プロローグ
「昔々、まだ国々が興り始めた頃、全ての魔法を使い熟す最強の部族がいました。その力は、時には大軍を滅ぼす強大な力に、時には万物を癒す奇跡の力になりました。国々はその神のごとき力を得ようと、王族の花嫁にその部族の娘達を次々とお嫁に迎え入れていきました。しかし、部族の純粋な血が絶たれると思った当時の部族長は、部族の村への出入を制限し、婚姻の条件も厳しくし、外界との接触を断っていきました。長い年月を得て、到頭その部族の所在は誰にも分からなくなってしまいました。今ではもう、御伽話だったのではないか、もしくは滅んでしまったのではないかと言われています。その者たちは特徴的な容姿をしていて…」
ふと気付いて腕の中を見てみると、小さな幼子が自分の胸に寄りかかって寝息を立てていた。小さくため息をついて、その頭を慈しむように優しく撫でる。
「あなたもいつか、会えるといいわね」
絵本をパタンと閉じ、幼子をベッドの上に静かに横たえる。毛布を掛け、あやす様に何度かポンポンと叩くと、幼子は小さく笑顔を見せた。
「おやすみ」
まだこれから先の出会いを知らない幼子は、健やかに眠る。