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ダブルデートかと思いきや2回目デート

ソフィーが協力してくれる事になった翌日、私は校内にある会議場へとやって来た。


エウロに誘われたテスタコーポの代表者会議に参加する為だ。


「それでは、本日からテスタコーポが始まるまでの1ヶ月間、我々運営陣の動きについて説明します」


集まったメンバーが各自挨拶を終えると、進行役の男性が今日の議題を伝える。


2年生からは代表のエウロと補佐の私。

3年生は、代表の人のみ。まだ補佐を誰にするか決めていないらしい。


4年生は10名弱いる。

4年生だけ、代表と補佐の他にも運営陣が数人いる。


エウロからの事前情報によると、4年生はもっと早い段階から大会の準備を進めているそうだ。

4年生である程度の概要を決めた後、2~3年生にも声を掛けるというのが例年の流れらしい。


進行役が席に座ると同時に、リーダーらしき男性が講壇に立った。


「まず最初に、以前頼んであったグループの割り振りを本日中に提出してください」


隣に座っているエウロが小さい声で私にささやいた。


「今話している人がリーダーの“フウレイ”さんだ」


リーダーをしているだけあって、頼りになりそうな雰囲気がある。


「エウロは、もうグループは決めたの?」

「ああ、同じ魔法同士でグループ分けをしなくちゃいけないんだ。……ちゃんとミネルに言われた通りにグループを分けた」


要するに私たちとジュリアの幼なじみたちが一緒になっているという事か。


これは……だいぶ調べやすくなったかも。


昨日話した後、ソフィーには幼なじみたちの中で協力してくれそうな人を見極めてもらう事になった。

それに加え、幼なじみ達やジュリアの情報など、ソフィーが知っている情報も全て教えてくれる話になった。


ソフィーも動いてくれるし、みんなで手分けすれば何とかなりそう!


「《雷の魔法》を使うユーテルさんは?」

「ユーテルさんの魔法自体が誰とも被らないから、魔法の人数が少ない《光の魔法》オーンと一緒にした」


なるほど。


「──次に2年生」


フウレイさんが私とエウロに目を向けた。


「2年生には、中等部4年生に出題する問題を考えてもらいます。出来上がった問題はエウロとアリアさんで確認してください」

「分かりました」


エウロと私が返事をした後、フウレイさんがエウロに話し掛ける。


「きちんと期日までに問題を作るよう各グループのチェックも忘れずにな」

「分かってます。大丈夫です」


2人が親しげに話している。


さすがエウロだなぁ。

古くからの知り合いのように見える。


「第2ステージは武術か剣術を使ったステージなんだが、まだ何をするか考えていないんだ。第2ステージの内容も考えてくれないか?」

「分かりました。アリアと一緒に考えておきます」


フウレイさんが「今日はこれで帰っていいぞ。よろしくな」と言って、3年生の元へ去って行った。


私たちが第2ステージのルールを考えていいんだ。

ルールかぁ。ゲーム性があった方が、楽しく参加してくれそうだな。


私がルールについて色々と考えていると、エウロが少しだけ心配そうに尋ねてきた。


「テスタコーポの運営陣は、大会まで週2くらいのペースで集まるんだ。その他に俺とアリアだけでも週2くらいで集まって準備することになると思う。大丈夫か?」


つまり、週4日は何かしらの集まりがあるという事か。

ほぼ毎日がテスタコーポの準備期間になりそう。


「うん、大丈夫だよ」


私がにこっと笑うと、エウロも安心したような表情を見せる。

エウロと一緒に会議場を出ると、そのまま2人並んで歩き始めた。


正面玄関へと向かいながら、何気なく横を歩いているエウロの顔を見る。

何か悩んでいる事でもあるのかな? 動きがいつもよりぎこちない気がする。


「俺……アリアに……話したい事があるんだ」


……話したい事?

余程の事なのか、エウロの表情が少しだけ堅い。


「なに?」

「いや……」


いや??


「テスタコーポ大会が終わったら、話を聞いてくれないか?」


今じゃないんだ。

テスタコーポ(1ヶ月)後という事は、急ぎの話ではないって事かな?


「うん? 分かったよ。もし話したくなったら、いつでも話してね」

「ああ、ありがとう。……悩み事とかではないから」


悩み事ではない?


「そうだ! アリアは……どこか行ってみたい場所はあるか?」


行ってみたい場所……ある!


「一度は他国に行ってみたいな」

「た、他国……そうか、他国かぁ」


気のせいかな?

エウロがうなだれてるように見える。


そういう意味ではなかった??


「──あっ。本の街“イーブル”には行ってみたいかも」


エウロの顔が、ぱぁっと明るくなった。


「それじゃあ、テスタコーポ大会が終わったら、その、“イーブル”に一緒に行かないか?」

「いいけど……? ミネルとかも好きそうな街だよね」


私の言葉にエウロが「う……」ともだえている。苦しそう??


「いや……うん、そうだな。ミネルも好きそうだな」


うん? 違った??

状況が掴めずに戸惑っていると、なぜかエウロが大きく深呼吸をしてみせた。


「アリアと……2人で行きたいんだ。どうかな?」


話したい事があるって言ってたからかな?


「うん、いいよ?」


私の返事に、エウロが腰元で小さくガッツポーズをしている。

……なんか前にもこんな光景を見た事があるような?


結局、エウロとはテスタコーポの後に出掛ける約束をして、その場は別れた。




──そして、ついにライリーさんを見極める日がやってきました!


……じゃなかった。

マイヤとライリーさんのデートの日がやってきました!


以前、リーセさんと一緒に出掛けた“エルスターレ”。

その話をマイヤにしたら『私も行ってみたいな』と話していたので、行く場所は“エルスターレ”に決まった。


リーセさんとライリーさんとは、直接“エルスターレ”で会う事になっている。

私はマイヤと一緒に向かう事になったので、学校の寮から2人で“ヴェント”へと乗り込んだ。


“ヴェント”が走り出した後、マイヤに聞きたかった事を尋ねてみた。


「マイヤはライリーさんが気になるの?」

「ううん」


迷いのない否定。

気になっては……いない?


「顔が好みだったから、デートをする事にしたの」


……顔が好み。

ライリーさんは「childhood friends2」の攻略対象キャラだけあって、顔は整っている。


穏やかで紳士的な顔立ち。

思い出してみると、話し方も丁寧な人だった。


「家柄も申し分ないし、学力も優れているでしょ? 性格さえ合えば、好きになる可能性は高いなって思ったの」


な、なるほど。


「私の事より、アリアちゃんはオーンくん、カウイくんどちらにしたの?」


──!?


「あっ、ミネルくんもかな?」


──!??


「な、なんで……」

「知ってるかって?」


こくんこくんと何度も頷く。

オーンの事は知られているけど、カウイやミネルの事まで知られているなんて!!


「カウイくんは分かりやすいし、ミネルくんとは2人で出掛けた話を聞いてたから(もっと言うなら、エウロくんの事も知ってるよ)」


そ、そうなんだ。

カウイが分かりやすいとうより、マイヤが鋭い気がするけど……これは相談するチャンスなのでは!?


意を決して、ずっと悩んでいた事を相談してみる。


「3人が私を好きという……夢みたいな事が起きてるんだけど」


私の言葉を聞き、マイヤがニヤニヤし始めた。


「3人はお互いに私の事を好きと言う事は知らないと思うんだ」

「…………」


一瞬マイヤが斜め上を見たのが気になるけど、話を続ける。


「その事を知ったら、3人の友人関係が崩れちゃうかと思うと、どういう態度を取ればいいのか困ってて」


自分から話し始めた事ではあるけど、何かこう……“いい女”発言をしてるようで妙に抵抗がある。


一通り話し終えたところで、マイヤが楽しげに口を開いた。


「アリアちゃんが心配するような事は、1つもないから大丈夫(なぜならアリアちゃん以外は、みんな知ってるから)」


マイヤ……私を気にさせまいと言ってくれてるのかな?


「それにしても……周りにかっこいい人が多いんだから、誰か1人くらい好きになってもおかしくないのに」

「それを言うなら、マイヤもじゃない?」


私がツッコむと、マイヤがぐっと口をつぐんだ。


「わ、私の場合は色々あったから、頭が回らなかったのよ」


ああ、ケイアさん(マイヤの母)の事か。


そういう意味だと、私もそうなのかもしれない。

私を好きになる事はないと思い込んでいたから、知らず知らずのうちに恋愛対象から外していたのかも。


「んー、もう面倒だから話すけど、オーンくん達はお互いにアリアちゃんが好きな事を知ってるよ(もっと言うならエウロくんも)」


えーーーー!!!


「だから、一切心配する必要はないよ」


マイヤが“知ってて当然”というように話している。


「アリアちゃんが幼なじみの誰かを好きになった時は、友人関係が壊れる可能性はあると思うけど(そもそも友人関係なのかも分からないけど)」


えっ!? えーーーー!!!


「その事を気にして、遠慮をするのだけは止めてあげてね」


穏やかに、それでいて少しだけ真剣な表情でマイヤが話す。


「(もう少しだけ、まだ誰も選んでほしくない気持ちもあるけど)みんなが真剣にアリアちゃんを想っている事を知っているから、時が来たら遠慮はせずに正直な気持ちを伝えてほしい」


……うん、そうだね。マイヤの言う通りだ。


「ありがとう、マイヤ」


マイヤの真摯な言葉に感謝し、お礼を伝える。

その途端、マイヤの表情が含みのある笑い方へと変わった。


「心配する事はないと思うよ。むしろ、アリアちゃんから積極的に誘った方がいいと思うよ?」

「な、なんで!?」


なるべく波風を立てたくないのに、私から誘うの!?

提案の意図が分からず慌てて問いただすと、マイヤが諭すように答える。


「みんなで一緒にいても、今までの関係と変わらないでしょう? 関係や意識を変える為に、アリアちゃんから行動に移すのはいい案だと思うけど」


な、なるほど。そうかもしれない。


「ところで、アリアちゃんは誰が好みの顔なの?」


……ん? 好みの顔?

みんなイケメンだから、あまり考えた事がなかったなぁ。


「マイヤはいるの?」

「顔だけなら、エウロくんかな。今日会うライリーくんも好みだけど」


偶然だけど、どちらも《風の魔法》を使う。

マイヤは爽やかな人が好みの顔なのかな?


「ただ頼りたいのはオーンくんみたいなタイプなんだよね」


マイヤの口調が徐々に盛り上がっている。


「将来性を考えるならミネルくんかな。将来、絶対にお金に困らないという保証があるから!」


……そっか。良かった。

自分の意志で色々考えれるようになったんだな。


安心する私を余所よそに、マイヤは活き活きと語り続けている。


「アリアちゃんに接する姿を見ると……甘えるならカウイくんかなぁ」


結局、盛り上がったマイヤの話をずっと聞いてる内に、目的地である“エルスターレ”へと着いた。


私的にも、マイヤに話す事で少しスッキリしたかも。

相談して良かったな。


“ヴェント”から降り、マイヤと一緒に待ち合わせ場所へと向かう。

数分と掛からずに目的地へ到着すると、そこには既にリーセさんとライリーさんが待っていた。


「お待たせしました」


2人の前でマイヤが丁寧に会釈をする。


「いえ、時間通りですよ。それに女性を待たせるわけにはいきませんから」


特に気にした様子を見せる事もなく、ライリーさんが笑顔で挨拶をしている。


マイヤに気を遣わせないスマートな返事。

第一印象(ではないけど)はとてもよい!!


それぞれが挨拶を終えると、ライリーさんが口を開いた。


「これから、どうしましょうか?」


ライリーさんの言葉にリーセさんが時計を見た。


「2人ずつ分かれようか。3時間後、ランチを食べ終えたぐらいのタイミングでここに集合して、残った時間は4人で出掛ける……というのはどうかな?」


──えっ!?


「いいですね。そうしましょう」


ライリーさんがリーセさんの提案に同意する。


「じゃあ、行こうか。アリア」


リーセさんが私の肩を抱く。

そして、ライリーさんとマイヤに軽く手を振ると、ゆっくり歩き始めた。


えっ? ええっ!?


……そもそも、マイヤが2人だけだと緊張するからダブルデートになったんだよね?

という事は、すぐ二手に分かれるのは困るよね!?


「あのリーセさん。ライリーさんに気を遣ったのかもしれませんが、マイヤが……」

「マイヤ? 大丈夫そうだけど?」


リーセさんがチラッと後ろに目を向ける。


……へっ!?


急いで後ろを振り返ると、マイヤがこちらに向かって笑顔で手を振っている。

……全く緊張しているようには見えない。


あの時の『緊張するの』と言ったマイヤはどこへいったの?

もしかして、私がいなくても良かったんじゃない!?


頭の中を疑問符だらけにしながら歩いていると、リーセさんが私の肩からそっと手を離した。


「さて、私たちは2回目のデートでも始めようか。アリアは“手”と“腕”どちらがいい?」


手と腕?

私が質問の意味について悩んでいると、リーセさんが笑った。


「そうだなぁ……この前は腕だったから、手にしようか。アリア、右手を出して?」


言われるがままに右手を出すと、リーセさんが私の手を優しく握った。


「よし、行こうか」


どこか嬉しそうにリーセさんが歩き出す。


リーセさんは私と手を繋いでる事など、微塵も気にしていない様子。

私の方はというと……さっきからドキドキしっぱなしなんですけど!?


繋いだ手を眺めつつ、思った事をそのまま声に出して尋ねる。


「リーセさんは、誰にでもこういう事をするんですか?」


隣を見上げると、リーセさんがきょとんとした顔をしている。


「“こういう事”というのは、手を繋いでる事かな?」

「は、はい」


戸惑いながらも返事をすると、少しだけ寂しそうにリーセさんが肩をすくめた。


「私が誰とでも手を繋ぐような男だと?」


──あ、しまった!

失礼な事を言っちゃった!!


「いえ! そういう風には思っていません!」


慌てて否定する私の姿に、リーセさんがクスッと笑ってみせた。


思ってはいないけど……そうではないとしたら、なんでだろう?

私の中で考えられる選択肢は2つ。


1番、私をルナ(妹)のように可愛がってくれている。

2番、もしかすると私の事が好き?


うーん。気に入ってくれてるとは思うけど……好き?


リーセさんがいつも余裕な表情をしているからかな?

……ピンと来ない。


「アリア、覚えておいて」

「はい?」


私の眼をジッと見つめると、リーセさんが優しく微笑んだ。


「私が手を繋いだり、腕を組んだりするのは、妹のルナとお付き合いしたいと思っている女性だけだよ」


ま、まさかの2番!? 本当に??

気になるけど、真実を確かめるのは……無理だ。


『リーセさんは、私の事が好きなんですか?』と、心の中では聞けるのに直接聞けない私。


私の動揺を知ってか知らずか、リーセさんが「ふふっ」と声を立てて笑った。


「さて、どこを見ようか」


何事もなかったかのようにリーセさんがお店を見渡している。

あまりにも普通に言うから、からかわれているのかな? とついつい疑ってしまう。


「……リーセさんが動揺する事って、あるんですか?」

「動揺? うーん……」


過去の出来事を思い出そうとしているのか、 リーセさんが頭を悩ませている。

すぐに出てこないという事は、今までそういった経験がないのかな?


「記憶にないという事は、ないのかもしれないね」


リーセさん自身も同じ結論に至ったらしい。

はにかんだような表情を見せた後、そっと話題を変えてきた。


「アリアは、どこか行きたい場所はある?」


えーと……あっ!


「ルナお気に入りのクッキーを買いましょうか」


私の提案にリーセさんが微笑む。


「そうだね。ありがとう」


色々な会話をしつつ、リーセさんとクッキーが売っているお店へと向かう。

すると、ふと思い出したようにリーセさんが口を開いた。


「以前“エルスターレ”に来た時、アリアに『ルナと笑顔が似ている』って言われたんだ」


……そういえば、言ったかも。

初めて見た表情だったから、覚えている。


「家族にすら言われた事のないセリフだったから嬉しくて。……その時に思ったんだ。ルナの提案に本気で乗ってもいいかもしれないって」


ルナの提案??

私の不思議そうな顔を見たリーセさんが、軽く頬を緩める。


「ルナには話してあるから、今度ルナに聞いてごらん」

「は、はぁ」


リーセさんの発言に首を傾げながらも、ルナお気に入りのクッキーのお店へと入り、買い物を済ませる。

そのまま他の買い物を続けていると、リーセさんが街中に飾られていた時計へと視線を動かした。


「そろそろお昼でも食べようか」

「そうですね。何を食べましょうか?」

「…………」


……あれ? リーセさんの返事がない。


見上げると、リーセさんがどこか遠くを眺めている。

疑問に思いつつ目線の先を追うと、ライリーさんが走っている姿が見えた。



──ライリーさん!?


必死に周りを見渡し、焦った表情をしている。

……明らかに様子がおかしい。


「ライリーさん、どうしたんでしょう?」

「……ライリーさんの所へ行こう」


リーセさんもライリーさんの様子がおかしいと思ったんだ!

急いでライリーさんの方へ向かうと、すぐに私たちに気づき、足早に近づいてきた。


「ライリーさん、何かあったんですか?」


私の質問に、ライリーさんが息を切らしながら答える。


「一緒に歩いていたはずのマイヤさんが……いなくなったんです!」


お読みいただき、ありがとうございます。

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