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9 幸せと窮地

 ベルンの町は楽しかった。


 イリス村には無い商品や食材の数々、お小遣いが無いので買えないのが残念だったが女性達は見て回るだけでも楽しそうだ。1人マッチョな男も混ざっているが気にしないでおこう……。


 俺はソプラと手を繋ぎ、歩きながらお互いの事を話した。


 同い年の女の子の友達ができた事で最初は恥ずかしそうにモジモジしていたが、次第に打ち解けていくと積極的に話をしてくれた。


 ソプラはイリーエ海の砂浜に倒れていた所を狩りから戻ろうとしたミーシャに発見され、保護してもらった。なんでそこに倒れていたのかはよく覚えておらず家族も何処にいるかもわからない。


 ミーシャ曰く、青い目の子供は周りからの目を避ける為捨てられるか、酷い場合すぐに殺される事が多いらしいとこっそり教えてもらった。記憶が無いのなら知らない方が幸せなのかもしれない。


 ミーシャは魔法が上手で狩り(お花摘み)が得意、召喚獣はいたが昔亡くなってしまったらしい。


 今はミーシャの教会でシスター見習いをやっているらしい。見習いと言っても炊事、洗濯、掃除等のお手伝い位だ。


 外に出るのはミーシャと一緒に狩りに行く時か、魔法の練習の時くらい。ソプラは結構魔法ができるようで褒められるらしい。


 魔法は生活に便利な生活魔法、魔物との戦闘などに用いる攻撃魔法、治療や解毒が出来る高度な技術がいる治癒魔法、召喚獣を呼び出す召喚魔法(1人1回きり)、上記以外の属性外の物、遺伝や秘伝の特質魔法がある。


 魔法には属性があり、『火』『水』『風』『土』『特』生活魔法はE級、攻撃魔法の1属性を使えればD級、2属性使えればC級、3属性でB級、4属性でA級、特質、医療も含め5属性以上使用できる者はS級となる。


 ただし、ひとつの魔法に超特化した者や医療魔法特化等レアなケースなどは、属性関係なく級を上げる事がある。


 ちなみにシーラとダンはC級、ミーシャはA級、ソプラはC級のようだ。俺は生活魔法のみだからE級だ。


 ただ、ミーシャすごくない!?なんでシスターやってるの!?訳を聞いたら。


 4属性使える者は、ほぼ召喚獣と共に軍隊、衛兵、用心棒となり引く手数多らしい。だが、かなりの男社会のようで、そこにミーシャが行くと……。色々察したので追求は避けた。


 お昼までの時間はあっという間だった、ダンの荷物の積み込みも終わり、後は出発するだけだ。積荷が軽くなったので帰りは半日で済む。


 名残惜しみながら荷車に乗り込む時にソプラが走って近づいてきた。


「アルトちゃん! また、遊びにきてね! 私……待ってるから! 絶対だよ!」


「うん! ダンがここに来るときは必ず付いて来るよ!」


 乗りかけた荷車を降りソプラと抱き合う、髪からフワリと甘い香りがする。ずっとこうしていたい。


「そろそろ出発しないと村に着く頃には夜になっちゃうわよ、また来るんだから……ソプラちゃんもまた遊んでね」


「そうだよ、6日後にまた来る予定だからすぐに会えるよ」


 そう言われ名残惜しみながら離れ荷車に乗った。


 ソプラは町の入り口で見えなくなるまでずっと手を振っていてくれた。



 * *



 ダンに午前中の話をしながら、荷車は順調にイリス村へ帰る、荷物が軽くなったからジャイアントバッファローのジムの足も軽い。


 お昼までは良い天気だったのだが、少し曇ってきた、もしかしたら雨になりそうだからとジムに先を急いでもらった。


 もう直ぐ森に差し掛かろうかとした頃、道脇の石に腰をかける人にダンが気づいた。


 今から徒歩で森に入ったら村に着く頃には真夜中だ、さすがに夜は魔物も活性化して危険だ。


「どうかされました? この先はイリス村ですが徒歩だと森を抜けるのは厳しいですよ? 良ければ乗って行きますか?」


 ジムが荷車のスピードを緩め、ダンが尋ね、向こうも気づいたみたいだ。


 深めの緑のフードを頭から被りザックを背負っている、小柄で胸の膨らみも分かる事から多分女性だ。


「ありがとうございます。ちょっと人を探して旅をしていまして、村に行こうと思ったのですが森が随分深そうだと思いここで野宿するか迷っていた所でした。」


 女性はフードを被ったまま俯向き答えてくる。


 ダンは荷車の俺達に声をかけ、乗せても問題無い事を確認してくる。


 もちろん大丈夫だ、女性を1人こんな所に置いていけるはずが無い。


 荷車に乗り込もうとする女性にシーラが手を差し出す。


 手を掴んだ女性が一瞬固まる、そしてフード越しでも分かるくらい口元がにやけていた。


「あらら、こんな所に居たんだ、探す手間が省けるわ」


「え?」


 次の瞬間シーラが女に引っ張られ地面に叩きつけられる!


「きゃあぁあ! うぐっ……!」


「母さん!!」


 咄嗟に叫ぶが体が動かなかった。


 シーラは左腕を右手で掴まれ、うつ伏せの状態で背中を足で踏みつけられている。


 ダンは急な悲鳴に、腰の剣を抜きこちらに回り込んできた。


「アルト! 荷車の中にいなさい! よくもシーラを!」


 剣を上段に構えて女に襲いかかる!


「あらら、怖いわぁ。そんなに怒らなくていいじゃない。」


 女が突き出した左手が淡く光り、10cm位の土玉が出てきて勢いよくダンへ飛んでいく。


「くっ!?」


 土玉は腹部に命中、顔を歪めその場に膝をついてしまう。


「あんたに興味無いの……あるのはこっち……」


 シーラの左手から指輪を毟り取り、足蹴にし仰向けにさせ顔を近づけた。


「くっ! アルト! 逃げなさい! ウィンド!」


 腕を掴まれていた間に詠唱を済ませた初級攻撃風魔法を近づいた顔面に打ち付ける!


「いい風だけどちょーっと、じっとしててねー」


 魔法はフードをめくり上げただけで、ダメージは無さそうだった。


 女は右手で口を塞ぐように掴み目を更に凝視する。


「………………。はぁ……ハズレね、この辺りに青い瞳の女がいると聞いてきたけど無駄足だったわね」


 まるでゴミを投げ捨てるように腕を振るとシーラの体が宙を舞い地面に転がされる。


 立ち上がって振り返った女は緑色でオカッパみたいな髪型、つり上がった鋭く怪しい視線でこちらを見てくる。


 怖い……。何も出来ない……。体が震えて動かない……。目線だけで殺されると思った。


『ブモォォォォオオオ!!!!』


「シーラ! アルト! 直ぐ助ける! 今は動くな!」


「!?」


 ダンが一瞬の隙に荷車と繋いでいたジムを解放して剣を構えていた。コンビならB級の魔物も倒せると聞いた事がある。


「あらら、やる気満々ね、顔も見られちゃったし……文句なら魔女に言ってね」


 口元が裂けそうなくらい気味の悪い笑みを浮かべて女はダンとジムに向かい合った。

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