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ミネルの告白(裏)

ミネル視点の話です。



---------------------------------------


みんなとの話も終わり、家へと帰宅する。

部屋に向かって歩いていると、遠くから妹のウィズとお母様が笑顔で手招きしている。


……嫌な予感しかしない。


「兄さまぁ、お帰りなさい。こちらの部屋に来てくださーい」

「…………」


無視したところで、おそらく部屋まで追いかけて来るだろう。

仕方なく2人の指示に従い、黙ったまま部屋へと入った。


お母様が「座って、座って」と嬉しそうに笑っている。


「兄さま」


笑顔のウィズが椅子へと腰を掛ける。


「やっとデートまでこぎ着けましたね。少し遅いですが、おめでとうございます」

「…………」


お母様が手をパチパチ叩きながら、満足げな表情を浮かべている。


「そこで明日に向けて、兄さまとあーちゃんをくっつける為の作戦会議を開きたいと思います。出席者は、ウィズと……」

「はい。お母様のメーテです!」


ウィズがお母様を見て、こくんと頷く。

そして、2人が揃って僕へと目を向けた。


「…………」


なぜ、アリアと出掛ける事を知っているんだ?


「兄さま、ウィズをその辺りにいるただの7歳児だと思わないで頂きたいです」

「…………」


面倒な事になるのは目に見えていたから、2人にはアリアと出掛ける事を伝えていなかったのだが……。


「うふふ」と、お母様が楽しそうに口元へ手を当てている。


「一昨日、メルア(アリアの母)とお茶会をしたの。そうしたら、今日はルナちゃんのお家。明日はミネルとお出掛け……と、アリアちゃんから聞いてるって。驚いたわぁ」


──アリアが話してたのか!

あいつは、何でも正直に言いすぎだろう!!


「明日はどこで待ち合わせをしてるのですか?」


先ほどまでの笑顔が嘘のように、ウィズが真面目な顔をしている。

小さい頃は、もっと可愛かったはずなんだが……。


「まず家に来てもらう事にしている」


お母様がキョトンとした顔をしている。


「えぇ! さすがに初めてのデートで、お家は……。アリアちゃんも『ミネルはつまらない男だったのね』と思っちゃうわよ?」


興奮しているのか、お母様の妄想が徐々に加速していく。


「いえ! もしかしたら『ミネルって、私の身体が目的なの?』と軽蔑されちゃうかも!」


我が母親ながら、なんという想像を……。


「……2人だけで出掛けたいので、一度家に来てもらうんです」


自分から話してしまった事だが、オーンとエレには出掛ける事がバレている。

邪魔されない為にも、一度家に来てもらってから出掛けた方がいい。


「さては兄さま、明日のあーちゃんとのデートがどなたかにバレましたね?」

「……バレたのではなく、教えたんだ」


鋭い目でウィズが僕を見ている。


「どなたですか?」

「……オーンとエレだ」


ウィズが何かを悟ったような顔をしている。


「『ぼくはアリアと2人で出掛けるんだぜ』と、言わずにはいられなかったのですね。兄さまにそんな子供っぽい一面があるとは……」


僕はそんな話し方はしない。

妹とでなかったら、怒っているぞ。


「分かりました。エレさんとオーンさんはウィズの方でなんとか足止めします。兄さまは、あーちゃんを楽しませ、振り向かせる事に専念してください」


振り向かせるか……それが一番の難題だ。

僕が告白をした時、予想通り戸惑ってはいたけれど、実際にどう思ったのかまでは分からない。


既にオーンがアリアに気持ちを伝えている事は知っている。


それにアリアはカウイが自分を好きだという事にも気がついているようだ。

……という事は、カウイもアリアに気持ちを伝えているのだろう。

アリアが自分で気がつくとは思えない。


いや、断言できる! あり得ない!!


エウロは……あの様子を見る限り、伝えていないだろう。

まぁ、誰が気持ちを伝えていようと関係ない。


──惚れさせれば、勝ちだ。



楽しませる方は、大丈夫だ。

アリアはいつでも楽しんでいるのが見ていて分かる。

……単純だからな。


「兄さま。顔がゆるんでいます。今はあーちゃんの事は考えず、作戦会議に集中して下さい」

「…………」


妹からの厳しい指摘に、ため息がこぼれた。

そんな中、お母様がキラキラとした瞳でこちらを見てくる。


「どこに出掛ける予定なの?」


ああ、出掛ける場所か。


「アリアには“エルスターレ”という商人の街に行くと話しています」


エレに見つからないよう実際には違う場所へ行く予定だが。


こっそりとついてこられると厄介だ。

お母様とウィズにも、本当に出掛ける場所は伝えないようにしよう。


「……兄さま、本当はどこに行く予定ですか?」

「…………」


……お父様やお母様にはない勘の良さ。

ウィズは一体誰に似たんだ!?


「ウィズは兄さまの妹ですよ?」


そうか……僕か。

僕は可愛くない子供だったようだ。


「各国の本を多数取り揃えている“イーブル”に行こうと思っている」


きっとアリアも本が好きだから喜ぶだろう。

そう伝えると、お母様が不満そうな顔を見せた。


「えぇ! ロマンチックじゃないわぁ」

「ロマンチックかどうかは置いといて……兄さま、その場所はお勧めできません」


再び、ウィズが鋭い眼をしている。


「兄さまが選びそうな場所です。エレさんとオーンさんを足止めできなかった場合、確実に見つかる場所でもあります」


確かに一理あるな。


「仕立て屋や絹など服に関わるお店が多い街“ヴェッツノ”にしましょう。兄さまもあーちゃんも選びそうにない街です」


お母様も「うんうん」と嬉しそうに頷いている。


「アリアちゃんに服をプレゼントしたら? んー、でも靴もいいわね。困ったわぁ」


なぜ、お母様が悩んでいるのか全く分からない。


「自分が買った服をアリアちゃんが着るのよ? ドキドキしない??」


僕が買った服をアリアが着る……のはありかもしれない。

お母様からの提案については前向きに検討しようと心に決める。


その後もお母様とウィズからの『ああしたらいい』、『こうしたらいい』という話は延々と続いた。


……さすがに疲れた。


「考えておきます」


一言伝えて話を切り上げると、そのまま席を立ち、自分の部屋へと戻った。

駄目だ。お母様の“あのノリ”には慣れない。




──次の日


自分の部屋でアリアが来るのを待っていると、トントンと扉をノックする音が聞こえてきた。


「アリア様がいらっしゃいました」

「ああ、通してくれ」


ガチャッと扉が開く。

そこにはアリア……と、なぜかお母様が立っていた。


「…………」

「ミネル、15分ほど待って。アリアちゃんをお借りするわ」


そう言うと、お母様は戸惑っているアリアを連れてどこかに行ってしまった。


どこに連れて行ったんだ?

様子をうかがう為、一度部屋を出る。


お母様を探しながら歩いていると、途中でウィズと執事、メイド達の声が聞こえてきた。


「この辺りにエレさん、もしかするとオーンさんがいる可能性があります。2人が出掛けた後、捕獲しウィズの元へ連れて来てください」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫です。オーンさんはウィズには何も言えないはずです。エレさんは ……きっと子供にも容赦ないですからね。どうにかします」



……聞かなかった事にしよう。

何事もなかったかのように部屋へと戻り、再びアリアが来るのを待つ。


お母様がどうしてアリアを連れて行ったのか分からない。

余計な事を吹き込んでなければいいが……。


約束通り、15分後にまたアリアとお母様は僕の部屋へと現れた。


結局何だったのだろう……とアリアの方へ視線を移動する。いつもとは違う髪型が目に入った。

編み込まれた髪型を見るのは初めてだ。


それに少しだけ化粧もしている?


「メーテさん(ミネルの母)にやってもらっちゃった」


嬉しそうにアリアが笑っている。

アリアの斜め後ろで、お母様が口に片手を当て、得意げに目尻を下げている。


いつもの下ろした髪型もいいが、結った髪型もとても似合っている。

雰囲気が変わり、少しだけ大人っぽくも見える。


「ああ、髪型を変えたんだな。出発しよう」


心とは裏腹に、口から出たのは素っ気ない言葉だった。

お母様が不満そうな表情を見せる。


本来なら化粧や髪型について何かを言うべきなのだろうが、いつもと違うアリアを見て上手く言葉が出てこなかった。


……こんな時、カウイなら『とても似合ってて可愛い』とか、さらっと言いそうだ。


「うん。“エルスターレ”だよね?」


アリアが笑顔で質問してくる。

先ほどの僕の言葉については、微塵も気にしていないらしい。


「いや、そう思ったが止めた。裏門に“ヴェント”を用意している」


否定すれば、途端にアリアが慌てだす。


「裏門??」

「ああ」


ウィズが動いてくれているようだが、正門からだと見つかる可能性があるからな。


アリアの警護をしている人たちにも“ヴェント”をもう1台用意している事を伝え、移動方法についても簡単に説明する。


「1人は同じ“ヴェント”前の席に乗ってください。もう1人は、別な“ヴェント”へ。すでに行き先は伝えています」

「ありがとうございます」


警護の人との話が終わると同時に、素早くアリアの手を掴んだ。


「行くぞ」


アリアの手を引いたまま、裏門に向かってすたすたと歩き始める。


──ここからは時間との勝負だ!!

用意していた“ヴェント”の後部座席にアリアを乗せると、自分も隣へと乗り込んだ。


「頼む」

「畏まりました」


運転手が“ヴェント”を走らせる。


「どこへ行くの?」


不思議そうにアリアが僕を見ている。


「……“ヴェッツノ”に行く」


結局、邪魔される可能性を少しでも減らすべく、ウィズの案を採用する事にした。


「わぁ! 初めて行く場所だ」

「だろうな。僕もだ。そもそも僕たちには行く必要のない場所だからな」


話しながら、そっと後ろを振り向く。

“ヴェント”の外を見る限り、誰もついてきている気配はない。


「あっ!」


突然、アリアが声を上げた。


「エレが『“エルスターレ”に行くかもしれない』って言ってたの。『偶然、会えるかもね』って話してたけど、会えそうにないなぁ」


よし! 作戦は成功したようだ。

上手くいけば、エレは僕の家に来る事なく、まっすぐ“エルスターレ”に向かってるかもしれない。


いや、もしかすると僕を油断させる為に、エレがわざと話した可能性もある。

──まだ油断はできない。


オーンも問題だな……。

あいつの場合、平然と自分の立場を利用し、アリアを探しそうだ。


「何か欲しい物でもあるの?」


アリアの言葉にはっと我に返る。


欲しい物はない。

アリアと2人きりで出掛ける為だけに選んだ場所だからな。


「アリアは? 何か欲しい物はないのか?」

「私?」


アリアが「んー」と言いながら頭を悩ませている。

……と思ったら、何かひらめいたような表情へと変わった。


「そうだ! セレスとルナ、マイヤにプレゼントしようかな」


自分の物ではないのか。


「でもなぁ、本当は自分のお金でプレゼントしたいよね」


自分のお金!?


「両親のお金でプレゼントを買うのもなぁ」


両親のお金か……。アリアは本当に面白い考え方をする。

まぁ僕の場合、自分で稼いだお金があるけどな。


3人は気にせずに喜びそうだが、アリアはそんな事を気にするんだな。

……いや、アリアにとってはそんな事ではないのか。


色々と他愛もない話をしている間に、目的地である“ヴェッツノ” に着いた。

“ヴェント”から下りた後、アリアに向かって肘をくの字に曲げる。


「今日は1日いう事を聞いてもらうぞ」

「ええと、これは……」


戸惑っているアリアに一言伝える。


「言わせるな」


偉そうな事を言ってしまったが、果たしてアリアに“腕を組む”という発想はあるのだろうか。

最悪、気づかずにスルーされるかもしれない。


不安に思っていると、アリアがゆっくりと僕の腕に手を回した。


「……合ってる?」


合っている!

アリアにしては上出来だ!!


僕が黙っていると、間違えたと勘違いしたアリアが、急いで腕を抜こうとした。

まずい! ここで失敗したら、再び腕を組むのは困難だ。


「合っている。行くぞ」


よし、何とかなったな。

アリアと腕を組む事に成功すると、そのまま2人で“ヴェッツノ”の街を歩き始めた。


初めて見る街並みが新鮮なのか、明らかにアリアが浮足立っている。

この場所を選んでよかった。選んだのはウィズだが……。


「アリアの興味がある店があれば入ろう」

「ありがとう」


早速、目に留まった布、生地などを取り扱っているお店に入る。


「ここはオーダーメイドで好きな服を作ってくれるぞ」


“ヴェッツノ”に行く事を決めてから、全ての店の場所、店の内容を調べあげた。

思った以上に店があったのは誤算だったが……。


お陰で寝不足だ。

正直なところ……少しだけ眠い。


「へぇ~、そうなんだ」


アリアが感心しながら、僕の話を聞いている。


会話や雰囲気から買ってくれそうな客と判断したのか、店員がアリアに近づいてきた。

アリアが気に入った物があれば……僕が買うか。


「好きなのを買ってやる。選べ」


僕の言葉で完全に“上客”と判断したのだろう。

店員の表情が、分かりやすいくらいに明るくなった。


「素敵な旦那様ですねぇ」


旦那……ああ。


「ああ、いずれそうなる予定です」


なかなか、優秀な店員じゃないか。

結婚していない事に気づいた店員が、僕とアリアに向かって頭を下げた。


「申し訳ございません。まだ結婚はされていなかったのですね。でも素敵な婚約者様ですねぇ」


婚約者……ああ。

いずれそうなる予定だな。


僕と店員のやり取りを見ていたアリアが、気まずそうな表情で僕にそっと近づいてきた。


「もし気に入ったのがあれば、自分で買うから大丈夫だよ」

「……権利を忘れたか?」


こう言えば、アリアは何も言えなくなるはずだ。

あぁ、そうだ。この事も伝えておかないとな。


「安心しろ。僕が稼いだお金だ」


アリアに向かって、ふっと笑う。


「本当にアリアが気に入った物を選んでくれ」


遠慮はしてほしくない。

これから先、そういう関係になりたくもない。


悩みながらも最後には僕の気持ちを察してくれたのか、アリアが真剣に生地を選び出した。


次々と出てくる店員のお勧めを、アリアは1枚1枚丁寧に確認している。

ころころ変わる表情を眺めている内に、いつの間にか時間は随分と進んでいた。


アリアはお母様がプレゼントした口紅の色と同じ生地を選んだ。

お母様が知ったら大喜びしそうだな。


続いてアリアは、生地に合わせたドレスのデザインを選び始めた。

嬉しそうに見本誌をめくるアリアを見て、思わず声を掛けてしまう。


「何着でも構わない」


予想通り、アリアには丁重に断られた。

他の女性だったら、喜ぶセリフだぞ!?


しばらく経って無事にデザインも決まり、会計を済ませて店を出た。


その後は、事前に調べておいた店へと向かい、アリアとお昼を食べた。

そういえば店へ向かう途中、アリアが不思議そうな表情をしていたが……あれは何だったんだろう?


食事を終え、僕とアリアは再び“ヴェッツノ”の街を歩き出した。

すると、執事が少々焦った様子で僕の元へやって来た。


「すまない。少し待っててくれ」


アリアから声が聞こえない程度に距離をとり、執事の話を聞く。


「ウィズ様からの伝言です。エレ様が気がつき、最後まで足止めできなかったとの事です」


……そうか。やはり気がついたか。

こればかりは仕方がない。むしろ、ウィズはこの時間までよくやってくれた。


「オーンは?」

「オーン殿下は……メーテ様とお話した後、ウィズ様とお話しています」


──上出来だ!

1人なら、どうにかなる!!


「助かった。僕からも伝えるが、ウィズにお礼を伝えておいてくれ」

「畏まりました」


急いで戻ると、すぐにこの場を離れるべく、アリアの手を握った。


「場所を変える。“ヴェント”に乗って移動しよう」


アリアの手を引き、“ヴェント”のある場所まで移動する。

とはいえ、“ヴェント”には乗ったものの、どこへ行くかは決めていない。


……が、ここは危険だ!


「……そうだな。とりあえず、走らせてくれ」

「畏まりました」


これで一安心だ。

逃げ切った事に満足していると、アリアが不安そうな表情で僕に尋ねてきた。


「大丈夫? ミネル?」

「あっ? んっ? 何がだ?」


何の話だ!?


『大丈夫?』の意味が分からずに首を傾げていると、ふと、窓の外に庭園が見えた。

通り過ぎてしまったが、雰囲気も良く、手入れも行き届いていた。


あそこなら──いいかも知れない。


「今通った庭園で止めてくれ」


最後を飾るにはふさわしい場所だ。


「歩き疲れてるかもしれないが、庭園でも大丈夫か?」


念の為、アリアにも確認する。

アリアは特に疲れた様子も見せず、笑顔で答えてくれた。


「大丈夫だよ。私も少し歩きたい」


“ヴェント”を降り、2人で庭園を歩く。

すると、意外な事にアリアの方が先に口を開いた。


「私がミネルに何かしてあげる日だったのに、私が楽しい1日だったよ。ありがとう」


よし、どうやら目標は達成できたな。


「別に構わない。これから何かをして貰う予定だからな」


あの時──ふいに出てしまった言葉は嘘ではない。

ただ、あれだけでは僕の気持ちが収まらない。


「アリアは“バカ”がつくくらい正直だ」


なぜか一言目に出たのがこの言葉だった。

当然、アリアが驚いた表情を見せる。


「それに、いつも躊躇ためらわずに行動して周りを巻き込む」


僕は何が言いたいんだ?


「それだけならまだしも、自分自身が危険な目に遭うかもしれない事をいつも仕出かす」


眠いから頭が回っていないのか!?

自分の発言に驚きながらも、伝えたかった言葉に気がつく。


「──ただそれは、いつも自分の為ではなく誰かの為なんだ」


そうだ。

アリアの行動は、いつも誰かの事を想った行動なんだ。


「誰かの為に行動する事に対して打算的な考えがないから、みんながアリアを助けようとする」


僕もその1人だ。


「僕には欠けている所を全て持っているアリアを愛おしくもあり──尊敬している」


尊敬……自然と出てきた言葉に笑みがこぼれる。


「それにアリアになら、振り回されるのも悪くない」

「私は……」


困っている表情をしているアリアをギュッと強く抱きしめる。

抱きしめながら、僕の素直な気持ちをアリアに伝える。


「聞かない」


アリアが「えっ」と驚いたように声を上げた。


「僕の中で“大嫌い”だったアリアが“大好き”にまでなったんだ。アリアだって僕を好きになる」


きっと、そうさせる!

抱きしめたまま、アリアの耳元で囁く。


「『ミネルを好き』という言葉以外の返事は聞かないつもりだ」


言うと同時に、アリアの耳元へ触れるだけのキスをする。


驚いたアリアが、勢いよく僕から身体を離した。

キスされた方の右耳を両手で触り、顔を真っ赤にしている。


「な、な、なんてことを……!」


『なんてことを』は予想外の言葉だ。

動揺するアリアを見て、ついつい表情を緩めてしまう。


「『ミネルを愛してる』でも構わないぞ」


赤面したまま、アリアの口がパクパクしている。


「口よりはいいだろう? ファーストキスは取っておいてやった。僕なりの優しさだ」


今日はさすがに口へのキスは遠慮した。

“権利”にかこつけいるようで、嫌だったからだ。


だが、ファーストキスの相手は僕だ。

そして、近々する予定だ。


そう決意していると、つい先ほどまで真っ赤な顔をしていたアリアが、少しずつ表情を変え始めた。


ん? この感じはもしや……!?


「相手は誰だ?」

「あ、相手? な、何が??」


明らかに動揺しているアリアが、とぼけた顔をしてみせる。

これはつまり……そういう事だな。


おかしい。僕が知っている限り、今までアリアが好きになった男性はいないはずだ。

初めて好きになる男性は、僕と決まっているしな。


エレ……はないな。

アリアの中で、エレはあくまで“弟”だ。


幼なじみの誰か……か?


オーンか? あいつはすぐに手を出しそうだ。

いや、案外カウイかもしれない。ああいう普段話さない奴こそ、手が早い可能性がある。


エウロ……はないな。

リーセさんも手は早そうだが、現状からは考えにくい。



くっ! どちらにせよ、今度問い詰めて相手を抹殺してやる!!


お読みいただき、ありがとうございます。

次話、4/10(土)更新になります。

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