未来への勧誘
……まずい! 非常にまずいっ!!
私の顔に出てしまう性格が災いし、ミネルにキスの事がバレてしまった。
あの後もしつこく詰め寄られてしまい、どうなる事かと思った。
偶然にもエレと出会えた事で、ミネルとの会話は中断されたけど……。
本当に危なかった。
エレのお陰で、キスの相手がエウロという事は気づかれずにすんだ。
あの時の話を蒸し返されるのは、エウロにとって本意じゃないと思う。
何より、事故みたいなキスが原因で、エウロが罪悪感を持ってしまうのも嫌だ。
とはいえ、ミネルの性格上、絶対に相手を探し出すはずだ。
こうなった以上、エウロにはミネルにバレた事を正直に伝えよう。
先回りして……謝罪しよう。
──そして、次の日。
エウロには昨日のうちに手紙を書き、受ける授業を聞いておいた。
早速、空いた時間を利用してエウロが授業を受ける教室へと向かう。
隠れて待っていると、エウロが友人と楽しそうに話しながら歩いてきた。
「エ、エウロ!」
きょろきょろと周りを警戒しつつ、エウロに声を掛ける。
「ああ、アリア。どうした?」
笑顔でエウロが私に近づいてくる。
「……少しだけ、2人で話していい?」
不思議そうな表情を見せながらも、エウロが「ああ」と頷いた。
一緒にいる友人にも「先に行っててくれ」と声を掛けている。
「ごめんね。授業前に」
「いや、いいけど……どうした?」
もう一度、周りをきょろきょろと見渡す。
──よし! いない!!
誰にも聞こえないように話さなければならない。
「エウロ、ごめん。耳を貸してほしいんだけど……」
私の様子を見たエウロが、私の身長に合わせて屈んだ。
エウロの耳元で、そっと囁く。
「ごめん。ミネルに私がエウロとキスした事が……多分、いや、確実にバレた」
「ええっ!」
屈んでいたエウロが、驚きのあまり身体を起こした。
「ええと、その、テスタコーポの……時のが……今?」
そうだよね。今更だよね。
エウロに対し、謝罪の気持ちしかない。
「あれはお互いに事故として気にせず終わらせていたはずなのに……ごめんね」
胸の前で両手を合わせて、エウロに必死で謝る。
でも! これだけは伝えておかなきゃ!!
「相手がエウロだという事は話してないから。もしミネルから聞かれたら……何とか誤魔化して!」
誤魔化しきれなかった私が言うのもどうなんだ……という感じではあるけど。
改めて申し訳ない気持ちになっていると、ふいにエウロが口を開いた。
「俺は別にバレても構わないけど……」
へっ!? 予想外の答え!!
驚きつつエウロを見ると、確かに困っているような顔はしていない。
というより、気のせいじゃなければ口角が上がって……え? 笑ってる??
「エウロ、どうしたの?」
私の言葉にエウロが少し慌てた様子を見せる。
「な、なんでだ!?」
「顔が笑ってるように見えるから」
私の指摘に、エウロがさらにあたふたし始めた。
「いや、その、大丈夫だ。そ、そうだ」
何が大丈夫なのか分らないけど……エウロの方こそ大丈夫なのかな?
「アリアにお願いがあったんだ」
「何?」
お願い? ひょっとして、権利の事かな??
エウロだけ権利を使っていないもんね。
「実はテスタコーポの2年代表を正式に引き受けたんだ。それで、作業が多いから補佐をつけていいと言われたんだけど、アリアやらないか?」
「やりたい!」
少し食い気味で返事をしてしまった。
「言うと思った」
エウロが無邪気な顔で笑った。
そっかぁ、またテスタコーポに関われるんだ。
エウロの補佐として……って、どんな仕事かも分からないけど……。
「ところで、補佐って何をするの?」
私の言葉にエウロが「あはは」と笑っている。
「やっぱり……何も知らないで『やりたい』って返事をしたんだな」
勢いで返事をしちゃったからね。
「テスタコーポの準備期間中、俺と一緒にグループの割り振りや進捗管理、問題のチェックとか……雑用を中心に行うんだ」
「進捗管理? チェック??」
エウロが「ああ」と答えた後、チラリと教室を見た。
──あっ! 次の授業か!!
「アリア……明日の夕方は時間あるか?」
「うん、大丈夫だよ」
「各学年の代表者同士で集まるんだ。アリアも一緒に来ないか?」
「うん、行きたい」
すぐにエウロが、明日の打ち合わせ場所と時間を教えてくれた。
「じゃあ、補佐はアリアでお願いしておくな」
「うん、ありがとう。……あっ、そうだ。エウロって、け──」
咄嗟に権利の事を聞こうかと思ったけど、止めておいた。
無理やり使わせるものでもないしな。
さらに、私が出来る事なんて限られている。
「アリア? どうした?」
「ううん、なんでもない。それじゃあ、授業前にごめんね」
「ああ、またな」
お互いに手を振ると、それ以上は何も言わずに別れた。
結局、『バレても構わない』という返事だけもらって終わったな。
エウロが気にしないなら……まぁ、いっか。
それに、週末はデートの付き添いがある。
ライリーさんには悪いけど……マイヤを傷つけたりするような人じゃないよね??
どんな人か、私がきちんと見極めなきゃ!!
それにしても……エウロは授業に行ったけど、私は少しの間、時間が空くんだよなぁ。
次の授業まで、図書館で勉強でもしようかな?
決めると同時にその場を離れ、図書館へと向かった。
中に入ると空いていた奥の席へと座り、授業の予習を始める。
そういえば、キスがバレた事で焦って忘れていたけど、ミネルに告白の返事をしていなかった。
……いや、違う。
話そうとしたら『聞かない』って言われたんだ。
『聞かない』って……どうすればいいんだろう?
1人頭を悩ませていると、前の席から囁くような声が聞こえてきた。
「ここ、座ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
反射的に答えつつ、どこか聞き覚えのある声にパッと顔を上げる。
向かいの席へと視線を動かすと、そこには見知った人物が立っていた。
──ソフィー!
歴史の授業よりも早く、まさか図書館で会えるとは!!
さらにソフィーから声を掛けてくれるなんて、絶好のチャンス!!
「……どうしました?」
私が凝視しすぎたのか、ソフィーが訝しげにこちらを見ている。
不要な誤解を与える前に質問しようとするも、いい言葉が思いつかない。
『お父さんはどんな人?』
『お父さん、私たちに協力しない?』
……うーん、どれも違う気がする。
「実は、ソフィーに聞きたい事があるんだけど……」
ひとまず声に出してはみたものの、このまま図書館で話すのもなぁ。
私の考えをすぐに察したのか、ソフィーが口を開いた。
「私もアリア様にお聞きしたい事があります。私の質問にも答えてくれるのでしたら、アリア様の質問にもお答えしますよ」
ソフィーが静かに微笑んだ。
「えっと、答えられる範囲ならいいけど……」
まさか逆に聞きたい事があると言われるとは思っていなかった。
「きっと答えられます。よろしければ、女性の幼なじみの方々にも同席していただけますか?」
女性の幼なじみの方々……セレス達にも!?
……うーん、セレス達も一緒となると学校では難しいかもなぁ。
「それなら、夜とか寮で話した方がいいよね?」
そうじゃないと、空いてる時間が揃わない気がする。
「そうですね。本日の夜で如何ですか?」
ソフィーが提案をする。
「分かったよ。セレス達にも声を掛けておくけど、来れない人がいたらごめんね」
「構いません。場所は……アリア様のお部屋でもよろしいですか?」
私の部屋……全然問題なし!
「うん、大丈夫!」
夜に会う約束をした後は、そのまま2人で一緒に勉強をした。
それにしても、私に聞きたい事ってなんだろう?
いや、セレス達も呼ぶという事は、私たち4人に聞きたい事なのかな??
そんな疑問を胸に夜を待った。
夜になり、セレスとルナ、マイヤが私の部屋へとやって来た。
急に誘う事になっちゃったけど、3人とも来れて良かった。
「私たちに聞きたい事って何かな?」
マイヤが私の向かいに座りながら、口を開いた。
「私に聞きたい事なら分かるわ!」
答える前から、セレスがドヤ顔になっている。
うん……聞くだけ聞いてみるかな。
「なに?」
「美の秘訣よ」
……多分、違うよ。
「私の場合『セレスとして生を宿したが故の美貌だから、誰にも真似はできないわ』としか答えられないわ。申し訳ないわね」
大丈夫。
多分、質問内容は全然違うだろうから、申し訳なくないよ。
「セレスちゃんの当たりもしない予想はいいとして、アリアちゃんはどんな事を聞くの?」
マイヤが私に尋ねる。
「私はね……」
答えようとした瞬間、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。
メイドのサラは先に休ませていたので、自分で扉を開け、ソフィーを部屋へと招き入れる。
みんなのいる場所まで誘導すると、ソフィーは空いている椅子──マイヤの横に座った。
全員が腰を下ろしたと同時に、セレスが先陣を切って話し始める。
「きちんとした形でお話をした事がありませんので、改めて自己紹介をさせて頂きますわ」
やはり、こういう時は頼りになるセレス!
「アリアのしん……大親友のセレスですわ」
セレスが髪をパサっと手で揺らした。
「そして、アリアの左隣にいるのが“ただの幼なじみルナ”。ソフィーさんの隣にいるのが、“ただのマイヤ”です」
マイヤに至っては、“幼なじみ”すらついていない。
……というか、『ただの』をつけずに『マイヤです』だけでよかったのでは?
「アリアの右隣にいるのが、いつも怒っているセレスです」
私の横でルナが呟いた。
セレスとルナ(無表情)が、私を挟んでキッと睨み合っている。
「2人はいつも大人げないので、放っておいてくださいね。改めまして、マイヤです」
隣に座っているソフィーに、マイヤが可愛らしく笑い掛ける。
「ソフィーと申します。今ので大体の関係性が分かりました」
冷然と話しながら、ソフィーが私の方へと目を向ける。
「まずはアリア様からの質問をお聞きします」
実はソフィーが来るまでの間、なんて聞こうかずっと悩んでいたんだけど、結局決まらなかった。
私にさりげなく……なんて事は無理だから、もう単刀直入に聞こう。
「いくつか聞きたい事があるんだけど、まずは今現在のジュリアの情報があれば教えてほしいんだよね」
「ジュリアについて、私からは何もお答えできません。“あの試合”をきっかけにジュリアとは縁を切った状態なので、どこにいるのかも本当に知らないのです。ユーテル達も私と同じようです」
やっぱりそうかぁ。
リーセさんの情報を待つしかないか。
「そういえば、ジュリアさんから『ノレイ』と呼ばれていた方は彼女の執事ですの?」
セレスもソフィーに質問をする。
「そうです。小さい頃からずっとジュリア専属の執事をしています。正直なところ、私には執事というより……ジュリアを監視しているだけのように見えました」
……監視!?
「真実のほどは分かりません。呼ばれていないのに常にジュリアの近くにいるので、そう見えただけです」
私の疑問を察したのか、ソフィーが説明を付け加えた。
あくまで想像でしかないんだろうけど、何年も近くで見てきたソフィーが言うんだから真実味はある。
「その執事……ノレイさんは何の魔法を使えるの?」
「ジュリアが以前『何の魔法も使えないから、優しい私が執事として置いてあげている』と話していた事がありました。年齢はおそらく18歳以上です」
私の質問にソフィーが淡々と答えていく。
一般的に魔法の素養を持つ人は、18歳までに使えるようになると言われている。
つまり、18歳を超えても魔法が使えないという事は、魔法が使えない体質という事か。
「でも何か気になるんだよなぁ、あの人」
私が何気なく呟くと、ソフィーを除いた3人が一斉に私の方を見た。
「男性として興味を持ったという事? アリアちゃんの好みは黒髪長髪!?」
ソフィーがいる事を忘れてるのか、マイヤが前のめりで私に聞いてくる。
「えっ、あの……」
「ダメよ! ジュリアの執事なんて認めないわ!」
戸惑う私を遮り、セレスが力強く断言する。
「いや……そう」
「アリア」
真顔のルナが、何かを訴えかけるように私を見つめてくる。
「アリアには“リ”がつく名前の人の方が似合っている」
“リ”のつく人?
アリア……あ! 私の事!?
「……って、違う違う! 気になるというのは、そういう意味じゃないよ」
両手を動かし、3人の勘違いを必死に否定する。
ただ『どういう気になる?』と聞かれると、上手く説明ができないんだけど。
「うーん。雰囲気というか、何か引っかかるというか。違和感みたいなものが……あっ!」
ソフィーの話を聞いたから、余計に違和感を覚えたんだ!
「魔法を使える気がするんだよね」
『なんでそう思ったの?』と言われると、またまた上手く説明ができないんだけど。
会った時のオーラというか……そう感じたんだよなぁ。
私の話を黙って聞いていたソフィーが、首を横に振った。
「それはないと思います。ジュリアは嘘をつかないというか、嘘をつく必要がないと思っているので、良くも悪くも何でも話します」
まぁ、失礼の固まりのような人だもんな。
私の当てにならない勘は外れたという事で、こちらもミネルの報告を待つしかないかぁ。
あと他に聞く事といえば……上院についてかな?
「ソフィーのお父さんは、どうして保守派にいるの?」
他の質問と同じように尋ねたつもりだったけど、ソフィーは何か別な考えへと至ったらしい。
少しだけ警戒したような口振りで答えてくる。
「……それは、アリア様のお父様に頼まれたのですか? 娘である私に聞く事自体は手段として有用ですが、望んだ結果にはならないと思います。今の父を味方につけても、アリア様のお父様たちの力になれる事は少ないと思いますよ」
お父様に頼まれた??
……ああ、そっか。
さすがのソフィーも、親ではなく私たちが『ジメス上院議長を失脚させたい』と考えている事までは予想できないか。
とはいえ、ジメス上院議長の話はまだ出来ないから……なんて説明すればいいかな?
困っていると、マイヤが私を助けるように微笑んだ。
「いえ、親に頼まれた訳ではありません。実はその……私たちの親が革新派なのはソフィーさんもご存じですよね?」
マイヤが横に座っているソフィーへと顔を向ける。
「私たちは、革新派を増やそうとしている親の力に少しでもなりたいなと思っていて……」
どこか困ったような顔をしながら、マイヤが可愛らしく眉尻を下げてみせた。
「なるほど。……そうですね、私の父が保守派にいるのは、自分の地位を高める為だと思います。だからこそ、上院議長に取り入りやすい保守派にいるのだと思います」
以前、ソフィーも『ジュリアと一緒にいて損はない』と話していた。
そう考えると、まさにこの親にしてこの子あり!
「地位が危うくなっている今の状況から考えると、革新派に寝返る事もあり得ます」
他人事のようにソフィーが話している。
うーん。
今の話を聞くと、仮にソフィーのお父さんに味方になってもらったとしても、自分が不利な状況になったら裏切る可能性があるって事なのかなぁ。
……って、そうだ!
私が質問をするばかりで、ソフィーの質問を聞いてなかった!
「そういえば、ソフィーの聞きたい事は?」
「そうでしたね」
頷くと同時に、ソフィーがジッと私の顔を見つめてくる。
「私はアリア様に興味があります」
はい?
「あの時──ジュリアとの試合前、魔法が使えなかったにも関わらず、アリア様は『ジュリアの屈辱に歪む顔を見せる』とおっしゃいました」
そんな事、言ったかな?
「得意げにおっしゃっていたので、何か作戦があるのかと思いきや、作戦らしい作戦はなく……この人は頭が悪いと思いました」
……頭が悪い。
「ただ、アリア様のその言葉を聞いた時、なぜだか気持ちが高揚したのも事実です。……では、その事がきっかけで興味を持ったのか? 自分なりに考えてはみましたが、答えには辿り着きませんでした」
いい意味で興味を持ってくれたって事なのかな?
「そこで、アリア様と仲の良い方からお話を伺えば、理由が分かるのではないかと思ったのです」
落ち着いた様子で話し続けるソフィーの言葉に、嘘や偽りは感じられない。
ソフィーが一通り話し終えたタイミングで、部屋の中が静かになる。
すると、セレスがティーカップに入っている紅茶をぐいっと一気に飲みほした。
「なるほど。私から大親友の座を奪いたいなどと、堂々と宣戦布告してくるなんて……。いいでしょう! 受けて立ちましょう!!」
……ん? そんな話だったかな?
「いいえ、そういう話ではありません」
ソフィーが冷静に突っ込んでいる。
んー、困った。
話をすればするほど、全てをソフィーに話し、仲間になってもらいたいという気持ちが芽生えてくる。
ふと向かいに座っているマイヤを見ると、少しだけ諦めたような、呆れたような顔をしている。
どうしたんだろう? と悩む間もなく、マイヤがゆっくりと口を開いた。
「ソフィーさん。私たちね、ジメス上院議長のトップの座を終わらせたいなって思ってるの」
まさか、マイヤが話の核心を突くなんて!
驚く私とは裏腹に、マイヤ自身は特に表情を変える事もなく話している。
「その方がね、ソフィーさんのお父様も上院で働きやすいと思うの」
その話を聞いてもソフィーの表情は冷静なまま変わらない。
「……まぁ、皆さまのご両親は以前から色々と考えた上で動いていらっしゃると思いますので、おそらくはそうなのでしょうね」
ソフィーの答えに、セレスが大きく首を横に振った。
「いいえ! 今話しているのは親ではなく“私たち”の話よ」
「親は関係ない」
ルナもセレスに続いて反論する。
頭の回転の速いソフィーが、今の発言で何かに気づいたらしい。
ポーカーフェイスが崩れ、驚いたように目を見開いている。
「……本気で思って動いている? いえ、動こうとしているのですか?」
「そう!」
私が勢いよく、返事をする。
「なんて無謀なことを……」
「無謀かもしれないけど、何もしないで自分の限界を決めてしまいたくないから」
そうは言っても、ソフィーがお父さんに今日の事を話したら、お父さんがジメス上院議長に告げ口するという危険性はある。
「以前、ソフィーのお父さんが傘下から外れた時に『このような結果になって、良かったと思います』と話していたよね?」
──だからこそ、賭けではある。
「今日の話を聞いて、ソフィーはずっと、目上の人間の機嫌ばかりを気にするお父さんの事が嫌だったのかなって思ったんだ」
ソフィーが味方にならなかった時点で、私たちの計画は終わってしまうかもしれない。
「ソフィーもジュリアに対して機嫌を取るまではいかなくても、理不尽な目に遭ったり、色々と我慢をする事があったんじゃないかな? って思ったんだ。だからこそ、私の発言を聞いて気持ちが高揚──ワクワクしたんじゃない?」
分かりづらいけど、ソフィーの眉が少しだけ動いた。
「……アリア様の言った事を完全に否定する事はできませんが、協力も致しかねます。この話は聞かなかった事にします」
無表情のまま、ソフィーがきっぱりと告げる。
仲間に引き込むのは、さすがにハードルが高かったか。
まぁ、しょうがない。危険も伴うから、無理強いはしたくないし。
……と、心では思っていたはずなんだけど、なぜか口から出た言葉は違った。
「ソフィーは将来、何がしたい?」
「えっ?」
私からの突然の質問に、ソフィーが少しだけ驚いた表情を見せた。
「まぁ、質問した私がまだ決まっていないけど……。でもね、私たちがやろうとしている事って、今よりもずっと選択肢の多い未来を作るきっかけになるかもしれないんだ」
分からないとでも言うように、ソフィーが顔をしかめている。
「トップが変わるだけで大袈裟だと思うかもしれないけど、上院が変われば必然的にルールも変わっていく。もしかすると女性が上院のトップになったり、一般の人が上院に入ったり、今まで考えられなかった事が出来るようになるかもしれない」
再び、ソフィーの眉がピクリと動いた。
「もしソフィーが心の中でそっと諦めていた事があったとしたら、諦めずに済むかもしれない」
考えるようにソフィーが斜め下へと目を伏せた。
「これで断られたら、きっぱりと諦める。だからさ──自分の為に行動してみない?」
椅子から立ち上がり、ソフィーに向かって手を差し出す。
僅かに逡巡した後、ソフィーがまっすぐに私を見た。
「……これです」
これ? ……どれ??
「私は、何をすればいいですか?」
ソフィーも立ちあがると、私の手をギュッと握り返した。
「──やるだけの価値があると判断しました。取引成立です。父に不利な展開にならないのであれば、私も協力しましょう」
お読みいただき、ありがとうございます。
次話、4/14(水)更新になります。




