13
レイの家は王都の隣の領にあるらしい。馬車で王都を出て、たった数時間で隣の領の領主館に着いたのだった。
カイルはほえーっと間抜けな顔をしてその領主館を見上げた。城と言っても差し支えない大きさの領主館はそこら辺の貴族が持っていていいものではない。本当にレイは何者なのだろうかと彼に目を向けると、苦笑しながら教えてくれた。
「教えてなかったっけ。俺の家、公爵家なんだ」
驚愕の事実を何でもないことのように言うレイに、目を丸くする。それと同時に、心のどこかで納得もしていた。ケルヴィンと知り合いだったのは、公爵家、つまり王族の親戚だったからだ。聞いたところによると、レイの祖母が、降嫁した王族のお姫様だったらしい。ケルヴィンはレイの1つ歳上だが、遊び相手としてよく王宮に遊びに行っていたそうだ。
一人関心したように頷いていると、館の中に入るように促される。館の玄関には、赤髪に赤茶けた目をしたレイにそっくりの美丈夫と、緩やかに波打つ栗色の髪に金色の目をした美女がいた。2人はカイルににこやかに笑いかける。
「よく来てくれました、カーラさん。初めまして、私はシューマン家当主のハースレイだ。こっちは家内のシルヴィアだ」
そう言われて手を差し出された。慌てて手を差し出し、2人と握手を交わして自己紹介をした。
「レイシスが友達を連れてくるのは初めてでね、これからも仲良くしてやってほしい」
二人は嬉しそうにニコニコしている。レイの方を振り向くと、困ったように苦笑いしていた。
その後は館の中を案内される。中も外観に劣らず上品に飾り立てられていた。廊下の端に飾られていた花瓶には怖くて近寄ることができなかった。客間にまで通されると、仕事がまだ残っているということで、夫妻は部屋を後にしていった。
扉が閉まった途端に緊張で詰めていた息を吐き出して、ソファの背もたれに深く沈み込む。平民のカイルにいきなり公爵夫妻と話せと言われても困るのだ。せめて事前に言ってくれればよかったのにと、向かい側に座っているレイをジロリと睨みつけると、やっぱり困ったように笑っていた。
「そんなに緊張するとは思わなくて。父上と母上もあんなに喜ぶとは思わなかったけど」
そう言うと、レイは気を取り直したように笑って立ち上がる。
「ほら、今日のうちに、うちの領の冒険者ギルドに行って、どんな依頼があるか見ておこう。もしかしたら、討伐依頼で良さそうなのがあるかもしれないし」
カイルは何か腑に落ちない思いをしながらも、レイに従って冒険者ギルドに行くことにした。
冒険者ギルド内は活気に満ち溢れていた。もう夕方ということもあって、ちょうど仕事が終わった冒険者たちが集まる時間帯だったのだろう。併設された食堂では、冒険者たちが酒を飲んだり食事をしている風景が見られた。
レイとカイルが冒険者ギルドに立ち入ると、何人かがこちらに気付いて野次を飛ばしてくる。久しぶりだな!とか、女連れかよこの野郎!とか、かなり親しみの篭った野次だった。曰く、騎士選抜試験を受けて王都の第二騎士団の宿舎に来る前は、頻繁にここを訪れていたらしい。冒険者たちにとってレイは、領主の息子というよりも冒険者仲間という意識が強いんだとか。
野次も収まり、周囲の関心が別のものに移っていったところで、一人の男が話しかけてきた。
「ぼっちゃん、今日は女連れとは羨ましいねぇ」
レイに肩を組んでガラ悪く絡んできた男に、カイルは警戒心を露わにする。レイはされるがままになりながも、苦笑いして男を紹介してくれた。
「この人はディールっていうんだ。偶にふざけてこんなことする人だけど、俺の冒険者としての師匠なんだぜ。あとS級ですげぇ強い」
こんなガラが悪い人が強いのかと目を丸くする。彼はイタズラが見つかって怒られた人のように肩を竦めると、目だけでカイルを見た。意図を察したようにレイは頷いて、カイルの紹介をする。
「こっちはカーラ。騎士見習いの仲間で、今回魔物討伐の訓練に来たんだ。冒険者ギルドには来たことあったらしいけど冒険者登録はしてないって」
紹介されたカイルが頭を下げると、カーラか、よろしくなと言って背中をバシンバシンされた。そして、せっかくなのでカイルのために指導をしてくれることになった。彼曰く、後進を育成するのも、ギルドに常駐してるS級冒険者の仕事らしい。
それからの5日間は、毎日冒険者ギルドに行って、魔物の討伐依頼を受けることになった。最初はゴブリンなどのE級魔物を倒していって、最終日にはC級の魔物を一人で倒せるまでになっていた。ランクはB級にまでなった。レイとディールの指導のおかげだ。あと、ディールは話してみると普通にいい人だった。