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80 フーギンの過去

「天魔石を壁に埋めて砕くとゴーレムができるのかぁ……。ねぇ! 天魔石があれば他の所でも作れるのかな!?」


 輸送に時間がかかる為、持ち出しが困難だった天魔石だけど、ムートならひとっ飛びで色んな所に行けるから他の場所でもゴーレム作れるのではないか!?


 マイゴーレムとか作ってみたい! アレは男の子心をくすぐる何かがある!


「残念だが、それは無理だ」


「ええー!? なんで?」


 まだ見ぬゴーレムに思いを馳せていたらアフ爺に即答されてしまった……。もう少し思いに浸らせてくれてもいいでしょうに。


「アイアンゴーレムを生み出せるは、この天のシャンデリアの光があるフーギンのみ。他の場所で同じ事をしてもなーんも起こらん」


「ぐぅ……残念。じゃあフーギンって何か特別な場所なの?」


「そりゃ、ここが迷宮だからだ。迷宮には魔物が発生するだろう? アイアンゴーレムも魔物の一種だからな」


「え!? フーギンって迷宮だったの!?」


 突然の新事実に驚く! 迷宮ってもっとこう……魔物との戦いとか、攻略してお宝ザクザクー! とか想像してたのに……。


 現実は、鉄の採掘場とか……思ってたんと違う……。


「まぁ、正確に言えば元迷宮……かな」


 アフ爺は、キラキラと輝くシャンデリアを見つめ、懐かしい思い出を話すように語ってくれた。


「ワシの爺さんが語り草に教えてくれたよ……大昔、世は廃れ、国同士の争い事ばかりだった頃の話だ。


 その頃この国は複数の隣国から攻め込まれていて、防戦一方だった。国を守る為にも勝つにも、争いには大量の武器が必要だったから、アイアンゴーレムから取れる鉄を求めて沢山の者達がフーギンへ集まった……。


 皮肉にも争いのおかげで、こんな山の奥だが物資も人も行き交い、フーギンは栄えていた。


 だがある時、防衛の隙間から敵国精鋭が鉄の供給地だったここに攻め込んできて、迷宮が攻略され迷宮核が持ち出されてしまった。


 核を失った迷宮はただの洞穴になり、アイアンゴーレムも出てこなくなってしまった。手で掘ってはみるものの鉄の質は落ち、量も減ってしまった。フーギンが廃れてしまうのも時間の問題だった……。


 しかし、長く続いていた戦争が終わり1人のドワーフが奪われた迷宮核を敵国から取り戻してきた。フーギンの住民は湧き、迷宮核を元に戻したが、既に核の中には迷宮を立て直す程の魔力は残っていなかった。


 かつての栄華の象徴として、迷宮核は山の頂上に祭壇を立て祀った所、そこにカミーナが落ち、天の魔力が宿った。


 するとその輝きは再び迷宮の息を吹き返し、山頂でアイアンゴーレムが取れるようになった。


 調べた所、迷宮核の光が届く所からアイアンゴーレムが発生するという事。天魔石が核として必要な事が分かり試行錯誤を繰り返し、今の掘削隊形になったってわけだ。


 この天のシャンデリアは迷宮核の光を多くの場所へ拡散できるよう、魔石で囲い続けた結果、この大きさになるまでになった。これは先人からの知恵と努力の結晶というわけだ」


「へぇ〜そんな歴史があったんだ」


 長い年月の掘削と、シャンデリアの拡張を繰り返して、これ程の物になったということか……。


「しかし、おかしいの……この手の話はモンクットの奴が大好きなはずだが……シャンデリアを見たときに話してくれなかったのか?」


「……あっ」


 そういえばシャンデリアに見とれていた時、なんか後ろで喋ってたな……全く聞いてなかったよ。


 そんな歴史話しを聞きながら、やっと下まで降りてきた。


 一番下を見ると、ドワーフ達が砕けたアイアンゴーレムの残骸をせっせと仕分けしていた。


 洞穴の底は鉄板がみっちりと敷き詰められていて、中心以外のまわりが凸凹になっていた。多分さっきのアイアンゴーレムが上から落ちてきた衝撃でこうなっているんだろう。


 そんな仕分け作業をしている所に、アフ爺はクイクイと指を指して場所を示し、そこにゆっくり降りて行く。


「どうだ? 今回の鉄は?」


「うぉぉおう!? ア、アフ爺!? あれ!? さっきの赤スタンプ……あれ? なんでここに!?」


 仕分けをしている1人のドワーフに話しかけると、後ろに跳びのき、目をひん剥いて驚いていた。


 これ、絶対わざとだ……仕分けに集中して下向いている中にいきなり上から声かけられるんだから驚かない方が無理。あ、ほらめっちゃ笑ってる。


「驚かせてすまんかったな、早く鉄の具合を見たかったから、この嬢ちゃんに送ってもらったんだ」


「どーも」


 アフ爺は下ろすが、下は瓦礫ばかりだったのでムートに乗ったままピッと片手を上げて挨拶する。


「おぉう……すげえ嬢ちゃんだな……それどうやって飛んでんだ? ……まあいいか、アフ爺!! 今回は中々いい量の鉄が取れたぞ! 質も申し分なさそうだ! ほれ!!」


 仕分けのドワーフは嬉しそうに足元にある大きな鉄の塊をヒョイと持ち上げ、アフ爺に渡す。


 あれ、結構重たそうだけど、片手で軽々と……ドワーフは力持ちなんだな。


「うむ、いい鉄だ……これなら……」


「いや、……ならどうだ? あそこも……」


 何やら2人で真剣に話し始めてしまった。俺がここにいても邪魔になるだけだな。掘削現場も見た事だし、ターニャさんと合流するか。


「ムート? もう見学はいいだろ? ターニャさんと合流して、ご飯食べて帰ろう」


『うむ、そうだな』


「アフ爺!! 俺たち帰るね!! 作業現場見せてくれてありがとう! またね!」


「おぉ!! またおいで!! 嬢ちゃんなら歓迎するぞ!!」


 俺たちは大手を振りあって別れ、急いでターニャさんと合流するべく来た道を戻っていった。


 途中、運輸ギルドでプリチャさんに今回の仕事報酬として金貨50枚を貰った! ちょっと色をつけてくれたみたいで、1箱金貨10枚だったらしい。


 これにはめちゃくちゃ喜んだ! 金貨だよ! 金貨! これを毎日でも配達できれば、ぼろ儲けできるんじゃね!? 借金返済も早急に終わらせられる予感しかしねぇえ!


 そんなゲスな笑いをしていた所、後ろからプリチャさんに「今回の配達で向こう半年は大丈夫そうです。ありがとうございました」と言われ、あっさりとゲスな計画は崩れ落ちた。


 まぁ、そりゃそうか。持ってきてもカミーナが落ちないと使えないし、そこまで大量に消費する物でもないからなぁ。


 気を取り直しプリチャさんと別れ、ターニャさんと合流するべく、向かった食堂の場所を聞いて歩いていたら。


「あの女がきてるだと!?」

「急げ!! 町中の酒を掻き集めるんだ!」

「今日はワイバーンが落ちてきたり忙しいな!!」

「大食いのお姉ちゃんきてるのー?」


 周りから不穏な声しか聞こえない……。なんか、行きたくなくなってきたんだけど……。


 そういえば、運輸ギルドに走ってきた時も後ろの方で騒ぎになっていたようだったし、モンクットさんも昇降機のドワーフにボソボソ言ってたな……。


 ターニャさん、一体どんなことになってるんだろう……。


 案の定、店の前は老若男女の大勢のドワーフでごった返し、怒号や歓声、中には殺気も混ざっているような、大変な騒ぎになっていた!


「行けー! バッケス!! ドワーフの誇りを奪い返すんだ!!」

「ドリンガも負けんな!! 酒だ!! もっと酒持ってこい!!」

「ちょっとそこ通して!! ワイバーンの肉追加だよ!!」

「キャー!! ターニャー!! 強盛な男どもをねじ伏せてー!!」

「うわぁ……見てるだけでお腹いっぱいだよ……」


 帰りたい。この騒ぎの中で何やってるか、周りの声聞いておおよその見当はつくけど、飛び込む勇気が無い。


 今すぐ帰りたいけどターニャさん置いて帰るわけにもいかない……。おのれ……冒険者連れていかないと配達できないという制度作ったやつを殴りたい。


 そんなことを思いながら、少し離れた所で傍観して、飯は別の場所で食べるかと模索していたら……。


『アルト!! 何やら楽しそうだし、良い匂いがするぞ! 早く行くぞ!! グズグズするな!!』


 どうやら俺の頭の上の方は、羽をばたつかせ、目はキラキラさせてあの中に行く気満々のようです。


「イタタタタタタ!? コラ!! 頭に爪立てんな!! あと涎垂らすな!! くそっ!! わかったよ!! 行くよ!!」


(はぁ……行きたくない……)


 こうして、見るからにやばそうな熱気を放つ群衆の中にムートに跨り、しぶしぶ乗り込むのだった。

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