5 依頼成功、そして昇格!
「な、何でお前が?!」
扉を開け現れた俺に、ハーバーはつい声を荒げてしまった。
まぁムカつく奴だが気持ちは分かる。死んだと思っていた相手が現れたんだからな。
「コウさん、ご無事だったんですね!」
「え、ええ。なんとか」
俺はハーバーを睨みつけはしたが声は掛けず、受付まで進み手に持っていた袋をテーブルに置き中身を取り出す。
「今回の依頼、その成功の証です」
「……小鬼の角ですね。数は、、15個とこれは何ですか??」
受付の女性は通常の小鬼の角よりも2周りは大きな角を手に取った。
「それは上位小鬼の角です。依頼中に3体の上位小鬼に遭遇して、何とか倒すことに成功しました」
俺の言葉に周りにいた冒険者達から声が上がった。
「上位小鬼だと?! 白級が1人で3体も倒したのか??」
「上位小鬼3体だと銅級でやっと相手になるくらいだろ? すげえじゃねえか!!」
多分、上位小鬼はそこまで強いモンスターではないだろう。
ただそれを初めての依頼で、尚且つ白級の冒険者が倒したことに皆驚きの声を上げているんだ。
俺は生まれて初めて受ける歓声に少し気恥ずかしさを覚えるが、何故か冷静にそう分析していた。
ただこうなると面白くない奴が2名いた。
「ま、待て待て!! そんなことある訳ないだろう! 皆冷静になれよ」
「そうだぞ、上位小鬼をそれも3体も相手に生き残れる白級の冒険者がいるわけないじゃないか!」
ハーバーとナッシュベルは俺達の元まで進んでくると冒険者たちに声をかける。
その目はいかにも俺を蔑んでいるようだ。
「でもよハーバー、お前さっきこいつが死んだって言って補償金貰ってたじゃないか。それはつまりお前らも上位小鬼相手に逃げだしったってことだろ?」
「ハハハハッ、何馬鹿なこと言ってんだ? 確かにマリーナが怪我を負ったから退却したが別に倒していないとは言っていないだろ? なぁ受付さん??」
「……確かに明言はしませんでしたけど。それならあなたは虚偽の報告で補償金を貰ったのですね? 現にこうしてコウさんは生きているんですから!」
「そりゃこいつが敵を前に逃げだして行方が分からなくなったからだよ。小鬼の巣で迷子になれば死んだと思うのが普通だろう? それが白級だとしたらなおさらだ」
ふざけるな! お前は俺が魔力欠乏になるのを見越して逃げるための時間を稼ぐ餌にしたんだ!
でもそのことを証明するものは何もない……。
受付の女性も疑いつつもそれ以上何も言えないのは証拠がないからだろう。
ハーバーは笑みを浮かべながら俺の持っていた袋を奪い取った。
「まったく、逃げたかと思ったら俺達の倒した小鬼の角を横取りやがって。これだから白級は嫌なんだよなぁ」
「ハハハハ、その通りだなハーバー! だがこれで依頼達成の証は手に入れたんだ、それで手打ちにしてやろうじゃないか」
「そうだなナッシュベル。ほら、補償金は返すから報奨金を早くくれ」
ハーバーは懐から小さな袋を取り出し受付の女性に手渡した。
だがその時、ハーバーの後ろから1人の女性が現れたのだ。
「あなた達、やっぱりそうお言うことだったのね」
「マ、マリーナ!? 目が覚めたのか?」
「おかげさまでね! 話は全部聞かせてもらったわよハーバー! やっぱり嘘をついていたのね!?」
マリーナはまだ怪我が治りきっていないのか、剣を杖代わりにしている。
「ごめんなさいコウ。この傷、あなたが回復で治癒してくれたんでしょう? 気を失う前、なんとなくだけど覚えてるわ」
「それよりも大丈夫なのかマリーナ? まだ随分苦しそうだけど」
「ええ、もちろん。こんな傷、何ともないわ」
俺とマリーナは互いに笑い合う。
彼女が無事でよかった。それに話しぶりからマリーナはハーバー達の策略には加担していないようだ。
マリーナの登場でその場に空気は一気に変わった。
それまで半信半疑ながらもハーバーを信じる冒険者もいたが、殆どがハーバーを疑う目へと変わっていったのだ。
「ち、違うんだマリーナ。別に俺は嘘なんか……」
「まだそんなことを言うの? 本当に呆れた! 目を覚ました私がコウの事を聞いた時なんて言った? 上位小鬼が現れて私が怪我を負ったから逃げるしかなかった、あなたそう言ったのよ? コウは奴らに殺されたともね」
「い、いやそれは」
ハーバーも先ほどまでとは正反対の周りの視線に気づいたのかその表情からは笑みが無くなり青ざめていく。
「おいどうするんだハーバー!? このままじゃまずいぞ」
「あ、ああ。クソあのクソ野郎さえ生きていなけりゃ上手くいったのによ。ここはひとまず逃げるしか……」
あいつら、この期に及んで逃げるつもりか!
ふざけるな誰が逃がすかよ!
「おっと、どこに行くんだい?」
しかし俺が動く前に誰かがハーバーとナッシュベルの首元を掴んだ。
その人物の登場に、ハーバー達の表情はその日一番の悪さになったのだった。
「ギ、ギルド長!?」
「話は聞かせてもらったよ? 補償金をだまし取っただけじゃなく他人の功績まで横取りしようとするとはね」
この人がギルド長……、思っていたイメージとは全然違うな。
背は高いが一見華奢にも見える女性。首元に大きな傷があるが美人と言っていい容姿だ。
咥え煙草が印象的だが、それよりも……。
俺は掴まれ動くことが出来ないハーバー達の姿に驚いた。
やったことは置いておいて、ハーバーとナッシュベルはそれなりに強い。
その2人の力がまるで赤子のようだった。
「あんたら2人は冒険者免許剥奪! 今後冒険者になれないようギルドの全支部に通達するとしよう」
「そ、そんな……」
ナッシュベルはその言葉に肩を落とし抵抗を辞めた。
だがそのことに一瞬油断が生じたギルド長の手を逃れたハーバーは、俺へと剣を向けて来た。
「しまった!」
「お前さえいなければ全部上手くいっていたんだ! ぶっ殺してやる!!」
ハーバー、お前だけはこの手でやり返さないとって思ってたんだよ!
スキル 身体能力倍化!
俺はハーバーの剣を避けるとその顔面目掛けてすべての力を込め拳を喰らわした。
ハーバーの鼻からは血が噴き出し、前歯は折れ、後方のテーブルの上に吹き飛ばされると完全に気を失ってしまった。
「……思い知ったか、くそハーバー」
オォォォォ!!! 周りからはちきれんばかりの歓声。
ギルド長を始めその場にいた冒険者たちはまだ信じられないという様子だ。
「驚いた。まさか白級の冒険者がこれほどの力を持っているとは」
「そ、そうよコウ! それにあなた魔導士じゃなかったの? なんでそんなに身体能力が……」
「ハ、ハハハ……、俺もよく分かりません」
まさか生き返った上に新しいスキルを手に入れましたなんて言っても誰も信じてくれないだろうしな。
あれ? 何だかギルド長の視線が鋭いような。
「ふむ……、お前コウとか言ったね? 白級にしておくにはもったいない男だ。バーミラ、ここに」
「何でしょうかギルド長」
呼ばれてきたのはあの受付の女性だ。
あの人、バーミラさんっていうのか。
「コウは今回小鬼討伐の依頼を受けたって言っていたね?」
「はい。しかも遭遇した上位小鬼3体を単独で討伐しています」
「ほう、上位小鬼をかい。……うん、功績は申し分ないね。決めた!」
ギルド長は大きく手を叩くと、俺の前まで移動した。
「コウ、お前を白級から黒級へと昇格とする!」
「……え?」
オォォォォ!! ギルド長の言葉にギルド内にはその日一番の歓声が上がった。
「すげぇ! 白級が1回の依頼で昇格って初じゃないか?」
「ああ! ギルド新記録だ!!」
おいおいおいまじかよ。俺がギルドの新記録? それって……、凄いじゃないか!!!
しかも昇格って、こんなに出来すぎてていいのか?
これじゃあすぐにまた死ぬんじゃ、って死んでも生き返るんだった、ハハハハハ!!
「それじゃあコウ、これからも活躍期待してるよ」
「ありがとうございます、ギルド長!」
フフフッ、やるぞやってやる。
今の俺には何も怖いものなんかないぜ。 なんたって期待の新人黒級冒険者なんだからな!!
「さぁさぁ、次の依頼はどこにあるんだ? ワハハハハッ!」
───1週間後。
って言ってたのが懐かしいなぁ。
「……調子に乗りましたすみません」
俺は黒級に昇格後初の依頼を受けていた。
依頼は魔狼1体の討伐。そう、そのはずだったんだ。
「こんなにいるなんて聞いてないぞぉぉぉぉ」
俺は目の前で俺を囲んでいる魔狼の群れに声を上げるが時すでに遅し。
上位小鬼よりは劣るが、大軍で押し寄せた魔狼には身体能力倍化を使用しても勝てるはずもなく、呆気なく3回目の死を迎えたのだった。
【スキル 輪廻転生が発動しました。今回の獲得スキル 錬成術】