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68 腹ペコ冒険者

「あっ! あれ、アルトちゃんじゃない? 帰ってきた……よ?」


「何かしら、あのぶら下がってる赤いの? ……ん? 人?」


「何か嫌な予感しかしないんだけど……」


 俺が草原の真ん中で拾った、腹ペコ赤鎧さんを引っさげて帰ってきたら、みんな目をまん丸にして出迎えてくれた。


「た……ただいまー」


「ねぇ……その人、まさか……」


「アルト……覚悟はできてるわね……?」


「早くも第1の犠牲者が……」


「まだ死んでねぇよ!! ミーシャも剣抜かないで!!」


 輸送中に意識を失った赤鎧さんを一旦地面に寝かせて、ミーシャ達に事情を話し、お昼の準備をする事にした。


 今日のお昼は、パンと塩とハーブで味付けし、小麦粉をまぶしバターでこんがり焼いたミリピッグのソテーだ。


 フライパンの上で人数分に厚く切り分けられた肉が、ジュウジュウと心地よい音で焼き色がついていき、バターと肉汁の軽く焦げた匂いを漂わせる。


 うーむ、作っていてなんだが、毎回このバターの焦げる匂いはたまりませんなぁ……。


『うまそうだな、早く我にも食わせろ』


「うわっ! きったねぇ! 頭の上でよだれ垂らすな!! ちゃんと作ってやるからあっち行ってろ!!」


 全く……ムートって意外と食い意地張ってるんだよな。


 宿でサコさんの料理を食べていたら『うまそうだな』とジィーっと見つめてきて、試しに食べさせると『これが料理というものか!!』と目をキラキラさせて言うんだもん。


 それからは、ムートも俺らと同じ食事を食べるようになった。バハムートの味覚って人間と同じなのだろうか? よくわからんが、同じ物食べられるなら、あれこれ考えなくて済むのでよしとする。


「……っは!? 肉ぅ!!」


 ゴスッ!!


「あだぁ!!」

「ぐぁ!?」


「あっ! 起きた! アルトちゃーん! お姉さん起きたよー!」


 そうこうしている内に、赤鎧さんが肉の焼ける匂いにつられたのだろうか。また、勢いよく飛び起きて、目の上に置いておいたタオルを変えようとしていたドーラと頭をぶつけたようだ。


 2人とも不意打ちが余程痛かったのか、頭押さえてうずくまっている。


 料理を中断して目を覚ました赤鎧さんに駆け寄る。


「起きたね。今、昼食作ってるからちょっと待ってて……」


「あっ!! 貴女酷いですよ!! いきなりなんて事するんですか!? ワタシ……あんな事……あんな格好で……うぅ、生まれて初めてだったのに! ……もっとゆっくりって言ったのにぃ!!」


「うぉぉぉう……」


 涙ながらに俺の肩を、ガクガク揺すりながら訴えてくる赤鎧さん。


 しょうがないじゃん。あの時はアレしか輸送方法無かったんだし。確かにちょっと怖い思いさせたかもしれないけど、ここまで運んで飯食わせてやるんだから勘弁してほしい。


 ……ん? みんなどうした? なんでそんな目で俺を見ている? おい……なんか違う事考えてない? 違うからな!? なんもしてないからな!?


「……まぁいいわ。あんた王都の冒険者ね? 草原の真ん中でお腹空かせて倒れるなんて。初心者なの?」


「お姉さんはアルトに何か……その、やられたのか? 体は大丈夫なんですか?」


「いや、面目無い……一応C級の冒険者なんですが、持ってきた食料を戦闘中うっかり他の魔物に持っていかれてしまって……あと、体は大丈夫ですよ? こう見えて丈夫なほうなんで!」


 腕の力こぶを見せて、笑う赤鎧さん。鎧を着ていているからあまりわからないが、正直そこまで太くはない。


「でも生きててよかったです。連れてこられた時は、死んでるかと思いましたし……」


「いやー本当ご迷惑、おか……け……」


 ソプラとしゃべっていた赤鎧さんの視線が、急に一点を見つめて止まった。そこには……。

















『ク?』


「…………ジュルリ」


『クックゥーー!!』


 スポポポポポポポポポポーーン!!


「「「「どわぁぁぁぁあ!?」」」」


 クーちゃんが急に飛び上がり、デコエッグを大量に産み出した! 俺の時の倍以上は、あるのではなかろうか? 普段は毎日1〜3個程の卵を産むが、身の危険を感じた時の卵の量が半端ない。


 赤鎧こんちくしょう!! その滝のように流れ出ているよだれを止めろ!! クーちゃんめっちゃびびってるじゃねぇか!


 目の前の生き物みんな食料とでも思ってんじゃないのか!? あぁ! 腹がデスサウンドを奏でだしやがった!!


 俺は卵を産み続ける、クーちゃんを安心させるべく、急いで中断していた料理を作りに戻った。




 * *




「ングング……おっ……おいしぃー!! こんな……ムグ、おいしい料理、生まれて初めてモグぅー!!」


「はぁ……そりゃよかったよ……てか、食べながら喋らなくていいから、ゆっくり食べなよ……」


 さっきのデコエッグ騒動後、すぐに昼食になったのだが、一通り食べ終えても赤鎧さんの腹の虫は泣き止まなかった。


 そこで今『第2次絶品卵ランチ祭り』開催中だ。


 しかし、めちゃくちゃ食うなこの人……。さっき大量に産んだデコエッグが、もう半分くらいになってるんだけど……。


『中々の食べっぷりだな、このメスは』


「この姉ちゃんの腹のどこに、あれだけの食い物が入るんだ?」

『キュー……』


「いっぱい食べるねぇ……」

『クウゥ……』


「ここまで遠慮ない食べっぷりをみると、呆れ通り越して感心するわ……」


 最初はオムレツとか作ってたんだけど、調理が食べるスピードに間に合わず、もう質より量だと、大量に茹でた卵と塩を与えたら、鍋一杯のゆで卵をペロリと平らげて、やっと腹の化け物は落ち着いた。


 みんな赤鎧さんの食べっぷりにドン引きである……。


「ぷはー生き返ったぁー。ごちそうさまでしたぁ!!」


「おそまつ様でした……落ち着いた所で、お姉さん名前なんて言うの?」


「はっ!? これだけ食べさせてもらってからなんですが、自己紹介を忘れていましたね! すいません!

 ワタシはターニャ! 王都の冒険者ギルドに所属しているC級冒険者です。この度は空腹のところを助けて頂き、本当にありがとうございました」


 ターニャさんは一歩下がり、片膝を立てて騎士と同じように深々と礼をした。


 その後、俺たちも自己紹介して、全員召喚魔獣持ちだと知ったターニャさんはとても驚いていた。


 王都で冒険者ギルドに寄ることがあれば、力になるとも言っていたが、愛想笑いで流しておいた。


 昼食の片付けも終わり、ターニャさんには帰りの食料として、クーちゃんのゆで卵を持たせて、それぞれ帰ることになった。


「もう、空腹で倒れるなんてしないでね」


「はい! ありがとうございました! このご恩は、食の神ターカ様に誓って決して忘れません!!」


 ターニャさんは大手を振って、王都の方に何度も礼を言いながら歩いて行った。


 それを見送った後、俺たちも荷車に乗り込んだ。


「いやー凄い食べっぷりだったな」


『人間には面白いメスもいるのだな』


「クーちゃん食べられるかと思ったよ」

『クウゥ』


「世の中には、想像を超えるやつがいるって知ったよ」

『キュー』


 俺たちは長い昼食を終え、荷車に揺られながら、あらためてベルンへと出発するのであっ……。















「で……なんであんたは、ついてきてるの?」


「「「え?」」」


 ミーシャの一言にみんな後ろを振り返ると、さっき別れたと思ったターニャさんが、ニコニコしながら付いてきていた。


「いやー、ここから王都まで結構距離があるじゃないですか。なので、このまま帰ろうにも、もらった卵だけでは、また飢えで倒れそうになりそうかなーーと思い……それなら恩を返す為に護衛を兼ねて一緒について行こうかなーって!」


「「「「…………」」」」


 ニコニコしながらドヤ顔決めるターニャさんはとても誇らしげだった。


 ……でも多分俺含め、みんな言わずともわかってる、この人は……。


「……で本音は?」


「あの美味しい料理をずっと食べながら旅とか最高じゃないですか!!」


「……ムート、仕事だ」


『うむ』


 俺はスッと立ち上がって荷車を降りる。


「あえ? どうしたのアルトちゃん? なんで召喚獣に乗るの?……ん? えっ? あっ! ちょっ!? 腰掴んで何……いゃ!! ダメ!! 今、飛んだら出ちゃう!! さっき食べた美味しかった物、全部出ちゃう!! 出ちゃうかr……イャァァァァァァァ!!」


 ミーシャ達はそれをどこか遠くを見るような目で、無言で見守ってくれた。


 涙目で絶叫するターニャを王都付近へ強制輸送する。

 これが俺とムートの最初の仕事になるのだった。


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