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79 鉄の採掘方法

「おい、あれなんだ?」

「アフ爺が魔物の餌で連れ去られようとしてる!?」

「いやまて! 魔物の背に女の子もいるぞ!!」


 俺とアフ爺を見つけたドワーフ達が大声をあげ、次々に集まってくる。


 今どうなっているかと言うと、俺がムートにまたがり、ムートがツルハシを持ち、アフ爺がそれに懸垂するようにぶら下がっている格好で、飛びながらゆっくりと上昇している状態だ。


 側から見れば、確かに魔物に連れ去られようとしている爺さんに見えなくもない。


「大丈夫だ! 心配いらん!! ちーと上層に行って10程落とすから選別場の連中によろしく言っといてくれい。嬢ちゃんもっとスピード上げていいぞ」


「あいよ! ムートよろしく!」


『うむ』


 俺たちはまだ混乱して騒いでいるドワーフ達を尻目にスィーっと洞穴を昇って行った。




 * *




「いやーこりゃ楽だわい。背中も伸びるし、丁度いいのう」


 結構昇ってきたけど、アフ爺は時折、自分で揺れながらぶら下がって、空中散歩を楽しんでいるようだ。


「アフ爺も年なのに元気だね? 握力とか大丈夫? きつくなったら下ろすから言ってよね?」


「なあに、まだまだ300そこそこじゃが、若いもんにも負けんわい!」


「300!? そんなに生きてるの!?」


 思ってたより大分年いってた。ドワーフ族やエルフ族なんかは長命だと聞いたけどそんなに生きるんだね。


『なんだまだ、そんな歳なのか』


「まだってムートは何歳なんだよ?」


『……5000以上は覚えておらん』


「おぉう……もっとジジイがいたよ……」


『誰がジジイだ! 我より古き者など魔界に行けば、ごろごろおるわ! この世界の者達が短命なだけだ!』


 なんか気に障ったようだが、あんた異世界生活を堪能したいと10歳の女の子に懇願して来る、5000才を超える龍神バハムートですからね……。ジジイって言われるくらいで怒るなよ……。


 でもまぁ、ずっと魔界にいて戦いの時だけ、ちょこと召喚されるだけだって聞いたし。可愛げがあるって思えば無くはないんだけどな……。


「はいはいわかったよ、ムート爺ちゃん♪」


『……次言ったら、ここより高い所から放り投げるからな……』


「わーったって!! 嘘嘘!! ごめんって!!」


「召喚獣と何喋っとるかわからんが、楽しそうだな! はっはっはっ!」


 そうこうしているうちに、大分上まで昇ってきた。吊り下げられているシャンデリアの、太いワイヤーの束もよく見える天井近くだ。


「おぉそこじゃ。そこの岩が出っ張ってる所に下ろしてくれい」


「ここまでくると誰もいないんだね」


 下の階層では採掘の活気があったが、ここは誰もおらずシンと静まり返っていた。


 アフ爺をゆっくり指定の場所に下ろして、俺もムートから降りる。ムートも定位置の頭の上に乗る。


「ちょっと準備するから待っててくれ」


「それ何?」


 アフ爺はスライムタイツをグイッと引っ張り、お腹の所から天魔石と木の棒に巻かれた、金属の紐みたいな物を取り出した。ほんと便利だなこのスライムタイツ……。


「あぁ、これはこの近くに生息しているプロンズスパイダーの糸だ。こうやって天魔石に巻くといい鉄が取れるんだ」


 そう言って糸を手早く天魔石にグルグルと巻いていく。


「へぇー手慣れたもんだね」


『均一に素早く巻いて行くのを見ているだけなんだが、これはこれで面白いな』


「これができんとここで鉱夫は務まらんからなぁ……よし、こんなもんだろう。では、次はこっちだ」


 アフ爺は全ての天魔石に糸を巻き終えたのち、天魔石を再びお腹にしまって、他よりちょっと大きめの洞穴にツルハシを担ぎ、のしのしと歩いていくので、俺たちもそれについて行く。


 洞穴の中は所々に鉄鉱石が見えていて、掘り出したであろう穴があちこちに空いていた。


 それでも、あまり人が入っていないのかヒンヤリとした空気が肌をついた。


 かなり奥まで歩いてきたけど、中には照明になるワイヤーで吊ってある空魔石も無かった。だけど、鉄採掘場の真ん中にあるシャンデリアのおかげで奥まで光が届き、作業するには充分な明るさだった。


「この辺が良さそうだな……ちょっと奥で待ってなさい」


「うん」


 アフ爺はそういうと持ってきたツルハシで壁に穴を開けて、取り出した天魔石をそこにグリグリと押し込み、最後に穴を他の石で塞ぐという作業を次々にこなしていく。


 流石にツルハシさばきが手慣れている、石ばかりの固そうな壁だけどほんの数回降っただけで穴が開き、いとも簡単に作業が終わっていく。


 でも採掘作業だよね? なんで天魔石を埋めるんだろう? ……まさか、あの天魔石ってダイナマイトみたいに爆破するんじゃ……。


 そういえば前世で採掘場とか固い地盤を、ダイナマイトで崩して掘削していたのをテレビかなんかで見た覚えがある。


 あれ? 結構危なくない? こんな洞穴の奥で爆破とかやばいんじゃない? 落盤とかしない?


 そんなことを考えていたら、アフ爺の魔石埋めの作業が完了したようだ。


「よしっと、じゃあ今から鉄出していくから、叩いたらすぐに出口まで走るんだぞ」


「え? 走る? どういう事?」


 アフ爺が持っているツルハシをクルッと反転させる。さっきまで壁を掘っていたツルハシの反対側にはハンマーのような形状をした鉄塊が付いており、何度も叩いたからだろうか、先端は軽くひしゃげていた。


「ほいっと!!」


 ツルハシを大きく振りかぶり、ハンマー部分で、さっき天魔石を埋めた部分を思いっきりぶっ叩く!


 ハンマー部分が壁にめり込み、石の破片があたりに飛び散ちり、めり込んだハンマーの隙間から天魔石が割れて一瞬眩い光が漏れる!


「ほい! ほい! ほい!!」


 アフ爺はリズム良く正確に天魔石を砕いていく。


 魔石が爆破すると予想していた俺は、その行動に気が気ではなかった! 心臓に悪いから説明してからやってくれ!


「ほれ、ここにいると洞穴から出れなくなっちまうぞ。走れ走れ!」


 全部の魔石を割り終えたアフ爺が、ツルハシ片手に軽くジョギングするかのように足踏みして、洞穴から出るように催促してくる。


「あぁ……うん!」


 アフ爺に促され洞穴の出口へ一緒に走り出す。


『む? アルト、あそこを見よ』


 進行方向と逆向きに座っていたムートが異変に気付く。


「んん? あれ? なんか動いて……る?」


 ムートがしっぽで指す方を振り返って見ると、最初に砕いた一番奥の所の壁が、ググッとせりだすように動いていた。


 遅効性の内部爆破なのか!? それとも、さっき巻いていたブロンズスパイダーの糸で爆破時間の調整でもしているのだろうか?


 とにかくアフ爺が走れと言っているんだから、何かしら危ないのだろう。とりあえず洞穴の出口まで走った。


 洞穴の出口までたどり着き、アフ爺と左右に分かれて、ムートと一緒に顔だけ洞穴を覗き込む。


 すると奥の方からズシン……っと音が聞こえた。さっきせり出してきた所が倒れたのかな? ダイナマイトみたいな派手な爆破と思ってたんだけど……っとなんか拍子抜けしてたら……。


 更に、ズシン……ズシン……と連続で音が聞こえてくる……。


 ん? ちょい待て? あきらかに埋めた魔石の数より、聞こえてくる音が多いぞ?


 よく耳を傾けるとそれは、かなりの質量の物がゆっくりと移動してくる音のように聞こえる。


 その音は次第に近づいてきて、シャンデリアの光に照らされ、その姿があらわになる。


「なんだこれ!? 動いてる!!」


『ほう、アイアンゴーレムだな。ちと小さいが、作り出すところを見たのは初めてだ』


「アイアンゴーレム!?」


 奥の方から2〜3mはあるアイアンゴーレムが続々と重い足音を鳴らし、ゴツゴツした動く岩みたいにゴリゴリと関節を軋ませながら歩いてくる。


「ほほう、その頭の召喚獣はなかなか物知りの様だな。でも嬢ちゃん、あんまり覗き込むと、踏み潰されちまうぞ」


「おっと……」


 さっと頭を引っ込めると、移動してきたアイアンゴーレムは洞穴から出てきても俺たちには見向きもせず、そのまま真っ直ぐ歩いて行く。


 アフ爺がゴソゴソと何かやってるので見てみると、ツルハシの柄の先端部分に赤い朱肉のような物を擦り付けている。よく見ると名前が掘ってあるみたいだ。


 そして、洞穴から出てきたアイアンゴーレムの後ろから近づいて、後頭部の平たい所にツルハシの先を持ちながら、ポンとこぶし大くらいの赤いスタンプを押し、首から下げた笛をピィーッ! と吹き鳴らした。


 アイアンゴーレムたちはそんな事に見向きもせず、ゆっくりとシャンデリアの方に歩いていく。まるで光に寄っていく虫の様に……。そして……。


「『あっ』」


 ゴーレムが落ちた。さっき昇ってきたシャンデリアと足場との間の空間に、なんの躊躇も無くそのままストーンと落ちていった。


 その数秒後。


 ドゴォオオオオオオン!!!!


 アイアンゴーレムが底に叩きつけられたであろう轟音が洞穴内に響き渡る!


 これがここでの鉄の掘削作業か……。まさか天魔石がアイアンゴーレムを生み出す為の物とは思っても無かった。


 まぁ、手で掘るより簡単で、重くても自分で動いてくれて、勝手に落ちてくれるから楽ちんだな。


 そして、流れ作業のように次々にアイアンゴーレムが洞穴から出てきて、スタンプと笛を吹いたのち、ストーンと落ちていく。なんという単純作業……ここまで階段使って登って来る方がきついくらいだ。


 最後のアイアンゴーレムが落ちた後、笛を3回鳴らして終了の合図を送ったようだ。


「よし、これで終いだな。嬢ちゃん降りるついでに底まで連れてってくれい」


「うんいいよ!」


 鉄の採掘を見終えた俺たちは、来た時と同じ様に、ゆっくりと降りていった。

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