96 またくるよ
「急げー!! 町を守るんだー!!」
「さっきの巨大キノコの魔獣はどこだ!?」
「おぉ!! セーユにタマリちゃん!! 無事だったか!!」
タマリちゃんが落ち着くまで待っている間に、ノーダのエルフ達が騒ぎ立てながら集まってきた。
「ん? なんだ?」
「町のエルフがいっぱいきたよぉ」
「みなさん……」
「うぅ……グス……みんなぁ……」
「グキュルル……うぅ、こんなお腹が空く火事現場は初めてだよ……」
『赤鎧……お主本当ブレぬな……』
どうやら話を聞くと、タマリちゃんのキノコの召喚獣の叫び声でエルフ達が起きる。
ショーユ蔵の火事の炎で真っ赤に照らされた巨体キノコを目の当たりにして大騒ぎ。
大急ぎでみんなを叩き起こし、討伐隊を組んでここに詰めかけたようだ。
「いやいやいや!! みなさん大丈夫でしたか!?」
丸刈り頭ファンキーエルフのシタージャさんが息を荒げてきてくれたので、事の成り行きと、タマリちゃんの召喚獣の事を説明した。
「ふーむ、なるほど……ショージョーさんがそんな事を……いやいやいや、実は前からこの人に都合の良い、おかしな事件がちょくちょく起こっていましてね……」
シタージャさんは訝しげに、縄で縛り上げられて気を失っているショージョーを睨む。
「しかし、証拠も目撃者もいなくて決定打となるものがなかったのですよ……でも今回の件でハッキリしました。
火事を起こした実行犯は逃げてしまいましたが、セーユさんやタマリちゃんの証言があればこの男を罰することができます。……早々に手が打てればよかったのですが、こんな事になってしまい申し訳ない」
シタージャさんが深々とお辞儀をするのを慌ててセーユさんが止めた。
「シタージャさんは悪くありません。どうか頭など下げないでください」
「ありがとう、だが悪事を見抜けなかった私にも責任はある。今からショージョーに洗いざらい取り調べをするので、明日また伺うとするよ……この男を捕らえよ」
「「はい!」」
シタージャさんの指示で、気を失っていたショージョーが簀巻にされ、連行されて行った。
集まってくれたエルフ達が、まだ燻っている火を消し、完全に消火をしてくれた。
消火したと思っても風が強いとまた燃え上がるから、火の後始末は大事だよね。
その後、ショーユ蔵はショージョーに金を出させて建て直しする事になった。
なので蔵の中にまだ生き残ってるショーユの麹菌の救出をキンちゃんに頼んだ。
すると、キンちゃんのかわいい鳴き声と共に、まとわりつくように麹菌が集まり、キンちゃんがちょっぴり大きくなった。
セーユさんもタマリちゃんも半信半疑だったが、やっとキンちゃんがショーユに宿る精霊と同じという事がわかったようだ。
シタージャさん達も一旦撤収し、俺たちはとりあえず家に戻り、朝が来るまで今後の事について話をした。
まず、タマリちゃんの召喚獣だけど、結構意思疎通ができるみたいで、こちらの意見にピョコピョコと反応してくれるようだった。
名前はみんなで色々出した結果、一番反応が良かった『キンちゃん』に決定した。
俺が薦めた『バクテリアン』のどこがダメだったんだろう……。
名前が決まった所でタマリちゃんが泣き疲れたのか、そのまま眠ってしまった。
セーユさんもタマリちゃんの寝顔を見ながら、感慨深い思いに浸っているようだった。
それほどタマリちゃんが置かれていた状況は辛かったのだろう……。
朝になり、シタージャさんがまた走って戻ってきた。
綺麗なフォームで走ってくる、袈裟姿の金髪坊主頭エルフは中々にシュールだった。
話を聞くと、ショージョーの悪事の数々がわかったと言う。
蔵を大きくする為に、他のショーユ蔵を盗賊が襲ったり。
ショーユの値を上げる為に、事故に見せかけて輸送している商人の荷車を崖から落としたり。
邪魔な奴は暗殺したりとやりたい放題だったらしい。
「酷いやつだったんだな……死ねばいいのに」
「アルトちゃん……一応、ターカ教のシスターなんだから、そんな事言っちゃダメだよぉ……」
「いやいやいや、アルトちゃん達には本当に感謝しきれません。これで救われるエルフがどれ程いる事か……改めて礼を言わせてほしい、ありがとう」
「「うわぁーー!! 頭上げて下さいーー!!」」
そして、シタージャさんとセーユさんとタマリちゃんで、今後のショーユ蔵の事を話し合った。
俺もここのショーユ蔵の専属契約の話もすると、シタージャさんはニコニコ顔で了承してくれた。
その日は蔵の後片付けなどを手伝って、次の日の朝にノーダを出る事になった。
「アルトちゃん! 準備できたよ!」
「うーもう少しキノコ食べたかったなぁ」
『我はそろそろ肉が食いたいのお』
「お前らは食欲以外の思い出はないのか?」
準備ができたので振り返ると、タマリちゃんが近寄ってきた。
「うー、もっといればいいのにぃ……」
「タマリ、迷惑かけないの」
タマリちゃんがふてくされ顔で俺の袖を掴み、行くなと最後の抵抗をみせる。
「あははは、またすぐにショーユの仕入れがてら遊びにくるよ。それにショージョーの悪事を王都に報告する仕事も、シタージャさんから依頼されたからね」
「むー……絶対だよ!! 絶対遊びに来てよ!!」
「うん! 約束する!」
そうして、タマリちゃんと指切りを交わしノーダを出るのだった。
王都へ戻り、デリバーさんへシタージャさんからの今回の経緯をしたためた手紙を渡すと、すぐに憲兵へ連絡してくれると言ってくれた。
その後、ハン・パナイ亭にも頼まれていたショーユと、ご主人のシジャさんが亡くなっていた事も伝えたら、サコさんはとても悲しそうにしていた。
それでも、セーユさんと娘のタマリちゃんが頑張ってショーユ作りを継承していると言うと。
「まぁ、セーユさんとタマリさんなら大丈夫か……」とニカッと笑ってくれた。
しかし、ここの話で一つ引っかかる事を口走るサコさん。
「タマリ……さん?」
なんでサコさんがタマリちゃんに「さん」つけなんだろうか? あんなに小さな女の子なのに……。
「ん? なんだ? お前ら聞かなかったのか? タマリさんはああ見えて、年齢は100超えてんだ。ショーユ作りも人から見れば超ベテランなんだぞ?」
…………。
「「「はぁあああああああ!!!?」」」
俺とソプラとターニャさんは顎が外れそうな程驚き、この旅1番の衝撃を耳にして家に帰ったのだった。
後日。
アルト「……という事だからショーユの売り買いの件よろしく」
ドーラ「いや……は?ちょとまてぇえええええい!?」
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