急行
第64話です!微TF注意です!というかほとんど話しが進みません!文もかなり短いです!それでもいい方どうぞ!
一を見送った後扉を閉じ、僕は静かに別れを告げた。再びビーチチェアに寝そべり、くつろぐアドニスの元へ行く。
「アドニス、準備できたよ」
僕の声に反応してパチリと目を開けるアドニス。
「なら行きましょうか」
右の手すりを指で凹ませると、僕らの周りが円状に裂けゆっくりと降下し始める。まるで天井がないエレベーターのようだ。その際にできた穴は静かに閉じ、青い空は徐々に見えなくなった。
たどり着いた先は小さい小さい四角形の書庫。壁側には所狭しと分厚く、古めかしい本が並んでいる。僕たちは中央に降り立ち、乗っていた足場はそのまま地面と同化した。スペースは僕ら2匹と目の前にある勉強机のようなものだけでいっぱいになるほどの狭さだ。おまけに高さもなく、上に手を伸ばせばすぐ天井に届く。アドニスに至ってはギリギリ頭を擦るか擦らないかの位置で留まっている。
「あれからだいぶ進展しましたよダイチさん。あなたの囮もいい仕事してくれました」
机の上で何かに取り込み中のアドニスはこちらを振り向かない。
「あぁ、ありがとうアドニス。こんな頼み聞いてくれて」
僕も振り向かず、アドニスとは反対方向にあるいつもの本を手に取り読み始める。いや、むしろ本というより辞書。しかもものすごく分厚いし何ページあるかも見当がつかない。
「その本、本当によく読みますね。そんなに気に入ったんですか?」
「気に入ったと言うか興味が湧くだけだよ。まだ10年ちょっとしか生きてないし」
僕が読んでいる本は竜文字で「ことわり」と書かれている。とにかく昔のことが詳しく書かれている。どれだけ昔かと言うと……
「よし、なんとか突破できましたよダイチさん。そんな本よりこれ見てください」
僕は本を閉じて元の場所へ戻し、机に映し出された光景を見て行動を開始する。
「それじゃあ後は頼んだよアドニス。行ってくる」
僕は地上へ出るため中央に立つ。ここへ来るとき同様円型に裂け足場が上がる。
「さーてと、私も一肌脱ぎますかねぇ」
一方人間界へ戻ってきた一。そこはただのだだっ広い草原。遠くに生い茂った木々が見えるが遠すぎるせいか、とても小さく見えて高いのか低いのか分からない。そしてさらに遠くには山頂にだけ雪が積もったような山々が永遠と続く。
一は取り敢えずどうしていいのかわからないので、扉へ戻ろうとした。
「ねぇ大地これどうしたらい……」
突然消える扉。唖然とする一。遠くに見える山頂のごとく一の頭に白みがかかっていく。
ついに状況を飲み込めた一は泣き叫びたい気持ちになる。
「どうすんだよこれぇーーっ!」
頭を抱えて思いのまま叫ぶ。叫んだ声が反射し、こだまして綺麗に帰ってくる。体を反らした際、ズボンのポケットの方に重みがかかるのを感じて早速取り出すと、スマホが出てくる。せめて場所でもと思ったが、案の定それはすぐに打ち砕かれた。
「やっぱり圏外か」
電源を切って丁寧にまたポケットにしまう。このあまりの状況に絶望に打ちひしがれる。普通の人間ならの話だが。
一は冷静さを取り戻し、せっかくの機会でしかも誰もいないこの広い草原で、竜界ではできなかったあれをしてみることにした。
「飛んでみようかな……」
ぼそりと独り言を言う一。高所が怖いと言うより、飛んでみたいと言う気持ちがここに来るまでかなり強くなっていたのだ。体の強度を身をもって知った(大地に振り回されて地面に叩きつけられた時)のも理由の一つだ。
早速駄目元でその場でジャンプしてみる。が、当然浮かぶはずもない。そもそも本来あるべき翼が水竜には備わってない。飛ぶイメージをつけるのは一筋縄ではいかないのだ。
「そうだ!鱗が空気抵抗とかどうとか言ってたっけ……」
竜界で色々言われたことを思い出す。まずは鱗を生やしてみることにした。一は目を閉じて背中から青い鱗が生える光景を静かにイメージする。
すると背中に異変が起き、パキパキと鳴り始めた。
「痛っ!?背中の肉が、千切れる!?」
焦る一は慌てて服を脱ぎ背中を触って確かめる。それはいつも触り慣れた人の肌と、一際違うツルツルして冷たい感触。間違いなくそれは竜の証、鱗だ。それから鱗は徐々に広がっていき、一は背中全体が火傷したようなピリピリした痛みが絶え間なく襲う。
「イテテテテ……」
ある程度の痛みは覚悟の上らしく、全身を使って悶えることはなく少し前かがみになるだけで済んだようだ。
首を後ろへひねり改めて確認する。やはりそこには青く染まった鱗があった。一つ一つが太陽の光に照らされ微妙に光沢が生じている。
「おぉ、すごい…。本当にこれが僕……なのか」
ここ数日であまりにも衝撃的なものを見すぎて、もはや何も動じなくなる一。
これなら飛べるんじゃないかと期待が高まる。体が物凄く軽いことは承知済みなので、飛びすぎないようそっと足を地面から離した。
するとゆっくり前に進みながら上に上昇し始める。月の重力よりはるかに軽く、ほとんど無重力のような状態だ。しばらくの間浮遊すると降下して草原に足がついた。
だがこれでは宙を舞っただけ。一自身もしっかり自覚していた。思いのほか長かった滞空時間で戸惑い、少し立ち尽くした後飛ぶための秘策を実行する。
「泳いでみるか……」
一はこの軽さから空中も水中だと思えばいいのではないかと思ったのだ。空中を泳ぐなんてなんとも突拍子もない発想だが、なんでもありの竜はそんな発想をも実現可能にする。
一はさっきみたいにひとまず空中で滞空する。そしてそこから横になりバタバタと足を動かした。
するとどうだろうか、想像通り水中と同じ動きになったではないか。空中で人がバタ足するというシュールな状況が出来上がる。そのまま上下左右に縦横無尽に泳ぎ回り、コツを掴むと家に帰るためそれなりに長い旅が始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
いきなりですが次話、急展開を迎えます!今回の話(64話)を前の話(63話)にくっつけようとは思ったのですが、タイトルもマッチせず、いきなり状況が変わるので区切りました。その結果この短さ!
一で字数を稼ぐという悪手をとりました……。もうちょっと友達にも出番を持たせるべきですね。脇役が空気と化してるw
久々に言いたいこと言いました。長文失礼します。ではまた。




