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竜の希望  作者: 猫☆ライフ
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誤転の故郷

第63話です!今回は過激なTF描写ありです。ご注意ください。

それではどうぞ!

 竜界では竜本来の姿に戻るため、真竜化が始まる。

 一にとっては未曾有の体験であり、未曾有の痛みでもある。

 くぐると同時に隣で骨が軋む音が聞こえる。

 竜界については何も一には言ってなかったので、体の異変にはさぞ驚くであろう。

 身を(すく)めて、地べたにうずくまる。

 痛みで声が出ないのか振り絞るようにして叫ぶ。


「体が…なんが……おがじいよぅ」


 僕はただただ見るしかない。この体で生きていくなら避けては通れない道だ。なんとか耐えて克服してもらうしかない。


「おなかが、イタ……イ……」


 真っ先に変化したのが胴体だった。急激に伸び始め、2人更衣するだけで精一杯の部屋が一気に埋め尽くされる。僕は立つ場所が部屋の隅っこだけになったので、飛んで見下ろして一の様子を見ることにした。

 服は当然弾け飛び、肌からは海のように青い鱗が覗く。お腹はすでに空色の蛇腹と化している。

 地面を這い、長い体をくねらせてもがき苦しむ一。表情はまるで人間が超高熱を出したかのよう。何度も弱々しく呼吸をする様は、苦しさを物語る。

 頭以外の変化が終わると、ようやく体が動くようになったのかゆっくりうつ伏せになり、両肘と表膝で四つん這いの姿勢に。

 それと同時に顔の変化も起こる。バキバキと痛々しい音を立て、顔貌がだんだんと竜のそれになっていく。

 あまりの痛みに耐えられず、顔を天に向けて悲痛の叫びをあげる。


「ううぅぅ、ああああああアアアアアアッッ!!」


 叫び声とともに声も水竜特有の甲高い咆哮へと変わっていく。これでようやく竜化が終了する。

 僕みたいに膜を覆ってないので、相当疲れたはずだ。おそらく100メートル全力疾走した後のようなだるさがするだろう。もちろん人間の尺度でだけど。

 一はよろめきながらなんとか立とうとする。想像以上に長い体で天井に頭をぶつけるのは言うまでも無い。


「痛っ…くはないけど角が刺さって抜けない。抜いて大地」


 水竜は腕や足が短く、頭は首を曲げないと届かない。


「はいよ」


 察した僕は一の角を両方とも掴み、手前に引いて抜いてあげた。


「取り敢えず外に出ようか、こっち」


 僕は先頭に立ち、手招きで誘導する。


「うぅ、やっぱり歩き辛いよ」


 天井に頭をぶつけないように姿勢を低くしながらふらふら歩く一。そもそも水竜は歩行に適した体つきになっていない。早く飛び方を教えねば。

 玄関のドアを開け、外へ出るとそこはいつもの赤い世界。清々しいほどに赤一色に染め上げられている。

 初めて炎竜の世界を見た一は感嘆する。


「はぇ〜、あたり赤一色だね」


 一のそんな言葉をよそに僕は早速一に指示をする。


「それじゃあ(はじめ)、飛んでみて。ダメもとでもいいから」


「わ、分かった」


 そう言って足を曲げて跳躍の準備をする。その瞬間、僕の目の前で轟音、暴風とともに一瞬で消える一。速すぎて目で追うことは叶わなかったが、上に行ったことは明白だった。

 僕は翼を羽ばたいて急いで追いかける。

 しばらくすると細長く青い形が見えた。それを僕は下から支えるように体を運んだ。うなだれた顔の目を見てみると目が白眼を向いており、気絶しているのかまるで力が入ってない。僕は一の意識が戻るまでアドニスの元へ向かう事にした。

 飛び続けること数十分。青い空間が見え始めた。水竜達の生息域に入ろうとしている。その時、後ろの方で尻尾がピクリと反応する。

 一の目に虚ろだが活気が戻ってきた。まだ失神前の感覚なのか意識は朦朧としていてうなされている。


「う〜ん、たかい、たかいよ……」


 眼を覚ますために、顔の横を手の甲で叩いて喝を入れる。


「う……、ここは、あ、あ!高い!助けて大地!」


 パニック状態に陥った一は、両手両足で僕の体をつかんだ後、長い体で巻きついてきた。

 飛ぶ時のバランスが崩れないよう背負っていたが、こうなってしまうとバランスもクソもない。高度が下がりつつある今僕も焦る。


「ちょっと(はじめ)落ち着いて、落ちちゃう」


「う、ううぅぅ〜」


 一は聞く耳を持たず、落ちまいとばかりに僕にしっかりしがみつく。僕は止むを得ずこの青い地面に着地する。


「はい、降りたよ。もう高くない」


 一は目を瞑りしがみつく力を弱めない。

 仕方なく僕は僕の足元にある一の尻尾を掴み、玩具の独楽(こま)を回す時みたいに、掴んでいる尻尾を紐の先端だと思って一気に引っ張った。すると回転とともに一の体は離れ、僕は回転を利用して一を大きく振り回して、地面へ叩きつけた。衝撃であたりに煙が舞う。


「ぐへっ!?」


 地面に叩きつけられた一は、うつ伏せになって伸びる。両手を使って上体を起こすと首を真逆に捻らせて声を上げる。


「ちょっと大地、扱いひどすぎない!?」


 僕は何事もなかったかのように平気な顔をして続ける。


「でもこれで地面だって分かったでしょ?」


「それはそうだけど……」


 僕の乾いた態度にわかりやすく気を落とす。

 僕は一が俯いている間に距離を縮めて手を差し伸べる。


「ほら立って。多分あともうちょっとだから」


 一の繊細な手を掴みグッと持ち上げる。すると一の体が上空へ引っ張られるように宙を舞う。力はほとんど入れてないのにだ。


「うわわっ!?」


 僕は右腕を薙いでから飛んでいかないようにしっかり踏ん張った。しばらくすると浮遊感もなくなりゆっくり足をつけて着地する。


「こ、怖かった〜」


 一は安堵する。表情もどこか和らいだ。

 僕は早々に切り替えて一に歩くことを促す。


「それじゃ、行こうか」


「うん」


 見つめあった二匹の竜はこの青い大地を歩み始めた。


 数分後、洋風の繁華街が視界に入る。一は常に酔っ払ったおじさんのようにフラフラ歩いていた。一曰く、竹馬の片方だけで立っているような気分らしい。僕はそんなことしたことないが、とにかく歩き辛いということは伝わった。

 現在は僕が一を背負って歩いている。一は自分の不甲斐なさか頭を垂れながら申し訳なさそうに喋る。


「ごめんね大地飛べなくて」


「気にすることじゃないよ。高いところが怖いのはそりゃ当然だよね。あ、ほら着いたよ」


 歩いた先には巨大な宮殿。飛び越えればいいのに大きい鉄の門を両開きにして開ける。

 竜神特有の気配を感知し、左のほうを向いてみる。するとビーチチェアのような椅子に仰向けで寝転ぶアドニスがいた。気配もそうだがなぜそう判断できるかというと、竜には特有のフェロモンみたいなのがあるらしく、姿にほとんど違いがなくても識別できる。


「こんにちはアドニスさん。今何してるんです?」


 この機会にコミュニケーションを取ろうと何かしら話しかけてみる。


「いや何もしてませんね。寧ろ何もすることがなくて暇です。人間界のテレビは見飽きちゃいましたし、とにかくすることがないです」


 アドニスはこちらを一切見向きもせず、まるで用意された台詞のように棒読みで話返した。それほど四六時中暇という事だろうか。

 僕はアドニスに控えめな感じで言う。


「そんな暇なアドニスにちょっと相談があるんだけど」


「なんですか」


「水竜ってどうやって飛ぶの?」


 アドニスはちょっとだけ興味を示したが、すぐ無気力な調子に戻った。


「水竜はずっと飛んでますよ」


「けど現に飛べないのここにいますけど」


 僕は一を下ろし頑張って立たせた。二匹の目が合うと息を揃えて言った。


「「あーーっ!あなたは!」」


 一は僕の方へ向き嬉しそうに喋る。


「このひ…、じゃなくてこの竜、僕の面倒よく見てくれた竜だよ!」


 続けてアドニスも僕に向かって喋る。


「この水竜よく私が面倒見た竜ですよ!飛べない水竜だったので結構有名でしたよ」


 意外な関係がわかったことにより僕も驚いた。

 アドニスはこれについて考えていた時期があるらしく、宮殿の中へ案内され、地下の書庫へたどりつく。

 手が届かない高さにある本をアドニスは飛んで手に取り、渡す際僕に話しかける。


「この本は水竜についてより細かく記述してある最古の本です。私なりに考えては見たんですけど、おそらく飛べないのは、飛ぶイメージ、もしくは飛ぶ気がないのだと思いました。そもそも人間から竜に転生する自体珍しいですからね。とりあえずどうぞ」


 僕は言われるがままに手に取った。本はもらったものの鉤爪が邪魔してめくれないことはすぐに悟った。

 手に取った本を持っておどおどしていると、アドニスが状況を理解してくれた。


「大丈夫ですよ。その本は竜力を使ってめくることが出来ます。あなたの鉤爪があろうと関係ないです」


 随分と丁寧に説明してくれるアドニス。説明し終わると僕と一を残し、上へと飛んで行った。

 早速本を読もうと椅子と机がセットになっている場所に座る。椅子や机は木製で残念ながら人間界の模倣物だったので、座りづらいことこの上ない。竜力を使ってひらひらとめくり始める。本に竜力が作用し、赤く照る。


 一通り目を通してみた。もうすでに知っているようなことばかりだったが、一つ興味深いことが見つかった。どうやら水竜の鱗には受ける空気抵抗や水の抵抗を自動で調節する機能があるらしい。早く飛べる理由も納得だ。

 とにかく、水竜は飛べるという事実は確定した。あとは、一次第の問題だ。空を飛ぶイメージを付けてもらわねば。

 僕は本を元の場所に戻し、宮殿を後にする。


「それで大地どうするの?飛ぶ練習でもする?」


 後ろから首を傾げて話し掛けてくる一。


「いや、一は先に戻ってて。僕はここに残ってやることやるよ。人間界の扉は僕が開くから」


 僕はいつも通り空に竜文字を書いた後唱えた。


「それじゃあ僕は先に戻ってるね」


 淡く赤い輪に入って行く一。僕は別れの挨拶くらいは言わなきゃいけないと思った。扉が閉じた後、独り言のように呟いた。


「さようなら、一、みんな」


 僕はもう2度と会えないような口ぶりで言うのだった。



ここまで読んでいただきありがとうございました!ではまた。

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