それぞれの思惑(前編)
話はテスタコーポ大会前に遡ります。
※オーン、ミネル視点の話です。
オーンの提案と思惑
---------------------------------------
僕達はライバルではあるけど、1つだけ利害が一致している事がある。『アリアが誰よりも大切で 、何においても最優先』という事だ。
これは“絶対”であり“必然”だ。
今後の計画を練る為、僕の部屋にミネルとエウロ、カウイの3人が集まっている。
アリア達(女性陣)には敢えて声を掛けなかった。
本来であればアリア達にも声を掛けたいところではあるが、そうなると週末にしか集まる事ができない。
(男子寮の忍び込みは、セレスの壮絶なる怒りにより、今後行わない事を誓わされた)
何より、アリア抜きで計画を立てたかった。
アリアはいじけるかもしれないけど、今回は僕達だけで『アリアに危険が及ばない』計画を立てたかったからだ。
いじける姿も見てみたいとは思うけど、ね。
もう二度と魔法祭のような思いはしたくない。
それは、きっとみんな同じ考えだろう。
「近々、上院が集まるパーティーが開催される」
僕が3人に話を切り出す。
「みんなも知っていると思うけど、上院の方々とそのパートナーが集まるパーティーだ。それと一部の上流階級の方々も参加する」
「ああ、そういえばあったな。それが、どうかしたか?」
急にパーティーの話を持ち掛けた僕にエウロが尋ねる。
「今回は上院の家族も参加できるよう国王に提案をしてみようと思っているんだ」
僕の提案を聞き、真っ先にミネルが反応する。
「名目は?」
「より親睦を深める為に。または、子供たちが知り合う出会いの場を設けたいと思っている。で、どうかな? 理由としては弱いかな?」
ミネルが腕を組み、わずかに目を伏せた。
何かを考え出した証拠かな?
「サール国王は、いきなりオーンが提案する事を不審に思うかもしれないが……」
やはり、そうか。
「それでも王が話を通してくれるのであれば、上院の承認は容易に得られるだろう。いまだ“次期王”には婚約者がいないからな。娘がいる親にとっては絶好の機会だ」
「…………」
自分から提案した事だけど、僕にはアリアがいるから面倒だな。
カウイ達に女性が集まるよう上手く誘導する事ができればいいんだけど。
当日までに何か考えておくかな?
僕の考えを察したミネルが、ほくそ笑んだ。
「オーンの元に女性が集まらない事はあり得ないだろう。沢山の女性と知り合って、ぜひ(アリア以外の)婚約者を作ってくれ」
「ミネルなら、そう言うと思ったよ」
予想通りの言葉に思わず苦笑する。
ミネルの言う通り、立場的に難しいか。
こうなったら、ミネル達も道連れにしよう。
……と思ったけど、ミネル達の家系や容姿を考えると、女性達が放っておくはずがない。
何もしなくても大丈夫そうだ。
「まぁ、それは(本気だが)いいとして、オーンの提案は賛成だ」
ミネルが本題へ戻り、話し始めた。
「アリアに上院全員の“魔法の色”を見てもらい、要注意人物を把握しておきたいと考えていた。だが、危険が及ぶ可能性も高い。実行に移すには難しいと思っていた」
エウロが「あっ!」と声を上げる。
「そのパーティーで、アリアに“魔法の色”を確認してもらうんだな!」
エウロがミネルの言いたい事に気がついたようだ。
「──そうだ」
カウイは言葉を発せず、静かに話を聞いている。
「大規模な夜会なら、ジメス上院議長もおかしな行動はできないはずだ。娘は雲隠れ……失踪中な上、魔法も使えないしな」
ミネルがニヤッと笑った。
「アリアは“安全な場所”からジメス上院議長にもお目にかかれる。それに一度に上院を確認し、要注意人物の把握もできる。一石二鳥だな」
さすがだね。
僕の考えていた事を瞬時に把握してくれた。
──僕達には時間がない。
恐らくジメス上院議長は、ジュリアさんの魔法を戻したいと思っている。
アリアの話では、ジュリアさんは詠唱せずに魔法を使えるらしい。
ジメス議長としては、それを利用しない手はない。
間違いなく、近い内にアリアは狙われるだろう。
それだけは……なんとしても避けたい。
その為には今回参加するパーティーで反撃の土台を作り、ジメス上院議長よりも先に行動に移す。
……とはいえ、今回はアリアと一緒に参加する初めてのパーティーだ。
カウイは迷う事なく、真っ先にアリアに踊ってくれるよう頼みそうだな。
考える傍から、心がモヤモヤしてくる。
アリアが僕以外の人と踊るかもしれない、と考えるだけでも嫌気がさすし、誰にも触れさせたくない。
僕個人の意見としては、アリアはパーティーになんて出なくていいんだけどね。
──ただ、今回の計画にアリアは必要不可欠だ。
それにアリアの立場上、この先、上流階級が集まる場に出ないで過ごすのは無理な事も分かっている。
(一応、ご令嬢だしね)
そうなると……誰もアリアに声を掛けようなんて思えなくなるような状況を作るしかないな。
僕の特別な女性は“アリア”だという事を、遠回しにでも知らしめておかないとね。
ミネルの計画と思惑
---------------------------------------
オーンと2人で話を進める中、ずっと黙っていたカウイがゆっくりと口を開いた。
「そのパーティーにジュリアさんの幼なじみ達にも声を掛けて、参加してもらうのはどうかな?」
「なぜだ?」
カウイの真意を尋ねる。
「そこで協力も仰いじゃおうよ」
「パーティーで!?」
思い切ったカウイの提案にエウロが驚いている。
……なるほどな。
カウイの提案を元に、早速作戦を考え始める。
──悪くない。
むしろ、いい案だ。
「その案は採用だ。確か……会食メインの集まりではあるが、ダンスもあったはずだよな?」
念の為、オーンに確認をとる。
「ああ、あるよ」
「ダンスの場で協力を仰ごう。踊っている時なら、誰も会話を聞こうとはしないはずだ。2人で話をしていても怪しまれない」
もちろん、この話し合いの後にシミュレーションはするが……問題なく上手くいきそうだ。
「なぁ、気になる事があるんだけど」
エウロが少し困ったように問い掛けてくる。
「なんだ?」
「以前、アリアが『ソフィー達は“魔法の色”は見えなかった』って言ってた。だけど……彼女達の親に“魔法の色”が見えた場合、協力を仰ぐのは難しいよな?」
まぁ、もっともな質問だな。
「きっと“魔法の色”は見えると思うぞ」
想定済みの質問なので、動じることなく答える。
「“魔法の色”が見えても構わない。むしろ『ジメス上院議長を裏切って、自分がトップになる』くらいの事を考えている人間の方が頼もしいな」
僕とカウイの話を聞き、オーンが何かを思いついたようだ。
「ソフィーさんのように協力を仰げる場合、パーティーの場で子供を通して親を紹介してもらおう」
「……まさか、その場で親も!?」
エウロの問いにオーンが頷いている。
「私なら、ソフィーさん達の親に直接話し掛けるのは問題ないかもしれない。だけど、エウロ達がいきなり話し掛けるのは違和感がある」
確かにそうだな。
「そこで、子供……ここではソフィーさん達の事だけど、“子供が親に友人を紹介する”のはおかしい話ではないよね?」
親と接触できる機会は、なかなかない。
それなら、夜会の場をフル活用する……という事か。
「ただ何を話して、どう協力を仰ぐかまでは考えていないけどね」
オーンが含みのある顔で微笑みながら、僕を見た。
『今の提案から、ミネルなら何か思いつくよね?』という顔だな。
まぁ、間違いではない。
「……実はリーセさんとも話をしたんだが、ジメス上院議長の大まかなスケジュールを調べる事はできても、細かいスケジュールや行動となると把握しきるのは難しいそうだ」
「そうだよね、限界はあるよね」
カウイが納得するように小さく頷く。
「その後のリーセさんの調べで、1つ気になる事があった。何でもジメス上院議長は一般市民が住んでいる街の方へ頻繁に出向いているらしい。状況的に見て、娘が身を潜めている可能性が高いと話していた」
“ジュリア”という名前すら呼ぶのが煩わしくなり、“娘”と言った事が面白かったのか、皆から微かに笑い声がこぼれる。
「今の話を踏まえて、だ」
頭の中で整理しながら、ゆっくりと話す。
「彼らの親はジメス上院議長の側近であり、僕達が今一番ほしい情報を手に入れる事が出来る人達だ。ジメス上院議長の行動を逐一報告してもらうよう頼もう」
スケジュールを伝える事自体は罪ではないし、業務上、やむを得ない場合もあるだろう。
仮にジメス上院議長にバレるような事があったとしても、いくらでもごまかしが効く。
リスクを考慮すれば、完全に仲間へ引き込むより、この方が聞き入れてもらえる可能性が高い。
「向こうに有利な条件を持ち掛ければ、スケジュールや多少の行動くらいは共有してもらえるだろう。この程度の情報なら外部の人間でも知り得る可能性があるわけだから、ジメス上院議長を完全に裏切る事にはならないはずだ」
交渉材料は、夜会までに2つ、いや3つは考えておかないといけないな。
気になる事でもあったのか、エウロが軽く首を傾げる。
「つまり、ジメス上院議長の行動パターンを把握する事で、ジュリアさんの居場所を見つけ出すという事か?」
「ああ、それもある」
ここからは、推測になってしまうが……。
「行動を知る事で、なぜ自分の娘を隠したのか、何を企んでいるのか……といった答えが見つかるのではないかと思っている。それと同時に、ジメス上院議長を裏切ってくれそうな人物を見つけ出す事ができたら──夜会は大成功だ」
実のところ、リーセさんから話を聞いた時から、ずっと引っ掛かっている事がある。
ジメス上院議長のような大物が、自ら市民の住む街に出向いているのには、娘の事以外にも何か理由があるのではないだろうか?
その答えが分かれば……。
「ミネルとしては、それがジメス上院議長を失脚させる一番の近道だと思っているんだね」
カウイが僕の心を読んだかのようなセリフを口にする。
「確信はないが……まぁ、そうだ」
今回の夜会。
僕が傍にいる以上、アリアを危険な目に合わせるはずがない。
それと……悪いな、オーン。
お前の思惑通りには進まないぞ。
人の一歩、二歩先を考えるのは、僕の得意分野なんだ。
僕から何も言わなくても、アリアは夜会でプレゼントしたドレスを着てくる(はずだ)。
お母様と妹のウィズが夜会で、アリアのドレスを見て何も言わないはずがないだろう。
きっと僕がプレゼントしたと話して回るに違いない。
いつもなら止めてほしい行動だが、今回は存分に広めてもらおう。
アリアに最も近い人間は誰なのか、誰の目から見ても明らかにする為に。
お読みいただき、ありがとうございます。




