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69 お仕事ありませんか?

 王都を出発して1週間、ようやくベルンにたどり着いて、両親へムートをお披露目するためにイリス村に帰って来た。


 ベルンからイリス村まではムートに乗って大体30分くらいで着いた。荷物を乗せないで移動するジムが半日かかる距離なのだが、やはり飛ぶのは早い。


「ただいまー!」


「まぁ! おかえり!! あら! 頭に乗ってるのはもしかして……召喚魔獣試験に合格したのね!! さすが私の娘だわ!」


「……アルト帰って来たのか!? おぉお! 小さいけどそれドラゴンか!? 凄いぞアルト!! さすがおれの娘だ!!」


 2人共俺を抱きしめてたり、キスしてきたり大喜びだ。こんなに喜んでもらえるならムート召喚した事も多少報われ……。


『この2人がお主の親か? 騒がしいところがそっくりだな』


「「喋ったぁぁぁぁあ!?」」


 2人とも目を限界までひん剥いて、顔面崩壊するんじゃない? と思うほどの驚愕の表情を見せて、喋るムートに驚いていた。


 あれか、リエルにやられたあと、金色の魔力で一度生き返った事があるからムートと話せるんだね。


 そのあと、落ち着かせて事の経緯を説明してなんとか納得してもらったが、2人共ブツブツ言いながら、頭抱えて動かなくなってしまった。


 娘の負債に頭抱える夫妻……。うん……ごめんなさい……。


 とにかく、仕事して負債を無くしていかなければならないので、2人をそのままにして、イリス村の村長の家に行った。


 イリス村は小さい村なので、村長の家が各ギルドの受付なども兼任している。


 村長にも事の経緯を説明して、一応運輸ギルドの仕事は無いかと聞いたが、小さい村で手紙をやり取りする事がほぼないので案の定仕事は無かった。


 まぁ、そりゃそうだよね。わかってた。


 どこか哀れみを向ける村長に別れをつげ、両親にも仕事をする為にベルンに戻る事を伝えたら、短時間で帰れるならばここから通わないか?と引き止められた。


 確かにそうだけど、ベルンの方が仕事もありそうだし、ソプラと離れたくないし、教会の手伝いもあるので週一で帰ってくる事を約束してベルンに帰った。


 そして、あっと言う前に一週間が過ぎた……。













「あかーーん!! 仕事が全然ない!! これじゃランク上げるのに、いったい何年かかるんだよ!!」


 朝食を終え、教会の外の椅子に座って、テーブルの上に置いてある数枚の銅貨を見ながら、俺は苦悩していた。


 意気揚々と始めた『バハムートの宅配便』だが、ベルンの運輸ギルドから受けた仕事は、一週間でたったの5件だった。


 FランクからEランクへ上るには、手紙などの配達物を1000件こなす事。土地勘があるか、文字や記号は認識できるかなどを見る為の要は試用期間だ。


 ほとんどの場合は、その町の子供のお小遣い稼ぎくらいの仕事で、本格的に仕事をし出す年の頃には、既に皆Cランクくらいにはなっているのだそうだ。


 俺はイリス村では店の手伝い、ベルンでは教会の手伝いをしていたので、完全に0からのスタートなのだ。


「だからやめときなさいって言ったのよ」


 修道服姿のミーシャが教会の前を箒で掃きながら、ため息をつき哀れむ表情で見てくる。


「うぅぅ……まさかこんな時間かかるとは思ってなかったんだもん……」


「でも、ちゃんと前に進んでいるんだから元気出して行こうよ、ね!」


 掃除の手伝いをしながら俺を励ましてくれるソプラの笑顔が眩しい。癒される、天使、抱きしめたい。


 しかし、現実は甘くない。なんとかランクを上げて依頼料も上げなければ、負債は一向に無くならない。


 ならば……。


「俺、今からデリバーさんの所に行って、ランク早く上げてもらえないか頼んでくる」


「え? 今から?」


「うん、ムートなら今の時間なら王都を往復しても今日中には帰ってこれそうだし、こういうのは早く解決しておかないとダメだと思う」


「……まぁ、今日は教会の仕事もほとんど無いし……いいわ、行ってきなさい。夕方には戻ってこれる?」


「ありがとうミーシャ! 多分大丈夫だと思う! よし、ムート行くぞ!」


 テーブルの上で丸くなって寝ているムートを揺すって起こす。


『む? 仕事か?』


「急いで王都に行くぞ!」


「アルトちゃん、王都行くなら修道服着替えなきゃダメだよぉ」


 すぐに飛び立とうとしたらソプラに止められた。修道服だったの忘れてた。


 王都まではムートなら片道3時間くらい。俺は急いで準備を整えて、王都に出発した。



 * *



 王都には昼過ぎに到着した。ムートに乗っての移動は、やっぱり早い。ボサボサになってしまった髪を櫛で梳かし、運輸ギルドへ向かった。


 しばらく歩いて運輸ギルドに到着、中に入ると相変わらず忙しそうに人が行き交っていた。ここなら仕事もいっぱいありそうだ。


 とりあえず、デリバーさんに取り次いでもらう為に受付に並んでいたら。


「あー!! アルトちゃんだ!! どうしたんですか?」


「うぇ? フィルさん」


 急に話しかけられたと思ったら、フィルさんだった。


「こんな昼過ぎにきても、もう依頼ないよ? あっ! もしかして配達物なくしちゃったとか!?」


「いや、ランクを早く上げる方法はないかデリバーさんに聞こうかと思って」


「ギルマスに? でも、こんなとこに並んでも取り次いでもらえないよ?」


「えっ!? そうなの?」


 よく考えたら王都の運輸ギルドマスターなんだから忙しいのは当たり前か。例えば会社の受付に行って、いきなり社長に会わせて、なんて事が通るはずもないよね。


「ギルマスも忙しいからねぇ……よし! わたしが連れてってあげる! きて!」


「え? いいの? っとととと!?」


 フィルさんは俺の返事も待たず、手を引いてデリバーさんの部屋に連れて行ってくれた。


「ギルマスーー!! アルトちゃんがきましたよー!!」


 フィルさんはなんの躊躇もなく、バーン!! とドアを勢いよく開けて、デリバーさんの部屋に入る。


「どわーー!? ちょっ!! フィルさん!! 貴女は毎度毎度、なんでノックもせずいきなり入って……あれ? アルトちゃん? ベルンに帰ったのでは?」


「あはは……いや、ちょっとご相談が……」


 フィルさんの遠慮ない行動に呆れつつ、驚かせた拍子に散らばりまくった書類の片付けをして、忙しい中少し話を聞いてくれる事になった。なんか、すんません。


 簡単に仕事が無いことと、ランクを早く上げる方法を聞いたが、当然そんなものは無く地道にコツコツとやるしかないようだった。


 王都で仕事が無いかとも聞いたが、土地勘が無いことや、その収入でギリギリの生活をしている人もいるらしく空きも無いようだった。


「うーむ、でも困りましたねぇ……早くランクを上げたいのはわかりますが、特別な依頼などが無い限り、それもできませんからね……」


「そこをなんとかならないでしょうか……お願いします」


「難しいですよねー……」


 あーだこーだと3人で悩んでたら……。


「ギルマス!! 大変です!!」


「「「どわぁーー!!」」」


 勢いよくドアが開き、受付の人が大急ぎで入ってきた!


「今日は私を驚かせる催しでもやっているんですか!?」


「そんな面白くもない催しなんて誰もやりません! それよりもこれ見てください!」


「私の威厳……」


 デリバーさんはしぶしぶ差し出された書類に目を通すと、だんだんと顔が強張っていく。


「まさか……空魔石……これ全部ですか?」


「はい、運搬中に魔物に襲われたらしく、荷車ごと谷底に落ちて回収不可能だそうです……」


「これは困りましたねぇ……」


 頭をくしゃくしゃ掻きながらデリバーさんが難しい顔をしている。なんか一大事みたいだけど聞いていい物なのか、わからない。


「ギルマスどうしたんですか?」


 何事もないように軽い口調で聞くフィルさん。この人便利だな。


「うーん、ドワーフの町に運搬していた、採掘用の空魔石が全部谷底に落ちてしまって、再配達しなきゃならないんだけど、運搬用の荷車が今出払ってしまっていて運べないんだ。

 前々から催促がきていてやっと運搬していたんだけど、この事故でまた到着が遅れるとドワーフ達もカンカンだろうね……はぁ、どうしたものやら」


 どうやら、早く配達しないとデリバーさんが怒られるみたいだ……。ん? でもこれって俺にとってはチャンスなのでは?


「ねぇ、それ俺が代わりに運ぼうか? 飛んで運べるから直ぐに行けるよ!」


「!?……そうか、バハムートはかなりの量を飛んで運べたよね!? 1回では無理でも何回か小分けにして運んでくれたらなんとかなるかもしれない!

 アルトちゃん! 急な依頼だけど私の直接依頼にしてあげるから、依頼達成したらランクアップできるよ! お願いできるかな!?」


「はい! やります! 任せてください!」


「アルトちゃんよかったねー」


「喜ぶのは依頼達成してからにしましょう! 急いで準備しますよ! 付いてきてください!」


 急に舞い込んだランクアップの依頼に飛びついた俺は、デリバーさん達と一緒に急いで倉庫に向かうのであった。

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