95 マイコニド
俺たちはとりあえず、目の前で寝ているターニャさんを叩き起こし、森に投げ飛ばしたソプラと合流した。
ソプラは最初こそ凄く怒っていたが、俺たちが無事だとわかると、すぐに無茶するなと心配してくれた。
本当、優しくていい子だよ……。
そして、ショーユ蔵に覆いかぶさっていた巨大キノコは火が消えると、空気が抜けたように縮んで、小さい手のひらサイズの可愛らしいキノコになってしまった。
蔵の中を見ると、所々に燃えた所や焦げてる所はあるけど何とか無事のようだった。
キノコはタマリちゃんの手の上でクネクネと動いて嬉しそうに見える。
「さっきのおっさんこのキノコがタマリちゃんの召喚獣って言ってたけど……タマリちゃん召喚失敗したって言ってたよね」
「そうなのよね……こんな召喚獣見たこともないし」
「うん……でも、この子凄く懐かしいというか、ずっとそばにいてくれたような安心感がするの……蔵を守ってくれてありがとうね」
タマリちゃんがキノコの召喚獣にお礼を言うと、手の上でピョコピョコと飛び跳ね、とても嬉しそうだ。
「でもこの可愛いキノコがあんなに大きいキノコだったなんてビックリだよぉ」
「…………じゅる」
「ターニャさん……その目をやめろ、食べれられないからね?」
三者三様の反応を見せていると、頭の上のムートが首を下ろしてきた。
『なんだ? お主達マイコニドを知らんのか?』
「ん? 何そのマイなんとかって?」
『マイコニド、要はキノコ系の魔物だ。普段はジッとして動かぬが、いざという時は周りの胞子を集めて襲いかかってくるのだ。たまに、我より大きな個体もいるな』
「ふーん、キノコ系の魔物かぁ。見た事ないなぁ……ターニャさんはある?」
魔物の事なら俺よりは詳しいだろう、ターニャさんに聞いてみた。
「一応あるけど、生活圏内ではまずいない。深い森の中とか洞窟とかの魔力が溜まりそうなところに、たまにいるくらいかな? 召喚獣として使役してるのは見た事ないね」
結構レアな召喚獣みたいだ。多分召喚した直後は菌の姿だったから見えなかったのかな?
それで召喚成功したけど、失敗したかのように見えたと……。
頭に生えてるキノコもそのせいだったのか。
「でも、どうしてキノコの召喚獣だったんだろう?」
疑問を口にするとタマリちゃんがしゃべりだした。
「わたし、召喚する時お父さんの役に立つ召喚獣がいい、って思いながら召喚したの……」
「それでキノコ……? 役に立つってショーユ作りにだよね? うーむ……あっ……もしかして菌か!?」
「「「「キン?」」」」
みんな不思議な顔して首を捻ってる。
そりゃそうだ。この世界は発酵食品はあっても菌の存在自体を知らないんだ。
「セーユさん、ショーユを作る時に一緒に炊いたお米入れない?」
「え? よく知ってるわね。ショーユを作る時には、ショーユを作る精霊様に食べてもらう為に、神聖な教会で作られた『コージ』というお米を入れるわ」
「やっぱりね……大雑把に言うと、そのコージに宿る精霊様がそこのキノコだよ」
「「「「えぇぇぇえええええええ!?」」」」
全員が驚いてマイコニドを凝視する。
「キノコは元々菌の集まり、コージの精霊様もショーユの麹菌と言う菌の仲間なのさ。まぁ、種類は違うかもしれないけど、括りは同じってとこかな」
みんなの目が点になってる。どう反応していいのか困ってるみたいだ。
「ショーユ作りを手伝う時とか、何か変わった事なかった?」
とりあえず、タマリちゃんに話を振ってみる。
「変わった事……っあ」
タマリちゃんが何か思い出した様に、顔を上げた。
「お父さんが言ってた……わたしがショーユ作りを手伝う時は『ショーユが喜んでる』って……」
すると召喚獣のマイコニドが、ぴこぴこと嬉しそうに反応する。
まるで、自分がやってたんだよ!と主張するかのように……。
「多分そのマイコニドが近づくと、ショーユの中の麹菌が反応してたんじゃないかな?」
「わたし……召喚失敗してたんじゃなかったんだ……う、うぅ……」
タマリちゃんの目からポロポロと大粒の涙が滴っていた。
「「タ、タマリちゃん!?」」
俺とソプラが泣き出したタマリちゃんに近づこうとしたら、横からスッとタマリちゃんを大きな腕が包んだ。
「タマリ……」
「うぅ……おがあ、ざん……」
セーユさんが優しくタマリちゃんを抱きしめる。
「うん……うん……よかったわね。もう、我慢しなくていいよ」
「ゔ……うわぁあああああん」
タマリちゃんの泣く声は、月明かりに照らされた森に吸い込まれるように響いたのだった。
今回ちょっと短くてすいません。
新作の執筆に時間を取られ……ゴホンゴホン。
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