84 ノーダへ出発
早朝、ソプラを連れて王都に到着した。そして、朝の澄んだ空気の中、ソプラと手を繋いで行き着いた先で大きな声で挨拶する。
「「おはよーございます!!」」
「あら!? アルトちゃんとソプラちゃん!? どうしたの、こんな朝早く!?」
店の前を掃除していたユーヤさんが俺たちを見て驚き、こちらを向く。掃除はしているが、ここはいつ見ても廃屋のような店構えだ。
「ソプラちゃん久しぶりだね! 元気だった!? アルトちゃん聞いたよ! 運輸ギルドで大活躍してるんだって?こっちでも噂になってるよ!
1週間の配達を半日で終わらせる、凄腕のちっこいドラゴン少女の宅配便がいるって!」
見た目は俺らと変わらない、20代後半の猫耳幼女がニッコリと笑みを向けて、俺の噂話をしてくれる。笑った時にピクッと動く耳が、もふリストの精神を掻き立てるがソプラがいるので我慢する。
「はは……ドラゴン少女の宅配便か……間違いじゃないけど誤解を招きそうな噂だなぁ。まぁ、嘘じゃないけどさ」
『ふふん、ちっこいと言うのは引っかかるが、皆我の凄さがわかってきたようだな』
いつも通りの頭の上にいるムートが、鼻息をフンッと吹きニヤリと笑う。
「で、こんな朝早くなんのご用?」
「あっそうだ! 今日ソプラと一緒に配達でノーダに行くんだ! そこで、以前サコさんがショーユを安く買うツテがある、って言ってたからちょっと教えてほしくて……ダメかなぁ?」
「成る程ね……すぐ呼んでくるから店の中で待ってて」
そう言ってパタパタと店の中に走って行き、俺たちが中に入ると直ぐにサコさんを連れてきてくれた。
「なんだ嬢ちゃん、ノーダに行くのか!?」
「うん! せっかくショーユの生産地に行くんだから安く買えないかな、って思ってさ」
「うーむ、そうだなぁ……。うちの在庫も少なくなってきたし、ついでに買ってきてくれるなら紹介状を書いてやるぞ」
「本当!? やった!! なんなら樽ごと買って持ってきてあげるよ!」
「流石にそこまでの金はねぇな! ガハハハハハ!!」
こうしてサコさんから一軒の蔵元の紹介状を書いてもらい、ハン・パナイ亭を後にした。
* *
その後、運輸ギルドでデリバーさんとターニャさんと合流し、今回の依頼内容について説明を受ける。
まずは、ショーユの原料のダイズを受け取りに王都近くの町に行き、そこからノーダまで配達する段取りとなっている。
町への連絡は済んでおり、ダイズも用意されているそうだ。
「じゃあ後は頼んだよ、いつもより長い配達になるから気をつけてね」
「了解! 2人とも準備いい?」
「大丈夫だよアルトちゃん!」
「いいよー♪」
「よし! 出発!」
『うむ』
ムートに跨り、ソプラとターニャさんを乗せた大袋を引っ張り上げる。
ちなみに大袋は、人がゆったりと乗り降りできるよう椅子が備え付けられ、乗り心地良く改造してある。
これによりターニャさんが上空で魔物を見つけ、飛び降りて狩をする事も容易になっている。
もう少し大きくして人の輸送も考えたけど頑丈な荷箱はコストが高いし、皮袋では耐久性が心もとないので2人が限界だった。
俺たちはゆっくり高度を上げて、ノーダへ出発した。
* *
最寄りの町の運輸ギルドで原料の『ダイズ』を受け取りに立寄り、麻で編まれた大きな袋を200袋ほど受け取った。
俺も欲しいなと言ったら、丁度その場にいた食品ギルドの人が、何袋か安くダイズを分けてくれた。そのかわり、今度安く荷を運んでくれと言われた。さすが商人、抜け目がない。
無事に麻袋を収納して再度ノーダへ向けて出発し、配達は順調に進んでいた。
「ん〜気持ちいい〜景色も最高!いいなぁアルトちゃん、こんなステキなお仕事ならわたしも運輸ギルドに入ろうかなぁ……」
そろそろお昼に差し掛かろうかという時間。ポカポカと暖かい日差しと、緩やかな風で、心地よい空の旅を満喫するソプラはググーッと伸びをする。
「いやいや、クーちゃん飛べないでしょ? ソプラはちゃんと勉強して学校行かなきゃだめだよ」
ちなみに今回、ゴールデンクックのクーちゃんはお留守番だ。
「もー、アルトちゃんまでミーシャみたいな事言う〜」
拗ねたように頬を膨らませ、俺を見上げるソプラ。拗ねた顔も仕草も超可愛いぞ!
「ソプラちゃん。学校はいいものだよ! 友と友情や絆を深め、勉学と魔学を身につけ、剣術や魔物戦闘などの技術と体力もつけられる環境は、選ばれし者だけの特権なんだよ?」
「でも、わたし勉強は頑張るけど、友達とかできるかどうか……」
ソプラは複雑そうな表情をして、椅子の手すりをギュッと握る。
ソプラは頭は良い、苦手だった文字の読み書きも頑張ってできるようになってきたし勉強は大丈夫だと思う。
しかし、学校は1人ではない。今まで青い目のせいで、ミーシャと俺以外には積極的にコミュニケーションをとることはなかったから対人関係が怖いのだろう……。
でも、これから生きていく上ではそうも言っていられない。シーラから貰った指輪で目の色が変わっているので、もう目の色を気にする事はない。
ずっと俺と一緒にいればいいが、先々を考えると、ここで人に慣れる事や友達を作る事でより成長する事ができるはずだ。
「そういえば、ターニャさん学校に詳しいみたいだけど、もしかして学校行ってたの!?」
「え? い……いやぁ。護衛依頼なんかで、そんな話とかを色々聞くんだ……。学生は面白い所だぞーてね……。うん」
なぜか微妙に白々しくなるターニャさん……。学校のどんな話を聞いたのだろうか……。
「へえ……。まぁ、大丈夫だよソプラ! 何かあったら俺がすぐに助けに行くから!」
「ふふっ、ありがとうアルトちゃん」
『む? 何か見えてきたぞ?』
ムートがノーダの目印らしき物を見つけたようで、そちらを見てみると。
「わぁ! 凄い建物だねぇ! おっきいのがここからでもわかるよぉ!」
「うおー!! でけぇ!! こんな遠くからでもわかるくらいにでか……ん? ……ターニャさん建物で間違いないんだよね?」
「うん、そうだよ! ノーダのシンボル『スティニム』だよ」
森の中に聳え立つ建物が、目に飛び込んでくる。でも、それは俺が思い描くような建物では無かった……。
「ねぇ……エルフの里なんだから、なんかもっとこう……人が住めるような、でっかいツリーハウス的なやつとかじゃないの?」
「え? 食の町ニコンの『ドンガリの木』じゃあるまいし、そんな大きな木はこんなとこにはないよ?」
ニコンにはそんなでかい木があるのか……って疑問はそこじゃない!! 見間違いでなければ、あの建物を俺は知っている……でも、なぜアレがこんなところに……。
突然の事に言葉をなくし呆然としていると。
ぐぐぅ〜……
『……アルト! 腹が減ったぞ!』
ムートの腹の虫が盛大に鳴り響き、食事の時間を告げる。本当こいつの腹時計は正確だよ……。
「ふふっ、ムートちゃんは食いしん坊だなぁ」
「ん? バハムートがなんか言ってるの?」
「ムートが腹減ったてさ」
「ワタシもお腹すいたー!!」
腹ペコツインズが食事の要求をしてくる。こいつら、こっちの気も知らないで……。
「ターニャさんも食いしん坊だったね……」
「はいはい……じゃあ休憩しようか」
まぁ、遠くてよく見えないから見間違いかもしれないし……。とりあえず気分を落ち着かせる為にも、休憩しようかね。
俺たちは腹ペコのお腹を満たす為、一旦お昼の休憩を取る事にした。
* *
「近くで見るとやっぱそうだよなぁ……」
ノーダから少し離れた空き地に到着し、俺はエルフの里を囲む塀の外から、ある建物を見上げていた。
昼前に遠くから見て、近づいて上空からも、地上からも確認したが間違いない……これ……。
五重塔だ……。
学生時代の修学旅行で京都に行った時に見たあの五重塔そんままだ。
周りの家も塀も完全に瓦屋根のお寺のつくりで、高い木造建築の技術の高さを感じる……。
いやいや!! そうじゃない!! なんでエルフの里ノーダが寺なんだよ!? もっとこう、ファンタジー感溢れる世界樹の守り人、的なやつなんじゃねぇのか!?
確かにショーユの産地だから日本みたいだけど、ここまで日本的な物まである!? エルフって日本人なの!?
俺が前世の記憶で混乱する頭を抱えていると。
「ほら! アルトちゃん早く行こうよ!」
ソプラがキラキラした目で俺の腕を引っ張り、はやし立てる。
「そうだね!! 行こう!!」
ソプラのこんな笑顔見たら、建物なんかどうでもよくなった!! そう、たまたまこんな建物になっただけさ!
色々と気になる所はあるが、気にしたってしょうがない! 深く考えるのはやめて、俺はノーダの運輸ギルドへ向かうのだった。
ブクマ、評価、感想、誤字報告いつもありがとうございます!




