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6 『やけに再会の多い一日』

 預けていた剣を受け取ったルークは、何も考えないようにしてただ階段を下り、フラーグルの本館の出口に向かった。しかし来た道を戻ってきたはずが、扉を出ると見覚えのない景色が広がっていた。


「クソっ、なんだよ」


 これも魔法だろうか。あるいはただ単にルークが方向音痴なだけか。どちらにせよ、ルークに魔法が使えれば済んでいた話だ。

 ルークはイライラしながら出口を探して歩いたが、来た時とは違って一向に行きたい場所に辿り着けない。それどころか、ずっと同じところを行ったり来たりしている気がする。


 歩き疲れたルークは、ふと見つけたベンチみ腰を掛ける。顔を上げると遠くにぼんやりと光を放つ本館が見えるが、ルークの感覚ではもっと遠くに来ているはずだ。


「はぁ……」


 ルークは大きくため息をつく。その時、後ろから声が聞こえた。


「ルーク」


「……ロニー?」


 振り返ると、そこにいたのは眼鏡をかけた少年だ。


「……なんで居るんだよ」


「そりゃ、僕魔法使いだから」


「……てことは、これもお前の仕業か?」


 ルークは先程からの迷路のような魔法のことを指して言ったが、ロニーは笑いながら首を横に振った。


「違うよ。これはフラーグル全体にかかってる魔法なんだ。不審者対策にね。簡単に解ける魔法だけど、知らないと混乱するよね」


「でも来るときは何もなかったぞ?」


「てことは、誰かに解いてもらってたんじゃない?」


 思い当たる人物は一人、ミアだ。受付にルークの到着の報告をさせたぐらいだから、昼に会った時にでも解いていたのだろう。

 ルークはそんなミアの気遣いに今更気づき、さらに心が痛くなってため息をついた。


 その時ルークは、ある違和感を覚える。目の前に居るロニー。眼鏡をかけた青い瞳と、巻き毛の茶髪は変わっていないが、


「お前……なんで小さくなってんだ……?」


「そんな訳ないだろ! はいはいすみませんこれでも成長期ちゃんと迎えました!」


「声もよく聞いたらあんまり変わってねえ……」


「声変わりももう終えました!」


「……こっちは気分最悪なんだからさ、あんまり騒ぐなよ……」


「いじってるのはルークだろが!」


 そうやかましく突っ込み三連発をかますロニー。相変わらずのやり取りに、ルークの心は少し和らいだ。


「何いじけてるんだよ、らしくもない」


「うっせぇ」


 ロニーはルークの横にもたれた。そして先程までのルークと同じように外を眺める。


「うわ、結構高いな」


「何ビビってんだよ……ていうか、そんな話をしに来たのか?」


 久しぶりの再会だが、今のルークは少々気が立っている。そのため、少しロニーへの当たりも強くなっている。いかし、ロニーはそれを気にする様子もなく、


「ミアから聞いたかもしれないけど、王都に行くんだ」


 ミアの名前を聞いてルークは一瞬びくりとしたが、気にしていないフリをして会話を続ける。


「ああ聞いたよ。推薦されたんだって? おめでとさん」


「ありがとう。こういうのは自分の口から言ったほうがいいって思ってね。ルークは、これからどうするつもり?」


 普通の人なら避けるである質問を普通に言うロニー。しかし、これは彼の優しさだ。ルークは遠回しに聞かれたり、傷つけないように扱うような態度が嫌いだ。ロニーは、長年話していなくてもそれを分かっているようだ。


「さあな……周りの奴はだいたい家業継ぐみたいだけど、うちにはそんなのねえし」


 将来の事というのは、正直ルークが一番今悩んでいる問題であった。母親は働いてはいるが家業を営んでいる訳でもないし、定職に就いている訳でもない。それでも家が成り立つのは、父親の遺産と国からの給付金のおかげだった。


 しかし、そういった悩みを相談できる相手が居なかった。皆、決まって自分とはそういった話題を避けようとするからだ。

 なので、このロニーの質問はありがたかった。


「正直さ……ルークが居なくなって、寂しかった」


「え!? 何だよ急にその発言、まさかお前……そっち系……?」


「違うよ! 人が励まそうとしてるのに!」


 ルークの冗談にロニーが顔を赤くして叫ぶ。ロニーは大きくため息をつくと、


「僕が言いたかったのは……僕もミアも、ルークを大事に思ってるって事」


「――――」


「だから、あんまりへこむなよ。やっと学校が終わったと思えば、僕らはすぐに王都に行かなきゃならなくてまた会えなくなるんだから、今日くらいは楽しもう」


 ロニーの言葉にルークは何とも気恥ずかしくなり、顔を背けた。しかしロニーの言う通り、今日と明日を逃せば二人とはまたしばらく話せなくなる。

 ルークは大きくため息をついた。


「――ったく、お前は」


「何でそんな言われ方されなくちゃいけないんだよ!」


「照れ隠しだよバカ……まあ、お前が正しいよ。今日はいじけてる場合じゃねえよな」


 ルークはロニーの言い分を認める。ロニーも安心したような表情で、ほっと溜息をつく。そんな様子を見てルークは、


「よし。じゃあ戻るか」


 そう啖呵を切ると、ルークは重い腰を上げて立ち上がった。ロニーは「うん」と頷くと、ルークに続く。目指す場所はただ一つだ。


――まずはミアに謝んねえと。


 ルークは心の中でつぶやく。

 その時、横にいるロニーがハッとした。


「伏せろ、ルーク!」


 ロニーがそう叫んだ次の瞬間、ルークの体は突き飛ばされた。


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