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70 ワタシの出番だ!

 倉庫に着くと、従業員の人達が慌ただしく魔石を大きな木箱に詰め込んでいた。


「ちょっとそこの君、空魔石の補充分は集まりそうですか?」


 デリバーさんが魔石を運んでいる衣服がボロボロの男性従業員の1人を呼び止め、現状確認をする。


「あっ!! ギルマス!! 申し訳ありません、落石に気が付かず大事な荷車ごと谷底に落としてしまいました……空魔石は今、各ギルドに要請をかけて掻き集めてます! ギリギリですが、なんとか集まりそうです!! ……しかし、輸送に使う荷車が今出払ってしまっていて、出発は早くても1週間後になるかと……本当に申し訳ありません」


 男性従業員の人は、申し訳なさそうに頭を下げる。この人が落石事故にあってしまった本人みたいだ。


「いえ、起きてしまったものはしかたありません。あなたが無事で何よりです。運搬方法は確保しますから、空魔石の収集を急いでください!」


「はい! 承知しました!」


 そう言って男性従業員は空魔石収集に走って行った。うん、デリバーさんやるね。従業員の気遣いもしながら、リカバリーも早い、さすがギルドマスター。


「では、アルトちゃんこっちへ来てください」


「はい!」


 連れていかれた先には木枠の箱に山のように積まれた空魔石があった。


 ちなみに魔石とは、迷宮の魔物を倒すと手に入る魔物の核で、迷宮の種類により火、水、風、土の魔力が入っている。それぞれ多様な使い道があり、魔道具の素材などにも用いられる石の事だ。


 空魔石は、その魔石の魔力を使い切った状態の石で、見た目は普通の石だけど魔力を吸収する性質を持った石である。


「運んでもらうのは、この木枠の箱5つ分だね。1回では無理だろうから何回かに分けて往復してもらうかと思う」


「わかりました。でもこのまま運ぶのは安定しないから、丈夫なロープで吊るすか、丈夫な布で巻いて運ばなきゃダメだと思います」


「わかった、それはこちらでなんとか工夫しよう。……あと、今すぐ冒険者ギルドに行ってC級の冒険者を1人連れてきてくれないかな? 一緒に飛んで行ってもらうから、荷のことを考えて出来るだけ小さい小柄な女性がいいかもね」


「ん? 冒険者? なんで?」


 デリバーさんが唐突に冒険者を連れて来いと言ってくる。道案内の為かな? でも町くらい方向教えてもらって、高く飛んで探せばすぐに見つかるだろうからいらないんだけどな?


 俺が不思議そうな顔してると


「これ程の依頼になると冒険者ギルドでC級以上の護衛を1人以上付けなきゃいけない規則になっているんだ。

 それに、アルトちゃんは配達先のドワーフの町『フーギン』にはまだ行ったことがないだろう?

 そこに住む人達はドワーフ族といって、なかなか気難しい人ばかりなんだよ……そこに、アルトちゃんみたいな子供が1人で行っても受けあってもらえないかもしれない。今回の冒険者ギルドへの依頼は、護衛というより道案内と顔通しをお願いしたいんだよ」


「あーなるほど……わかりました!」


 そんなに気難しい人達だったら、案内人や顔通しの人がいれば助かるのは事実だよな。下手するとムートみて警戒されるかもしれないし。


 この短い時間でそこまで考えられるデリバーさんは流石だな。


「よろしく頼むよ。あっ! ちょっと待ってね……依頼を優先してもらえるように……これを受付に渡してくれるかな?」


 デリバーさんはそう言って胸ポケットから紙切れを出し、近くのテーブルでメモを書いて渡してくれた。


「わかりました! すぐに冒険者ギルドに行ってきます! 行くぞムート!」


『うむ』


 メモを受け取って、倉庫の出入り口へ向かう。


「おっと!」


「ぐぅ!?」


 デリバーさんが、何故か俺についてこようとしているフィルさんの襟を掴んだ。


「なんで貴女も行こうとしてるんですか?」


「いやーなんか面白そうかなーって思いまして」


「貴女には朝頼んだ仕事がありましたよね? アレは終わったんですか?」


「いや……アレは……その〜……」


 捕まえられて、しどろもどろになるフィルさん。どうやら俺に乗じてサボろうとしていたようだ。


「そうだ! アルトちゃん!? くれぐれも街中では飛ばないで下さいね! 騒ぎになってしまいますから!」


「はーい! わかりましたー! 行ってきます!」


 俺は涙目で助けを求めるフィルさんを残して、足早に冒険者ギルドへ向かった。




 * *




 冒険者ギルドへ到着した。


 運輸ギルドよりは倉庫が無い分小さいけど、それでもかなり大きな建物だった。


 中に入るとあまり人はおらず、隅っこの長椅子に鎧やローブを着た、ザ冒険者みたいな人達がチラホラいた。


「あら? 可愛いお客さんね。何かご用?」


 キョロキョロして目立っていたのか、受付のお姉さんがカウンターから出てきて話しかけてきてくれた。


「あの、フーギンまでの道案内をしてもらえる女の人を連れてきてっていわれたんですけど」


 受付のお姉さんにメモを見せると、目がギョッと大きくなり、何故かギルドマスターの部屋へと案内された。


 コンコンコン


「入れ」


 お姉さんのノックのあと、中から低くしゃがれた声で返事か返ってくる。


「失礼します。運輸ギルドマスターより緊急依頼です」


「ああん? 運輸ギルドォ? この忙しい時にいったい何の……うぉお!? お前は!!」


「あーども、お久しぶりです」


 冒険者ギルドマスターは俺を見るなり、後ろに軽く飛び退いた。この人は王城の部屋で俺の配属先を決める時に、他のギルドになすり付け合っていたギルドマスターの1人だ。


 それにしても驚き過ぎじゃない? 俺なんもしないよ? 怖くないよ?


「え? どうしたんですか? そんなに慌てて……はっ!? あなたギルマスに何かされた!?」


 お姉さんはギルマスの態度を見て、不思議そうに俺を見てくる。


「あー!! 大丈夫だ!! 直ぐに用件を言え!! いや、言いなさい!! 君はすぐに持ち場に戻ってくれ!!」


「いいえ!! 戻りません!! ギルマスの女好きは知っていますが……まさかこんな……」


「違ーーう!!」


 ギルマスが慌てて弁明して退室させようとするが、お姉さんは軽蔑したような目で睨み返し、なぜか俺をぎゅっと抱きしめてくれた……。うへへ、柔らかい。


 その後、俺が何もされてない事を説明してなんとか誤解は解かれ、お姉さんは心配そうな顔をしながら受付に戻って行った。ちなみに冒険者ギルドマスターの名前は『アーベン』というらしい。


「はぁ……くそっ! なんでオレがこんな目に合わなきゃならんのだ……」


「アーベンさんの日頃の行いじゃないの?」


「うるせぇ!! いいか!? オレはガキには興味ねぇ! もっとこう、ボンッキュッボッ……。はぁ……お前にこんな事言ってもしゃーないか。これか? デリバーからの依頼ってのは」


 そう言って預かってきたメモを開いて読む。アーベンさん、俺も好きですよボンッキュッボンッ!! ……口に出しては言わないけどね。


「うーむ……中々難しいな。そもそも女の冒険者が少ないし、魔物と戦うことが前提である以上、小柄な冒険者はあまりいないからなぁ……。しかし、なぜ体格が小さい方がいいんだ?」


「あぁ……それは……」


 俺は、今回の経緯と依頼内容を説明した。


「なるほどな……。しかし、この小さいバハムートが、それほどの荷を運べるとは思ってもみなかったな……。

 それなら、明日になれば要望通りの冒険者が……」


「その依頼!! ワタシの出番だ!!」


 バーンッ!!


「「ドワーーッ!?」」


 扉が弾け飛びそうなくらい豪快に開かれ、その人はガチャリと鎧の擦れる音をたてながら部屋に入ってきた……。


 この国には、ノックをする文化はあまり浸透していないのだろうか……?


「いきなり誰だ!! 馬鹿やr……ゲェッ!?」


「えっ!? あれ?」


 そこには満面の笑みを向ける、赤い鎧のターニャさんが立っていた。


「久しぶりだね! アルトちゃん♪」

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