4 新たなスキル!
俺は死んだ。
いや、正確には2度目の死を迎えたはずだった。
「……はっ!!!!」
どういうことだ!?
確かに俺は小鬼達に殺されたはずだ。
今でも残る体中を刃物で刺された痛み、指先まで動かなくなっていく血の気が悪なる感じ。
でもそれがまるで無かったかのように……。
「ギィィィ???」
その場を立ち去ろうとしていた小鬼達も確実に息の根を止めたはずの獲物が体を起こしたことで訳も分からないという様子だ。
ただそれは俺も同じ。俺すらも自分の体に何が起きたのか理解できないでいた。
「体の傷が無くなっている。あるのは刃物が刺さった時に開いた服の穴だけ……」
何が何だかさっぱりだ!
でもいつまでも呆気に取られている訳にはいかない。
どういう訳か俺は生き返った。でもそれはこの状況が好転したという訳じゃない。
「ギィィィ!!」
俺の想像通り、最初は固まっていた小鬼達も上位小鬼の叫び声で再び武器を構え俺へと飛びかかってくる。
ダメだ、これじゃあまたあの痛みを味わうことになる。それだけは……。
【輪廻転生により新たなスキル 身体能力倍化を獲得しました。使用しますか?】
何だ? 頭の中に言葉と文字が浮かび上がってきた??
身体能力倍化? それに輪廻転生って確か俺のステータスに書いてあったスキル。
俺が生き返ったのはその輪廻転生のお陰ってことか?
いや、今はそんなことどうでもいい! 身体能力倍化、言葉通りならこの状況を打開するには。
「使用するに決まってんだろぉぉ!!」
【使用を選択。スキル 身体能力倍化が発動します】
その言葉の後、俺の体は微かな光に包まれた。
何か劇的な変化があったという訳ではない。ただ違っていたのは目の前の小鬼の動き。
な、なんだ? 動きがさっきよりも遅く見える!
それにハーバーが落としていった松明しか明かりがない薄暗い場所なのに視界もだんだんはっきりと……。
俺はこちらへ向かってくる小鬼の攻撃を次々と躱していく。
それどころか最後に躱した小鬼に蹴りを入れた所、その小鬼は壁まで吹き飛ばされピクリとも動かなくなったのだ。
「ま、まじかこれ」
おいおいおい、万年帰宅部だった俺の蹴りのはずなのにここまで強くなるのか。
身体能力倍化、これがあればいけるかもしれない。
「ギィィィ!!!」
「くっ、もう2度と喰らうか!」
「ギィィィィ!!」
「しつこいんだよお前ら!!」
仲間がやられたことで怒りに燃える小鬼達。
俺はその攻撃を何とか躱していき、全ての小鬼を倒すことが出来た。
「残るは出口を塞ぐあいつらだけ」
「…………」
他の小鬼とは体のつくりが違う奴ら。
あれはもう小鬼なんかじゃないな。今の俺でも勝てるかどうか……、ぐっ!!
ドンッ!! その瞬間、俺は強い衝撃を受け後方へ飛ばされる。
だがスキルのお陰で何とか動きを見切ったため左腕でガード、最悪の事態は免れた。
な、なんて速さだ! それにこの攻撃、ただのパンチなのにまだ痛みが。
3体の上位小鬼の内1体の攻撃で赤くはれた左腕は敵のパンチの威力を物語っている。
こんな奴が他に2体もいるのか! ハハハハッ、これはいくら何でも敵わないな……。
せっかく生き返って、しかもこんな能力まで身に付けれたのにな。
「ギィ??」
「何だよ、俺がまだ立ってるのが不思議みたいな顔しやがって」
「ギィィァァァァ!!」
「ハハハッ、本気になっちゃった? ぐあっ!!!」
い、痛い!! ふざけんなよ、3対1なんていくら何でも反則だろ。
俺は残りの2体も同時に移動、攻撃を繰り出したことで全ての攻撃をガードしきれず腹部と肩に攻撃をまともに喰らってしまった。
その痛みたるや、刃物で刺されるほどではないにしろ相当の物。洞窟の壁に激突しその場に崩れ落ちた。
「はぁ、はぁ、はぁ。い、息が出来ない……」
流石にここまでか。俺にしては頑張った方じゃないかな。
あんな化け物相手にここまでやったんだ、十分だろ。
俺は今までの思い出が頭の中で流れていくのを感じた。
何不自由なく生活していた家。友達がいないなりに悪くはなかった学校。
…………違うだろ。俺の人生こんな所で終わったら何もないじゃないか!
ヒーローを目指すんだろ? だったらこんなに簡単に諦めんなよ!
考えろ、考えるんだ。何か方法があるはずだ。
身体能力倍化、俺の体は確実に強くなった。ってことは強化されたのは筋力や視力だけじゃないはずだ。
「やるだけやってやる」
『ギィィィィィ!!!』
上位小鬼達は立ち上がった俺に雄たけびを上げる。と同時にこちらへと向かってきた。
「閃光!!」
上位小鬼が目の前に来た瞬間、俺は右手から強烈な光を彼らへと放った。
先ほどよりも強烈な光。やっぱり魔力も倍になってるんだ!
単純な計算だ、魔力が倍になれば閃光に使う魔力を増やしてもさっきみたいに魔力欠乏で倒れることも無い!
「でも魔力欠乏、そんなものがあるなんてハーバーの奴先に言えよな。まぁ元々捨て駒にするつもりだったから言う必要も無かったのかな」
「ギィアァァァァ!!」
上位小鬼は目を押え無暗に至る所に攻撃をしている。
時には上位小鬼同士で殴り合っている始末だった。
確かにあんな光を喰らったらああなるよな。目を瞑った俺でも少し視界が歪んだほどだ。
「でも同情はしないからな! これで終わりだ!!!」
俺は倒れている小鬼が持っていた剣を取り、先頭の上位小鬼の体に一気に突き刺した。
飛び散る血液、響き渡る叫び声。上位小鬼は地面に倒れ徐々に動かなくなっていくのだった。
や、やった! でも流石は小鬼の武器だな、もう折れて使い物にならなくなっている。
いやでも武器はその辺にいくらでもあるんだ!
「残りも片付けてやる!!」
俺は再び剣を取ると、残り2体の上位小鬼の元へと向かい走り出すのだった。
小鬼達との遭遇から4日後。
ハーバー、ナッシュベル、マリーナの姿はドゥベリアにあった。
傷を負っているナッシュベル、マリーナの姿にギルドの冒険者達は依頼の失敗を悟り、笑みを浮かべている者もいる。
だがハーバーはそんな目を気にすることなく受付へと進むのだった。
「これは……。その様子だと依頼は失敗したようですね」
「ああ。何せ相手は上位小鬼もいたからな、怪我人を抱えては逃げるしかなかったんだ」
「そうでしたか。……あれ、そう言えば1人少ないようですがコウさんはどうしたんですか?」
「あいつなら死んだよ。それでそのことであんたに話があるんだよ」
ハーバー受付の女性に笑みを浮かべる。
それが意味している事を女性も理解し、そして悟った。何故この男が格下の白級の冒険者をパーティに入れたのかを。
「……補償金ですか?」
「そうだ。こういう時のために俺達のパーティは依頼の報酬の一部をギルドに収めているんだ。今回は俺達にも貴重な魔導士が死んだ。それなりの補償金が出るんだろう??」
ギルドにはいわば保険の様な制度がある。
これはパーティを組んでいる冒険者が仲間が死んだ際に多少の補償金を受け取ることが出来るのだが多くの冒険者は自己責任の精神の元、加入することは無い。
ただ時には補償金目当てで駆け出しの冒険者を仲間に入れ見殺しにするケースがある。
全てがそうとは言わないが、受付の女性はハーバーの表情から全てを察したのだった。
このハーバーという冒険者、外面はいいけど悪い噂が聞こえていた。
だからコウさんが彼のパーティに入ることを止めたけど、私はギルドの人間。コウさんが入ると決めた以上強く止めることは出来なかった。
女性はそう考えつつも、制度がある以上ハーバーの言葉は当然の物。
受付の中から補償金の入った袋を取り出し彼に渡した。
「ではこれが今回の補償金です」
「……ちっ、もう少しあると思ったんだけどな。まぁこんなものか」
「その言いようは少しひどいのではないですか? 少なくともパーティの仲間だった訳ですし」
「ハハハハッ、それはすみませんね。俺も悲しんでいるんですよ? でもそれとこれは話が違うからな!」
この言葉に女性は湧き上がる感情を何とか殺し小さく頭を下げる。
これは周りで聞いていた数人の冒険者も同じだった。
「聞いたか? あいつ絶対わざと仲間を見殺しにしたんだぜ」
「ああ。それどころかあいつ自身が殺したことも考えられるな。あんな奴が同じ冒険者なんて虫唾が走りそうだ」
そんな言葉も聞こえていないハーバーは意気揚々とナッシュベル達の元へと進み始める。
だがその時、ギルドの扉が勢いよく開き冒険者たちの視線は一斉にその一点に集中した。
そこには一人の人物が立っていた。
体は傷だらけ、服はボロボロ。その手に大きな袋を持つ人物はハーバーの見覚えなある人物であったのだった。