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売られた喧嘩は買わねばならぬ

「──貴方がアリアさんですね?」


名前を呼ばれ振り向くと、全身大きい“水の色”で覆われた男性が立っていた。


初めて見る大きな“魔法の色”。

驚きで呆然と立ち尽くしていると、お父様が私の代わりに口を開いた。


「ジメス上院議長、娘がどうされましたか?」


──!!!


この人が、ジメス上院議長……!

って、ボーっとしている場合じゃなかった!!


見た目は、40代後半~50代くらい。

事前に49歳と聞いてたから、年相応の外見って事かな?


ジュリアと同じく、気の強そうな顔立ちをしている。

それと髭があるからかな? 濃い顔だ。


何より──にこやかに笑っているけど、今まで出会ったどんな人よりも威圧感がある。

先入観がある所為か、 笑っている顔も違和感しかない。


ジメス上院議長の隣には執事のノレイさんが控えている。

一緒に来てたんだ。


「先ほど隣にいる執事のノレイから、貴方が“あのアリアさん”だとお聞きしご挨拶に伺いました」


言うや否や、ジメス上院議長が陰りのある表情を見せる。


「娘の“ジュリア”が魔法祭で貴方を監禁した、と学校側からお聞きした時には本当に驚きました。もちろん、私としても娘から詳しい事情を確認しようと思っていたのですが……知っての通りどこへ行ってしまったのか。いまだに話は聞けずじまいです」


わざとらしいほどに切ない表情と、感情のないセリフ。

ジメス上院議長は、私並みに演技が下手らしい。


「娘が貴方を監禁したという話が“本当であれば”謝罪しなくてはなりません。いえ、謝罪だけでは済まされない事だと思っています」


……本当であれば!?


「とはいえ、学校側からは別な話も伺いました。実際にアリアさんを監禁し、退学になった生徒たちから『ジュリアが関与した』という話は出ていないそうです。最初に話を聞いた時はつい娘を疑ってしまいましたが……考えれば考えるほど、娘がそんな事をするとは到底思えませんでした」


どこか困ったような、疲れたような表情で小さく息を吐き出す。

もはや隠すつもりもないのか、その溜息すらもわざとらしい。


「──よって、謝罪は控えさせて頂いた次第です」


……なるほど。

自分に非はない、と堂々と言い切る事で、こちらと戦う姿勢を見せてきた訳だ。


考えれば考えるほど? ……よく考えなくても分かるでしょ。

そんな事をする子だよ!!


「なっ!」


私よりも先に、隣にいたエレが声を上げた。

エレが取り乱すなんて滅多にないのに。


でも、エレが先に声を出してくれたからかな?

落ち着いて話ができそうだ。


「初めまして、アリアと申します。幼少の頃より『初めてお会いする方にはご挨拶が基本だ』と厳しく言い聞かされておりましたので、正直、名乗るどころか挨拶もせず、真っ先に『娘は無罪です』と仰られた事に大変驚いております」


遠回しに非難すれば、ジメス上院議長が少しだけ申し訳なさそうに目を伏せた。


「……これは失礼しました。今日の夜会をわだかまりなく楽しみたいと思い、気持ちが焦ってしまいました」


私の挑発に怒りもせず、謝った。

ジュリアとは違い、単純な性格ではなさそう。


「わだかまりなく楽しむのは無理です。実際にジュリアさんは私を拘束し、友人達を脅しています。それとも、ジメス上院議長は私と友人達が嘘をついたとおっしゃるのですか?」


正面に立ち、しっかりとジメス上院議長を見据える。

お父様とお母様は、黙って話を聞いてくれている。


「その可能性もあると思っています」


……そうきたか。


「嘘をついて、私たちに何の得があるのでしょうか?」

「これは失礼。正確にいうと、アリアさんは “娘が監禁に関係していると思い込んでいるのではないか?” と思っています」


はい?

この人は何を言ってるのだろう??


「聞いた話によると、貴方の意識がなくなる直前、一緒にいた最後の人物が私の娘だったというだけで、娘が監禁したところを貴方は見ていません。先入観でそのような発言した可能性もあります。実際に、貴方を監禁した人達は揃って『ジュリアは関係ない』と証言しています」


胡散臭うさんくさい笑みを浮かべつつ、ジメス上院議長が話を続ける。


「……失礼ですが、自分の娘の名誉にもかかわる事なので、色々と調べさせて頂きました」


色々調べたのなら、ジュリアが“黒”という事は分かっているはずだけど。


「オーン殿下や貴方の友人たちは、アリアさんがとても大切なようですね。失礼ですが、口裏を合わせる……という事もあり得ると思っています」


なるほど。

証拠はない。だから、強気なのか。


更にわざとオーンの名前を出してきた。


……いいでしょう。

“王子だろうが関係ない”という宣戦布告とみなさせて頂きます!


こちらだって、相手が誰だろうと関係ない!

私の友人たちを噓つき呼ばわりした罪、償って頂きます!!


「……先ほどから『失礼』、『失礼』と馬鹿の一つ覚えのように仰っていますが、それだけ言っておけば何を言っても許される、とは思わないでください」


お父様の口から「んん?」と声が漏れ、途端に目が丸くなった。

お母様は急に扇子を広げると、顔半分を綺麗に隠している。


「まぁ、『自分に非のある事を‟失礼”とは承知ながらも話しています』なら、多少意味は分かりますが。それと、私も友人たちも嘘はついておりません。それはジメス上院議長がよーくご存知だと思います」

「それ──」


何か言い掛けたノレイさんを 、ジメス上院議長が片手で制した。


「元気なお嬢さんですね」

「はい、それも取柄の1つです」


しれっと答えれば、隣にいるノレイさんが無表情のまま私を睨んでくる。

それに気づかないフリをしつつ、ジメス上院議長と会話を続ける。


「そもそも、ジュリアさんが“本当に”いなくなったのだとしたら、心配でこの場に来る余裕なんてないと思います。ましてや“楽しみたい”だなんて……普通では考えられません」

「……まるで娘は失踪していないというような口ぶりですね」


ジメス上院議長が、複雑そうに眉尻を下げた。

いちいち癇に障る表情だ。


「はい、そう思ってます。ジメス上院議長もそうは思いませんか?」


きっとノレイさん同様、エレもオーラを見ているはずだ。

会話は、質問形式の方がいい。


「本当に失踪していないなら良かったのですが……」


悲しげな表情を見せる。

どれもこれも噓くさい。


「そんな悲しそうな顔をなさらないでください。……ああ、そうだった。何でも許される魔法の言葉を言い忘れていましたね。“失礼しました”」


私の挑発的な言葉に、ノレイさんが不快感をあらわに声を上げた。


「──ジメス上院議長に対して失礼ではないでしょうか」


ジュリアが試合に負けた時も冷静だったノレイさんが、ジメス上院議長の時は感情を表に出すんだ。

やっぱりノレイさんはジュリアではなく、ジメス上院議長の執事なんだ。


ここで聞き役に回っていたお父様が、ようやく口を開いた。


「申し訳ございません。娘は素直な性格のもので……」


おお! お父様もなかなか言う!

それでこそ、お父様!!


「ノレイ、大丈夫だ」

「……はい」


ジメス上院議長にたしなめられ、ノレイさんが渋々引き下がる。

これで終わるのかと思いきや、ジメス上院議長は再び私の方へと向き直った。


「最後に1つ、お聞きしたい事があります。失踪前──魔法祭の直後、ジュリアが不思議な事を言っていました。魔法が使えなくなった、と。アリアさんは何かご存知ですか?」


恐らく、ジュリアから『魔法を封じ込められた』と聞いたのだろう。


《聖の魔法》は公にしていない。

ジュリアから話を聞いてはいるものの、ジメス上院議長の中では半信半疑なんだ。

今日はきっと、この事を確かめる為に私に声を掛けたんだろうな。


ノレイさんは《闇の魔法》が使える。

嘘をついてもバレてしまうなら──


「ご存じも何も……ジュリアさんが話していた通りです。私がジュリアさんの魔法を封じ込めました」


またしても、お父様の目が丸くなっている。


すいません、お父様。

隠しても無駄だと思い、言っちゃいました。


素直に認めるとは思っていなかったのか、ほんの少しだけではあるけど、ジメス上院議長の表情が初めて崩れた。

……すぐ元の表情に戻っちゃったけど。


「なるほど。ジュリアの話していた事は本当だったようだ。そんな事が可能とは……」


さすがに《聖の魔法》の事は知らないようだ。


「はい、ジュリアさんが詠唱せず魔法が使えるように私は魔法を封じ込めれるんです」

「娘が……? アリアさんは面白い事を言いますね」


ジメス上院議長が、はぐらかすような笑いを見せる。


「ジュリアさん自身が自信満々に話していましたよ。知っているのはお父様だけだ、とも話してました」


一瞬、ジメス上院議長の表情が歪んだ……ような気がする。

ポーカーフェイスには慣れているようで、表情が読みにくい。


「ジュリアさんから、聞いていませんでしたか?」

「……聞いていませんね」


さっきはぐらかした時にも思ったけど、ジュリアが自分でバラした事を聞いてなかったのかな?

そうだとすると、今の返事は本当の事を話している事になる。


「ジュリアさんが詠唱せずに魔法が使える事は、もちろんご存知ですよね?」

「何の話をしているのか……」


こちらにはエレがいる。

その事を知っていながら、敢えてとぼけているように見える。


「そうですか。では、魔法祭でジュリアさんは、私に虚偽の話をしたのでしょうか?」

「私からは何とも……。ただ、仮にジュリアが本当にそのような事を言ったのだとしたら、そうなってしまいますね」


あくまで公共の場では嘘をつき通すという事か。

それならそれで構わない!


「──つまり、虚偽の話をする可能性を否定しない、という事ですね。そうしますと、ジュリアさんが私の監禁に関与していない、という話も疑わしくなりますね。仮に彼女を問いただす事が出来たとしても、その発言に信憑性があるとは到底思えませんし、退学になった生徒たちの証言についても同じでしょう」


「…………」

「なぜなら今、ジメス上院議長が自らその可能性をお認めになったのですから」


肯定も否定もせず、ジメス上院議長は静かに私の話を聞いている。


口元は笑っているけど、先ほどとは明らかに雰囲気が変わった。

私の出方を見るような……まるで品定めでもするかのような目つきでこちらを見ている。


もしかすると、『子どもだから』と侮るのを止めたのかもしれない。


「身内を信じたい気持ちは分かりますが、私や友人を疑う前に、もう一度、調べ直す事をお勧めします!」

「……そうですね」


意外にも、ジメス上院議長がすんなりと同意を示す。

表情を見る限り、私の意見を聞き入れているようには思えないけど……って、あっ! 忘れてた!


「‟失礼しました”」


何でも許される魔法の言葉は、言っておかなきゃね。


「なるほど……アリアさんについても、もう少し調べる必要がありそうですね」

「はい、存分に調べてください。深々と頭を下げた謝罪を待っています」


ついでに《聖の魔法》の事も話してしまおうか? と思ったけど、ミネル達が考えた計画もある。

話すのは、今ではないよね。


「謝罪についてはお約束しかねますが、色々と“参考になるお話”が聞けて良かった。短いながらも、とても有意義な時間を過ごせました」

「そうですか」


「もう少しお話ししたいところではありますが、貴方のナイトたちが怖い目でこちらを見ていますので、そろそろ失礼します」


ナイトたち……!?


チラッと後ろを向くと、幼なじみ達がジメス上院議長を牽制するかのように並んで立っていた。


少しだけ距離を取ってはいるものの、会話は聞こえるくらいの位置で構えている。

このままケンカが勃発してもおかしくないような雰囲気だ。


「では、“また”お会いしましょう」


軽く会釈すると、ジメス上院議長とノレイさんは他の出席者の所へと挨拶に向かって行った。


多少なりとも表情の変化はあったけど、ジメス上院議長は最後まで余裕があると言うか、落ち着いて対応をしていた。


きっと自分が負けるなんて、微塵も思ってないんだろう。

それに比べてノレイさんは……かなり怒ってたなぁ。


でも、実はノレイさんが怒る姿を見て、少し安心したんだよね。

無感情な人間かもしれないと思ってたから、人の為に怒れる人で良かった。


……まぁ、それが私にとって良い事なのか、悪い事なのかまでは分からないけど。




「──焦ったわよ、アリア!」


ジメス上院議長が去ったのを見届け、セレスが私に声を掛けてきた。


「(ノレイさんもいたし)隠してもしょうがないと思ったから……それに皆の品位を下げるような事を言われたのも許せなかった」


私の言葉を聞き、セレスがまんざらでもない表情をしている。


「全くしょうがないわ──」

「アリア、私の為にありがとう」


セレスの言葉にかぶせつつ感謝を告げると、ルナが私の手を握った。


うん、ルナ。

今の発言を黙っていない人がいる事を知っていて、わざと言ってるよね?


「心の友である“私の為”が9割よ! 他の方は、残り1割を分け合いなさい!」


いつの間にかセレスの中で、私は“大親友”から“心の友”に昇進? したようだ。


「うふっ。そんな低レベルな会話をしているなんて、アリアちゃんに思われている自信がない証拠よ?」


マイヤが可愛らしく、ルナとセレスに微笑んでいる。

……1人増えた。


「あっ、サウロさん」

「えっ! うふふっ。……って、いないじゃない! ルナちゃん!!」


ルナに騙され、マイヤが不満げに怒っている。

でも、そのお蔭でみんなの空気が和み、賑やかな雰囲気へと戻った。良かった。


すると、場の空気を壊さない為か、お父様がこそっと私にささやいた。


「終わったら話をしよう」

「分かりました」


んー、何を聞かれることやら。


「今は、夜会を楽しみなさい」

「ありがとうございます」


そのまま他の上院の方たちに話し掛けられ、お父様たちは別な場所へと移動して行った。


うーん。楽しめるか分からないけど、セレス達のいつものやり取りを見ていると安心するな。

そんな事を考えながら、しばらく仲の良いやり取りを傍観していると、ふいに綺麗な音色が聞こえてきた。



──あっ!


行動開始の合図でもあるダンスが始まったんだ!


……とはいっても、ダンスが苦手な事を考慮してくれたのかな?


私は誰とも踊らなくていいらしい。

本当に助かった。


ホッと胸を撫で下ろしていると、ソフィーの幼なじみ──リイさんの所へ向かうはずのカウイがやって来た。


私の前に立ち、目を合わせながらそっと私の右手を取る。


「後でダンスを申し込むから、一緒に踊ってくれたら嬉しいな」


そう言って静かに微笑むと、指を絡ませ手のひらを合わせた。


「それじゃあ、名残惜しいけど……行ってくるね」

「う、うん」


ゆっくりと手を離したカウイが、リイさんを探す為に去って行く。

……こういう時、ドキドキして頭が回らなくなるんだよなぁ。


一人で動揺していると、近くにいたエレが突然、さっきカウイの触れた右手をギュッと握った。


「アリア、僕と踊ろう」

「ええっ?」


練習はしたけど、上手く踊れるか不安。


「今しか踊るチャンスがないかもしれないし、最初に踊るのはアリアがいいんだけど……だめかな?」


可愛い瞳でエレが、私を見つめる。


全然ダメじゃないです!

むしろ、こちらから土下座してお願いしたいくらいです!!


「上手に踊れないと思うけど……踊ろう!」


エレの手を取り、広間の中央まで歩く。


エレにエスコートされるのは初めてかもしれない。

ちょっと気恥ずかしい。


優雅に踊る人たちの中に入ると、早速、エレにリードされながら踊り始める。

さすがエレ! 私のぎこちなさを上手にカバーしながら踊ってくれている。


「今回の為にドレスを作ったの?」


踊りながら、エレが私に尋ねる。


「ドレス? ああ、ミネルがプレゼントしてくれたの」

「へぇーー、通りで。ミネルさんが余裕な表情をしていると思った」


ん? 余裕な表情とは??


「ミネルさんが選んだドレス?」

「ううん。ドレスというか、デザインは私が選んだんだ。どうかな?」


私からの質問に、エレが微笑した。


「アリアが選んだデザインなら、許せるかな? もちろん、アリアによく似合ってる」


許せる? という若干気になるワードはあったけど、素直にお礼を伝える。


「今後は着る機会も多くなると思うし、今度、僕からもプレゼントさせて?」

「それなら、私もエレにプレゼントしたいよ!」


エレなら何でも着こなしそう!


「いいね、それ。じゃあ、お互いにプレゼントし合おうか」

「うん」


曲が変わり、切りよくダンスを終えようとした瞬間、エレがふんわりと私を抱きしめた。


「さて、たっぷり充電もできたし、僕の仕事をしてくるかな?」


にこっと笑い、エレがミネルの元へ歩き出した。

ありがとう! 私もエレに元気をもらったよ!



よし……私もそろそろ動きだそうかな?

うーん、どこから行くべきか……。



「──案内が必要じゃないかい?」


伏せていた顔を上げると、そこにはリーセさんが立っていた。

私に向かって、スッと手を差し出してくる。


「ルナから今日の話は聞いてるよ。よければ、私にエスコートさせて頂けますか?」


手を伸ばしたまま、リーセさんは優しく笑みを浮かべている。

とりあえず、歩き回ろう! と短絡的に思っていた私には、リーセさんの申し出は助かる!


「助かります!」

「なら、良かった」


リーセさんの手を取り、2人並んで会場内を歩く。


「1人で歩くより、誰かと歩いた方が変な目で見られないはずだよ」


……確かにそうかもしれない。


「そういえば、ルナはユーテルさんにダンスを申し込まれたみたいで、今一緒に踊っているよ」


元別館メンバーで無駄な動きの多いユーテルさん!

ルナをダンスに誘ったんだ!!


「ルナ、踊る事にしたんですね」

「う、うん。『どうしてもと言うなら、踊ってあげてもいい』と言ってたけど……」


ルナらしい。塩対応!

私にはものすごく優しいし、甘えてきて可愛いのに、な。


「ユーテルさんは変わってるね。それを聞いて喜んでいたよ」


リーセさんが、苦笑している。


ユーテルさんは、鋼の心を持っているのかもしれない。

もしくは、冷たくされるのが嬉しいタイプなのか。


ルナの影響でいい方向? また別な扉を開いた??

どちらにせよ、ユーテルさんは変わったのかもな。


「ルナがユーテルさんに話してみると言っていたよ。他の子たちも動き出してるみたいだね」

「はい、そうみたいです」


会話しながらも、私とリーセさんで不自然にならない程度に周りを見渡す。


「もし“見える人”がいたら、合図をして。私もアリアと一緒に覚えて、その人の情報を集めておくよ」

「合図ですか?」


リーセさんが「そうだね……」と呟きつつ、合図の方法を考えている。


「今繋いでる手を強く握るのを合図にしよう」


要するに……私から手を強く握るって事だよね?

少し恥ずかしいけど、そんな事を言える状況じゃない。


「分かりました」

「分かりやすいね、アリアは……」


リーセさんがクスッと笑った。

恥ずかしいという気持ちが顔に出てましたか。


「それがアリアの可愛くて魅力的な所だから、そのままでいてね?」


少しだけ身体を斜めに傾け、リーセさんが私の顔を覗き込んでくる。

顔が近いという事もあり、ついついドキッとしてしまう。



パーティーに来てから、ドキドキしっぱなしだ。

……私の心臓持つかな。



「──さて、始めようか」


リーセさんにエスコートされながら、私も強く頷いた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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