98 ゲリラライブ
俺の指は軽快に走り、白黒の鍵盤を軽やかに叩いていく。
「あっ! この曲知ってる!! アルトちゃんが教会の配給の時に小さい子に歌ってるやつだ!」
「え!? アルト……あんたピアノなんて一体どこで覚え……」
『クックゥ!!』
よかった。ピアノ弾くの10年ぶりだから覚えてるか微妙だったんだけど、なんとかなるな。
そう、実は俺はピアノが弾けるのだ。
俺の母親がピアノを弾くのが趣味で、小さい頃から母が楽しそうに弾くのを聞いて育ったのだ。
母は、気になった曲はクラシックから演歌、ジャズやロックまで片っ端からなんでも弾くため、選曲の幅が広かった。
ピアノ教室でも開かないかと周りから言われるも「他の人に教えるより、自分が好きに演奏したい」と言う、ちょっと変わり者でもあった。
そんな母の仕込みを幼い頃から受け、結構なんでも弾けるのだ。
ちなみに今弾いてるのは、トウモコロシを母に届けに行く途中で迷子になる女の子が出てくる、某ジ◯リ作品のオープニングの曲だ。
どうせ弾くなら、ソプラが楽しんでくれる曲がいいからね。
「わー、お姉ちゃんじょーずー!」
「ピアノ弾く人はじめてみたー」
「面白い曲〜♪」
弾いているうちに、近くにいたちびっ子が集まってきた。
俺も久しぶりのピアノで調子が良くなってきて、簡単な子供向けの曲を次々に弾いていった。
するとピアノの周りには、次々とちびっ子が集まってきて歌い出し、大合唱になってしまった。
演奏を止めようとしたミーシャもちびっ子パワーに押され、どんどんとピアノから遠ざけられ、今はピアノに群がるちびっ子達の周りを囲むギャラリーの中に収まっていた。
もちろんソプラは、俺の隣でちびっ子達とニコニコして歌っている。
はぁ……天使がここにいる……めちゃくちゃかわいい。
ただ、ピアノ弾きながら思ったんだけど……。
子供向けの曲ながら、ほぼ全ての子供が軒並み歌唱力高ぇ……その辺のちびっ子集めただけなのに、小さな合唱団と言っても差し障りねぇぞ……。
ナカフ……すげぇな……。
(だが、どーだムート? これが音楽ってもんだぜ!? わかったか!!)
ムートは俺の思ってる事がわかるので、心の中でドヤってみた。
『むむぅ、な……なかなか、やるではないか……』
ムートは俺の演奏による大合唱を頭の上で悔しそうに見渡している。
ふふん、そりゃそうだろう。年季が違うんだよ!! んなっははははははは!!
気分も良くなり、更に子供達のリクエストに応えようとしたら……。
「オラァ!! やめろやめろ!! しけた演奏してんじゃねぇ!!」
「あん?」
声のする方を見ると、酒瓶片手に酔っ払いのおっさんがふらふらとこっちに歩いてくる。
「みんな! こっちおいで!!」
『クックゥ!!』
すかさずソプラが、周りに集まっていたちびっ子達を集めて、ミーシャと一緒に危害が来ないようにかばった。
「ったく……さっきから聞いてりゃ……チャンチャンうるせぇんだよ!! ガキのお守りなら他所でやれ!! この貧乏教会どもがぁ!!」
酒臭い息と唾を吐き散らしながら、おっさんが俺に絡んでくる。
ミーシャの教会が貧乏なのは、あってるかもしれないけどさぁ……それとこれとは関係ないよね?
「自由に弾けるピアノなんだから誰が弾いてもいいだろ!? 耳障りなら、あっちいって好きな音楽聞いてりゃいいじゃん」
「黙れクソガキ!! このピアノをその辺のガラクタ楽器と同じにすんじゃねぇ!! ……このピアノはなぁ、選ばれた者だけが弾く事が許される特別なピアノなんだ!!」
そう言っておっさんは俺にヤンキーのように、顔を近づけてすごんできた。
酒臭っ!! こっちくんな!!
「いいか? クソガキ!! このピアノには魔石が練りこまれた特殊な塗料が使われていて、奏者の魔力と演奏技術に応じて光り輝く特別なピアノなんだ。
例え魔力があっても演奏がヘボならダメ、魔力が弱くても演奏が素晴らしければ、それ相応の反応が見た目でわかる素晴らしいピアノなんだ!」
へぇ、そんな技術が組み込まれている楽器なんだ。……ちょっと光らせてみたい。
「つまり、このピアノを光らせる事も出来ないヘボはこのピアノを弾く資格すらねぇんだよ! わかったら、さっさとピアノから離れやがれ!!」
おっさんが平手打ちを俺にかまそうとしてくるけど、俺はスウェイで軽くかわす。
ミーシャの稽古に比べればハエが止まっているようなもんだ。
「あぁん!? 避けんじゃねぇ!! 益々気にくわねぇガキだ!! さっさと、どけ!!」
「ちょっと!! 子供相手に何するの!! これ以上やると衛兵に……」
ミーシャが酔っ払いおっさんの前に、ずいっと出てくる。
「……テメェも黙ってろオカマがぁ!!」
「……っあ?」
あ、いかん。おっさんの態度にミーシャさんが軽くお切れになられました。
「えっ!? ミーシャ!? ダメだよ!? ちょっ!! アルトちゃーん!!」
ソプラが必死に止めようとするがミーシャとおっさんは一触即発な雰囲気で、ギャラリーも2人の間に入れず見守るだけだった。
いいぞミーシャ! やっちまえ! っとは思うけど、流石にミーシャが相手ではおっさんもタダじゃ済まないだろう。
しかたない……ここは穏便な解決策を披露しますか……。
まぁ、俺もこの酔っ払いには、ちょーっとカチンときたしね……。
そうして俺は、怒れるおっさんとミーシャを尻目にピアノに向き合った。
『ぬ? また何か弾くのか?』
「おう、よーく聞いてろよ?」
さっき少し弾いたから大分ピアノ感は取り戻してきた……とりあえず、学生時代に散々練習した、あの曲くらいならできるはずだ。
見せてやろう……俺の本気を!!
ジャジャーン!!!!!!
「「「「「「!?」」」」」」
俺は全身に肌がチリチリと弾ける程の魔力を漲らせ、両手をめいいっぱい使い、鍵盤に指を走らせた!!
「ぐぉ!? なんだ!? ピアノが急に!?」
「アルト!? ちょっ! やめ!!」
「すっごーい!! ビカビカに光ってるー!!」
「曲もカッコいいーー!!」
「なんだこの子!? こんな目も開けられないくらいに白く輝くピアノ演奏聞いた事無い!!」
「アルトちゃん、すっごーい!!」
突然始まった演奏にギャラリーも度肝ぬかれている!
そりゃそうだ、ピアノは鑑定魔石を触った時みたいにビカビカに輝いており、鍵盤を弾くたびにその強さを増していく!
今、俺が弾いている曲は……。
ビッグ〇リッヂの死闘!!!!
子供の時にハマった某ゲームの中の一曲だ!!
正直ピアノが光り過ぎていて鍵盤がよく見えない……でも体が、腕が、手が、指がこの曲を覚えている!!
「いいぞ! シスターの嬢ちゃん!!」
「すっごーい!! 眩しいーー!!」
「はっはっは!! こりゃすげぇ!!」
ギャラリーも俺の本気の演奏に大盛り上がりだ!!
『おぉ!! 凄いぞアルト!! この音はいい!! ……されど、どこか懐かしくもあるような? ……ん?』
頭の上のムートもノリノリである!
さぁ! 曲のラストまでもう少しだ!!
俺も久しぶりにこの曲を演奏してノリノリになってきた!
やっぱ演奏楽しぃなぁ!! 最高にハイってやつだぜ!!
そして、フィナーレに向け、更に魔力を……。
「やめんかー!!!!」
「ゴグフゥ!!!?」
「キャー!! アルトちゃーーん!!」
『クックゥーー!!!!』
頭上からミーシャの怒りの声と鈍器のような拳が打ち下ろされ、ソプラとクーちゃんの叫び声と共に、俺の久しぶりのゲリラライブは強制終了となったのだった。
ギルガメッシュ大好きです!!敵キャラなのに憎めない……そんなアイツが大好きな人は、仲間だと思います笑
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