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最強部族の花嫁事情  作者: 埴輪小鳥
第一章
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4

友達になった2人と話していると、受け付けの順番がまわってきた。名前と年齢、合格した際の通知を届けてもらう場所を伝えると、番号が書かれた金属プレートをもらう。カイルの番号は27番だった。つまり、クリスは28番、レイは29番ということになる。トーナメントの組み合わせについては、全員の受け付けが終わった後に提示されるらしい。


「今年は人数が例年より多いな」


そう言ったレイは、毎年この試験を見に来ていたらしい。成人になったらすぐに試験を受けるつもりだったそうだ。毎年40人前後の参加者がいるらしいが、現時点で30人くらいだから、今年は50人くらいの参加になるだろう。ライバルが多いなら多いで、やる気が出てくる。


「2人とも、僕と当たって負けても、恨まないでね」


イタズラっぽく笑うと、レイはニヤリと不敵な笑みを見せた。


「こっちの台詞だわ」


その一方でクリスはといえば、真剣な顔で神妙に頷いていた。その様子に2人とも吹き出してしまう。


「そんな真面目に頷かなくても…!」


「えっ…えっ…ご、ごめんなさい、私友達いたことないからどう反応したらいいのかわからなくて…!」


アワアワしているクリスにまた笑いが込み上げてくる。この可愛い生き物をどうしてくれようか。

一頻り笑った後は、3人で屋台の下見に行くことにした。今はまだ朝の8時半くらいで、まだトーナメントの組み合わせが開示されるまで時間がある。適当に見てまわるが、まだどこも準備中だったから、本当に見てまわるだけになった。お昼はあの串焼きは食べたいな。

9時頃には、受け付けが終わってトーナメント表が開示されることになった。最終的な参加人数は52人らしい。自分の番号と名前を探していく。


「ありました!」


「俺も見つけた!」


2人はそれぞれ右端の方と中央付近右寄りに名前があった。カイルの名前は左側にあった。


「見事にバラバラになったね」


「まあ知り合い同士で組むと本当の実力がわからない場合もあるし、近い番号を離して組み合わせるのは妥当じゃないか」


トーナメントは左から順番に行われていくらしい。しかも、僕以外の2人はシードのところに名前がある。つまり、3人の中で最初に戦うのはカイルということになる。恥ずかしい姿を2人に見せるわけにはいかないと、やる気も気合も充分で闘技場の観客席に座る。

しばらくすると、第一組目が出てきた。

そのまま試合は進み、第三試合でカイルの番になった。相手は貧民街出身なのだろう、全体的に着古してよれよれになった服を着ている。しかし、筋肉はそこそこ付いており、脱いだらたぶん細マッチョだ。だが、一番印象に残ったのは目である。この試合で負けられないという強い意志が、その夜空のような色をした目には宿っていた。

試合開始の合図でまず先手を打ったのは相手だった。試合用に用意された木剣を正面に構え、体勢を低くして突っ込んで来る。思いの外速くて驚いた。大きく振りかぶったと思えば、思い切り叩きつけてくる。全体重を乗せているだけあって攻撃は重く、女になった自分の力では受けきるのは得策ではないと瞬時に判断して右側に受け流した。相手は剣を右手だけに持ち直して、振り向き様に鋭い一撃を繰り出した。今度は両手で木剣を構え受け止める。相手は防がれたことに顔を顰めて、後ろに跳んで距離を取る。今の攻防で、なんとなく相手の実力はわかった。今度はこちらの番とばかりに、魔法を発動させる。風魔法を足の裏に集中させて、一気に相手との距離を詰めた。すると相手はまた全体重を乗せた一撃を繰り出した。その間合いギリギリで止まり、風魔法を駆使して飛び上がり、空中で身体を捻って着地する。目の前には、こちらを振り返ってそのまま木剣を叩きつけようとする相手の、がら空きの背中があった。木剣を相手の首目掛けて寸止めすると、一泊後に相手の木剣が胴を切る軌道で止めらる。相手の目だけは一瞬も逸らすことなくこちらに向けられていたが、その目が、勝負が決着した途端に絶望に染まった。


「そこまで!勝者、27番カーラ!」


審判の声がして、木剣を下ろした。そのまま出て行こうとする男を引き止めて、握手を求める。相手は握手に応じるが、その手にはあまり力が入っていない。目も心做しか虚ろに見える。試合で負けたくらいでここまで落ち込む必要があるだろうか、と内心首を傾けつつ、声をかけた。


「君さ、剣は自己流?剣術は誰かから基本だけでも習った方がいいよ。試合経験もほとんど無いよね。太刀筋が単調になってるから、すごく勿体ないよ」


そう言うと、虚ろだった目に剣呑な光が宿る。


「お前に何がわかるっ…!」


握手していた手を振りほどくと、彼は会場を出ていった。突然怒り出した相手に唖然としてその場に立ち尽くすが、すぐに後悔した。上から目線で今までの努力を否定したら、そりゃあ誰だって怒るだろう、と。できれば、彼が騎士を諦めなければいいなと思いつつ、自分も会場から出ていった。

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