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94 おっさん

『ぬう!? バカとはなんだ!? 意味はわからんが、とても愚弄してるような響きだぞ!?』


「んなこたどーでもいいんだよ! それより前!! 前!! 俺らは今襲われてんの!!」


 今しがた俺を殺そうとしてきたおっさんを指差して叫んだ!


『ぬ?』


 ムートが目線を送ると、おっさんはショートソードを折られた直後、すぐさま後ろに飛び退いて距離をとり、折れたショートソードをマジマジと見ていた。


「特注品のいい剣だったんだけどな……そいつが嬢ちゃんの召喚獣か……中々固えなぁ」


 おっさんは、どこか嬉しそうな目つきで、こちらを観察するかのように、ジッと目線を送ってくる。


 背中がゾワッとする嫌な感じだ……。


 こんなに距離が離れているのに喉元にナイフを当てられているような、生きている心地がしない感覚が襲ってくる。


 この目つきといい、さっきの一瞬で間合いを潰された跳躍といい、このおっさん只者じゃない……。


 ムートもそれがわかっているからなのか、頭の上でおっさんを見たままジッと動かない……。


 そんな硬直状態が2〜3秒ほど続いた時。


 フッと周りが暗くなり始めた。


 ショーユ蔵を見ると、巨大キノコが覆いかぶさって酸素の供給がなくなった為か、炎が弱まりつつあった。


 よし、蔵の火はなんとかなりそうだ。中が無事だといいけど……。


 それより今はタマリちゃんを狙っている、目の前のおっさんだ!


 俺も次はすぐに動けるように、入念に魔力を身体中に込めていく。


 その時……。


「おいおい! 火が消えちまうぞ! 早くあの気持ち悪いキノコを倒して、蔵を燃えかすにしろ! そして、そいつらを処分するんだ!! 金も払ったんだぞ!!」


「!?」


 急に茂みの中から声がして、そちらをふり向いた!


 そこには薄暗い中でもわかるブヨブヨした体型のおっさんが、怒鳴り散らしながらこちらに歩いてくる。


「ショージョーさん!?」


 俺の後ろでセーユさんが、驚きの声を上げる!


 ショージョー!? 昼間にショーユ蔵よこせ、とか言ってきたあのデブか!!


 それにさっきの言動……あいつがこのおっさんを雇って、ショーユ蔵に火をつけて俺たちを襲わせている張本人って訳か!?


「あー、出てこないでくれます?めんどくさいんで……」


「黙れ! 高い金払ったんだ! 仕事してもらわんと割に合わんわ! 早くやれ!」


 おっさんがめんどくさそうに頭をボリボリかく姿を見て怒るデブ。


 うん、なんか確定っぽいなこれ。


「ショージョーさん! どう言う事ですか!!」


 会話の内容で事情を察したセーユさんが、たまらずデブに問いただした。


「ふん! お前がさっさとこの場所を渡さないからだ!」


「えっ!?」

「そんな事で……」


 デブから動機を聞いたセーユさんとタマリちゃんが、驚愕の表情に染まる。


「貴様らはショーユ蔵と共に焼死してもらうんだ。そこへ、勇敢なワシがなんとか助けにきたが一足遅かった……と言う事にして村の奴らの同情を買い、この土地はワシが管理する寸法になっている!

 チンケな土地も譲らぬ強情なエルフが!! 早く死ね!!」


「あ゛ぁん!?ふっざけんなよ!! デブ!!」


 はい、ブチ切れました。このデブは何がなんでも……ぶっ潰す!!


 怒りで魔力がゴリゴリ練りあがっていく!!


 その魔力が体外にも溢れ出し、バチバチと雷が弾けるように可視化され、全身を覆って全身の毛が逆立つ!


 解放したらこの辺一帯、一瞬で更地になりそうな程に。


 それ程俺の怒りのボルテージは最高潮に上がりつつあった!


「えっ!? まっ魔力が見えてる!?」

「すっ……凄い……」


 後ろの2人が驚いているみたいだけど、ブチ切れてそれどころじゃない。


「あーあー、せっかく面白そうだったのに、興醒めだ……。嬢ちゃん運が良かったな、今日の所は引き上げるぜ」


「は?」


 襲いかかってきたおっさんは、やる気がなさそうに折れたショートソードを鞘に戻し、踵を返して手を振りながら森の方に歩いていく。


「おい! どこへ行く! さっさと殺せ!」


 デブが帰ろうとしているおっさんを引き止める。


「あー、何ですか? オレは確かに()()()()()()()()()()()()()よ? 普通はあれで全焼コースだが、そこの嬢ちゃん達が消火を頑張ったから全焼はまぬがれた。だだ、それだけだ」


 こっちも見ずに、それだけで言うとまた森に歩き出した。


「そんなの知った事か!! っち!! こんな腰抜けに依頼した、わしが馬鹿だったわ! 契約金は無し!! 裏社会には貴様の汚名が響き渡るだ……」


「……っあ?」


 ゾワッ!?


 おっさんの声が低くなり、半身だけ振り返ると周りの空気が不気味な魔力で満たされていく!


「ヒィィィイイイッ!?」


 ショージョーが魔力に当てられ、その場にヘタリ込む。


 セーユさんとタマリちゃんは、抱きしめ合いながら震えている。


「こんな護衛がいるなんて契約には無かったし、そこの嬢ちゃんの始末に関しては契約外だ……ましてや、今後のオレの楽しみを、おまえが潰すだと? その前にオレがお前を殺すぞ……」


「う……あぁ……」


 おっさんのドスの効いた声で、ショージョーが奥歯をガタガタ鳴らし、震え上がってそのまま泡吹いて気絶してしまった……。


 何という殺気……放っているのは魔力だけど、感じる物は殺気そのものだ……。


 今、このおっさんには近づいてはいけない……本当にヤバい……。


 少し冷静になりながらも歯を食いしばり、肌を刺すような魔力に当てられながら、おっさんの次の行動を観察する。


 チラッと足元を見ると、にやけ顔で寝ているターニャさんがいて、無性に腹ただしく思えた。


 そんな状態の俺を見て、おっさんは俺をみてニヤリと笑い、魔力の圧も無くなった。


「っま、そういう事だ。嬢ちゃんとは、また会うかもな。そのドラゴンの召喚獣、大事にしろよ……じゃあな。ピュィ!!」


 指笛を吹くと、森陰から大きなツノの生えたデカイ鹿が飛び出してきた!


 おっさんはその鹿とのすれ違いざまに、一瞬で背中に飛び乗り、そのまま風が吹いたように森の中に消えていった……。


 そして、蔵が残り火でパチパチと焼ける音がする中、一瞬の嵐が過ぎ去ったように静かな夜に戻った。


「助かった……のか……?」


 練り上げた魔力を霧散させると、ドッと汗が吹き出してきた……人の魔力の圧を浴びる訓練はミーシャともやったけど、あんな殺気のこもった魔力を浴びたのは初めてだった……。


『ふむ、去ったようだな……お主は大丈夫か?』


 ムートが真剣な目つきで俺を見てくる。


 正直、ムートが来なかったら俺はあのままショートソードでザックリ切られていただろう……。


「あぁ、助かったよムート……死んだかと思った。お前やっぱ強いんだな……剣を受けた所は平気か?」


『ふん、あの程度の剣撃で傷がつくほど、我の皮膚はやわくないわ』


 そう言って剣を受けたであろうシッポを、俺の目の前でフリフリと振って見せてきた。


 ショートソードが折れるほどの衝撃を受けても傷ひとつ無い、流石バハムートと言ったところだね。


 世の中には、金で雇われるあんな強いおっさんもいるのか……。


 また会うかもなって言ってたけど、勘弁してほしい……もう二度と会いたく無いよ。


 でも、なんかまた来そうだよなぁ……あれ、絶対俺っていうか、ムートをロックオンしてたもん。


 こりゃ、ターニャさんに守ってもらうばかりじゃいけないかもなぁ……。


「ア……アルトちゃん……」


「!?」


 振り返ると、涙ぐんで震えながらタマリちゃんが俺の心配をしてくれていたようだ。


「大丈夫2人とも!? とりあえず、もう安心してもいいと思うよ」


 俺は2人を安心させる為、しゃがみこんで背中をさすって落ち着かせる。


 あんな、殺気のこもった魔力を浴びたんだ。怖かっただろう……。


 俺はゆっくりと怯えさせないように、笑顔で背中をさすり続けた。


『アルトよ……』


 ムートがシッポでチョンチョンと頭をつついてくる。


「ん? ちょっと待って、今2人を落ち着かせてるから」


『のう、アルトよ』


 だけどムートは更にチョンチョンと頭や頰を突いてくる。


「あーもう! なんだよ!?」


 うざったいのでシッポを払いのけて、要件を聞いた。


『さっきから良い匂いがするのだが、あのデカイキノコは食べて良いのか!?』


「は?」


 ムートを見あげるとショーユ蔵に覆いかぶさっている巨大キノコを見ながら、よだれを垂らしていた。


 気がつくと、辺りにはショーユと巨体キノコの焦げた、香ばしい匂いが立ち込めていた。


「いいわけ、あるかぁ!!」

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