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最強部族の花嫁事情  作者: 埴輪小鳥
第一章
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3

誓いへの第一歩として、まずはやはり騎士にならなければないない。騎士になるための道筋としては3通りがある。

1つ目は、僕が今まで通っていた騎士養成学校に騎士見習いとして入学することだった。13歳から入学することができる。そして4年をかけて鍛え上げられるが、適性が無い者達は卒業することも難しい。卒業まで漕ぎ着けた騎士見習いたちでも、卒業試験に受からなければ正式な騎士にはなれず、留年することになる。留年も2年までで、卒業できなかったら適性無しと判断されて退学だ。騎士になるのに最も難しいとされているが、その分将来は確約されている。騎士団で優先的に要職に任命されたり、または適性如何では、軍の幹部にスカウトされたり、各領の領主から領軍の幹部にスカウトされたりするのだ。

2つ目は、年に2回行われる騎士選抜試験である。春と秋の始めにそれぞれ1回ずつ行われる試験で、こちらは16歳の成人を迎えているものならば誰でも受けることができる。例え国籍を持っていないものでも受けることができ、その場合は国の方で国籍を用意してくれるため、不法移民などにとって騎士は生活を一転する一発逆転を狙える職業だ。試合はトーナメント方式で、優勝者はもちろんのこと、それに加えスカウトによって見習い騎士が選抜される。騎士見習いは2年間の実務経験ののち、試験を合格したものが騎士となることができる。

3つ目は、軍から騎士団にスカウトされる場合である。軍の兵士には志願することによってなることができる。試験は無い上に、14歳以上からなることができるが、最初の2年間は厳しい訓練が待っている。その2年間で弱音を吐いて辞めていく者も多い。その代わり、その2年間の苦行を乗り切った者は、騎士見習いとしてスカウトされたりすることもある。

僕が狙うのは2つ目だ。数日前まではもちろん1つ目を目指していたが、今からまた学校に入り直すのは時間が掛かりすぎるしお金も無い。3つ目に至っても、2年間+スカウト待ちで騎士になるのに何年掛かるかわからない。幸いなことに、騎士選抜試験はちょうど10日後が試験日だ。2年間半訓練したのだから、合格する自信はある。この女の子の姿にも十分慣れたし、元々は女だったせいか、16年間男として過ごしてきたけれど、不思議と身体が女だという事実に嫌悪感や違和感は無かった。

あとは鍛錬あるのみ。試験日まで、カイルは自分のルーティンをこなしながら、自分自身の身体について把握するのに務めた。


10日後の試験日。試験は王都にある闘技場で行われる。お祭りというほどでは無いが、この時期は王都が少し騒がしくなる。人生一発逆転を夢見た各地の領民たちが、王都に押し寄せるのだ。闘技場の周りには屋台が並ぶ。

朝の爽やかな空気の中、肩につくかつかないかの栗色の髪を後ろで無造作に結んで、濃い茶色の目をした少女が、手を組んだ腕を上に上げて、左右に伸ばしている姿が見られた。そう、この物語の主人公、カイルである。光魔法で偽装した姿だ。ちなみに、16歳を迎える前の姿は、170cmという身長に加え、髪は街でよく見る茶髪に赤茶の目だったので、今の姿とは似ても似つかない。呪いが解けると同時に長くなった髪は、腰の辺りまで伸びていて邪魔だったので、肩口まで切っていた。髪と目の色は、未来の主君であるケイを真似た。誓いの証であるペンダントを返した今、ケイとの絆を目に見える形で残しておきたかった。これで鏡を見る度にケイを思い出すことができる。


ストレッチをし終わり、宿の庭を出る。普段より活気のある王都を、試験会場まで歩いて行った。

試験会場受け付けには、たくさんの人々が並んでいた。筋骨隆々な大きな人から、おそらく魔術を得意としているのだろう、ちょっと細めで杖を持っている人までいる。流石に自分のように、女の人は数えるほどしかいなかった。

そんな列を眺めながら近付いていくと、1人の女の子を押しのけて、列に横入りした筋肉ダルマがいた。こういう奴はどこにでもいるもんだ。


「…あ?なんか文句あんのかぁ?…文句も言えねーくせに、お前みたいなガキがこの試験、受ける資格あるとでも思ってんのか?帰れ帰れ、怪我する前にママに泣きついて慰めてでももらうんだな」


「す、すみません…!」


ニヤニヤと薄気味悪く笑うそいつに、女の子は萎縮して震えていた。その場面を見て嫌悪感を抱いてしまう。騎士にあるまじき蛮行だ。注意しようと足早に近付いていく。

女の子を背中に隠して庇うと、筋肉ダルマと真っ直ぐに目を合わせた。


「そんな言い方はないんじゃないかな?試験を受ける受けないは個人の自由だし、ここに集まってる人はそれぞれに事情を抱えてる。詮索すべきじゃない。そういうのを余計なお節介って言うんだよ。それに、強さに見た目なんて関係ないし。なんなら、ここでお前をぶちのめしてやろうか…?」


好戦的な笑みを浮かべて相手を見つめる。相手は驚いたように少しだけ目を見開いくと、愉快そうな笑顔に変わっていった。数秒の睨み合いが続く。


「はいはいはーい、そこまで!続きは試合にしよーぜ!ここで騒ぎ起こしてもいいことないって!」


そこに、明るい男の声が割って入った。声の方に目を向けると、赤い髪に赤茶けた目をした青年が立っていた。


「試合前に気合充分なのはわかるけどさ、ここで騒ぎなんか起こしたら、最悪試験受けれなくなるぞ?」


そう言って筋肉ダルマと自分を交互に見る。確かに、このままでは試験前に門前払いされてしまうかもしれない。結局先に折れたのはカイルだった。筋肉ダルマをひと睨みしてから、目線を外して女の子を見る。今まで白いフードで顔が隠れて見えなかったが、早朝の空のように澄んだ水色の髪に海のような青い目をしている美少女だった。伏し目がちに挙げられた視線と目が合った途端、どきりとする。


「この人ここから動かなさそうだしさ、僕達は後ろに並ぼう。騎士は広い器も大事だからね」


誤魔化すようにヘラヘラと笑いながら言うと、美少女は曖昧に微笑んで頷いた。優しい子だ。

手を引いて最後尾に並び直すと、筋肉ダルマとはだいぶ距離が開いた。


「君は列に並んでたんじゃ無かったの?」


一緒に最後尾まで着いてきた青年に話しかけると、一瞬きょとんとした後に、笑ってみせた。


「並んでたけど、やっぱ女子二人だと同じようなことがあるかもしれないだろ。強さとか関係なくさ。それにしても、君はすごいな。あんな大男に正面切って喧嘩売りに行くなんて」


すると次はこちらがきょとんとなる。


「相手が誰だろうと、女の子を守るのは騎士として当たり前だろ」


真面目に話しているのに、彼は一瞬固まった後、思わずというように吹き出した。なんで笑われたのかもわからず困惑して、大人しく相手の笑いが治まるのを待つ。


「いやーすまん、こっちの話だ。男より男らしかったからなんだか可笑しくて。これは何かの縁だ。俺はレイシス・シューマン。レイって呼んでくれ。よろしく」


レイはそう言うと笑顔で手を差し出してきた。16年間男だったカイルは男よりも男らしいと言われて、嬉しいような悲しいような、なんとも言えない気持ちになった。

握手に応えようと手を差し出すが、その手は途中で不自然に停止する。カイルは試験のことで頭がいっぱいで、今までそのことに気付かなかったことを後悔した。

カイルは女になった自分の名前を考えていなかったのだ。もし騎士養成学校から逃げ出したカイルだと今のカイルがバレることになったら、国に性別を偽っていたという偽証罪、もしくはスパイ容疑で牢に入れられることになるだろう。これからは新しい名前が必要である。

瞬時にそう考えて、誤魔化すように相手の手をガッツリ握りこんで口走った。


「…カーラ!僕の名前ははカーラだ。よろしく、レイ」


少し慌て過ぎただろうか。レイは不思議そうな顔をしていたが、人懐こそうな笑みを浮かべるともう一度よろしく、と言ってくれた。

咄嗟に出た名前は、案外悪くない感じだ。うん、女の子っぽいし、元の名前から大きく離れてもいない。

お互い手を離すと、そこにタイミングを伺っていたような、可愛らしい鈴を転がしたような声が響いた。


「あの…!た、助けて頂いたことには感謝します。で、ですが、私はただのか弱い女の子ではありません!私だって強いです…戦えます!」


涙目で必死に訴える姿は正直可愛いし、ほんのちょっと頼りない。レイは困ったような顔をして私を見る。私は相手を落ち着かせるように微笑んだ。


「もちろん、君が弱いだなんて思ってないよ。僕も女だから、周りからちょっと舐められてるかもしれないけど、お互い試合でギャフンと言わせてやろう」


そう言うと、ほっとしたように肩の力を抜いてくれた。ついでに聞いてみる。


「そういえば、君の名前は?よければ、君も友達になってくれないかな?僕はさっきも言ったと思うけど、カーラだよ」


するとびっくりしたように目を何度も瞬いた後、頬をほんのり赤く染めて、嬉しそうに応えてくれた。


「私の名前は…えっと…クリスです…!よろしくお願いします、カーラさん…!」


人生で初の女の子の友達をゲットした瞬間だった。

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