完璧主義
第62話です!今回は物語的にほとんど進みません。番外編だと思ってください。
それではどうぞ!
『それでは失礼します』
わざわざ出入り口の扉船まで迎えに来てくれる佐々木に、頭をぺこりと下げて礼をする。
「そんなに礼儀正しくしなくていいっての。首疲れたからさっさと行ってくれ」
講習中ずっと上を向いて話していた佐々木の首は、限界を迎えていた。時折頭の後ろに両手を組み支えている。
『さようなら』
僕は水泳選手のように海の中へ飛び込んだ。そのままイルカの如く体をくねくねさせて一気に泳ぐ。
竜の体は空が楽に飛べるように、空気抵抗を極力受けないような体つきになっている。それは水中でも同じらしく、水の抵抗をほとんど受けない。ので泳ぐにしても、どの生物よりも速い。本当に水の中かと思うくらいだ。
僕は残像みたく通り過ぎる景色を眺め、広いようで狭いこの海の中を駆ける。
一方でぼくの入れ違いで帰ってきた2人がいた。2人はそれぞれ扉に向かって右腕を差し出した。
モニタールームにいる先生はモニターに顔を近づけ、注意深く見た。
「4035と3917……よし、佐々木開けていいぞ」
「りょーかい」
佐々木は赤いハンドルのようなものを時計回りに回し、扉を開けて2人を引き上げた。
2人はガチャガチャとつけている装備を外し、顔が露わになったところで一息つく。
「お〜、おかえり2人とも。物資調達お疲れ様」
2人のうち小柄な方がフィンを取ると、青ざめた表情で佐々木に向けて怒鳴った。
「ちょっと!さっきとんでもない速さの魚雷見たんだけど!?あれここから発射したよね?て言うかいつのまにあんなの作った!?まさか暇潰しで発射したとか無いでしょうね」
マシンガンのように繰り出される怒号と共にずいずいと近寄る。
佐々木は小さく両手を胸の前に出し、参ったとばかりに弱りきった表情をする。
「まぁまぁ、これには訳が…」
「もし潜水艦の魚雷探知機に引っかかったらどうするの!?ここから発射したってバレちゃうよ!?」
「いや引っかからんよ、そもそも魚雷じゃ無いし」
「は!?」
顔に入れていた力が抜け驚いてきょとんとする。
「まぁ、取り敢えずあっちの部屋でシャワー浴びて着替えて来なよ。洗いざらい全部言ってやる」
「仕方ない……先に着替えてくる」
いきなり態度が急変したことにより、佐々木は曖昧な感情を抱く。
「絵心も着替えに行ったら?ちょっと喧嘩気味になってすまんな」
「うん」
佐々木は頭を軽く叩いて安心させようとしたが、どこか不安げな表情だ。着替えをずるずると引きずってシャワールームへと入って行った。
30代でしかも男性とは思えぬ可憐な顔は老若男女問わず魅了する。佐々木も例外では無い。仕草もどこかシャイな女の子っぽい。
数十分後…2人は普段着に着替え、先生こと日向は歓迎をする。
「おかえり綴に絵心。調達お疲れ様!いつも任せて悪いな!」
綴は安堵した様子で答える。
「何言ってんですか。先生が俺らの帰路を確保しているからこっちだってめんどくさくても安心していけるんですよ」
「まぁな、戦艦や船などの探知機の電波を完全に阻害するよう、俺が特殊な電波を作ったからな。レーダーにはフェイクのサインが出るようにしてるし何も心配することはない」
(また長い説明が始まる)
綴は心の中で思う。表では平然とした態度を取っているが、裏では、泳いで心底疲れ果てたからさっさと休ませてほしいと言った心境だった。
綴は話を早く終わらせるため、単刀直入に聞いた。
いつにも増して真剣な表情で訴える。
「先生、今日何があったんですか?」
この話題を切り出した途端、話が終わり先生の目つきも変わる。
「やはり気になるか。それじゃみんな一旦集まろうか」
そう言って5人は僕と会話をしたソファーの周りに集まった。
先生と佐々木は2人に事情を説明する。綴と絵心は僕の訪問について全く知らなかったので余計混乱した。
だが天才的な頭脳でありえない状況も瞬時に把握する。
「……で、とまぁこんなことがあった訳だ」
一通り説明がし終わった。説明が長くなりすぎないように、佐々木のフォローも完璧であった。
ここで何かが引っかかった綴は顎に手を当て考え事をする。
「その竜人とやらは、これだけめちゃくちゃやるんだから少なからず目立つと思うんですけど」
先生は落ち着いて対処する。
「いや、その点については大丈夫だ。あいつのために俺が特別に全世界の探知機を無効化した。わずか数秒だがあいつの移動スピードは瞬間移動そのもの。俺らと関わった痕跡もほぼゼロだ」
言い終わると大きなため息を吐き捨て、ぎこちない様子で話し続ける。
「しかし、大胆すぎる行動故にちょっと危機感を持った。まぁ、食料とかだいぶ持つし、しばらくは安静にしよう。細かなことは俺がなんとかする」
頼り無げな態度や言葉だが、その奥に垣間見えるのは絶対的自信。自分がなんとかするという責任感が感じられる。
これがあるからこそ4人に負荷がかからずのびのび生活できるのだ。
「ちょっとみんなはここで遊んでてくれ。俺はちょっと色々いじってくる」
そう言ってまたモニタールームへと入って行く。
「遊ぶって言われても、俺筋トレしかすることないしなぁ。なぁ快斗、物資の中何かなかったか?」
話が終わるや否や、物資が入った箱をまさぐる快斗。
「おっ!今CMでやってる有名なゲーム機とソフトまであるじゃないか!4人でできるから今からやろうぜ」
早速大きくて立派なテレビを裏返し、コードを繋いでいく。
「4人対戦の乱闘系ゲームか。快斗はともかく綴には勝てないな」
ゲームソフトのパッケージを見ながら佐々木は無邪気にそう言った。
「うるさいなぁもう。お前だって最強AI並みの反射神経してるくせに。そうだ、絵心もやるか?」
最初は褒めてるが嫌みっぽく言って、絵心に対してはとても優しい口調だ。
「うん、やる!」
「ふふふ、全国大会出場の力を見せてやる」
早速両手でコントローラーを握る2人。
「じゃあ、遊ぼうか!電源入れるよ」
快斗は本体の電源を入れた。
僕はインド洋を渡りあっという間に日本列島へ到着。海面へ浮上するとともに、泳ぎから飛行へと移動手段を変える。
空の旅を満喫し、自宅へ帰ってきた。また新たな気持ちを抱いて。着地と同時に竜化を解除して走って玄関へと向かう。
引いてドアを開けると、元気な声で帰ったことを靴を脱ぎながら合図する。
「ただいま〜!」
「おかえり大地。結構遅かったね」
玄関まで迎えにきてくれる一。一から先ほど連絡があって、やることは全て終わらせたようだ。証拠にリビングにある机の上に、数枚の書類が散らばっているのが見えた。
一には待機してもらうように言って、僕はすぐ風呂場へ行き、服を脱いで洗濯機の中へぶち込んだ。
海水特有の臭いを洗って落とし、出たあと体を拭き私服に着替えた。
裸を見せないように閉めていた扉を開ける。なんと目の前には一がいた。いきなりばったり会って動揺する。
「それで、これからどうするの?」
首を傾げて尋ねてきた。
「あぁ、まだ言ってなかったね。今から行くよ、竜界に!」
僕はあらかじめ竜文字で作った扉を起動させる。そこにはいつもの赤く光る輪。赤い煙のもやもやに包まれて先は見えない。
僕は一の手を取り進もうとしたが、一の顰めた表情が気になった。
「どうしたの?やっぱり不安?」
一旦歩みを止め後ろを気にする。
「そうだね。まだ色々と整理ができてないんだ。けど」
一は顔を上げてより強く繋いだ手を握りしめる。
「大地と一緒なら行けそうな気がする」
僕は今まで一度も他人に見せたことがない、満面の笑みを見せた。
「ならきっと大丈夫さ。2人なら」
2匹は一緒に扉をくぐる。
ここまで読んでいただきありがとうございました!ではまた。
5人一気に出て混乱したと思うので一応設定を添えときます。
先生
白崎 日向
しらさき ひゅうが
180cm、メガネ、イケメン。逆立ちしながら牛乳が飲める。IQ149
K
白崎 快斗
しろざき かいと
173cm、先生と苗字の漢字が同じで意気投合。イケメン、元ヤンキー。世界がつまらなくなってグレた。先生をきっかけに更生を誓う。IQ153
S
千原 綴
せんばら つづる
168cm、小柄、細身、サラサラヘアー。特に特徴的な事は無し。IQ150
2S
椎名 絵心
しいな えころ
179cm、細身、絵が上手い、何度もコンクールで優勝。IQ148
J
佐々木 刃
ささき じん
183cm、筋肉の塊、髪ボサボサゴワゴワ、一閃の刃の異名を持つ。極度のアヒルのくちばしフェチ。IQ136
年齢はみんな30代で、先生は後半、他4人は前半。




