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ドキドキハラハラする提案

「私がアリアを送るから、ライリーくんはマイヤを送ってあげてくれるかい?」

「分かりました」


リーセさんからの依頼に、ライリーさんが物腰柔らく答えている。

お母様が絡まない限りは穏やかというか、しっかりした人なんだよなぁ。


行きは寮からだったけれど、今日は週末なのでマイヤも私も実家へ帰る事になる。


警護の人たちがいるから心配ないと思いたいけど……マイヤの事もあるし、素直に送ってもらった方がいいかな。


リーセさんの提案をありがたく受け入れ、マイヤとは別の“ヴェント”へと乗り込む。

走る“ヴェント”内で今日あった事などを話していると、リーセさんが少し考えるような表情を浮かべつつ、そっと口を開いた。


「マイヤは……」



──マイヤ!!


その言葉を聞き、隣に座っているリーセさんに勢いよく顔を向ける。


リーセさんの言いたい事、分かります!

いつも私の勘は当たらないけど、今回ばかりは違う!!


きっとマイヤは、サウロさんに恋をした!!

あの後、そのまま帰ったけど、マイヤの『協力してほしい』というのはきっと、サウロさんの事だよね!?


…………困った。

マイヤの恋を応援したいという気持ちは大いにある。


ただ、調査チームのメンバーの1人であるモハズさんもサウロさんが好きなんだよー!!


モハズさんは、調査チームに参加した時や学校を作る時にもお世話になった人だ。

それに今も手紙のやり取りや、たまに会ったりもしている。


うーん……困った。

サウロさんが2人いてくれれば……。


「──アリア?」


リーセさんに呼ばれ、ハッと我に返る。


「すいません。ええと」

「ははっ、考える事に夢中になっていたんだね」


はい、その通りです。


「マイヤがサウロさんを気になっているようだね、と話してたんだ」


やっぱり、リーセさんも気がついてたんだ。


「……そうみたいですね」


表情を見て、私が何を考えていたのか分かったらしい。

リーセさんがいたわるように目を細めた。


「アリアにとっては、モハズさんも大切な友人だろうから困ったね」


そうか。

リーセさんも、モハズさんがサウロさんを好きだって知ってるんだった。


「そうなんですよ」


苦笑しながら答えていると、リーセさんが軽く肩をすくめてみせる。


「サウロさんは女性の扱いは上手くないけどモテるんだよね」


それを言うなら、リーセさんは女性の扱いが上手だし、モテる!


困りつつもサウロさんの話題で盛り上がっていると、いつの間にか私の家まで着いていた。

先にリーセさんが“ヴェント”を降り、私に手を差し出した。


「今日はありがとうございました」


リーセさんの手を取り、お礼を伝える。


「マイヤが無事だったから言える事だけど……楽しかったよ」


確かに、マイヤの事で色々と大変だったけど、私も楽しかったなぁ。


別れる直前、「そうそう」と思い出したようにリーセさんが私にささやいた。


「アリアの“お願い”で調べている件だけど」


お願い???

──ああ! ジュリアの居場所!!


「ごめんね。まだ場所の特定は出来ていないんだ」


申し訳なさそうにリーセさんが眉尻を下げた。


「ただ彼女の親が毎週お忍びで出掛けているようなんだ」


彼女の親という事はジュリアの親──ジメス上院議長だ!

周囲を警戒しているのか、リーセさんが名前を出さずに話し続ける。


「その場所を突き止める事ができれば居場所も分かると思うよ」


リーセさんは淡々と話してるけど、きっと危険な事をしてくれてるんだろうな……。


「そんな顔しないで」


優しくリーセさんが私を諭す。


「大丈夫。危険な範囲はどこまでか、きちんと線引きはして動いているから」


リーセさんが安心させるように微笑んだ。


「……それじゃあ、困っているアリアに“おまじない”を掛けてあげよう」


リーセさんが少しかがみ、私のおでこにそっとキスをした。


「大丈夫。これで全て解決できるよ」


……ん? 今、何が……。


突然の事で反応できずにいる私に対し、リーセさんは少し茶目っ気のある笑顔で笑っている。


「少なくともマイヤやモハズさんの事は、もう少しで解決できると思うよ」


──えっ? どういう……!?


それ以上は何も言わず、リーセさんは「それじゃあ」と“ヴェント”に乗り、去って行った。


リーセさんがいなくなった後、先ほどの出来事を確かめるように自分のおでこへと触れる。


えーーっ!!

今ので、全てが吹っ飛びましたけど!?


……リーセさんって、どこまでが本気なのか分からない人だな。


それに……マイヤとモハズさんの事もそうだけど、今日で気になる事が増えてしまった。


マイヤの話から、フードを被った女性は『転生者』という言葉を使った。

そして、“前の世界”での子守唄も知っていた。


マイヤはジュリアの声ではなかったと話していた。

ジュリアではないとしたら……ジュリアから話を聞いたのかな?


それともフードを被った女性も転生者……?


そんなに転生者っているものなのかな?

実は「childhood friends3」があるとか??


んー、気になるけど、今はジメス上院議長の方に専念すべき??

でも、フードを被った女性は間違いなく誘拐事件の関係者だ。


今までの事を考えると、後回しには出来ない!!


──1つ、1つ、整理しよう。


ミネルが誘拐事件とジメス上院議長に関りがあるのか調べてくれている。

もし関りがあるなら、ジメス上院議長を失脚させられるし、罪を償ってもらう事で全てが解決できる!



よし! まずはミネルからの情報を聞く事にしよう。




それから数日後。


ミネルから情報を得る前に、リーセさんの話していた意味が分かる日がやって来た。

私宛にモハズさんから手紙が届いたからだ。


主な内容としては、調査チームで起きた楽しい出来事が長文に渡ってつづられている。


ただし、最後の1枚だけはモハズさん個人の事について書かれていた。


『アリアには伝えていなかったけど、ずっとサウロの事が好きだったんだ』


あれ?

モハズさんがサウロさんを好きな事は、直接は聞いては……いなかったっけ?


……そっか。

モハズさんが好きな人の特徴を話した時に『サウロさんの事だ!』と私が気がついたんだった。


その時、リーセさんもいたんだよなぁ。

調査チームに参加した日が懐かしい。


『気持ちを伝えようとしたんだけど、サウロが私に恋愛感情がない事は知っていたし……』


悲しい報告だったら嫌だけど、マイヤの事もあるから……んー、複雑。


『ところで、ヨセって覚えてる?』


んん? 急に話題が変わった!?


もちろん、覚えてます!

それこそ、私が参加したテスタコーポのステージで戦った上級生の男性。


それにモハズさんの警護をしていたのがヨセさんだったよね?


『実はヨセに警護をしてもらっていた期間、ずっと側にいてくれたからか、ヨセの事も異性として気になってきてたんだよね』


んん? どういう事??

とりあえず、手紙を読み進める。


『気持ちがふらふらしていたから、アリアには言いづらかったんだけど……。警護を終えた後もヨセとは交流を続けてたんだけど、少し前にヨセから“婚約者になってくれませんか?”って、告白されたのー!』


えっ、えーーー!!


『最初はもちろん驚いたけど、ヨセに告白をされた事で自分の気持ちに気がついたというか、私に必要な人はヨセだったんだなと思ったというか』


きゅ、急展開!!


『……というわけで、正式にヨセが私の婚約者になったという報告だよ。多分、すぐに結婚する事になると思う。結婚式には呼ぶからねー』


手紙の最後には『また連絡するね』と書かれていた。


いつもなら読み返したりして、手紙の余韻に浸るところだけど、あまりにも急な展開で頭がついていかない。


サウロさんからヨセさん?

それどころか、ヨセさんが婚約者になったと思ったら、すぐに結婚??


予想すらしていなかった展開に心底驚いた!


でも……嬉しい報告で本当に良かった!!


モハズさん、ヨセさん、おめでとうございます!

さっそく、お祝いの手紙を書こう!!


机に向かって手紙を書きながら、ふと思う。


リーセさんは知ってたんだ。

だから『マイヤやモハズさんの事は解決できる』って言ってくれたんだ。


どうやって知ったんだろうと思う反面、リーセさんって何でも知ってそうだなとも思ってしまう。


色々と気になるところはあるけど、これで何の迷いもなく、マイヤを応援できる!!




──実は数日前、マイヤの方から先に相談を受けていた。


「アリアちゃんって、エウロくんとテスタコーポの準備を一緒にしてるんだよね?」


「う、うん」


マイヤが「うふっ」と可愛らしく笑った。


「アリアちゃんは気がついていないと思うから、単刀直入に言うわ。私、サウロさんの事が好きになったの」


ああ、やっぱり。


「うん。教えてくれてありがとう」


信頼してくれた事に感謝を告げると、マイヤが僅かに目を丸くした。


おそらく、私が驚くと思っていたのだろう。


「ま、まさか、アリアちゃんなのに気がついてたの?」


アリアちゃん“なのに”??


「う、うん。ライリーさんと出掛けた日にマイヤを見ててそうかなって……」


すぐに気がついたけど。


「(自分の事はさっぱりなのに)話が早いわ。エウロくんに頼んで協力してほしいの」


……この時はモハズさんの事が頭によぎり、すぐに承諾は出来なかった。

だけど、モハズさんの手紙を読んだ今なら協力できる!


テスタコーポの準備で、エウロとは週に4日も会っている。

サウロさんの休日を聞いて、会えないか聞いてみよう!!


ひとまず、明日は歴史の授業がある。


ジメス上院議長の件について、先にミネルから話を聞いてみようかな?


……と思ったけど、迂闊に話せる内容ではない。

学校では聞けないのかぁ。


聞きたい時に聞けないのは……不便。




──次の日。


歴史の授業で、ミネルとソフィーに会った。

私の隣にはミネルが、私の前にはソフィーが座っている。


授業が始まるまでの間、3人で会話をする。

ミネルはソフィーが苦手なのか、少し嫌な顔をしているけど(笑)


難しいとは思いつつも、誰が聞いてても怪しまれないよう、遠回しに話してみる。


「学校で話せないのって不便だよね」


ミネルが、すぐに何を言いたいのか察してくれた。


「ああ、そうだな」

「ソフィーとは、私の部屋やソフィーの部屋で話できるから女性同士は楽だよね」


話題を振ると、ソフィーが同意した。


「そうですね。アリア様の恋の話など聞けますからね」


えっ! 恋の話なんてした事ないよ!?

周りに怪しまれない為のカモフラージュ??


ソフィーがミネルを見て、くすくすと笑っている。

ミネルはというと……機嫌はよくなさそうだ。


ソフィーが微笑みながら、さらさらと紙に何かを書いている。


『急ぎでしたら、男子寮に忍び込んで話をしてみては?』


──へっ!?


……考えた事なかった。

ソフィーって、こういう提案もするんだ!


とはいえ、忍び込むのはさすがにハードルが高い。

それにバレたら……どうなるんだろう??


「行けなくもないな」


ソフィーの案に、ミネルが同意するように呟いた。


えっ! まさかの反応!!

真っ先に『上流階級の人間はそんな事しないぞ』とか言いそうなのに!


「不本意だが、エウロがいる。それに」


ミネルが紙にすらすらと書いていく。


『オーンの部屋なら誰も来ない。警護の人間がいるし、生徒が通ったりしない端の部屋だ』


そういえば、王子という事もあり、部屋だけは他の生徒と違うって言ってた。


思えば、オーンにも聞きたい事があるんだよなぁ。

それに行動に移すのは、少しでも早い方がいい。


「ただし、行くにしてもアリア1人が限界だな。セレスはうるさい(すぐにばれる)。ルナはいてもいなくても変わらない」


……ヒドイ言われよう。


「どうする?」


ミネルがニヤッと笑っている。

私がどう答えるか分かっている笑い方だ。


バレた時は『私が勝手に忍び込みました』と言えば大丈夫かな? ……うん、そうしよう!

心を決め、黙ってこくんと頷く。


ミネルが紙に何かを付け足した後、紙を4つに折りたたんだ。


私の横に紙を置くと、「授業が始まる」と言って何事もなかったかのように正面を向いた。


1時間ほどで授業も終わり、さっき渡された紙をこっそり見る。

そこには時間と場所が書かれていた。


つまり今日、この場所に来いって事だよね?


んー、私の悪い癖が出始めた。

ちょっと面白そうと思ってしまう自分がいる。


先走りそうになる気持ちを抑えると、まずは他の授業をきっちりと終わらせた。



放課後になり、次は男子寮──ではなく、テスタコーポの準備!

作業を行う為、準備の為に割り当てられた教室へと向かった。


他のメンバーと一緒に用意を進めながら、バレない程度にエウロの様子をうかがう。


エウロは今日の事をミネルに聞いてるのかな?

雰囲気だけ見ると、聞いてない気がする。


まぁ、今日の事はミネルに任せよう。

先にマイヤの事でも聞いてみようかな?


「エウロ」


作業の手を休める事なく、エウロに話し掛ける。


「どうした?」


エウロも作業しながら返事をする。


「サウロさん……」


っ! しまった!!


そういえば、マイヤの気持ちをエウロに話していいか聞いてなかった!

ど、どうしよう……。


「兄様がどうした?」


……こうなった以上、マイヤの名前は出さずに聞いてみるしかない。


「ええと、休みの日は何をしてるの?」

「たまに学校で魔法を教えてるみたいだけど」


そういえば、以前サウロさんもそんな話をしていたような?


「家に帰ってきたり……してる?」

「兄様は滅多に帰ってこないかな」


それじゃあ、普段は何をしているか分からないか。


「エウロは……サウロさんと会ったりはしないの?」

「ああ、滅多に会わないなぁ」


んー、困ったなぁ。


……こういう時は仕切り直すのが一番!!

マイヤにエウロに話していいか確認してから話そう。


「アリア……まさか……」

「ん?」


エウロの顔を見ると、わずかに表情が曇っている?


「どうしたの?」

「……いや、何でもない」


どうしたんだろう?

その後は何事もなかったかのように普通に会話をし、今日の作業は終了した。




──そして、やって来ました!


本日のメインイベント!

夜、男子寮に忍び込みます!!


寮自体はいつ外出しても大丈夫だから、普通に外に出る事ができる。

そうは言っても目立たないよう、静かにミネルに指定された場所へと向かった。


今更だけど……私の場合、警護の人がついている。

こっそり忍び込むって出来ないんじゃない?


ど、どうしよう? 何も考えていなかった。

警護の人に『ここにいて下さい』という無神経な事も言えない。


困惑しながらも指定場所へ到着すると、エウロが立っていた。


「アリア」


小さい声でエウロが私の名前を呼ぶ。


「かなり驚いたけど、ミネルから話は聞いた」


私に向かって柔らかく微笑むと、今度は警護の人達へと声を掛ける。


「本日《風の魔法》を使える方は、警護についてますか?」

「はい、私が使えます」


エウロが安堵の表情を見せた。


「良かった。すいません、1人はここで待っていただけますか? あの部屋でアリアと話します」


一番端の部屋をエウロが指差す。


「扉の前にはカウイとオーンの警護の方もいるので、1名で大丈夫だと思います」


ここで待機する警護の人に安心してもらう為、エウロが丁寧に説明をする。

さらに信用してもらう為、私からもお願いする。


「すいません。1時間ほどで戻ります」


懸命に頭を下げ、何とか了承してもらうと、エウロがひょいと私を抱き上げた。


「よし、行くか。俺について来てください」


《風の魔法》を使う警護の人を誘導しつつ、エウロがふわっと浮いた。



部屋の方を見ると、ベランダからオーンが顔を出し、小さく手を振っている。

オーンの後ろにはカウイも見える。


……よくよく考えたら、男子寮潜入をよく皆が許可したなぁ。

オーンなんて、王子なんだよ!?


私が言うのもなんだけど、みんな度胸というか、突拍子もない事への許容範囲が広過ぎ!



エウロに抱えられながら、思わずクスッと笑ってしまう。


「ん? どうした?」


エウロが私の顔を見て、つられたように笑みを浮かべる。


「ううん」


首を横に振ると、詳しい事は言わずに笑顔だけを返した。


そういえばエウロも驚いたと言ってはいたけど、もしかしてワクワクしているのかな?

少し楽しそうに見える。



エウロはそのまま上昇し続け、そしてついに、私は禁止されている男子寮──オーンの部屋へと入った。


お読みいただき、ありがとうございます。

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