それぞれの思惑(後編)
※エウロ、カウイ視点の話です。
エウロの自信と思惑
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「よし!」
ミネルの計画を聞き、ついつい気合いが入る。
「それでいこう! きっと上手くいくさ!」
「確証はないぞ?」
ん? 珍しいな。
ミネルが少し迷っているように見える。
「ミネルの計画なら大丈夫だ!」
ミネルは頭の回転も早いし、客観的に物事を見通す事が出来る。
そんなミネルが考えた計画なんだから、きっと大丈夫だ。
単純かもしれないけど、妙な自信すらある!
自信満々に語る俺の言葉に、ミネルの口元が緩んだように見える。
いや、ミネルだけじゃない。
オーンとカウイも少し表情が緩んだような気がする。
うーん……気のせいか?
「そうだね。それでいこう」
俺の意見に同意を示しつつ、オーンが「それに……」と話を続ける。
途端に、和らいでいたオーンの表情が神妙な面持ちへと変わった。
「そろそろ、こちらから動き出さないと……」
最後まで言わなかったけど、何が言いたいのかは想像がつく。
ジメス上院議長が動き出すんじゃないかと思ってるんだよな。
そうなると、危険が及ぶのはアリアだ。
ずっと俺の隣にいてくれれば、何が何でも守るんだけどな。
現実的に、そうもいかないからなぁ。
……って、アリアには俺より強い警護の人が傍にいるのに。
何を考えてるだ、俺は。
でも、気持ちの面では警護の人に負けていないはずだ!
命懸けでアリアを守る自信だってある!!
……なんて偉そうな事を言ったところで、まだアリアに気持ちすら伝えてないんだけどさ。
随分と図々しい事を考えるようになったな、俺。
※注)エウロ告白前の出来事です。
ふと我に返り、周りにいるみんなの顔を見る。
何となくだけど空気が重い。
みんなも『アリアに危険が及ぶかも』と考えているのかもしれない。
そんな中、しばらく続いた沈黙を破ったのは、意外にもカウイだった。
「……そういえば、誰が誰と踊るの? 俺はヌワさんと踊りたくないよ?」
ヌワさんは確か……カウイの事を尊敬している人だっけ?
「ははっ。さすがにそれはないだろ」
予想外なセリフに、笑いながら返事をする。
カウイが冗談を言うなんて。
もしかして、場を和ませようとしてくれたのかもしれない。
カウイの発言をキッカケに、自然とダンスの方へと話題が移る。
ダンスか。
……どうしよう? なんか嫌な事を考えてしまった。
「なぁ」
不安げに声を掛ける。
「ア、アリアは(元別館メンバーの)誰と踊るんだ!?」
踊っている最中に協力を仰ぐという事は、俺達みんな、元別館メンバーの誰かと踊るという事だ。
それは、アリアも誰かと踊るという事を意味する……よな?
「おかしなことを言うね、エウロは……」
おかしなこと!?
オーンが微笑んでいる。
「アリアは誰とも踊らないよ?」
えっ! そうなのか!?
「まぁ、そうだな」
ミネルも当たり前だと言わんばかりの表情をしている。
「こちらにはソフィーがいる。ソフィーに頑張ってもらおう」
もう決定事項かのようにミネルが話している。
そっか。
ソフィーさんは大変かもしれないけど、確かに幼なじみ同士の方が話しやすいよな。
俺が安心したのをよそに、突如、ミネルが別な心配事を口にした。
「──その前にアリアは踊れるのか?」
「それは……私も(控えめに言って)少し心配している」
オーンが苦笑している。
「多少は踊れると信じたいが……アリアは今まで、夜会の場など避けていただろう?」
「いや、でも、さすがに踊れるんじゃないか?」
珍しく心配そうな表情を浮かべるミネルを見ていたら、咄嗟に楽観的な事を言ってしまった。
実は、俺も不安に思ってはいるんだけど……。
そういえば、アリアが前に言ってたな。
『一度だけ上流階級が集まるパーティーに行った事があるけど、どうも馴染めなくて。剣術の稽古の倍、疲れて帰ってきた』
その話を聞いた時『アリアらしいな』と、笑いながら話したのを覚えている。
そうだ!
その時にこうも話していた!
『お父様が「高等部に入れば、夜会の機会も増える。それまでは無理して行かなくてもいいよ」と言ってくれてるんだよね。だから、甘えに甘えて避けてるんだよね』
その話を聞いて、『俺と同じだ!』と思った覚えもある!
そうなんだよ。
俺も……苦手なんだよなぁ。
ミネル達は、アリアと踊るのか?
折角の機会だもんな。一緒に踊りそうだ。
それも俺とは違い、スマートに誘いそうだ。
でも、できれば……俺も一緒に踊りたいな。
……いや、その前に!
アリアがサウロ兄様を好きだとしても、まずは自分の気持ちを伝える方が先だよな!!
※注)エウロが、まだ勘違いしている時の出来事です。
よし!
本来の目的とは少し違うけど、アリアに俺の気持ちを伝えてから、パーティーで一緒に踊ってもらおう。
さらには、アリアを余裕でリードできるくらいに、ダンスを上達させよう!
そこでふいに──
『ええー! エウロって、こんなに踊れたの!? すごいかっこいい! 男らしくて、ステキ!!』
と、アリアが言いそうにもない言葉が頭をよぎる。
何かが違う……と、頭をぶんぶん横に振るも、脳が勝手にアリアの言いそうなセリフを探してしまう。
『エウロもダンスが苦手だって話してたのに……意外な一面にドキドキしちゃったよ』
いやいや、これも言わないだろう。
分かってはいるのに、アリアならきっと……と色々考えてしまう。
結局のところ、どんな言葉であったとしても好きな人には褒められたいし、かっこいい所を見せたい!
……うーん、どうしよう?
考えれば考えるほど邪念が消えない。
カウイの分析と思惑
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気がつくと、いつも自然とアリアの話題になっている。
今もそうだ。
みんなで『アリアが踊れるか』という会話で盛り上がっている。
少し考えるような素振りを見せた後、オーンが口を開いた。
「事前に説明をして、練習しておいてもらうしかないね」
「そ、そうだな。アリアならすぐに覚えるさ!」
自分に言い聞かせるようにエウロが応えている。
そもそも、アリアが踊れないという前提で、話が進んでいるのが可笑しい。
思えば、アリアと一緒にこういったパーティーに出るのは初めてだな。
みんなも同じ事を考えてそうだけど、折角なら一緒に踊りたい。
逆にアリア以外の人と踊るのは抵抗があるけど、今回ばかりはそうも言ってられない。
ダンスの時に協力を仰ぐのだから。
「……さっきのは冗談として、俺は(元別館メンバーの)誰に声を掛ければいいかな?」
俺からの質問に、ミネルが淡々と答える。
「そうだな。ネヴェサさんをエウロに。リイさんをカウイに頼もうと思っていたが……難しいんだろ?」
ミネルから話を振られたエウロが、小さく頷く。
「……ああ、ごめんな。理由は分からないが、避けられてるみたいなんだ」
エウロが少し気まずそうに顔をしかめた。
「ネヴェサさんに何か失礼な事を言ってしまったのかもしれない」
失礼な事?
エウロが人を傷つけるような事を言うとは思えない。
そう考えると、別な理由がありそうだけど。
「よって、エウロはリイさんに。カウイはネヴェサさんに変更する」
「分かったよ」
ミネルの指示に逆らう事なく返事をする。
状況的に見て、妥当な判断だろう。
「オーンは立場上、いつ動けるか分からない。僕の方は、親との交渉の場を中心に動きたい」
「了解!」
エウロが明るく声を上げる。
──後々の話だけど、エウロがネヴェサさんをダンスに誘い、俺がリイさんをダンスに誘う事になる。
ネヴェサさんが、再びエウロと仲良くなるからだ──
それにしても……俺は愛想がないから、相手を不快にせず話せるか心配ではある。
さらに、大勢の人がいる場はどうも慣れないし、得意でもない。
アリアだったら、笑顔で話せるんだけどなぁ。
他の人だと、ついつい受け身になってしまう。
でも、今回はアリアに関わる事だから、頑張れるかな?
少しでも前向きに考えていると、ふいにミネルが神妙な面持ちで語り始めた。
「ジメス上院議長はきっと、何か理由をつけてアリアとの接触を図るだろう」
ミネルが僕達を見渡し、忠告するように話を続ける。
「僕の予想では、アリアの父親が傍で対応してくれるはずだ。警戒している、というオーラは出してもいいが、その場で変な動きはするなよ」
警戒している事は示していいんだ。
きっと向こうも気がついている事だろうから、気にしなくていいのかな?
どちらかというと、アリアが初めて会ったジメス上院議長と何を話すのか興味がある。
「それと……迷っている事がある」
……珍しいな。
ミネルが結論を出す前に話すなんて滅多にない。
「先ほど計画を話していた際に頭をよぎったんだが、エレに協力してもらうかどうか迷っている」
「ああ、オーラが見えるからだね」
オーンの言葉にミネルが黙って頷いた。
そっか。
エレくんは《闇の魔法》が使える。
見ようと思えば、人の気持ちに関するオーラが見える。
温かいオーラや怯えているオーラ、嘘をついているオーラ……など、色々だ。
元別館メンバーの親達と話をする時にエレくんが一緒にいれば……という事かな。
それを迷ってるという事は……。
「やっぱり、ミネルは優しいよ」
「うるさい」
《闇の魔法》は希少である分、負担やリスクを伴う事もある。
恐らくはミネルなりに気を遣っているのだろう。
気持ちは分かるけれど、迷わなくても大丈夫という事だけは伝えておこう。
「こちらから言わなくても、きっとエレくんは自分からオーラを見ると思うよ」
エレくんは、ミネルとは違った策士だ。
自分の使える武器を惜しむ事なく使っている。
他人が自分を心酔するように仕向ける事で、アリアを守っているのだと思う。
実際、エレくんの同学年の人達は『エレ様の大切な姉』という事で、アリアを慕っているらしい。
弟だからこそ、使える技だし、エレくんだからこそ、出来た事だと思う。
今回の計画を話した時点で、自分が何をすべきかすぐに気がつくだろうな。
それにエレくんはアリアの為なら、喜んで何でもするだろう。
俺も、エレくんに負けないようパーティーでは、きっちりと自分の役目は果たさなきゃね。
……でも困ったな。
アリア以外の人と、どうも積極的に話したいという気持ちが湧いてこない。
女性が苦手だと話しているエウロだけど、そもそもコミュニケーション能力に長けている。
だから苦手と言っていても、上手に話している。
俺は女性と言うより、人と話すのが苦手だ。
……とはいえ、何かいい方法がないか考える。
そうだ。
パーティーで接する人をアリアだと思って、接すれば上手くいくかな?
うん、そうしよう。
そして自分の役目以外の時は、なるべくアリアの傍にいて一番近くで守ろう。
俺の一番は、ずっとアリアだから。
お読みいただき、ありがとうございます。




