で引きつった笑い方をしているかもしれない。


「ありがとう、アリア」

「ありがとう、カウイ」


同時に同じ言葉が出る。

あまりにもピッタリなタイミングに、2人で笑い合う。


こういう時、少し昔を思い出し安心するな。



……というか、ドキドキしっぱなしだった。

私はこの パーティーで、心臓が持たなくなって倒れるかもしれない。


お読みいただき、ありがとうございます。

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