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25 『長い夜に舞い降りる仕掛け人』

PV3000達成することが出来ました。

ありがとうございます!

「現在、プラムバーグの警備システムはフル稼働しています。すべてのドアがロックされていて、ドロイドも――」


「無理すんな、シャノ!」


 自力で立ち上がろうとしてふらつくシャノをルークが支える。彼女は足を怪我しながらも酷使しており、走るどころか歩くことすらままならない。


「すみません……きっと、もうすぐドロイドが来ます。早くここから逃げないと」


 シャノは今度ばかりは自分を置いて行けとは言わなかった。きっと、ルークがそれを聞き入れない事を分かっているのだろう。

 それに加え、その面構えからはここから逃げ出す強い意志も感じ取ることが出来た。


「シャノ、歩けるか?」


「は、はい。何とか」


 シャノは口ではそう言っているものの、怪我をした足を引きずっている。ゴミ処理場まで走って逃げることは無理そうだ。

 背負って逃げても、速度が出ない上にルークの両手が塞がる。ドロイドに遭遇した場合、反応が遅れてしまうだろう。


「時間かかるけど、肩貸すから歩いて行こう」


「ルーク様、これを」


 考え込んでいたルークにシャノが何かを差し出す。


「これは――」


 金属製の白い片刃の剣だ。しかしルークが知っているものとは違い、刃先の部分が透明になっている。


「警備ドロイドが装備していたものです。そのパイプよりも遥かに攻撃力があります。持ち手のボタンを押してみてください」


 シャノに言われるがまま、ルークは柄の部分に付いていた出っ張りを押す。すると、透明だった刃先が青白い光を発っする。


「おお、すげぇ……」


 カーナンが使っていた大剣と似ているが、こちらは遥かに小さい。しかし手に持っただけで周りの空気が温かくなったのが分かる。熱を発しているのだ。これなら高い攻撃力が期待できそうだ。


「行きましょう!」


 そう言うシャノの手にはドロイドのものであるブラスター銃が握られている。ルークは、シャノに貰った剣を握りしめた。


「俺が守るから、攻撃はシャノに任せていいか?」


「私は大丈夫ですが、さっきやった技をもう一度できますか?」


「俺の心配は大丈夫だ」


 ルークは口ではそう言ったものの、心の中では不安だった。あの力は発動条件がよく分からないため、過度な期待は良くない。しかし、発動してくれないと困る。


 お互いの肩に二人はそれぞれ開いている方の手を回す。女の子との密着は嬉しい状況だが、今は喜んでいる場合ではない。


「さあ、こっからが正念場だな……」


 ここからゴミ集積所までの道のりは、シャノの銃の腕前と先程のルークの特殊能力、そして何より二人の幸運を信じるしかない。


「なるべく最短ルートを辿ります。大体、二分ってとこです」


「二分ね……死守するぜ」


 片手で自分とシャノを守るなど不可能に近いが、今はやるしかない。シャノを助け、ここから逃げ出すと誓ったのだ。運命になど構わない。


 そして二人は、ドアを開けて通路に飛び出した。

 

 薄暗い通路には警報が鳴り響き、所々ほんのりと赤く照らされている。場所によれば、赤い光で敵を認識するという昨日の手は使えそうにない。


 二人はゆっくりと目的地へ向かう。かなり急いでいるつもりだが、足を引きずるシャノを連れてでは歩きとほとんど変わらない。これで辿り着けるのか。


――だめだだめだ、俺が弱気になってどうする?


 シャノだって全力を尽くしている。こんなところで、ルークが勝手に諦めることなど出来ない。


 その時、前に赤い光の点が見えた。ドロイドだ。


――来た!


 また弾道が見えた。ルークはすかさず剣でそのエネルギー弾を防ぐ。幸い剣は刃渡りが長く、シャノの方に飛んできた弾でもなんとか防ぎきれる。

 しかしそれを防いでも、次々と銃弾が襲ってくる。いくら弾道が見えるといえども、その全てを防ぐのはかなり困難だ。それに、シャノで片手が塞がっているため、思うように動き回ることも出来ない。


 ルークが防いでいる間に、シャノはブラスター銃の引き金を引いた。初めの二発は外れたが、三発目にして銃弾は命中する。

 ドロイドが動きを緩めた隙にシャノが数発撃ちこみ、ドロイドは動きを停止した。


「やった……助かったぜ」


「いいえ、まだまだこれからです。行きましょう」


 二人は歩みを止めることなく、ゴミ集積所へと向かう。その後もドロイドと接触することがあったが、二人の協力によって何とか切り抜けることに成功した。


 片手が塞がったまま、二人に向かって次々と前から飛んでくる銃弾を全て防ぎきるというのはかなりの難儀であった。

 剣にはそこまでの重量はないものの、それをひたすら片手で振り回しているため

腕が痛んで仕方がない。


 それでもルークがやり通すことが出来たのは、天性の反射神経と剣の腕前があったからとしか言いようがない。


 しかしここまで来てルークが気づいたことがある。それは、一度に戦う相手が一体だけだから勝てているという事だ。

 もし複数体に同時に襲われたり、挟み撃ちにされた場合切り抜けることは限りなく不可能に近いであろう。


 ルークはどうか二体以上と遭遇しないように祈りながら進んでいく。

 二人にとっては幸いなことに、通路が狭いせいか、同時に襲われることはなかった。


 二人の息の合った共闘も相まって、ギリギリではあったが何とかゴミ集積所まで辿り着く。ドアはルークが破壊したため開けっ放しになっている。自由はもうすぐ先だ。


「やったぞ、シャノ!」


 ルークは喜びのあまり歓喜の声を漏らす。もうここまで来れば、ほとんど脱出出来たも同然だ。


 二人は肩を組んだままドアを抜けた。

 しかし、その先に待っていたのは――


「よくここまで来ましたね」


 腕を組んでルーク達に立ちはだかる、暗めの銀の髪を伸ばした少女。その手には、警備ドロイドのものと同じブラスター銃が握られている。


「ライラ……如何にも最後の砦って感じの台詞だな」


「冗談を言う余裕があるのね」


 ルークの軽口に、ライラは口角を一ミリも緩めることなく言う。しかし彼女の言う通りこちらは二人とボロボロであるし、オライモンが切れてきたのか体の倦怠感が戻りつつある。


「悪いがライラ、ここは通してもらうぜ。ここまで来たんだ」


 ルークとシャノは力を合わせ、何とか脱出の一歩手前までこぎ着けることが出来た。それをこんな一人の少女に台無しにされるつもりはない。

 しかし、彼女の返答は予想外のものだった。


「ええどうぞ、止めるつもりはないわ。私にとって、もうあなたが逃げ出そうとどうだっていい。だから、勝手に行けばいいわ」


 ライラが冗談を言っている様子はない。ルークが彼女の様子に呆気にとられていると、彼女は言葉に反して銃をこちらに向けた。


「ただし、その子は別よ。主から相当の愛を受けながらも、彼を寝返ったその雌イヌは許さない。私がこの手で処分するわ」


 ライラの銃口はシャノに向けられていた。ルークは彼女を庇うように手を広げた。シャノには指一本触れられてかまるものか。


「ルーク様」 


 後ろから声が聞こえ、ルークは振り向くと自分の間違いに気が付く。シャノが怯えている様子は全くなかった。

 手をどけると、シャノは一歩前に出てルークと並んだ。


「ライラさん。あなたが何と言おうと、私はここから逃げ出してみせます」


「シャノ――」


「何も知らないのに、偉そうなことを言ってすみませんでした。でも今は、ライラさんと言い争っている暇はありません」


 シャノははっきりとライラに向かって言い放つ。とても立派だったが、それは彼女を逆上させた。


 ライラはブラスター銃の引き金を引く。光の弾は真っ直ぐにシャノへ向かって行くが、ルークが咄嗟に剣で防いだ。


「――! 何で!」


「シャノ、ドロイドは任せる。俺がライラを倒すまで部屋に入れないように頑張ってくれ」


「はい」


 シャノは頷くと、回れ右をしてドアの傍の壁に背中を付けた。そして発砲音が聞上がる。ドロイドが迫ってきているのだ。はやくライラを何とかしないと。

 ルークは剣を構えると、動揺するライラに向かって行く。


 ライラは諦めずに銃を撃ち続けるが、ルークは特殊能力でその全ての弾道を予知した。そして素早く剣を振り回して光の銃弾を弾き飛ばす。


 そのまま一気に距離を詰め、ルークは彼女の持つブラスター銃を真っ二つに切り裂いた。


「さあライラ、諦めろ。お前を痛めつける気は無い」


 彼女には拷問され、危うく殺されるところだった。それでも少女に斬りつけるなどという行いは流石に心が痛んだ。

 しかしライラは抵抗を選ぶ。懐からナイフを取り出すと、ルークに斬りかかった。


「私を甘くみるな! お前に降参するくらいなら、殺される方がまだマシだ!」


 ライラは血走った目を見開いて叫んだ。ルークは彼女の攻撃を軽々と剣で受ける。刃物程度の攻撃であれば、未来を見なくても防ぎきることは簡単だ。


 隙を見て反撃に出る。しかしライラも機敏に動き、彼女は小さなナイフでルークの攻撃を防いだ。


「なかなかやるな」


 ライラはかなりの訓練を受けているらしく、小回りの利いた立ち回りが上手い。

 ナイフを持つ手を切り落としてしまえば早いが、あまり残酷なことはしたくなかった。さて、どうしたものか。


「――!」


 ルークは剣を放り出し、ライラに向かって行った。彼女はナイフを振り回そうとするが、ルークはその手首をつかむ。

 そのまま手を捻り上げ、ライラを地面に叩き付けた。その拍子に彼女の手からナイフが落ちる。


「うぅ!」


「ルーク様!」


 シャノがこちらへ近寄ってきたのを感じ、ルークは振り向いた。彼女は汗を流し、焦燥を顔に浮かべている。


「どうした!?」


「ドロイドが、それも大量にこちらへ向かっています! 緊急用の手動ドアを閉めましたが、すぐに破られてしまうでしょう」


「万事休すね。降参なさい」


 押さえつけられたライラが横やりを入れる。ルークはさらに強くライラの腕を締め上げた。

しかし彼女の言う通り、このままでは外に出ても後ろから迫ったドロイド達に捕まってしまうだろう。


 その時、後ろから発砲音と銃弾がドアに当たる音がした。警備ドロイドだ。


「ルーク様、作戦が」


「……よし、任せていいか?」


 ルークはその内容も聞かずに賛成する。時間が無いことはあからさまだ。今はとにかく時間との勝負である。

 シャノはポケットからスタンガンを取り出した。ライラはそれを見ると目を見開く。

 

「また――」


「ごめんなさい」


 ライラが何かを言おうとしたが、その前にシャノはライラを気絶させた。





 ライラはゆっくりと目を覚ました。今、自分は足を組んで座っている。何があったのだ。頭が痛い。


 彼女は自分の頭を抱えようとして、あることに気が付いた。それは、自分の腰の高さほどあった髪の毛が消えている。まるで男のように短く切られているのだ。

 そして服が真っ白になっており、手には長い剣が握られている。何故?


 そうだ思い出した、あの憎きシャノに再び気絶させられたのだ。今度は被験体と手を組んで。あんな奴に二度も負けるとは。


 しかし付近に彼女らの気配はない。どこへ行ったのだ。


 その時、後方から何かが吹き飛ばされるような衝撃音がした。


「もう終わりだ、被験体207!」


 ライラがゆっくりと顔を上げると、目の前に大きなタンクがあった。ちょうど目の前の高さのところにこう書かれている。



【火気厳禁! 危険なので、熱量の大きいものを近づけないで下さい】



 ライラは全てを察した。


「ああ、ク――」


 次の瞬間、発砲音がして何もかもが吹き飛んだ。





 後ろからの爆発音に驚くと同時に、ルークとシャノの体は前に吹っ飛んだ。


 夜の闇の中振り返ると、二人の目論見通りゴミ集積所があったと場所からは火の手が上がっている。

時間がなかったが、二人は何とか被害を受けない程度まで離れることが出来た。しかしルークは上半身裸なため、肌に直に熱が当たってかなり熱い。


「作戦成功だな」


「はい、上手くいきましたね」


 全く、シャノの大胆さには驚かされてばかりだ。急にルークに服を脱ぐように要求し、気絶したライラの服を剥ぎ始めた時にはかなり焦った。


「警備ドロイドを操作しているのが人で良かったです。人工知能なら、すぐにルーク様じゃないって分かってしまいますからね」


 シャノの作戦は、再びヘルツォークのこだわりの裏をかいたものだった。

 人が操作しているのであれば、服装や剣を持っている事だけでルークと判断すると考えたのだ。そしてライラにルークの格好をさせ、ドロイドに発砲させる。

 その弾が命中するのは、ゴミ集積所に置かれた危険物だ。


「じゃあ逃げるか、シャノ」


「はい、休んでる暇はありませんね」


 ルークはシャノの体を支え、再び歩き出す。安全な場所に辿り着くまでは、こうして着実に行くしかない。


 しかしその時、絶望が二人を襲った。


「そこの二人、止まりなさい!」


 空から響く、乾いた男の声。ルークが見上げると、空には大量の飛行型ドロイドが浮かんでいた。


「ドローン……そんな、なんで……」


 声を漏らしたのはシャノだ。そこから察するに、この空の警備に関して彼女は全く知らなかったのだろう。


 ルークも同じ気持ちだった。やっとここまで来たのに。

 これだけ全力で走り続けて、戦い、行きたいと切望したのは初めてだった。その努力のすべてが失われる。


 反撃しようにも、ルークは武器を失った。上半身は服すら来ていない。


「これで終わりか……」


 二人に向けられる大量の銃口。ルークは終わりを覚悟する。

 自分は精一杯やった。シャノを助けに戻るという決断を下せた。それはあと少しの所で失敗に終わったが、誰にも責められないであろう。


 ルークとシャノは、精一杯頑張ったのだから。


「ちょーっと待ったぁぁぁぁ!」


 ルークが死を覚悟して瞼を強く閉じたそのとき、また空から声がした。しかし今度はまた別の声だ。


「あれは……」


 ルークが見上げると、奇妙な形をした箱が月の光に照らされている。ルークの知識では、船のように見えた。とはいえ、空を飛ぶ小さな船である。


 次の瞬間、空中での銃撃戦が始まった。船から発射される集団は次々とドローン達を破壊していく。

 あっという間に、周辺に居た二十体程度の警備ドローンは全て撃ち落された。


 船はゆっくりと地面に着地する。すると側部のドアが開き、中から人影が出てきた。


「あなたは……」


 シャノが人影を見て声を上げる。その人影は、奇妙な姿をしていた。

 全身を鎧で包み、その上からぼろ切れのような布を被っている。顔までマスクで覆い、腰には二丁の銃をかけて。


 彼はこちらに近づいて来る。マスクの下から、乾いた男の声が聞こえた。


「良くやった、二人とも」


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