表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

5 『プライド高き剣士さま』

 言葉が出てこないルークに代わりギデオンに反論したのはミアだった。ロニーを呼びに行っていたはずのミアはいつの間にか戻って来ていて、静かにギデオンを睨む。


「お前に言ってんじゃねえよ、チビ」


「いい加減に水に流したら? もう六年も前の事なんだから」


「忘れる訳ねえだろ。オレの歯をこんな風にしやがったくせに逃げやがって」


 ギデオンはそう言うと、折れた歯の部分を強調するように歯茎を出した。


「それで剣士様よ、お前生きてたんだな。オレがやり返す前に消えたから死んだのかと思ってたぜ。あれか、お国の平和でも守ってたのか?」


「ギデオン、黙って」


「んなわけねえか。そうだ、お前は魔法が出来なくて追い出されたんだもんな」


「黙ってって言ってるでしょ!」


 ミアは声を張り上げ、怒りの感情を露わにした表情でギデオンを睨んだ。それでもギデオンは余裕そうな表情で、


「何だよ。魔法で俺をぶっ飛ばすか? やってみろよ。でも卒業パーティーでお前が同級生に暴力を振るったって、王都の連中が知ったらどう思うかな、学年トップのお嬢ちゃん」


 ミアはそう言われ、ギデオンにかざしていた両手を渋々といった様子で下ろした。ギデオンは嘲笑を浮かべる。相変わらず本当に嫌味な奴だ。

 そして今度はルークに体を向けると、


「それで、自分では何も言えなくて、女に庇ってもらう。ほんと、お前は立派な剣士だよ」


 何処までも嘲るような口調でルークを見下すギデオンに、ルークはかっとなり頭に血が上る。しかし、ルークの何も口から出てこない。何故なら、ギデオンが言っている事は全て事実なのだ。

 魔法に関して、全くの才能が無かったルークが半年足らずで学校を辞めた事、そして今何も出来ずにミアの後ろに隠れている事。どちらも、ルークも自覚している事実なのである。


 オリバーは、ぶつける場所が無い怒りの感情を込め、強く拳を握り締めると、ギデオンを睨んだ。


 ギデオンは、きっとルークの心情、ルークが何も言い返せない事を分かっているはずだ。その上で、現在の状況を楽しむようにルークの反応を待っている。

気づけばいつの間にか周りの注目もこちらに集まってきている。あの時と同じ状況ではないか


 あの時ルークは、大勢に見られる中で大恥を晒した。あの時は怒りに任せての行動だったため、あとで後悔したことは言うまでもない。だから――


「……」


 オリバーに出来るのは、せいぜい彼の期待を裏切る事くらいだ。ルークは回れ右をし、その場を後にした。


「逃げんのかよ」


後ろでギデオンが何か喚いている。ルークはただその場から離れることに集中し、足を踏み鳴らす。


「腰抜け」


――そんなことくらい、分かってる。


 いつだってそうだ。フィルを目の前で失った時だって、ルークには何も出来なかった。いや、何もしなかった。弟の命よりも自分を優先し、足を動かすことが出来なかった。


 フラーグルを退学になった後もだ。魔法が使えないからと言って、何もかもを諦めた。剣術を極めて出来ないことを補う、それがかなわなくても努力をすることはできたはずだ。なのに、自分には無理だと努力をしなかった。逃げ出したのだ。


 そうやって、面倒くささから、怖さから、自分可愛さから、何もかもから目を背けてきた。その結果が、これだ。自分でも、自分の無価値さを分かっていた。


 しかし、ルークの周りの人間は優しい。だからこそ、そのことをはっきりと口に出す者などいなかった。だから、怠け続けた。自覚があるからといって、何もしなかった。


 不運なのではない。自分から不運になるように進んできたのだ。


「ルーク」


 後方から、ミアのルークを呼ぶ声が聞こえた。しかし、ルークはそれを完全に無視する。


 一人になりたかった。いや、ミア以外の人だったら別に良かったのかもしれない。だが、ミアにだけは付いてきて欲しくなかった。


「ルーク!」


 もう一度ミアが名前を呼ぶ。ルークはまともミアの顔を見ることが出来なかった。会場のドアを出た所で立ち止まり、俯いたままルークは言う。


「着いて来るなよ……」


「――――」


 黙り込むミアに、ルークは続けた。


「俺の事、情けないって思うか」


「そんなこと――」


「ない訳ないだろ」


 背中を向けている為、ミアの表情は分からない。だが、それを目にしなくとも、彼女が悲しげな表情をしている事は分かった。

 

「ごめん……今は一人にしてくれ」


 自分の事が情けなかったのもあるが、ミアにそんな表情をさせてしまった事に何よりも罪悪感を感じた。その為、ルークはミアを追い払うようにボソリと言う。


「お前には、分からねえよ」


 少し振り返り、横目でミアを見た。

 ミアは少し俯いて唇を結んでいる。その目には、うっすらと涙の膜がかかっていた。


 最低の幼馴染だ。庇ってもらいながらこの仕打ちだ。

 ミアはルークの言葉に傷つき、踵を返して歩いて行く。ミアの背中を見て、ルークは謝ろうとも考えた。だがまただ。言葉を出せない。ミアにかける言葉が見つからない。

 ルークは強く拳を握り締める。


 落ちぶれたルークに優しく接してくれたミアを、自分勝手な八つ当たりで傷付けた。もう一生口を利いてくれないかもしれない。それだけの仕打ちをしたのだ。


 もうこれでここにルークの居場所は無くなった。ルークは来た道を戻り始める。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ