竜力の極意
59話です!程よい長さです!あと若干のTFありです。TFとはtransform(変身)と思われることが多いですが、transferの方がメジャーで、主に変身過程を示すものです。
だから登場人物が「変身!」とか言ってポンと変わるわけではなく、喘ぎ声ありの生々しい変身がこの小説では使われています。
長くなりました。それではどうぞ!
気持ちに整理がついた後、ようやく周りを確認する。テレビの上にある壁掛け時計を見ると、現在午後9時ごろを指していた。裏の僕との会話で相当時間が経っていたようだ。
この時間だと真っ暗な筈なのだが、なぜか時計の針が見えた。なぜなら今の僕は全てが淡い赤色に見えるからだ。鮮明とまではいかないものの、ある程度は視認できる。赤いものとかおそらく見えないだろう。
電気代が浮いてラッキーと思いつつも、更に人外な特徴が増えることに、少し優越感を感じた。
外見がどうなってるのか気になるので、手洗い場の鏡に顔を覗き込む。案の定、目は淡い赤色に光っており、黒の瞳孔が縦長に裂けている。いつも竜化した後の目と同じだ。
鏡の中の自分の顔を見つめていると、何かを思い出した。階段を使って2階に上がり、勉強の邪魔になると思い、こっそりドアを開けて部屋の中を確認する。
そこには教材やノートが開きっぱなしで、その上に伏せて寝ている一がいた。ライトスタンドも光りっぱなしだ。きっと疲れて寝たのだろう。
「おやすみ、一」
まだ夜でも暖かい時期だが、一言告げて毛布を一枚背中にそっとかけてやった。机が少し濡れていたことは気に掛けなかった。
僕にはまだやるべきことがたくさんある。まずはこの竜力について、だ。未だにこの力については未知数だ。イメージしたら具現化するぐらいしか知らない。あとは制御の仕方とか。
僕は1階に降り、パチっとボタンを押し電気をつける。この目のままだと、目が急激に乾いてしまい、ヒリヒリするからだ。それに色がもっと見たい。
台所へ行き、ガラス製の食器を見てイメージする。
(動け動け)
と。だがやはり動かない。今度は軽くなるようイメージしてみる。重さ的にはプラスチック程だ。
見た目には変化はない。透き通った色のままだ。手にとって確認してみる。すると本当に軽くなった。これが成功して嬉しかったのか、更なる好奇心を抱く。
今度は軽くなった食器を高いところから落としてみる。僕はつま先立ちをして腕を上げ、より高いところから落としてみる。もちろんガラス製なのは知っている。
すると落ちた食器はポーンポーンと数回跳ね、ピタリと止まった。
最後に僕の腰ほどの高さにあるキッチンに(瞬間)移動させてみる。食器とキッチンの上を交互に見ながらイメージする。だが予想に反してこれはできなかった。
この現象を元に僕は顎に手を当て、「程よく」考える。
まずこの竜力は、念動力のような力はない事。その代わり対象の特性や特徴を、イメージの範囲内なら変えることが出来る。尚、特徴など変えた対象は動かすことはできない。
しかし竜力で生成したものは自在に操れる。例えば剣とかだ。自分の周りに纏わせたり、5本集めて空中で星型にしたりできる。
僕は息つく暇もなく、次の検証に移る。そのためにはまず竜化しなければならないので、玄関を静かに開けて外へ出る。真っ暗な夜も街灯のお陰でうっすら明るい。
「ぐっ、ぅぅうううあああっっ!!」
胸元に溜まったエネルギーを一気に解き放つと、僕の体はみるみるうちに人間からかけ離れていく。
肥大していく身体。内側から湧き出る凄まじい力をひしひしと感じる。
「ハァ…ハァ、フゥ、グァ!(よし!)」
変化した両手を眺めた後、目的地まで飛んで行く。
その場所とは火山だ。この体の耐久力をテストをしようと思った。ボコボコと煮えたぎる溶岩を生で見るのは初めてだ。
観測用の監視カメラを壊し、接近してみる。溶岩に足を伸ばせば当たる位置まで近づいてみた。まだ全然熱くない。
これから飛び込むと思うと、正直言ってこの体でも怖い。いや、きっと大丈夫なはずだ。そう自分に言い聞かせ勇気を振り絞って飛び込んでみる。
ドロドロのせいか底なし沼にでも入っているかのよう。なんと熱くない!むしろ暖かい!
常軌を逸した状況にどういう反応をしたらいいか困る。少々の間、この溶岩風呂を満喫する。
出ようとしたその時、急に下から大きな気泡が出始め、急な揺れを感じる。この感じはまさか……
溶岩が一気に上昇し、体が持ち上がる。噴火だ。僕が入ったことで、なんらかの影響を与えてしまったのだろう。
上へ運ばれる中、必死に解決策を探る。目を瞑り、腕組みしながら考える。真っ先に思いついたのは溶岩が外へ出ないように、噴火口に友達に付けたあのバリアで蓋をする。が、そんなことしたら横から破裂して漏れる可能性がある。念動力は効かないし、溶岩を冷ますなんてこともイメージできない。ぼくは必死に頭を悩ます。
「ガッ!(あっ!)」
何かを閃いた僕は早速実行に移す。いち早く火口から脱し、正面の何もない空間に竜文字で書いていく。
(開け!)
右腕を突き出し竜界への扉を開く。
そう、噴火口を竜界へ続く扉で蓋をしたのだ。扉を開けた後、「僕」が目立たないように身を隠す。
人間界でこの姿が公になったら大変だ。いや、大変なんてもんじゃない。とんでもない、未曾有の何かが起こるはずだ。説明しきれないほどの何かが。
僕は翼を少し折りたたみ、噴火口の近くにゆっくり下降する。長めの首を折り曲げ、横から覗く。溶岩の噴出は止まったようだ。
扉を閉じようとしたその時、僕の耳がピクッと反応する。すぐさま後ろを振り返り確認する。
音の大きさからすると、数km程遠い所からヘリコプターの音がする。監視カメラは壊したはずだが、噴火の際の揺れや轟音で様子を見に来たのだろう。むしろ監視カメラが機能しなかったから、様子を見に来たのかもしれない。
この事態に僕もゆっくりしている状況ではない。早々に扉を閉じ、足跡などのありとあらゆる痕跡を消す。そして火山の周りを飛び回り、最終確認をしてこの場を去った。
帰る途中、よくよく考えてみれば時間の無駄に過ぎなかったことに気づく。そもそも竜には地球を破壊できるほどのエネルギーが体内にためてある。だからそれに耐えうる構造の体になっているはずだ。溶岩「如き」耐えられなくてどうするんだ、と考えた。
僕も僕でだいぶ価値観が変わったと実感する。高が溶岩なんて思ってる時点で、常識からかけ離れすぎている。つい自分を見失いそうになる。
考え事がエスカレートしていく中、真っ暗な闇夜がじわじわと明け始める。こんな高所から日の出を見るのは初めてだ。
この何とも言えない美しさに目を奪われる。僕は徐々に上がる太陽を眺め続けるのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!ではまた。




