90 アルトの計画
「もらうってどう言うこ……え?」
ソプラが困惑した顔でこちらを見てくる。周りのみんなも同じようだ。
「もらうって言うか、専属契約を結ぶって感じかな」
「?」
眉間にしわを寄せて、更に困惑するソプラ。そういう一つ一つの可愛い仕草や、表情を見せるとこが、アルトちゃんのたまらないポイントなんやぞ!
「そうだねぇ……セーユさん、ショーユ作りには、大量のダイズが必要でしょ?」
「ええ」
「そのダイズを俺が全て提供するから代わりにショーユ作ってもらうって事。ショーユ作りの作業代も出すし、ショーユが売れたら売上の一部も出すよ。どう?」
「え? そんな……え?」
セーユさんは突然の提案に困っているようだ。
「アルトちゃん、雇うって……そんなお金あるの? それにダイズ代も」
ソプラが心配そうに聞いてくる。さっきから心配ばかりしてくれるな……アルトちゃん嬉しいよ。
「うん、それは大丈夫。実は、今の配達業の仕事は大分慣れてきて、給金も結構良くなってきたんだ」
「どれくらいなの?」
「実はまだ、ミーシャには秘密にしてるんだけど……月、金貨50枚くらい」
そう、バハムートの宅配便は、速さと安全性と俺の美貌で依頼が殺到。運賃を10倍に上げてもまだ依頼がくるという、運輸ギルドでは超異例の事態になっているのだ。
おかげで手取りの収入は増えたのだが、忙しくてどんどん溜まっていたのだ。
「金貨50枚!? すごい大金だよぉ!?」
ソプラもこれには驚きの表情見せる! そりゃそうだよね、前世でも10才の女の子が月収50万とか聞いたら、世の中のお父さん達が血の涙を流すよ。
生活する上だとなんの問題もない。むしろ平民なら上流階級だ。ただ、それでも問題はある。
「うん、大金なんだけどさ……ソプラ覚えてる? 俺ってムートが壊した、王前の儀の会場の修理費の借金があるじゃん?」
「あぁ、王様から言われた白金貨10000枚だよね。この調子ならすぐに返済出来そうだね!!」
キラキラした目を向けてくるソプラ。あ、これ計算できてないな……。
「ソプラいい? アレを完済するには、金貨50枚全部支払い続けても、160年以上かかるんだよ……だから運輸ギルドだけでなく、色んな分野に手を伸ばしてお金を稼がなきゃならないんだ」
「160ね……」
あ……。ソプラの頭からケムリ出てきて固まった。やっぱり計算できていなかったな。
それにしても、今日のソプラは表情がコロコロ変わって、見ていてとても可愛い。
「んで話を戻して、その最初の協力をセーユさんのショーユ蔵にお願いできないかなって思ってさ」
俺はセーユさんに向き直り、改めて説明する。
「セーユさん達は安定したダイズの確保と収入を、俺はそのショーユを運んで売る事で儲けが出るって寸法さ」
「でもそんなにショーユって売れるかしら……ここ以外で買うとかなり高額だと聞いたけど」
今度はセーユさんが、俺の心配をしてくれてるみたいだ。
「王都やそれ以外の所でショーユの価格が高騰してるのは、液体で重いし、量が運べないからなんだよ。
でもムートが運べば早いし安全、自前で運んでるから運賃かからないし、同じ値段なら格段に利益がもらえるし、少し値引きしても元の値段が高いから確実に儲かるのさ!」
だが、俺が説明していると不意な横槍が入った。
「でも、商品を売り買いするなら商業ギルドに登録しないとダメだよ? アルトちゃん運輸ギルド所属だから、捕まっちゃうよ?」
「あ……」
ターニャさんが、まともな意見を突っ込んできた。腹が膨れて、血液が脳にしっかり回ってきたようだな……。
おのれ、この食いしん坊に突っ込まれるとは思ってなかった……なんか悔しい。
でもそうか、商業ギルド忘れてた。登録しなきゃならんのか。
でもそうなると運輸ギルドを出なくちゃいけないし、それだと前提が破綻するんだよなぁ……。
……まぁ、いいや。あとで考えよう!
「とりあえずドーラ取っ捕まえて、やらせりゃいいだろ?あいつ商家だし」
「最後雑だよ、アルトちゃん!?」
「大丈夫! なんとかなるなる!! 俺に任せときな!!」
俺がニカッと笑うと、みんな呆れた表情を見せるが、すぐに笑い返してくれた。
「ありがとうございます。この蔵でショーユ作りを存続させることができれば私は何も言いません……是非協力させてください」
セーユさんが深々とお礼をしてくる。
「タマリちゃんもいい?」
一応タマリちゃんの許可も貰いたいので、本人に聞いてみる。
「うん! いいよ!」
タマリちゃんはやる気を出したかのように、元気よく返事をしてくれた。よかった、これで心置きなくやれるってもんだ!
「じゃあよろしくお願いします!」
セーユさんと握手を交わし、俺も深々とお辞儀をする。
「じゃあ、今から早速仕込みにかかろうか!!」
腕まくりをしてショーユ作りを手伝う準備をする!!
「え? 今から!?」
「こういう事は気持ちが熱いうちに行動に移すもんだよ!」
「ふふっ、アルトちゃんらしいね」
ニコッと笑うソプラの笑顔は、何物にも代え難いものだ! この笑顔を見るたびに、俺は頑張れるんだ!
「じゃあワタシは、キノコの残処理を……」
俺は、そろりと抜け出しそうだったターニャさんの鎧をガッチリと掴む。
「ちょっとまて、ターニャさん……力仕事得意だよねぇ?」
ソプラに負けないスマイルをニコッと爽やかにソプラさんに向ける。
逃がさねぇからな。
「ワ……ワタシはほら……護衛が仕事だから……」
「しこたまキノコ食っただろうが! 働けぇ!!」
身体強化を使い、ターニャさんを無理やり引きずっていく。
『安心しろ! 我が残さず綺麗に食らっておいてくれるわ!!』
ムートは七輪の前で、尻尾にキノコをひっくり返す用のフォークを持ちながら、ヒラヒラと手を振るように尻尾を振る。
「ふげぇぇええええ!! 薄情者ぉおおお!!」
こうしてターニャさんの絶叫を聞きながら、俺たちはショーユの仕込みに入るのだった。
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