3 遭遇、そして裏切り!
「ここが小鬼達の巣になっている洞窟だ」
ハーバーの見つめる先には確かに洞窟の入り口ある。
ここに来て俺は少しの不安を覚えずにはいられなかった。
街を出発して4日。俺達ドゥベリアから東にひたすら進み、依頼のあった小さな村までやってきた。
道中ハーバーから聞いてはいたが、実際の惨状はかなりのもの。
村は小鬼の襲撃を受け家は焼かれ、家畜は殺され村人にも数名の死者を出しているようだった。
始めて見る悲惨な光景。俺はこの世界に来てからまだ5日目。しかもどこか現実と思えないところがあった。
ただこれらのことで嫌にもこの世界が紛れもない現実だと思い知らされたのだ。
そうだ、これはゲームじゃない。
相手が人間でないにしろこれから戦いになるし、怪我もすれば死ぬこともありうるんだ……。
気を引き締めていかないと。
「どうしたコウ? 怖くなったのか??」
「い、いやそんなことは無いよ! これから小鬼と戦うと思うと、何ていうか武者震いを」
「ハハハハッ、そうか。頼りにしてるぜ魔導士!」
危ない危ない、不安な気持ちが顔に出てしまっていた。
まぁ心配するころはないさ! ハーバー達もいるんだから!
「コウ、ここに来るまでに教えた魔法は使えそう??」
ハーバーの言葉に答えた俺に、マリーナが声をかける。
「多分いけると思う。俺はまだ魔力を操ることは出来ないけど、回復と閃光だけは何とか使えるようになったからね」
「それだけで十分よ。魔法は10年かかってやっと半人前って言われるくらいだもん、4日で2つも魔法を使えるなら大したもの。流石は魔導士だわ」
「でもこれじゃあ俺は足手まといになりそうだ」
「私達も回復薬はあるけど、回復は動きを止めることなく回復を行える。それは戦いにおいてはかなり重要な事よ? でも魔法を使い始めた人には回復は魔力消費が大きいから乱発はしちゃだめだからね?」
「わ、分かった」
「おしゃべりはここまでにしよう。そろそろ洞窟の中に入るぞ」
ついに始まる……。
俺が昔憧れたヒーロー、そこへ近づく第一歩が!
ハーバーは剣を抜くと、ゆっくりと洞窟へと進み始めた。
俺達もその後に続き、ナッシュベル、マリーナ、そして俺の順番で洞窟へと入っていくのだった。
ポタッ、ポタッ……。
洞窟内には天井からいくつも雫が落ち、ハーバーの持つ松明の光だけが頼りの暗闇の世界だ。
当然、小鬼の姿はまだ見えない。
いや、もしかしたら既にこちらに気づき様子を伺っているのか??
「マリーナ、俺の閃光で前を照らした方がいいかな?」
「だめよ。そんなことをしたら奴らに位置を知らせるようなもの。それに閃光は瞬間的に強烈な光を放つけどすぐに消えてしまう、今使うのは無意味よ」
「た、確かに」
マリーナは出来るだけ声を抑え振り返ることも無く答える。
俺は馬鹿か? こんなことちょっと考えれば分かることじゃないか。
でも洞窟に入ってからというもの誰かに見られている気がしてならない。
手も震える。いっそのこと今すぐにでも小鬼が見つかってくれれば……。
「とまれ……」
先頭を進むハーバーが小さく右手を上げた。
全員が動きを止め辺りに注意を払う。無数の足音が聞こえる。
しかもそれは徐々に近づいて来ていたのだ。
「これは囲まれているな……」
「そうねハーバー。ナッシュベル、正確な数は分かる?」
ナッシュベルはスキル 五感拡大というものを持っているらしい。
視覚、聴覚を始めあらゆる感覚を数倍にまで高めるというスキルだ。
「そうだな、音が反響していて確証はないが恐らく20、いやそれ以上か」
「へっ、お前の耳がいつも通り冴えてるのは嬉しいが敵の数は聞きたくなかったぜ」
「うるさいぞハーバー。それなら知らせず小鬼の殺されるのがお望みかな?」
「……それは御免だね」
「では素直に聞け。小鬼は前方と後方から分かれてこちらに向かっている。もうすぐ見えるはずだ」
「よし、それじゃあお前ら気合入れろよ! コウ、お前は中央にいろ! マリーナは後ろを頼む、なナッシュベルは俺達を援護だ!」
『了解!!』
ハーバーの言葉で2人はこちらにやってくるであろう小鬼に備え武器を構えた。
だが俺は足が上手く動かない。やっぱり俺はへたれのままなのか?
「コウ! 俺が合図したら閃光を使え!」
「え……」
「分かったな?!」
「りょ、了解!!」
しばらくすると、先ほど来た道と前方の道からいくつもの気配が感じ取れた。
小鬼…、元居た世界のイメージ通り背が低く醜い容姿。
だが不気味な笑みを浮かべる彼らの姿は恐怖心をさらに掻き立てるには十分なもの。
この数、少なくても30はいるじゃないか!
これは流石に無理だ、に、逃げないと……
「コウ、今だ!! 閃光を使え!!」
「は、はい!!!」
震える俺だは、ハーバーの叫び声で気を取り直し右手を上げる。
そこから小さな光の球が生み出され、一気に拡大。辺りは目も開けられないほどの光に包まれた。
これにより小鬼達の目は一時的に使い物にならなくなった。
「ギィィィィィ!!!」
「今だ!!! かかれ!!!」
あらかじめ光に対策をしていたハーバー達は目を押える小鬼達に容赦なく攻撃を加えた。
1対1なら普通の大人でも倒せる相手。ましてやハーバー達は銅級の冒険者。
3人とも瞬く間に3、4体の小鬼を倒してしまった。
す、すごい! これならすぐにでも全員片付きそうじゃないか!
小鬼達はもうしばらく目が使えない、いける、いけるぞ!!
だが世の中そう甘いものじゃなかった。
さらに攻撃を加えるハーバー達。逃げまどう小鬼。
次の瞬間、俺のすぐ側の壁が崩れ去り大きな穴が開いた。
そう、罠にかかったのは小鬼じゃない、俺達だったのだ。
「な、なんで、きゃぁ!!」
「マリーナ、こいつらは!!」
穴から現れた数体の小鬼。
それは他の個体とは明らかに体が大きく人間と変わらない。
その攻撃を受けたマリーナは背中に傷を負い、助けに向かったハーバーも行く手を遮られている。
「ぐ、油断した。まさか上位小鬼がいるとは」
「ナッシュベル、大丈夫か!?」
「た、大したことは無い。だが右腕が……」
「くそっ」
ハーバーはナッシュベルの右腕を見つめ表情を歪める。
俺から見てもナッシュベルの腕はかなりひどい。早く手当てをしないとあの腕は……。
「皆、一度集まってくれ!」
俺の言葉に、ハーバーは隙を見てマリーナを回収。
ナッシュベルと共に俺の元へとやってきた。
「俺が回復使うよ。それでも直りきらないときは回復薬(ポ―ション)を」
「……分かった」
ナッシュベルもだけど一番重症なのはマリーナだ。
武器に毒でも仕込まれているのか息も荒くなってきている。
俺は大きく息を吐くと両手をマリーナとナッシュベルに向け回復を発動。
2人の体は光に包まれ傷が徐々に治癒していく。
もう少しで、しかしそう思った矢先、俺は体の異変に回復を解除してしまった。
「ガ、ガハッ……!」
な、なんだ!? 体が熱い、苦しい!!
それに手にも足にも力が入らなくなって……。
俺がその場に倒れ込むと、ハーバーとナッシュベルは呼吸の落ち着いたマリーナを抱えた。
「お、俺も助けて」
「あーあ、お前もここまでか。あんまり役には立たなかったな」
「そう言うなハーバー。お前の大好きなマリーナの命の恩人だろ?」
な、何を言っているんだ2人とも!
まさか最初から俺を捨て駒にするために?!?!
俺の目を見ていたハーバーが小さく笑みを浮かべる。
「その様子だと気づいたみたいだな? そうさ、最初から危ない時のためにお前をパーティに入れたんだよ。じゃなきゃ白級なんて仲間にするかよ! でもまぁ何も知らないといえマリーナがお前と仲良くするのは癪に障ったぜ」
「悪く思うなよコウ。お前は俺達が生き残るために生贄になってくれ。俺はお前が直してくれたおかげで腕も殆ど治った。まぁそのせいでお前は魔力欠乏になったんだけどな!!」
ハハハハハッ、2人の笑い声が俺の頭の中を駆け巡る。
そうだったのか! 最初からそのつもりで……
あの時受付の女性の言葉をちゃんと聞いていれば。
こうしている間にも、小鬼達はこちらへと近づいてくる。
ハーバートナッシュベルは顔を見合い頷くと何かを地面に投げた。
恐らく閃光玉の様なものだろう。先ほどの閃光程ではないにしろ辺りは光に包まれその隙を突き2人は小鬼の間を縫い元来た道を走り去った。
残されたのは動くことのできない俺だけ。
「ギ、ギィィィィィ!!!」
「ま、待て! こっちに来るな!!!」
獲物に逃げられ怒りに震える小鬼達はゆっくりと俺へと近づいてくる。
だが俺は逃げることも抵抗することも出来ないのだ。
やめろ、やめてくれぇぇぇぇ!!!!
しかし次の瞬間、俺の体には無数の刃物が突き刺さる。
今まで感じたことも無い激痛が全身を襲い、意識も遠のいていくのが分かった。
俺、また死ぬのか??
この世界でなら変われると思ったのに……。やっぱり俺は俺ってことなんだな。
なおも刃物を突き刺す小鬼達。俺は消えていく意識の中で最後に見たのはそんな彼らの姿だった。
【スキル 輪廻転生が発動しました。 今回の獲得スキル 身体能力倍化】