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78 フーギン名物

 ワイバーンを撃退した後、できたての天魔石を収納して昇降機で降りてきた。


 ちなみにスライムタイツは天畜場で脱いで、いつもの格好に戻っている。


「じゃあこっちだ」


 モンクットさんの先導で更に洞穴の奥へ進む。


「あれ? さっきより明るくない?」


 昇降機に乗る前と帰ってきた後では、明らかに吊るしてある照明の明るさが違うように思えた。


「そりゃ今カミーナが落ちたばかりだからな。光ってる空魔石は全部さっきの天畜機とワイヤーで繋がっていて、天畜機の空魔石に入りきらなかった天の魔力がワイヤーを伝ってこれに貯まるって仕組みだ」


「へぇ〜空魔石が照明にもなるんだ。それに天の魔力も無駄なく使うんだね……。あれ? なら、わざわざ危険を犯してまで照明用の魔石を作ってるの?」


 洞穴ばかりの町みたいだから灯りは必須だろうけど、ワイヤーで天の魔力を引いてこれるなら、ワイバーンが襲ってくるような危険なとこで貯めなくても充分じゃないか?


「はっはっは! 上で作った天魔石は照明用じゃないさ! おっと着いたな」


 しばらく歩いた洞穴の先にはキラキラとまばゆい光が包み込む、30階建のビルが、まんま入るような巨大な空間が広がっていた!


「うわっ! 綺麗ー! 広ーい!!」


『ほほう! これはなかなか』


「ちょっと!! アルトちゃん!? 落ちちゃうよ!?」


 思わず駆け込み、鉄の手すりから身を乗り出すように覗き込むと、広い空間の中心に、圧倒的な存在感を示す物が俺の目を釘付けにした!


 無数のワイヤーで縛られた淡い光の空魔石が、見上げるほど高い位置から一番下まで隙間無く吊るされていて、大きなの滝のようなシャンデリアが目の前に垂れ下がっていた!


 さらに洞穴から吹き込む緩い風が魔石を揺らし、キーンキーンと綺麗な音色を織り成し、微妙に色合いの違う天魔石がキラキラと揺らめき、幻想的な空間を演出していた。


「ふふん、綺麗だろう? フーギン名物『天のシャンデリア』だ! 先祖代々空魔石を継ぎ足して大きくしてきたドワーフのシンボルだ! それにこれはな……」


 モンクットさんが俺に細かい説明してくれたけど、正直シャンデリアに見とれていてほとんど聞いてなかった。


 瞬く光に吸い込まれそうになるような感覚、現実と切り離されたような幻想的な空間……。今まで見たことがない、不思議な魅力を持ったシャンデリアだった。


「本当、いつ見ても綺麗だよね……ワタシも最初は時間を忘れるくらい魅入っちゃったもん……」


 ターニャさんにポンっと肩を叩かれてハッ! と現実に戻る。


「……凄いね、綺麗すぎて意識が軽く持っていかれてたよ。こんな物始めて見た……。そうだ!! こんな綺麗なとこデートなんかバッチリだよね! 今度ソプラを連れてこなきゃ!」


 ターニャさんの方を向き、興奮した気持ちを吐き出す!


 こんな綺麗なシャンデリアをソプラに見せないなんて勿体ない!! 是が非でも見せてあげたい!! そして、デートしたい!


 ソプラとのデートを思い描き、興奮して鼻息も荒くなる!

 しかし、そんな俺に冷ややかな目線を送るターニャさん……。


 ん? あれ? どしたん? ……なんでそんな微妙な顔をしてんの?


「うーん……これは確かに綺麗なんだけど、周りにいるのが汗臭いドワーフばっかりってのがねぇ……」


「え?」


 振り返ってシャンデリアの周りをよく見ると、整備された円柱形の空間には等間隔に洞穴があり、グルリと通路と階段が整備されている。


 各洞穴には沢山のドワーフや召喚獣が、かわるがわる出入りしながら台車に積まれた何かをせっせと運び出していた。


 洞穴の中から漏れ出る金属音と怒声、生温い風がムワッとした汗臭い匂いを運び、シャンデリア周りに群がる黒い虫のように見えるスライムタイツのむさいドワーフ達……。


 前世では見たこともない幻想的な物を目の当たりにし、心奪われた後、そんなドワーフ達の現場作業を見て一気に現実に引き戻されるギャップ……。


 しかし、それでもドワーフに罪はない……これはここでの日常風景……デートしたいからどけ! お前ら邪魔だ! と言えるはずもない……。


 あぁ……これはあかん……。シャンデリアはめっちゃ綺麗なんだけど……周りが……周りが全てをぶち壊してくる……。


 ターニャさんの言わんとする事はよくわかる。でもさ、それでもさ……勿体ない……凄く、勿体ないと思ってしまうんだよ……。


 そんな現実にガッカリと肩を落としていると、後ろから不意にしゃがれた声の持ち主が現れた。


「おぅ! モンクットじゃねぇか! 空魔石は届いたのか!?」


 声のする方を見ると、スライムタイツを着た白い髭のドワーフがツルハシ持って歩いてきた。


「アフ爺、遅れて悪かったな。今しがた天畜場に持って行って帰ってきた所だ」


「おぉ! やっときたか。それならさっさと戻って天魔石持ってこい! 久しぶりにいいカミーナが落ちたみたいだから早く使いたいんだ!」


 白髭スライムタイツのドワーフはモンクットさんの報告に一瞬喜ぶと、すぐに顔を引き締め、催促してきた。


「もう持ってきてるぞ」


「はぁ? なんも持ってねぇじゃねぇか?」


 モンクットさんは振り返り、俺を見てニヤリと笑うとすぐ横にある『魔石置き場』と書いてある場所をクイクイと親指で指示をだす。


 はいはい、あそこに出せって事ね。


 俺はムートに指示を出し、魔力の貯まった天魔石をガラガラと所定の位置に出した。


「ほほう! これはいい天魔石だ!! これならいい鉄が取れるぞ!!」


 白髭スライムタイツドワーフは、直ぐに天魔石を手に取り子供のように喜んでいる。


「あれ? 驚かないのか?」


 モンクットさんが思っていた反応と違い戸惑っていると。


「あん? 何か驚くもんがあったか? そんな事よりわしは忙しいんだ! 天魔石もこれくらいじゃまだまだ数が足りん、早く次を持ってこい!

 ウォーイ!! お前らー!! 仕事だー!! 天魔石が来たぞー!!」


「「「「「オォー!!」」」」」


 爺ちゃんは上に向かって叫んだ後、野太い声が複数返ってくる。


 そして、お腹のスライムタイツをグイッと引っ張って、そこに天魔石を10個くらい詰め込み、ツルハシをヒョイと肩にかけて、さっさと階段を登って行ってしまった。


「アフ爺は相変わらずだな……。さて、アルトちゃんはこれで仕事は完了だ。戻って報酬を支払おう」


「やったー!! お腹すいたー♪」


 モンクットさんは残念そうな顔をしながらもと来た道を指し示し、ターニャさんは報酬の食べ放題と言うことで一気にテンションが跳ね上がる。


『さっきのドワーフの爺は天魔石を何に使うのだ? これ程の物を作っておるのだから少し興味があるぞ』


「おろ? ムートもそう思う?」


 さっきの白髭爺ちゃんは魔石を持ちながら、いい鉄が取れるぞとか言ってたけど、ここ採掘場なのか? 天魔石でどうやって鉄を取るんだ? ……たしかに興味を掻き立てられる所だから俺もちょっと気になった。


「ねぇモンクットさん、俺とムートでさっきの白髭爺ちゃんの仕事見てきていい?」


 帰ろうとするモンクットさんとターニャさんを引き止め、採掘場の見学を求めた。


「んん? 鉱夫の仕事見たって何も面白くもないぞ?」


「そうだよアルトちゃん! ドンガッドで食べ放題だよ!! 早く行かないと食材全部無くなっちゃうよ!」


「……こいつ、どれ程食う気なんだ……」


 モンクットさんがターニャさんの食欲にドン引きしている。わかります、今俺も同じ事思ったよ。


 しかし、見学って言ってもちょっと見るだけだし、日が落ちるまではまだ時間あるんだから大丈夫だろう。


「ちょっと見て直ぐに戻るから先に行ってて! 行くぞムート!」


『うむ!』


 俺はムートに乗り、白髭爺ちゃんを追いかけて、広い洞穴を上に昇っていった。




 * *




 しばらく昇ると、さっきの白髭爺ちゃんが、えっちらおっちらと階段を登っていた。


「ふぅ……もう年だな……階段がキツくてかなわんわい……」


 ブツブツ小言言いながら階段きつそうに登ってるな……まぁ眉毛も髭も真っ白だし結構歳なんだろう。


 そんな白髭爺ちゃんに下からスィーと近づいて話しかけてみた。


「ねぇ白髭爺ちゃん!! 採掘の仕事見せてよ!!」


「ドワーーッ!!」


 白髭爺ちゃんが目ん玉ひん剥いて、ツルハシを構えて後ろに飛び退いた! めっちゃ飛んだぞ、爺ちゃんの動きじゃねぇ……。


「何じゃお前は!? 急にそんなとこから声かけるな! ビックリして死ぬかと思ったわい!!」


「そんなビックリするとは思ってなかったよ……ごめんなさい。収納魔法見てもビックリしなかったのに」


「あぁ、さっき天魔石を持ってきた人族の娘か……階段もない所からいきなり声かけられるなんて思ってもいないから、驚かない方がどうかしとるわい」


 構えていたツルハシを下ろし、呆れたようにフゥ……っと一息つく。


 そして、ムートに乗っている俺をジィ……と吟味するように睨みつけた。


「で、わしの仕事が見たいじゃと? ただ鉄を取るだけじゃ……なんも面白くもないぞ?」


「まぁ、一度見て面白そうじゃなかったらすぐ帰るよ。ムートも見てみたいって言ってるし」


 俺はムートに目線を落としの頭を軽くさする。ムートは小刻みにコクコクとうなづき、見てみたいとアピールをする。


「ほう、その小さな身体で子供ながら乗せて飛行しておるし、意思疎通もできる程の召喚獣か……嬢ちゃんは中々優秀なようじゃな。……まぁ良かろう、着いてきなさい。わしはアフマン、ここではアフ爺で通っておる」


 アフ爺が軽く笑みを見せ、手を差し出してくる。スライムタイツの上から見ただけでもよくわかるゴツゴツした職人の手だ。


「俺はアルト、こっちは召喚獣のムート、よろしく!」


 俺はゴツゴツの手を取り、ガッチリと握手を交わした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ソプラも連れてこれば良いのに。 心優しいソプラはドワーフのムホムホ感に惑わされず、そこにある美しさをきっと感じるでしょう。 欲罪にまみれた者とはきっと違うハズ。 『暴食』と『色欲』コンビ…
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