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76 天魔石

「おーい、ターニャさーん」


「……」


 俺は目の前にいる大きさが1m程の黒いスライムをボヨンボヨンと叩いている。


 そう、これがターニャさんがスライムに取り込まれた成れの果て……ではなく。


 スライムタイツを口まで被せ、そこに鼻から口へ息を吹き込み、ある程度膨らんだ所で丸まり完全なるスライムへと擬態した姿、もとい拗ねてる姿なのだ。


 モンクットさんとナデートさんにディスられた後、ターニャさんは涙目になり、この姿になって拗ねてしまったのだ。


「もう! 2人ともターニャさんのスタイルを皮肉るから拗ねちゃったじゃん!!」


「そうは言ってもなぁ……」


「胸だけでけぇし、ぶるんぶるんで柔らかそうじゃねぇか……女はもっとゴツくて、こう……がっしりとしたよぉ……」


 何を言っているんだこいつらは……種族の壁とはここまで違うものなのか!?


 いや、違うこれは好みの問題だ!! この2人の目が腐っているんだ!! ここで叩きなおさないとターニャさんが立ち直れない!


「てめぇら!! ドワーフの女性観を人間と同じと思うな!! ターニャさんの体型は素晴らしいものなんだぞ! ぶるんぶるんじゃな無い! あれは男をイチコロにする最強の武器なんだ!!」


 プルッ……。


「程よく引き締まった腹筋!! スライムに引けを取らない素晴らしいお尻!! 更に!! 冒険者にしておくのは勿体無いくらいの美貌!! この逸材をお前達は何と心得るんだ!!」


 プルプルッ……!


 俺は吠えた! スライムの尊さと、それを育んだターニャ様の素晴らしさを!!


「お……おう……なんか、その……すまんかった」


「う……うん、たしかに言いすぎた……悪かった……」


「おう!」


 腕を組み睨みをきかせながら返事をする。2人ともドン引きしてるけどそっちが悪い! スライム様は偉大なのだ! ドワーフにはそれがわからんのです!


 すると背後からプシューと音がしたと同時に、ムートがぴょんと頭の上から飛び降りる。何だ?と思い振り返ると。


「うわぁああん!! アルドぢゃーん!!」


「ぐむっ!? ターニャさん!?」


 涙と鼻水でぐしょぐしょのターニャさんが両手を広げて抱きついてきた。

 咄嗟のことに俺は避ける事もできず、二匹のスライムに顔を挟まれる形となってしまった。


 そのまま、ターニャさんから揉みくちゃにされながら、ありがとうありがとうと感謝された……。それはとても心地よく、前世でも体験した事の無い程のひと時であった……。


 ……ぐへへ……生まれ変わってよかった……。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


 雲内放電の音がさっきより大きくなり風も強くなって雨が振り込んでくるようになってきた。


「おっ……そっ……そろそろ降ってきそうだぞ。お前達、ちょっと離れろ。壁からもある程度の距離を取るんだ。あと、召喚獣はさっきみたいに頭の上に乗っけておけ」


「おっといけない! ……アルトちゃんありがとね」


「あっ……」


 ターニャさんはモンクットさんの呼びかけで我に返り、俺の頭をひと撫でして距離をとってしまった。おのれモンクット……。


 ムートを頭に乗せ、モンクットを睨む。睨まれた本人は「え? 何? なんでそんな睨むの?」みたいな事言ってたけど、こんな事もわからんのか、このドワーフは!!


 そうこうしているうちに穴の外がチカチカ光だし音も近くなってきた。


 そして、暴風の最中フッと全ての時が止まったような瞬間の後……。


 ドッガガガガガガガガガァン!!!!


 俺が鑑定魔石を触ったような一瞬の閃光と同時に、空気を引き裂くように雷鳴が耳を貫く!!


「うおっ!!」


「いやぁあー!!」


「……ふむ、なかなかいい落ち具合じゃないか?」


「ええ……さっきのはここ最近では一番いいんじゃないですかねぇ……」


 俺とターニャさんは目がチカチカして耳を押さえているけど、ドワーフ2人は何事も無かったように魔石の確認をするように蓄天機を覗き込んでいる。慣れてるんだろうな。


『お主はあれくらいで何をしておるんだ』


「いや、雷の直下にいた事なんてないし、ここまでの音とは思ってなかったから……」


 まだキーンとする耳を押さえつつターニャさんを見ると、両手でお腹を押さえてうずくまっていた。


 あれ? 耳か目を押さえるならまだしも……お腹? さっきの雷でお腹痛くなったとか? いやいや、意味がわからない、どうしたんだろう?


「うぅぅうーー……」


「どしたのターニャさん? 大丈夫?」


「……大丈夫って、アルトちゃんは怖くないの?」


「へ?」


 聞くと、天の魔力が空から落ちてくる事を『カミーナ』といい。その昔、天の魔力を使える青目の魔女の飼い主が討伐された後、殺した奴を恨み天界からその子孫を困らせる為に、天の魔力を放っているという昔話があるらしい。


 カミーナが落ちた人は、天の魔力がヘソから入り全身を焼いて殺されてしまうようで、落ちやすい人はその子孫の欲深い人や、悪人が多いらしいけど、天界に近づく人も落ちやすいとも言われているみたいだ。


 あぁ……だから必死にヘソ押さえてるのね。子供を躾けるための昔話ってどこも似たようなもんだな……。


 てか、ターニャさんはいい大人なんだし、悪人でもないんだからビクビクしなくていいんじゃないかな?


「ターニャさんが子孫かどうかはわからないけど、悪人じゃないから大丈夫だよ。というかそれ、大人が子供を躾けるための昔話だから」


「えぇ!? そうだったの!? なんでまだ子供のアルトちゃんがそんな事を……!? ワタシ、食欲が凄いから真っ先にやられるぞって言われ続けてきたのに……」


「うーん、ある意味欲深いと言えば間違いない!!」


 そんな話をしていたら。


「アルトちゃん天魔石ができたぞ! 見なくていいのか!?」


 振り返ると、蓄天機の扉を開いてこっちを見ているモンクットさんが手招きしている。


「あっ! 見る見る!!」


「ちょっと!? アルトちゃん危ないよ!?」


 好奇心が勝る俺は、ターニャさんを置いて蓄天機の方に駆け寄る。


「ほら、これが天魔石だよ」


 モンクットさんが手の上に小さめの魔石を手渡してくれた。それはさっき運んできた空魔石と違い、全体がうっすらと白く発光していた。


『ふむ、たしかに魔力が貯まってはいるようだが、かなり微量だな』


 え? そうなん? 発光してて綺麗なんだけど……。まぁ確かに他の属性の魔石に比べると色合いは薄いよね、これで完成なのかな?


「モンクットさん、これあんまり魔力貯まってないみたいだけどこれでいいの?」


「あぁ大丈夫だ。普通、魔石に魔力を込めるのはかなりの時間と労力が必要だからな。うっすら光っているが、ここまでの魔力を貯めるのに1年はかかるもんだ、一瞬でここまで貯まる方がおかしいってもんさ。

 だからこそ、天の魔力がいかに膨大な量なのかがよくわかるってわけだ。しかし、定着力はないから魔力は3日程しか持たないんだ」


「ふーん、凄いんだね……」


 落雷は凄いエネルギーを持っているってのは知ってるけど、まぁ瞬間的なものだからなぁ……。俺は淡く発光する天魔石をマジマジと眺める。


 すると……。


「「あっ……」」


 バチンッ!!


「ぐあぁああっ!?」


 天魔石を顔に近づけた瞬間、鼻にバチンッときた!! あまりの痛さにその場で転げ回る!! そこにターニャさんが来て、慌てて抱き起こしてくれた。


「アルトちゃん大丈夫!?」


 痛ってぇぇえええ!! 鼻もげたかと思った!! なんだよアレ!! スタンガンかよ!!


「そうだ、スライムスーツを着てない顔面に近付けると天の魔力が漏れ出るから危ないんだった……」


「扱い慣れてて、すっかり忘れてましたね」


 モンクットさんとナデートさんが髭をわしゃわしゃしながら申し訳なさそうに俺を見る。


「そういう危険な事は手渡す前に言わんかい!!」


 くそっ! 酷い目にあった! 鼻を押さえて怒りの目を向けていると……。


『む? 何かくるぞ……』


「え?」


 ギャーッ! ギャーッ! ギャーッ!


 この暴風の中、汚い鳴き声と共にそいつは洞穴を塞ぐように目の前に現れた!


「来たな!! ターニャ仕事だ!! アルトちゃんはこっちだ!!」


「了解!!」


「おぉ!?」


 ターニャさんは剣を構えそれに立ち向かい、ナデートさんは魔石を蓄天機に戻し、モンクットさんは俺を抱えて奥に避難する!


 突如現れたそいつは鼻先にいくつも傷がある、プテラノドンによく似たワイバーンだった!

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