果ての先
57話です!大変長らくお待たせしました!書かないといけないことが多過ぎてめっちゃ長くなりました!それではどうぞ!
僕は群がる人たちを押し退けて進み、一を取り囲んでいる人たちをキッと睨む。
「いいからあなた達も早くどいてください」
正直に従い、渋々歩いてどいてくれる人もいたが、僕の唐突な命令に納得いかないのか、5人のうちの1人が反論する。
「いきなりどいてとはどういうつもりだ?俺はこの子を退けるのに忙しいんだ。こっちの事情も考えてくれ」
そう言われた僕は鬼の形相ならず、竜の形相でさっきより一層強く睨み、威圧した。
「いいから!」
「……う!?」
男性は蛇に睨まれた蛙のように、ビクッとした後立ち尽くす。
そしてすぐに僕は歩みを再開した。それと同時に、男性も少しずつ後ずさりしていく。
『一は何もしなくていいからね』
『う、うん』
僕は近寄りしゃがんだ。すると男性はゆっくり頭をあげ、こちらを見つめて苦し紛れに言い放つ。
「これは、お前の仕業か。一体俺が何をしたっていうんだ」
「おや、その言いようだとまるで『俺が何かしたからこうなった』という風に聞こえますが」
「…………」
「まぁいいでしょう。しらを切るならそれはそれで結構です。証拠を突きつければ認めざるを得ないでしょうから」
僕はそう言った後、指紋がつかないように一からハンカチごと、リュックサックのようなものを取り上げ、中身を漁る。
そして出てきたのは縄とガムテープと、細かく分かれた鉄の棒3つと直角に折れ曲がった棒2つ。そしてピンク色の煌びやかな財布。あるものが足りないがもう決定的だろう。
「これらが揃っててもまだ知らないふりができますか?」
「それらがどうしたっていうんだ?俺はなぁ、仕事帰りなんだよ。帰ってやらないといけないことがあるからお前こそどけよ。というかさっさとこのガキ退けてくれ」
「それじゃあこのメルヘンチックな財布は?どう見ても男性が普段持ち歩くように見えないのですが」
「それは俺の立派な趣味でもある。人は見かけによらないっていうだろ。決めつけてんじゃねぇよ」
言い終わったところで、僕はさっきの足りないものが見つかったので、首を後ろに捻り声を上げる。
「だってー。そこの青紫の清掃服着た人ー」
周囲の人々の視線が一点に集中する。そこには青紫の清掃服を着た人が立っていた。
見られるや否やその場から逃走してしまった。
僕は見逃さなかったのだ。こいつがゆっくり顔を上げる瞬間、目線が逸れた方向にあいつがいたのを。
さらにあの人はもう一個だいじなものを持っている。それもじきにわかることだ。何故なら……
「(くそっ、あいつとうとうやらかしやがったな!今まで完璧だったのに、まさかこんな形で壊されるとは。お前の巻き添えなんてごめんだぜ。先に撤退させてもらうぞ。ってこの音は!)」
逃げる途中、聞き覚えのある音がした。そう、パトカーのサイレンの音だ。騒ぎを見た人が通報したのだ。(動画を撮る人もいたけど)
入り口からだと鉢合わせして疑われる。かと言って反対側の入り口に行こうとすると、
「この人だかりは、この騒ぎで押し寄せたか。このままでは出られない!」
共犯者がおどおどしているとデパートの放送が流れる。
「皆さまその場を動かないでください!近頃、近辺で奇妙な事件が起こっています!皆さまの安全のためにも状況が落ち着くまで待機をお願いします!」
ここまで大体僕の予想通りに進んだ。放送が流れ終わった後僕は犯人に問い詰める。
「あなたは自分が使ったものを共犯の人に渡すつもりだった。だがあなたは尾行に気がつき、バレない程度のものだけ渡した。それは……」
言いかける途中で犯人が話し出す。
「あぁーー!もう分かった!降参だ。俺は潔いタイプなんでね。負けると分かったら諦めるさ。なんでもお見通しってわけか」
「思ったより正直で助かります。それでは」
僕は一瞬で共犯の人と被害者の女性を持ってくる。一にとって僕の一瞬は普通の動きらしく、しっかりと目が追いついていた。その証拠に押さえつけていた犯人からすぐどいてくれた。
「うおっ!?いきなり目の前が変わったと思ったら、なんだこりゃあ!?」
「あれっ?私スマホいじってたのに、ってあぁ〜!この人です!私を拉致したの!」
2人を連れてくると同時に犯人2人を縄で縛った。女性は随分軽いノリで喋る。
案の定清掃員の服を着てる方から、芳醇な香りがする。おそらく香水だろう。そして発見した折りたたみ式の清掃中と書かれた看板。証拠を全て集めて一箇所にまとめておく。
「よし、一行こう。警察が来るとめんどくさいことになる」
「どうやって見つからずにいくの?」
「見えない速さで動くんだよ。警察にはちょっと強い風が吹いたと思ってくれるさ」
「そ、そうかなぁ?(そっちの方がますます疑われそうなんだけど……)」
『聞こえてるよ』
『そうだった』
その前に僕は被害者の女性に聞きたいことがあった。
「そういえばあなた、こんな緊急事態によくこんな冷静でいられますね」
「まぁ私、拉致されるの2回目ですから」
「そうだったのですか。それでは失礼します」
「待って!あなたは一体……消えちゃった」
右手を前に差し出すもすでに大地の姿はおらず、ふと女性は思う。
(世の中不思議なこともあるものね)
そして戻ってきた僕ら2人。とっくに制限時間は過ぎており、3人は外の近くの席に座っていた。周吾が右手を小さく振りながら迎えてくれた。
「おっ、おかえり〜大地。もうとっくに終わっちゃったぞ」
「分かってるよ。それよりここから脱出するよ」
脱出の準備を始めるが、啓介の様子がおかしい。さっきからずっと一点を見つめている。
「あぁ、ちょっと啓介食べ過ぎたみたいで、気持ち悪いそうだ」
「そうだったのか。ほら源ちゃん勉強道具しまって。行くよ」
「ちょっと待ってあともう一問だけ」
僕は源ちゃんを待ち、その間に飛び立つ準備をする。
「よし、じゃあみんな行くよ」
僕は空いている逆の方から一気に外へ飛び出し、空高く飛翔する。かなり雑な体勢で飛び立ったので、少しぐらついてしまった。だがすぐに尻尾を出し、バランスを保たせる。
「相変わらず高いなぁ〜!こんなの他じゃ味わえないぜ」
「うぅ、気持ち悪いぃぃ。なんで僕は相変わらず尻尾の方なんだ。一と変わってくれよ。飛べるでしょ?」
「いや、飛べなかった。というより正確には飛ぶ方法が分からなかったんだ。少しの間だから我慢してて。ごめんね」
源ちゃんは僕の背中の上であぐらをかき、話しかける。
「大地っていつも、他人のためにしか使わないよな。もっと自分のためにその力使わないの?」
「使ってるよ。けど小さい事にしか使わないね。それについては考えておこう」
「しっかし今日は大変だったな〜。最近変なこと起こり過ぎて気が狂うぜ。偶然とは怖いなぁ」
ここで僕は気になった。これは偶然なんかじゃないってことに。今日のは僕が気づかなければ、確実にあの女性は気づかれず、夜まで待ちぼうけを食らっていたはずだ。
つまり犯罪は知らないところで頻発しているという事だ。
そんなことを考えながらいつも通りみんなを送る。
僕が自宅に帰ったのは昼頃だった。
家に入ったあと一がやれやれと行った感じで話す。
「結局僕は大地に振り回されるだけだったね」
「そ、そんなことないよ!命令通り動いてくれて助かったよ。多分」
「ほんと正直なんだから。僕は勉強するから邪魔しないでね」
そう行ったあと、カバンを持って二階に行ってしまった。そして僕はいつものようにリビングに仰向けで寝っ転がる。
僕はこの力を得て以来、何か倒す、何か守るということしか考えていなかった。使命や宿命だと思って結局自分は何もしてない。機械のようなものだ。もしこの物語が終わったら、全てが終わったら、どうなるのか。自分のために使うとしたら、この件を踏まえて……、そうだ、僕は……!
『おぉ、大地もうやめてくれ。我の頭が壊れそうじゃ』
『スカーレット!また久々に出てきたと思ったら、今日は何のよう?』
『我はお主の中にいるから、想いや気持ちを共有する。今のは何だ?ものすごい勢いで情報が流れてきおった。クッ、頭がジンジンするわ。さっさとその考え事をやめてくれ』
『悪かったよスカーレット。でも答えは出た。こんな先のことを見据えるのは馬鹿げてるとは思うけど、これが僕のやりたいことだ』
この世界を変えよう、誰一人として苦しむ人がいない、平和な世界に。
ここまで読んでいただきありがとうございました!ではまた。




