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最強部族の花嫁事情  作者: 埴輪小鳥
第二章
16/26

14

一方で、領主館の方では、ちょっと困ったことが起きていた。


4日目の夕方、夕食まで時間が余ることがあった。館の中をレイを探してフラフラしていると、ある一つの扉の前に辿り着く。その扉は中途半端に開いていて、中からは人の気配らしきものはしない。恐る恐る中に入ってみると、そこには一人の少女が寝かされていた。

レイのように赤い髪をしているが、その顔色は色白く、まるで陶磁器のようである。本当に生きているのかと疑うほどだ。それに、窓から差し込む夕日の陽の光によって、幻想的な雰囲気になっていた。

本当になんとなく、吸い込まれるようにその少女に近付いていっていると、後ろから何かがガチャンと壊れる音がした。驚いて振り向くと、一人の若い侍女が口元を手で覆い、震えている姿が目に入った。彼女の足元には、割れた花瓶の欠片と花が散乱している。思わず声をかけようとすると、彼女は走って扉を出ていってしまった。

しばらく呆然としていたが、慌ててカイルもその部屋を後にする。侍女を追いかけたが途中で見失ってしまった。結局、自分が使わせてもらってる客間に戻ったが、すぐに後悔することになった。誰かの寝ている部屋に勝手に入った挙句、侍女を驚かせて花瓶を割ってしった上に、謝るでもなく逃げ帰ったカイルに対して、ここ数日優しかった公爵夫妻も流石にいい顔はしないだろう。夕食のときに謝ろう。

そう思ってびくびくしながら夕食の席に行くと、いつもと同じようにニコニコした夫妻に迎えられた。ただ、その笑顔には心做しか元気が無かった。それでも、いつもと同じように夕食の時間が過ぎていく。その日は結局謝ることもできず、腑に落ちない気持ちを抱えて就寝することになった。


次の日、魔物の討伐を終えて冒険者ギルドに顔を出すと、昨日の領主館での出来事が噂になっていた。いや、最初は昨日の出来事だとは気付かなかったが。


「そういえば、眠り姫様のところに天使が現れたってのは本当なのか?」


レイが報告書を提出している間にディールが話しかけてきた。カイルはそこで初めてレイの妹、マリンの話を聞く。


「眠り姫様っていうのは、公爵家の長女、マリン様のことを言ってるんだ。噂では、二年前から変わらない姿のままずっと眠りについているらしい」


昨日のことだと気付くのに、数十秒を要した。あの部屋でベッドに寝ていた女の子がマリンだったのだ。そして、天使だと勘違いされたのがカイルだと判明した途端、わけがわからなくて狼狽える。何故、賊とかではなく、天使だと思われたのかと聞くと、ディールも首を捻った。


「そういえばそうだな。天使だと思われたのは、その人間が金色に輝いていたからだそうだ。なんでも、この世のものとは思えないほど美しかったんだと。後、最近頻繁にあってる神隠しの件もあったんじゃねーか?マリン様の髪は赤くて目は金色だけど、かなりの美少女だって話だから、彼女も連れていかれそうになったんじゃないかって」


いや、光り輝いていたのはたぶん髪が夕日の陽の光を反射していただけです、とは言えず黙っていると、ディールはふと思い出したように付け足した。


「全国的に天使の噂話は広がっているが、一番被害が多いのはこの公爵領だからな」


その途端後ろでバサッという音が聞こえた。デジャブである。後ろを振り返ると、呆然と佇むレイがいた。床には数枚の書類が散らばっている。数秒固まったままだったレイは、気を取り直すように書類を拾い集めると、誤魔化すように笑ってまた受け付けに戻っていったのだった。

どうしたのだろうとディールと顔を見合わせていると、すぐにレイは戻ってきた。心做しか顔には焦りの色が浮かんでいる。理由を尋ねる前に、領主館にすぐ帰ることになった。


領主館に着くと、レイは早々に自室に戻っていった。カイルも軽く汗を流すと、さっきのレイの反応はなんだったのかと思って、レイを探して館の中を歩くが、レイは自室にいなかった。近くにいたメイドにレイの居場所を尋ねると、教えられた場所に行ってみることにする。

ある部屋の前についたとき、レイの声が聞こえた。言い争っているのだろうか、あの普段陽気な彼が声を荒らげている。


「…さか、父上と母上がそのようなことをしているとは、夢にも思いませんでした!マリンがこのことを知ったらなんと言うか…」


「そのマリンを助けるにはもうこの方法しか残っておらんのだ!たとえ罪を冒したとしても、聖女を見つけ出す」


「神の部族も聖女もお伽噺の中の存在です!そのいるかもわからない存在のために、罪もない人々を」


「黙れ!元はと言えば、お前が弱いからマリンがあんな目に…」


「あなたっ!」


「っ…すまない。今のは忘れてくれ…」


「…不甲斐ない息子で申し訳ありませんでした」


そう言って振り返ったレイと、扉の隙間ごしに中を覗いていたカイルは目が合った気がした。急いで踵を返して部屋に戻る。今のはたぶん、聞いてはいけなかった話な気がする。

その日の夕食は、いろんな意味で気まずいものとなった。


この次の日には、王都に帰ることになった。結局何か言及されるわけでもなく、レイとも気まずい空気のまま、遠征に向けての訓練が始まったのだった。

カイルは、人の家を勝手に動き回るとろくな事が無い、ということを学んだ。

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