7 やっぱり親子
「はーっはははは! この子は間違いなくシーラの子供だよ! ぷくくくくくっ……! はーっはははは!」
その場にいた全員の驚きを弾き飛ばすかのように、ミーシャの豪快な笑いが辺りに響き渡る。
あまりにもデカイ声、咄嗟に両手で耳を塞いでもまだデカイくらいだ、おかげでソプラから手を離してしまった。
当のソプラは、今現在、自身になにが起きたのか整理できず、目がグルグル回っているかのように焦点の合わない瞳でこちらを見て、両手の指を胸の前で必死に動かしアワアワしている。
「えっ……あの……私はソプラで……恋人? ……でも女の子……だし……え? ……は? ……はえぇ?」
取り乱したソプラ可愛い、異論は認めない。
「アルト! お友達でしょ!? 言葉のチョイス間違ってるわよ! チョイス!」
「はーっはははは! 此奴はおもしれぇ! いきなり告白とはな! こりゃ呪いも形無しだ! はーっはははは!」
「はぁ……。アルトまさか村の男の子にもそれ言ってるんじゃ無いよな?」
シーラ、マルク、ダンも堰を切ったように俺をまくし立てる。
いや、俺も悪かったよ。まずは友達からだよな、うん、わかってますよ。
「ビックリさせてごめんね、私はアルト、友達になってくれる?」
警戒を解くため全力の笑顔を作り、ソプラの前に右手を出し握手を求めた。
「えっ……。あの……」
ソプラがどうしていいかわからず、オロオロしながらミーシャを見上げ、目で訴える。
「よかったじゃないか、正真正銘、お友達だよ。」
ミーシャが優しく微笑み、ソプラの頭を撫でて安心させた後、俺の方を見る。
「アルトだったね、ソプラは引っ込み思案で恥ずかしがり屋だ、だからあまり友達がいなくてね……。是非友達になってくれると助かるよ。」
「はい! なります!」
即答だった。拒否する理由も何もない。
改めてソプラを見ると、今にも湯気が出そうなくらい真っ赤顔で目を見開き、両手で口元を隠しこちらを見ていた。
「あっ……あの……こちらこそ、よろしくお願いします!」
ずっと差し出したままだった俺の右手を両手で包むように掴み、ぐいっと一歩前に出て俺を直視してくる。
顔の距離は30cmくらいだろうか、本当に綺麗で吸い込まれそうな瞳だ。
大きく潤んだ青い瞳、サラサラの柔らかそうな青い髪、艶のある小さな唇、白い中に紅く染める頬。
自然と顔が近づいていってしまう。
俺はソプラの手を無意識に引き寄せ、目はゆっくりと閉じながら彼女の唇に吸い寄せられるかのように距離を詰めていく。
「えっ!? ……あの!? ……っ!!?」
ゆっくり近づいてくるアルトにどうして良いかわからず目を瞑って顎を引き、身構えるソプラ……お互いの小さな唇は重な……
「アールートー!!!!? 何しようとしたのかなー!? おかしいでしょー!?」
……らなかった。
シーラに襟首を掴まれ、ソプラと引き離されてしまう。
おしい後もう少しだったのに。
「本当……アルトはたまに周りが見えなくなるというか、情熱的というか……母さんちょっと心配よ……。」
俺は猫の首をつまんで持ち上げられたようにシーラに襟首を掴まれてぶら下がっている。
あらいやだ、シーラさん意外と腕力がおありですね。
「そんな所がそっくりだって言うのよ、シーラだってダンと出会った時なんか、周り見えないくらいの猛アタックだったじゃない」
「ギャー!! ミーシャ!! それは言っちゃダメー!!!!」
シーラの顔から火が出そうなくらい真っ赤にしてミーシャの口元を飛上りながら塞ごうとするが身長差があり苦戦している。
俺はシーラがいきなり手を離した為、思いっきり尻もちをついてしまった。
「大丈夫? 痛い?」
ソプラが心配そうに右手を差し伸べてくれる。
「あぁ…大丈夫、ありがとう」
差し伸べてくれた手を掴み起き上がり、改めてあいさつをした。
「これからよろしくね!」
彼女は心底嬉しそうに笑顔を見せて
「はい」
とだけ答えた。
天にも昇る高揚感と真っ赤になる顔、俺は天使を見たようだった。
「よう、ダン……。」
「なんですか?マルクさん」
「やっぱり親子だな。」
「……同感です」
蚊帳の外だった2人は、真っ赤になっている母と娘を苦笑いしながら見守るのだった。
* *
互いに落ち着いた後、明日町を案内してくれる約束をして別れた。
宿屋は木造二階建てのログハウス風、気立ての良い膨よかなおばちゃんが受付をしてくれた。
料金は前払いで大人2人子供1人で大銀貨1枚と銀貨1枚だった。
異世界の通貨だが、考え方は日本と変わらないようだ。
薄鉄貨……1円
鉄貨……10円
大鉄貨……50円
銅貨……100円
大銅貨……500円
銀貨……1,000円
大銀貨……5,000円
金貨……10,000円
白金貨……100,000円
大体この様な感じだ、大銅貨までは真ん中に穴が空いている。
部屋に案内されると綺麗なシーツが敷いてある大きいダブルベッドが1つあり、その横に衣装かけと机と椅子があった、シャワーは無い、トイレは共同だ。
とりあえず旅の汗をタオルで拭き、家から持ってきたパンと干し肉とチーズで夕食にした。
久しぶりの旅で疲れたのか早々に親子3人ベッドに横になる。
しかし、俺は眠る前に2人に聞いておきたい事があったのだ。
「ねぇ、なんで皆んなソプラの目を嫌がるの? あんなに綺麗なのに」
ダンとシーラが俺の顔の上で視線を交わし軽く頷く。
「ねぇ、アルトはソプラちゃんの事好き?」
シーラが俺の頭を撫でながら優しく微笑みかけてくる。
「うん、大好きだよ」
俺も正直に答えた。
「じゃあ……少しお話してあげる。この世界が始まった昔々のお話……」
ゆっくりと言葉を確かめる様にシーラは俺にこの世界の神話を語ってくれた。