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アリアとデート(エウロ編)

エウロ視点の話です。



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ついにアリアとデートの日がやって来たっ!!


この約束を取りつけるまで、本当に時間が掛かった。


過去に何度も何度も誘おうとした。

ところが、誘おうとすると途端に『出掛けよう』の5文字が言えなくなり、日常会話で終わってしまう。


男友達なら気軽に誘えるのに、アリアは誘えない。

男友達とは気軽に話せるのに、アリアは緊張する。



……はぁ、俺って情けない性格だったんだな。

緊張せずにアリアと話せた頃が懐かしい。


でも、アリアと話す時が一番楽しいし、テンションも上がる。

それは昔から変わらない。



しかも、今日の俺は一味も二味も違う!

事前にイメージトレーニングを何度も重ねた。


目標も3つ立てた!


1)初めてのデートで、チャンスがあれば(あわよくば)手を繋ぎたい。

2)テスタコーポでの告白は“演出”ではない事は伝えたが、きちんとアリアに気持ちを伝えたい。

3)(できれば)次のデートの約束をする。



俺は高等部1年生の時にマイヤと婚約を解消した。

小さい頃から婚約者がいた事もあってか、誰かから告白された事はない。


それでも分かりやすいアプローチをされた事はあった。

だけど、そもそも女性と話すのが得意じゃない俺は逃げるように避けてきた。


……だからだろうか。

アリアに告白するのはともかく、いつ返事をもらうのが妥当なのか分からない。

告白をした後、どうすればいいのか分からない。



アリアはきっと俺の事を幼なじみ、友人と思っている。


直接聞いた事はないが、嫌いではないはずだ。

どちらかというと好きなはずだ。


だけど、それは恋愛とかではない友人としての感情だろう。

……自分で思った事とはいえ、切ないな。


あまり考えたくないが、今日で振られる可能性もあるんだよな?

つまり、俺の恋愛は今日で始まり、今日で終わ……る?


……いや、いくらなんでも早すぎる!

これから俺の事を意識して、好きになってくれる可能性だってある! ……のか?


ライバル達は男の俺から見ても、顔も、中身もかっこいい。

勝ち目があるのか不安はあるが……きっと、勝算はあるはずだ!!



──よしっ!!


気合を入れ直すと、待ち合わせ時間よりも少し早めに寮を出る。


それにしても……マイヤが兄様を好きになった事には驚いた。

マイヤにはずっと悪い事をしたと思っていたから、驚いたけど嬉しかったな。


アリアから話を聞いてすぐ、サウロ兄様には『マイヤが助けてもらったお礼をしたいそうです。一緒に食事でもどうですか? と言っていました』と手紙を出しておいた。


さらに『マイヤが気にしていたので、会った方がいいと思います』と、兄様が断りにくい文章も追加しておいた。


兄様の性格は分かっている。

きっと兄様は、マイヤと一緒に出掛けるだろう。


上手くいくかは分からないけど、少しでも手助けできるといいな。


朝から色々な事を考えていた所為か、予定よりも30分早く待ち合わせ場所へと着いてしまった。


……どうしよう。落ち着かない。

そわそわしながら待っていると、遠くからアリアが歩いてくる姿が目に入った。



──来た!!


気づけば、アリアに向かって笑顔で手を振っている。

どうやら自分で思っていた以上に、今日を楽しみにしていたらしい。


目の前に立ったアリアと挨拶がてら言葉を交わす。


「ご、ごめんね。エウロ待った?」

「い、いや。全く、全然、待ってない! むしろ俺が早く着いたんだ!」


俺、かなり緊張してるな……。

そのまま2人で“ヴェント”に乗り込むと、ふいにアリアが口を開いた。


「エウロ……ネヴェサさんと話してみてどうだった?」


ネヴェサさん? 急にどうしたんだ??

……自分としてはわりと仲良くなったと思ってたんだけど、なぜか急に避けられるようになったんだよなぁ。


もしかすると、俺が何か失礼なことを言ってしまったのかもしれない。


どう説明すればいいのか迷い、アリアにはひとまずネヴェサさんからは協力を仰げない事を伝える。

話を聞いたアリアはそれ以上追及する事もなく、何事も無かったように話題を変えてくれた。


俺が単純だからか?

こういうさりげない優しさを知るたびに好きになっちゃうんだよなぁ。




それからしばらくして、俺たちは“イーブル”の広場に到着した。


決して広いとは言えないエリアに、沢山のお店がひしめき合っている。

すごい店の数だ。


「すごいな。お祭じゃなく……毎週末、この規模で開いてるんだろう?」

「うん、すごいよね」


同意するアリアの目もキラキラと輝いている。


アリアが嬉しそうだと、俺も嬉しい。

こういう気持ちも『なんかいいな』って思ってしまう。


そこで思い出したのは、今日やりたい事の1つとして掲げていた『手を繋ぐ』というミッション。


どのタイミングで、手を繋ぐべきか……。

腕を組みながら考え込んでいると、ふと《風の魔法》の本が目に入った。


「あっ、《風の魔法》についての本が置いてる。少し、このお店見てもいいか?」

「うん! 私は隣のお店を見てるね」


一旦別れて、それぞれが見たいもの見に行く。

《風の魔法》の本をいくつか手に取り、気になる物を選定しつつ、頭の隅では『どうやって手を繋ごうか』という考えが消えない。


いきなり手を握る?

……握った瞬間に手を離されたら、ショックで倒れそうだ。


それに許可を得ずに勝手に手を繋ぐのはよくないよな。

うん、よくない。


それなら『アリア、手を繋がないか?』と直接聞くべきか?

聞いてみて『嫌だ』と言われてもショックだ。


それにアリアを困らせるのもなぁ。


悩みつつ本を購入した後、右隣の店を見る。

アリアがいない……と思ったら、2つ隣の店にいた。


「──アリア!」


声を掛けると、アリアの表情が少しボーっとしているような……?

いや、見間違いか?


店を離れ、2人で広場を回りながらも、ずっと手を繋ぐタイミングをうかがう。

世の中の男性は、好きな人とどうやって手を繋いでるんだ?


参考がてら、周りを見渡してみる。


なんとなくだけど、腕を組んで歩いている人たちが多いのか。

でもなぁ……俺がアリアの腕を組む? のはおかしいよな。


どちらにしても、アリアに腕を組んでもらう……には、本人に言わないといけない。


その時、偶然(本当に偶然だ)アリアと手が触れ合った。


「ご、ごめんな」


勢いあまって手を離したけど、今のタイミングしかないんじゃないか!?


決意を固めると、思い切ってアリアの手をぎゅっと握る。


「……嫌だったら、離すから」


自分の顔と手が、どんどん熱くなっていくのが分かる。

恥ずかしさから、アリアの顔がまともに見れない。


アリアは手を離す事もせず、嫌がっている様子もない。


というか……いつもより距離が近い?

アリアの様子が、どこかおかしい気がする。


会話は普通だ、よな?

んー、気のせいか?


お昼を食べた後、広場で買った本をお互いに見せ合う。

うん、やっぱり距離が近い気がする。


いや、待てよ?

アリアが好きすぎて、無意識に俺の方から近づいていってるんじゃないのか!?


慌てて隣を見ると、アリアと目が合う。

距離が近い。



こ、この雰囲気は──!!


段々と、お互いが引き合うように自然と顔が近づいていく。

ところが──



「──エ、エウロくん!!」


と、すぐにネヴェサさんが登場し、アリアに催眠がかけられている事実を知る事になった。

その後、色々と話をした結果、ネヴェサさんはアリアに謝罪し去って行った。



ん? ……と、いう事は。


手を繋いで拒否されなかった時に『もしかしたら、アリアが俺を意識している?』と思ってしまったのは……勘違いだったのか!!


『この雰囲気は』と、キスするタイミングだと思っていたのも思い違いだった。



ああ、今にも崩れ落ちそうだ。

……穴があったら入りたい。


アリアと目が合い、お互いに気まずそうに笑い合う。


「ご、ごめんね、エウロ」

「な、何がだ!?」


も、もう振られるのか!?


「きっと他の人ならネヴェサさんの催眠にかからなかったと思うんだ。初めてかけたって話してたし。迷惑掛けちゃったね」


あっ、そっちの『ごめん』か。

少しホッとした。


「いや、元はといえば俺が巻き込んだようなものだ。俺の方こそ、ごめん」

「私の方が『ごめん』だよ!」

「俺だろ!?」


お互いに自分が悪いと言い合っていると、アリアが笑った。


「じゃあ、お互いが悪くないってことで、ね」

「そうだな」


アリアにつられるように頬が緩む。


「俺、アリアがものすごく好きなんだ」


気がつけば、自然と言葉がでていた。


「あ、ありがとう」


照れながらも、アリアがお礼を言ってくれる。


「その、今の照れた顔も可愛いし、笑った顔も可愛い。俺にとっては、どんなアリアの表情も可愛い」


アリアの顔がものすごく赤いけど、きっと俺の顔も赤いだろうな。


「そそっかしい所も含めて可愛いし、何でも何をしても愛おしくて……」


アリアの右手をそっと両手で掴み、片膝をつく。


「もっと……もっと俺の知らないアリアの良い所も悪い所も含めて知っていきたい」


気持ちが伝わるように、アリアをまっすぐ見つめる。


「それに……これだけは誓える。例えアリアの悪い所を知ったとしても、きっと俺はアリアが大好きだ!」


自分を落ち着かせるように、ふぅっ、と一呼吸置く。


「ずっと笑い合いたいと思う女性はアリアだけだし、年をとっても一緒にいたいと思う女性もアリアだけだ」


手の甲にそっとキスを落とすと、再びアリアに視線を送る。



「俺と結婚してください!」



言い終えると同時に、俺とアリアの間に沈黙が流れる。



……ん? あれ?

俺は、今、なんて言った?


『婚約者になってください』と言ったか?

……いや、言っていない気がする。


頭をフル回転させ、自分の言ったセリフを思い出す。



『俺と結婚してください!』



「け、結婚!?」


予想だにしていなかった状況に驚き、アリアより先に声に出してしまった!


付き合ってもいないし、婚約者でもないアリアに俺はいきなり『結婚してくれ』と言ったのか!?


急いで立ち上がり、アリアに向かって必死に弁解する。


「ああ、違う! いや、結婚したいという気持ちは違わない! でも違うんだ!!」


ああ! 俺は何を言ってるんだ!!


「本当は『婚約者になってください』と言う予定だったんだ」


最後の最後で何というミスを!!


「でも、将来的には結婚したいと思ってる! だから、決して間違いではない!!」


自分で説明しながら思う。

じゃあ、言い直す必要はなかったんじゃないか?


自分の頭を抱えるようにして困っていると、アリアが吹き出すように小さく笑った。


「大切な話をしてくれてる時にごめん。誤解しないでね。エウロが言ってくれた事がおかしくて笑ったわけじゃないの」


笑いながら、アリアが話す。


「エウロの気持ちを聞きながら、確かにエウロとはこんな風にどんな時も笑い合えるだろうなって思って」


アリアも同じ事を思ってくれたのか。

嬉しい気持ちに満たされていると、ふとアリアの表情が少し曇った事に気がついた。


「……俺、さっき嘘ついた」

「えっ?」


きっとアリアは、俺を傷つけないように何て言おうか迷っている。


「『どんなアリアの表情も可愛い』って言ったけど、アリアの困った顔、悲しい顔は見たくない」


その顔をさせてるのが、俺なんだ。

振られるかもしれないとか、俺は自分の事しか考えていなかった。


言われる側だって、断るのはつらいよな。


「今悲しい顔をさせてるのが、俺だっていうのが情けない」

「情けなくないよ! エウロが情けなかった事なんて一度もないよ!」


力強くアリアが断言する。


「真摯に気持ちを伝えてくれてありがとう。好きになってくれてありがとう」


アリアが笑顔で、必死に感謝の言葉を告げる。


「もし私が悲しい表情に見えたのだとしたら、それはエウロのせいではないから!」


アリアの言葉にふっと笑みがこぼれる。


「……俺が自分を“否定”しても、いつも“肯定”してくれるのがアリアだよな」


──うん。よし!

アリア、ごめんな。


「一度だけアリアを困らせようと思う。アリアの事、悩ませる事にした」

「んっ?」


突然の宣言に、アリアがぽかんとしている。


「自分勝手かもしれないけど、俺の事を考えてほしい!」


アリアを困らせるのは、これが最初で最後だ!


「アリアは告白されるまで、俺の気持ちに気がついていなかっただろ?」


アリアが戸惑いながら、黙って頷く。


「今日一日で判断せず、俺が“ただの幼なじみ”で終わるのか、ただの幼なじみじゃなく、“一生隣にいてもいい存在”なのか考えてほしい」


アリアの両手をぎゅっと握る。


『結婚したいという気持ちは本当だから』と言おうとしたけど、今言われても困るよな?

だから、言おうとした言葉をぐっとのみこむ。


「またこうやって2人で出掛けたいんだけど……いいか?」


もしかして、これはアリアを困らせる1つなのか?


「2人で出掛ける事で、俺を意識してほしいんだ」


少し困りながらもアリアが何か考えている。

それから何か決心したように、ゆっくりと頷いた。


「う、うん。分かった」



──!!

嬉しさのあまりアリアをぎゅっと抱きしめ、感謝を伝える。


「ありがとう!!」

「うわっ!」


……うわっ?

その言葉で、途端に正気へと戻る。


「うわっ! ごめん! その、嬉しくて……」


抱きしめた身体を勢いよく離し、何度も謝る。


そんな俺の焦った様子を見たアリアがまた笑ってくれた。

アリアの笑顔を見て、俺もまた表情を緩めてしまう。



うん。

やっぱり一番緊張するのもアリアだし、一番一緒にいて楽しいのもアリアだ!





──おまけ


アリアを家まで送った後の帰り道、一人反省会を行う。


本当はもっとスマートにエスコートする予定だった。

イメージトレーニングをしたけど、全然上手くいかなかったな。


うーん。

俺ってアリアが相手だと、どうもかっこ悪くないか?

そもそもライバルがオーンとミネル、カウイだぞ?

大丈夫か? 俺?


あっ、でも。

知らず知らずの内にミッションを3つともクリアしてた。


そして何より、アリアが別れ際に『楽しかった』と言ってくれた。

その言葉が聞けただけで、今日は最高の1日だ!!


お読みいただき、ありがとうございます。

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