反撃編 始まる
──週末
珍しくルナからの提案で、ルナの家に集合する事になった。
本日の出席者──幼なじみ8名とエレ。そして、リーセさん。
……んん? リーセさん!?
予想外の状況に驚いていると、ルナと目が合った。
私の顔を見つめながら、『任せて』と言わんばかりにコクンと頷いている。
いやいや、なんの頷き?
今回の件って、リーセさんがいる前で話していい内容なのかな?
私の様子に気がついたリーセさんが口を開いた。
「私はアリアの味方だから、アリアを裏切ることはないと誓おう」
「いえ、疑っているわけではなく……」
巻き込んでいいのか、迷ってるんです。
「……敵か」
私の横に座っているエレが呟いた。
……敵? 味方って、言ってくれたんだよ??
「それにアリアの魔法については、すでに聞いている。安心して何でも話して大丈夫だよ」
リーセさんの横にいるルナも「うんうん」と、何度も首を縦に振っている。
そのやり取りを傍観していたミネルが、チラッとリーセさんを見た。
「なるほど。ルナの思い通りに事が運んでしまったか……。まぁ、よくはないが……ひとまずはいい事にする。アリアから話すか?」
ミネルの言葉に私が頷く。
遠回しに話すより、結論から話した方がいいよね? きっと。
「ジメス上院議長を離職させたいと思ってるんだよね」
私の言葉で、その場がシーンと静まり返る。
……あれ? 私の言った事が伝わってない??
そう思うくらいに、みんなが微妙な表情を浮かべている。
暫くすると、セレスが椅子からバッと立ち上がった。
「軽い! 伝え方が軽すぎるわ!!」
どうやら言葉に、重みが足りなかったらしい。
「もちろん、危険な話をしているのは分かっているつもりなんだけど……」
セレスをなだめながら、まずは私の話を聞いてもらう。
「私達の親が証拠を見つけようと動いている事は分かってる。でも、今まで証拠が見つかっていない以上、正直“見つける”のは難しいんじゃないかと思って」
さっきとは違い、みんなが真剣な顔で聞いてくれている。
「正攻法で逃げられてしまうなら……ジメス上院議長が食いつくような罠をこちらから仕掛けて、逃げきれないくらいの証拠を残したい!!」
私がそう思えたのはジュリアとの出来事がきっかけだ。
証拠がないとはいえ、ジメス上院議長は今までにも色々な事をしてきたらしい。
そこで、実際にどのような事をしてきたのか、お父様に話を聞いてみた。
お父様は口を濁しながらも答えてくれた。
「ジメス上院議長の家系が上院のトップに立ったのは、先々代の国王が殺害されてからだ」
えっ? それって……。
「アリアが想像している事とはきっと違うよ。ジメス上院議長の祖父が王を殺害した人物を探し出し、罪を暴いたんだ。犯人は改革によって、自分の地位が危うくなることを恐れた上院のトップだった」
お父様が少しだけ目を下に伏せたまま、話し続ける。
「犯行を暴いた事でジメス上院議長の祖父は上院の信頼を得る事となり、代わりにトップになったのだと聞いている」
なるほど。祖父の代までは、いい人だったのかな?
「そこから……ジメス上院議長の家系が少しずつ力をつけてきた。先代の国王が改革に意欲的ではなかった事も、悪い方へと動いてしまったのだろう」
サール国王も『先代の国王の時は、国への改革は進まなかった』と話していたな。
「まずは彼らの身内が上院へと進出してきた。上院に限らず、国の重要な仕事においてはジメス上院議長の家系が高い地位に就いている。身内を周囲に固める事によって、権力が奪われないようにしたのだろう」
そこで一旦話を切ると、お父様がゆっくりと顔を上げた。
「──そして、ジメス上院議長だ。祖父の代で得た権力を振りかざし、外部だけでなく上院内においても自分に従う人間を増やしていった。負けじと、私たちも同じ考えを持つ仲間を少しずつ増やしてはいるが……現状はなかなか厳しいね」
お父様が苦笑している。
「さらにジメス上院議長の家系がトップになってからというもの、彼らと対立する立場にあった人たちは次々と姿を消している。調べても、全て“偶然の事故”として片付けられていてね。仮に犯罪の証拠を見つけたとしても、ジメス上院議長が絡んでいるという事実は出てこないんだ。彼は絶対に自ら手を下さない。そして、誰もジメス上院議長の名前を出さない。──だから、罪にも問えない」
想像以上にジメス上院議長は狡猾な人間らしい。
お父様の話を聞きながら、ふとある事に気がついた。
「ジメス上院議長にとって、お父様たちも邪魔な存在なのでは?」
私の不安そうな表情を見て、お父様が言葉を選びながら答える。
「そうだろうね。ただ、私たちも派閥を作れるほどに仲間を増やしたからね。簡単には消す事が出来ない存在になっているのは確かだよ」
私を安心させるように優しく笑う。
すると、何か閃いたのか、お父様が顎に手を当てた。
「……そうか。警護の緊急招集を掛けた理由が分かったかもしれない」
「えっ! 本当ですか?」
お父様が黙って頷いた。
「アリアからジュリア嬢との話を聞いた時、アリアを殺そうとまでしていた事が少し不思議だった。もしかすると、アリアがいなくなることで私たちの動揺を誘い、事を思い通りに進めようと考えたのかもしれない」
お父様が私をとても大切に思ってくれているのは分かっている。
……けど、私たち? って誰??
不思議そうに首を傾げる私を見たお父様が「ああ……」と話し始めた。
「私はアリアがいなくなったら、二度と立ち直れないくらい憔悴すると思うよ。そして、カウイくんやセレスちゃん達の親もアリアを大切に思ってるし、何よりアリアに感謝しているんだよ」
「感謝……ですか?」
感謝する事はあっても、される事はあまりしていないような……?
「ジメス上院議長はジュリア嬢からアリアを監禁するという話を聞いて、うまく利用できると考えたのかもしれない。もちろん、考えすぎかもしれないけどね」
つまり私を消す事で、お父様たちの勢いを削ごうとしたって事だろうか。
うーん……さすがにそこまで深刻な事になるとは考えにくいから、きっと『失脚したらラッキー!』くらいに思ってたって事かな?
「話を戻そうか。現状、ジメス上院議長の権力が強い事は間違いない。上院内における彼の発言は絶対だ。例えそれが彼にとって都合のいい内容であったとしてもね」
……そうか。未だに上流階級にとって都合のいい法律が残っているのは、ジメス上院議長がいるからだ。
お父様たちは、そんな上院を変えようと少しずつ仲間を増やしている。
そして、ジメス上院議長の悪事を暴こうとしている。
ジメス上院議長の失脚よる上院体制の大幅な変革。
……果たして、そんな時代がお父様たちの代で訪れるのだろうか?
お父様たちは今を変えようと懸命に生きているのだから、次の代に託す、なんて悲しい事はしてほしくない。
だからといって、ジメス上院議長がボロを出すのを待ってるだけなんて嫌だ!
出来るならば今、この時に“上院”のトップを変えたい!
そして、上院を変える!!
お父様との会話と、私の考えを一通りみんなに話し終える。
「お父様達でも難航しているような事を、私達だけでやれるのかは分からない。それに……とても危険な事だと思う」
ジュリアが躊躇なく私を消そうとしたくらいだから、親であるジメス上院議長も相当な危険人物だと思うし。
「ただ、みんなと一緒なら何でも出来るような気もするんだよね」
私がニッと笑うと、カウイが私に向かって口元を緩めた。
「ジュリアさんの封じ込めた魔法を元に戻す事ができる人は、おそらくアリア本人以外にいない。そう考えると、アリアが狙われる可能性はあると思っていた。被害が大きくなる前に、こちらから仕掛けるのは賛成だよ」
さっきまで微笑んでいたカウイの眼差しが鋭くなっている。
「……それにアリアの望みは叶えてあげたい。むしろ、何でもしてあげたい」
厳しい表情が崩れ、またしてもドキッとするような笑顔を浮かべてみせる。
立ち上がったまま話を聞いていたセレスが、悔しそうにカウイを見た。
「カウイに先に言われてしまったけど……私の方が先に“やるわ”と思っていたわ!」
セレスがカウイに向かって、力強く話している。
「アリアと一緒に何かをするのは、他の誰でもない、私の役目よ! アリアは私がきちんと見ていてあげないとダメなんだから!!」
後半……完全におかんのセリフになっている。
熱く語るセレスを何とも言えない気持ちで眺めていると、突然、ルナが私の両手をぎゅっと握り、頷いた。
「アリアと一緒に成し遂げるのはセレスじゃないし。私と兄様だし。そして、アリアは兄様とけっ……」
兄様とけっ? ……“けっ”て、何!?
「──じゃなかった。大丈夫、アリア。私と兄様がアリアを助ける。そして守る」
ルナって、たまに発言がイケメンになるよね。
そして、相変わらず、セレスとルナは言い合いになっちゃうよね。
事前に話していたミネルとエレはやると言ってくれてるから、後は……エウロとオーン、マイヤか。
エウロが少し戸惑いながらも「俺は……」と口を開く。
「ジュリアさんの親が逆恨みをしてアリアに危害を加えなければいいと思っていたけど……」
エウロやカウイ、ルナの発言だけで、私の事をずっと心配してくれていた事が伝わってくる。
「多分、みんなも同じだろう? やるならみんなで。……アリアが話した通り、みんなと一緒なら不思議と出来る気がするんだよな」
覚悟を決めたのか、エウロが清々しく笑ってみせた。
近くに座っていたマイヤも、みんなの意見に賛同するかのように小さく頷く。
「か弱い私が役に立てるか分からないけど……今度は参加させてもらおうかな」
マイヤが「うふっ」と可愛らしく目尻を下げた。
……今度は?
何の事かと疑問に思っていると、マイヤの言葉の意味に気がついたカウイが代わりに答える。
「そうだね。留学中は直接関わる事が出来なかったからね」
あっ、そっか。
学校建設の時、2人はいなかったんだ。
一人納得していると、マイヤがふいに遠くを見つめ出した。
「それに、ジュリアさんは逃さないつもりだったから……ふふっ」
可愛らしく笑ってはいるけど、少しだけ不穏な気配を感じる。
……オーンは? 王子という立場がある。
父親であるサール国王は『改革には賛成だけど、上院と一緒に変えていきたい』という考えを持っている。
私がやろうとしている事は、もしかするとサール国王の考えとは違うものかもしれない。
「私は“必定王令”を使ってでも、ジメス上院議長を離職させるべきだと思っている。今回の件で、私は初めて……」
いつも柔らかな表情のオーンが、僅かに目を伏せた後、凛と前を見据えた。
「なぜ、“今”私が王ではないのだろう……と思っている。私は父……サール国王とは違う王に…… いや、違う国を作る」
オーンがジッと私を見つめた。
なぜか目を反らしてはいけない気がする。
「……余談だったね。私も賛成だよという事を伝えたかったんだ」
オーンがいつもの穏やかな表情へと戻る。
その事に安心し、ホッと息をはいた。
リーセさんはずっと黙っているけど、今の話を聞いてどう思ったのかな?
うかがうように目を向けると、私に気づいてくれたのか、ゆっくりと口を開いた。
「こちらから仕掛ける、か……なるほど。うん、ますます惚れてしまうね。もちろん、私も協力するよ」
惚れてしまう……私?
なんて、モテ期が来たからって調子に乗りました。
でも誰にだろう? 妹に惚れるという意味なら、ルナかな?
とりあえず、リーセさんも協力してくれるのは嬉しい!
私とルナが喜んでいる中、周りが複雑そうな表情をしている。
んんっ? みんな嬉しくないの?
ミネルが何か諦めたような表情を浮かべている。
「本来なら断りたいが、今回ばかりは味方が多い方がいいからな。よし、これからどうするか……決めていこう」
あっ! そうだ!!
「はいっ!」と挙手をすると、そのまま話し始める。
「ソフィー達にも協力を仰げないかな?」
ジュリアの幼なじみ達にすべてを話すかは決めていないけど、彼女たちの親は上院の保守派だ。
味方につける事ができれば、保守派を内部から崩す事が出来るんじゃないかと思っている。
すると、私の発言を聞いたセレスが、もの凄い形相で私の前まで近づいてきた。
「なぜ、“ソフィー”と呼び捨てなの!?」
ん? ああ、なるほど。
「ソフィーが『ソフィーと呼んでください』と言ってくれたから」
驚いたと言わんばかりに目を見開くと、セレスが私の肩をガシッと掴んだ。
「なぜ、そういう流れになったの?(元) 別館メンバーは無用な干渉はしない約束だったはずよ!?」
セレスの圧が……すごい。
「ああ、それは私から話し掛けたから」
私の言葉にみんなが驚いている。
……というか、呆れている??
私がジュリアに監禁された時、助けてくれたソフィー。
ジュリアから酷い目にあわされてないか、ソフィーの親は大丈夫か……ずっと気になっていた。
偶然にも同じ授業を取っていたから、声を掛けに行ったんだよね。
私が話し掛けた時はソフィーも驚いていたけど、どこか嬉しそうな顔をしていた。
『ふふ。私の心配をしてくださったのですね。アリア様から話し掛けた……という事は、今後、普通に話し掛けて構いませんね?』
と聞かれたから、承諾もしちゃったし。
ジュリアが登校していない事もあり、ソフィー自身に被害はない事も教えてくれた。
「よりにもよって、厄介そうな人と……」
困惑した表情でオーンが呟いている。
「ソフィーの親も上院には残っているけど、ジメス上院議長の傘下と言っていいのか……グループからは外されたらしいよ。ユーテルさん達の親は、ジメス上院議長のグループのままみたい」
普通に考えれば大変な状況だけど、ソフィーは気にする様子もなく話を続ける。
『私がアリア様を助けた話ですが、ジュリア達は知ってると思います。ただ、ジュリアは試合後から高熱を出して事情を聞けない状態の筈ですので、私にも父にも処分は下さないのだと思います。さらに今は失踪しているみたいですし』
処分は出来ないけど、傘下からは外す。
ソフィーの父親は、理由もなく外された事に困惑しているようだ。
『私はこのような結果になって、良かったと思います』
静かに微笑んでいたソフィーが印象的だった。
みんなに私とソフィーの会話を伝え終えたところで、再び話を元に戻す。
「で、どうかな?」
「で、どうかな? じゃなくってよ! 信頼出来る人物かどうか分からないわ」
興奮気味にセレスが話す。
「自分の親をまたジメス上院議長の傘下に戻す為に、裏切る可能性だってあるわ!」
そっかぁ。ソフィーは大丈夫な気がしているけど、親の事までは分からないよねぇ。
「そうとは限らないかもよ?」
みんなが一斉にリーセさんの方へと顔を向ける。
「ソフィー嬢の親は、ジメス上院議長の傘下の中でも右腕に近い存在だった。周りから見れば、そんな人物が理由もなく、いきなり切られたんだ。他の保守派の人たちからすれば、いつ自分たちが同じように見限られてもおかしくない、と動揺している筈だよ」
にこやかに微笑みながら、リーセさんが会話を続ける。
「私は……この国や他国の情報を管理する人間だよ? 私をうまく利用すればいい」
そういえば、そうだった!
それで今回“エンタ・ヴェリーノ”の記録を取る為に異動してきたんだった。
「でも……情報を漏らすのはまずいですよね?」
「国家機密に関わらないような情報──たとえば、上院の近況について話すぐらいなら、何も悪い事ではないよ」
グレーゾーンは多少ありそうな気もするけど……心強い!
サール国王が私の魔法について『情報管理局には報告するが、トップの信頼できる人間以外には伝えない』と話していた。
リーセさんは、情報管理局の人。
トップではないはずだけど、有望で信頼できる人だから、私の魔法の話も知っていたのかな。
──あっ!!
もしかして、異動の理由は“エンタ・ヴェリーノ”の記録だけではなくて……《聖の魔法》も関係している!?
チラッとリーセさんの顔を見る。
私の方へ目を向けると、リーセさんは人差し指を唇に当て、片方の口角だけを器用に上げてみせた。
“内緒”と、いう事かな?
でもやっぱり! そうなんだ!!
みんなの意見がまとまったところで、ミネルがその場を仕切るように周りを見渡した。
「全員“やる”という事で意見はそろった。──作戦を立てるぞ」
ジメス上院議長も、まさか上院の──革新派の子供たちが何かしてくるとは思わないはず。
ついに、私たちの反撃が始まる!
お読みいただき、ありがとうございます。
次話、3/29(月)更新になります。




