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1 『準備の終わり 旅の始まり』

「――世界は混乱の時代じゃ。英雄たちがその身を呈して侵略者達を空の彼方に追い返した日から、八年の日々が過ぎた」


 銀髪の縮れた髪の毛と立派なひげを蓄えた老人は、ステージの上で淡々と言葉を述べる。

 彼の前には、数百人にも及ぶであろう同じ紺色の模様が入った白いローブを着た生徒たちが並んでおり、彼の言葉を着席してただ静かに聞いている。


「この過ぎた日々をもう八年と捉えるか、まだ八年と捉えるかは諸君次第じゃ。じゃが、あの日我々は、ワシらの敵は四王国に住む者だけでは無いと知った。敵は、アンドロメダ人は、どこからともなくやってくる」


 話を聞く皆の表情が強ばるのが分かる。皆、あの日、空が割れ、侵略が始まった日の光景を思い出しているのだ。誰一人としてあの景色を忘れるものは居ない。 

 老人の話を聞く生徒たちの一番前の列に座る、黄金色の髪を後ろで一つ括りにした少女も、あの日の記憶を噛み締めていた。


「奴らに対して、かつて主流であった武器、ただの剣は通用せず、最早時代遅れの武器となってしまった。しかし諸君はここ、フラーグル魔法学校で、最上級の魔法教育を受けてきた」


――剣が時代遅れ、か。


 確かに、アンドロメダ人の技術に対して、ただの武器は通用しない。もし、彼が聞けばどのように思うだろう。


「諸君の中には、既に部隊への入隊が決定している者も居る。今そうでなくても、今後多くの者が同じ道を歩む事になるじゃろう。諸君が、世界を守るのじゃ」


 そう、他でもない。自分たちだ。


「来たる侵略に備えて、諸君が今後より精進し、世界の平和に貢献する事を祈ろう。フラーグル魔法学校校長、エドワード・ベアリング」


 ベアリング校長は式辞を述べると、静かに一礼をする。それに合わせ、生徒たちも同時に礼をする。顔を上げたベアリング校長はもう一度生徒たちの顔を見渡すと、ステージを降りた。


 卒業式ももう終わる。ついにここから、自分たちの旅が始まる。準備は十分にしてきた。


 フラーグル魔法学校を首席で卒業するミア・フォークスは、決意を新たにした。





「ミア!」


 お祝いムードの校庭、思い出話と別れの言葉に花を咲かせる生徒たちの様子を眺めていたミア。そこに男にしては少し高めの声が掛かりミアが振り向くと、先程の茶髪の少年が駆け寄ってくる所だった。


「ロニー」


 ロニーは笑顔でミアの傍まで駆け寄り横に並ぶ。真横に来たことでロニーとミアの頭が同じ高さに並び、彼の身長の残念さが明らかとなってしまう。


 彼との付き合いは長いもので、フラーグルに入学してからはもちろん剣を持ち始めたころからの仲だ。とはいえども、ロニーはあまり剣才には恵まれなかったようだが。

 その代わりに、ロニーの魔法の才能は目を見張るものだった。

 

 そんな回想をしていると、ふとミアは眼鏡の下のロニーの目の周りがほんのり赤くなっていることに気づく。


「ん? 泣いてたの?」


「え、え? んな、んなわけ……」


 明らかに動揺するロニーにミアは思わず破顔する。ロニーは強がりたいのだろうが、二人は幼少期からの長い付き合いであり、今更取り繕う必要などないのに、とミアは思っていた。

 

「そ、それにしても、もう卒業かぁ」


 分かりやすく話題を変え、ロニーは先程までミアが眺めていた光景に目を向ける。そんな彼の様子にミアは再び吹き出しそうになるが、それを堪えて返答する。


「そうだね。なんか、早かったな」


 そう言うと、ミアは学校生活の思い出に目を向ける。先程から思い出に浸ってばかりだ。だが卒業式とはそういうものであろう。


「でも、あと二週間もしたら実践って、全然実感ないな……」


「ロニーなら大丈夫だって。最終試験五位だったんでしょ? 十分に戦える実力あるよ」


「一位合格だったミアに言われたら慰めにしか聞こえないんだけど!?」


 ロニーの突っ込みにミアは微笑を浮かべる。最終試験とはフラーグルでの六年間の最後に行われる総合テストであり、今まで勉強してきた事すべてが問われる。

  ミアはロニーに言われた通り、最終試験を一位で合格することができた。それは今までの血の滲むような努力の結果であり、ミアは誇りに思っている。


 ロニーも五位という素晴らしい成績を収めているのは事実である。それに加えロニーの魔法を横で見てきたミアからすれば、彼の実力は恐らくミアを上回っていると思っている。ミアはその分を剣術で補っているつもりだが、実際にミアのロニーの魔法に対する見立ては正しかった。


 しかしロニーはまだ自信がないらしく、「あぁ、やっぱりあの授業取っとけばよかったかなぁ」などとブツブツ言っているので、


「もう、弱気だなぁ。そんなんだと先輩にいびり倒されるかもね」


「ミア普通に言うけど僕それ気にしてるんだからね!?」


 ミアの何気ない一言にロニーは悲痛な叫びを上げる。この様子だといびられるかどうかは別として、いじられることは間違いなさそうだ。


「おーい、ロニー」


 その時、後ろから声が掛かり、ロニーが振り向く。こちらに向かって手を振る少年を見てロニーは、


「あ、ごめん。ちょっと行ってくる」


「うん。またパーティーでね」


「うん。じゃあ」


 そう告げると、ロニーは彼らの方へ小走りで駆けて行った。その様子を見送ると、ミアは再び見慣れた学校の光景に目を向ける。


 その時、校門の前に立つ人影が目に入った。腰の高さまでの黒っぽいコートを着て、フードを被っているため顔は見えない。、ミアはその彼のその格好に見覚えがあった。何せ、彼とはロニーと同じく、幼少期からの付き合いだ。


 しかし、彼はミアの視線に気づいたのか、回れ右をして立ち去ろうとする。その様子にミアは一瞬追うことを戸惑う。しかし、その時にはもう体が動き出していた。

 ミアは彼に声を掛ける決断を下し、走り出した。



挿絵(By みてみん)

ミア・フォークス

本作のヒロイン兼もう一人の主人公でございます。

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