92 火事!!
「起きてアルトちゃん!!」
「んが!?」
夜中にソプラに叩き起こされた!
顔を見ると只事ではない表情をしていたので、頭の中が一気に覚醒し上体を起こす!
「どうしたソプラ!? 何があった!?」
「火事だよ!! ショーユ蔵が燃えてるの!!」
「なにぃ!?」
窓に駆け寄り確認すると、真っ赤な火柱を上げショーユ蔵が燃え上がっていた!!
「行くぞソプラ!!」
「うん!!」
俺とソプラは窓から飛び出して、蔵の消火に向かった!!
蔵の前ではすでにセーユさんと、タマリちゃんが消火に当たっていた!セーユさんは手桶で手前をの火を、タマリちゃんは水魔法で屋根の上へ水をかけている。
「セーユさん! タマリちゃん! 俺たちはどこから消せばいい!?」
「アルトちゃん、あっちお願い!!」
「助かるわ!! 火の手が一番早い森側に!! このままでは森にまで火がうつってしまうわ!!」
「了解!! ソプラ!!」
「うん!!」
蔵の森側に着くと森からの吹き下ろしの風で、火の勢いが増している! 炎の熱がジリジリと肌を刺し近づき難い!! 早く消火しないと!
タマリちゃんがやっていた様に、俺も水魔法で屋根に水をかけよう! 俺のは水量が多いから、一気に消火できるはずだ!!
「我が力の水面より矢となりて裁きを与えん、ウォータ……」
「ちょっと待ったぁ!!」
「ムグフゥ!?」
ソプラがいきなり口を塞ぎ、詠唱が遮断されてしまった。
「何するんだソプラ!!」
「アルトちゃん! 全力『玉魔法』はダメ!! 水の重みで蔵が潰れちゃう!!」
「あっ……」
たしかに、俺の水玉魔法は普通にやれば直径5mほどになる。こんな水の玉を蔵の上に落としたら、屋根ごと崩壊するか……ソプラは意外と冷静だったな。
あとさ、今玉魔法って言った? 違うよ? ウォーターアローだよ? ちょっと矢は丸みを帯びて、と言うかほぼ玉だけどさ……。
冷静になった俺は、出力を抑えてバレーボール大の水玉を作り、火の勢いが強い部分と、燃え移った森にポイポイと投げ込んでいく!
ソプラも水魔法で炎の勢いが強そうな奥の所をピンポイントで消火していく。
でも、火の勢いは強さを増して、古い木造のショーユ蔵は、見る見る炎に包まれていく!
「やばい! 火の勢いが止まらない! このままじゃ全焼だ!!」
そう俺が叫んだ時。
「ファイヤーランス!!」
「「!?」」
森の奥から一本のファイヤーランスが放たれ、ソプラへとせまる!!
咄嗟のことで体が反応できない!
ソプラも水魔法を使用しているため、身体強化が出来ず避けられない!
「ソプラァア!!」
「キャアァア!!」
バシュ!!
しかし、ファイヤーランスは直前で剣で切り裂かれ霧散した!
「危なかったね、ソプラちゃん!」
「ターニャさん!!」
ファイヤーランスを横薙ぎで払い落とした後、ソプラをかばうように射線上に体を入れた。
助かった! ナイスタイミングだ、ターニャさん!!
「そこの者!! 隠れても無駄だ!! 出てこい!!」
剣を森の方に片手で突き出し、引き締めた眼光を放つターニャさん。
おぉ……かっこいい! ただの大飯食らいかと思ったけど、今めちゃくちゃかっこいいよ!! 超決まって……。
「んはー!! これ一度言ってみたかったんだぁ♪ ねぇ! どうだった? どうだった? ワタシ決まってた?」
「上げた評価を秒でたたき伏せるの、やめてもらえるかな!?」
「ターニャさん……」
決まった、と思ったらクルッと振り返りはしゃぎ出すターニャさん……。助けてもらったソプラも苦笑いだ。
とは言え本当に助かった。俺は消火を一時中断して、ソプラの元に駆け寄った。
「ありがとう! 助かったよ……あれ? ムートは!?」
「……鍋抱えて、気持ち良さそうに寝てたよ」
「わかった……ありがとう」
さっきから心の中で何度も呼んでるんだけど、来ないのはそういう事か……あとでぶっ潰す……。
それはさておき、さっきのファイヤーランスは、明らかにソプラを狙った魔法だった。多分ショーユ蔵に火をつけたのも魔法を放った奴も同じ奴だろう。
一体何のために……
込み上げる怒りと共に、森の中を睨みつける!
「っち……なんか増えてんじゃねぇか、めんどくせぇ……」
すると柄の悪そうな1人の男が、めんどくさそうに頭を掻きながら森から出てきた。
「おう、嬢ちゃんたち……大人しくしといてくれよ。悪いようにはしないから」
少しニヤついた顔でこちらを見下し、ゆっくり近づいてくる。
「黙れ!! 子供に攻撃魔法を放つ輩など、信用できるものか!! このワタシが叩き伏せてやる!!」
ターニャさんが剣を構え直し、男に鋭い睨みを効かせる!
俺は念のためにソプラをかばうように、こちらに軽く引き寄せた。
「おーおー怖い怖い……女を痛めつけるのは趣味じゃないんだが、仕事だからねぇ……」
男はヘラヘラと笑いながら、腰からショートソードを抜いた。
「女と思って油断していろ! 覚悟!!」
ターニャさんが身体強化で一瞬で男との距離を詰め、剣を振るう!
ガキィィィイン!!
「ヒュウ♪ 怖い怖い、お姉ちゃんやるねぇ」
男はショートソードでそれを防ぎ、体を捻り勢いをいなした!
「っく!! まだまだぁ!!」
そのまま、ターニャさんと怪しい男との戦闘が、激しさを増していく!
攻めたてているのはターニャさんだけど……俺には男がまだ余裕があるように見えた。
何者なんだあの男……。
「アルトちゃん……」
ソプラが心配そうに袖を掴み、覗き混んでくる。
「大丈夫だよ、ターニャさん強いから……なんとかしてく……れ……。あっ」
「ん?」
ソプラの方に振り返ると、消火をやめていた炎が風に煽られて、更に激しさを増していた!
「やべぇーー!! 火ーー!!」
「キャアァア!! 早く消さなきゃー!!」
怪しい男はターニャさんに任せて、俺たちは消火活動を再開した。
* *
燃え盛るショーユ蔵を前に、わたしは水魔法で必死の消火をしていた!
でも火の勢いは治るどころか、どんどん広がっていく。
ショーユ蔵が……お父さんのショーユ蔵が……。
せっかくアルトちゃんとソプラちゃんのおかげで小屋から出れたのに……お父さんの意思を継ごうと思ったのに……。
なぜ?
わたしが何かしたの?
わたしが悪いの?
なんで、わたしから奪っていくの!?
涙が溢れてくる……悲しくて、悔しくて、辛くて、無力な自分がやるせない……。
そんな事を思っていても、火の勢いは止まらない。
「いや……ダメ……これ以上奪わないで……イヤ、イヤァーーーー!!!!」
わたしの叫び声が辺りに響いたあと、一瞬の静けさののち、急に周りに突風が吹き荒れ出した!!
「えっ!? 何!?」
「タマリ!?」
わたしの周囲から、色とりどりの細かな粒子が突風に乗り集まっていく!!
グモグモとひと塊りに集まり蠢く何かは、螺旋を描き上昇気流と共に天高く昇っていく!
まるで、雲のように大きく膨れ上がっていくそれは、1つの意思を持つように周りからドンドン集まっていく!
上空でその大きさを膨らませながら、それは1つの形を形成していき一瞬の発光と共にその姿を現した!
『グモォオオオオオオオオオオ!!』
まるで砦のように大きな『キノコ』が、生き物とは思えない叫びを上げてショーユ蔵の上空に出現した!




