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67 赤い人

「じゃあ、お世話になりました」

「お世話になりました」

「お世……あっ!また扉壊れた」

「また来るわね」


 早朝、俺たちは朝食を食べた後、旅の荷物を背負い、ハン・パナイ亭の前で別れの挨拶をしていた。


「ぜひ、またきてくださいね!」


「嬢ちゃんたちなら、いつでも大歓迎だからな!」


 ユーヤさんとサコさんが笑顔でお見送りしてくれる。


 この宿を最初見たときは廃屋かと思うほどだったけど、今は味がある……ような気がしなくもない程度にはなった。


 実際、サコさんの料理の腕は素晴らしく、俺も色々教えてもらってレシピが増えた。


 ユーヤさんは心配性で可愛くて気立ての良い看板娘だけど、結局耳はもふもふさせてくれなかった。残念。


 しばらく歩いて、王都に来た時の門の広場に着いた。


 荷物を沢山詰め込んだ荷車に乗る商人、近隣の魔物狩りに行く冒険者、召喚魔獣とお土産を抱えて乗合馬車に乗り、地元に帰る子供達。


 早朝だが人の出入りが多く俄かに活気付いていた。


 俺たちも預けていた馬と荷車に荷物を載せて、ベルンへと出発した。


『これから主らの巣に帰るのだな?』

「巣じゃなくて家な」


「ムートちゃん見たら、町のみんなもビックリするだろうね」

『クックゥ』


「おれはいつ町が消えて無くなるかが心配だよ……」

『キュー』


「3人とも召喚魔獣を召喚したと言う事が一番凄いところよ。胸を張って帰りましょう」


 王都に来てから1日1日が濃かったからか、凄く名残惜しい。ベルンに帰ったらムート達が加わった新しい生活が待っている……よし! やってやるぞ!




 * *




 王都を出発してしばらく走り、だだっ広い草原にでた頃。


「ミーシャ! そろそろ大丈夫じゃないかな?」


 俺は逸る気持ちを抑え切れず、荷車からミーシャに許可を求め、身を乗り出した。


「そうね、この辺りくらいならもう大丈夫かしら。でも本当にやるの?」


「うん! ムート! 行くぞ!」


『うむ』


 俺はすぐさまムートに乗り、ふわりと浮き上がった。


「あまり上空にいったらダメよ! スカイドラゴンに遭遇したら戦わず必ず逃げる事! いいわね!?」


「アルトちゃん迷子にならないでね!」


「面倒な事にならなきゃいいけど……」


「わかってるって!! じゃあ行ってきます!」


 そう言って俺とムートは上空にスイーと登っていった。


 * *


 かなり上空まで来た。見渡す限りの草原、青い空と山が織りなすコントラストが映える景色は格別だ。乗っていた荷車から手を振るソプラが小さく見える。


 やっぱり飛ぶというのは良い。心地よい風と開放感も相まってめちゃくちゃ気持ちいい! 子供の頃に思い描く夢の1つだよ、◯空術とかね。


『ではアルト、速度を上げていくぞ』


「おう! 頼むぜ!」


 これから行うのは速度テストだ。乗った状態で、どこまで速度を出せるか見極めるのが目的だ。


 移動速度を把握しておかないと、どれくらい俺が耐えられるかわからないし、荷物を届けられる速さも知っておかなきゃならない。


 まぁ、色々言うけど要はただの興味本位だ。


 そうこうしてる間に、徐々に速度が上がり顔に当たる風も強くなってきた。


 この感じはアレだな。昔、ダンの召喚獣、ジャイアントバイソンのジムの背中に乗って全力疾走してもらったくらいの感覚。


 多分時速にすると60〜70km/hくらいかな? これくらいならまだ大丈夫。


 速度が上がって目が開けられなくなってくる。100〜120km/hくらいだろうか? 風も頰を揺らす程に強くなってきたが……まだ大丈夫。


 更にグンっと速度が上がり、強烈な風圧が全身を襲う!180〜200km/hくらい? もう、目も開けられないし、息もつけない! 必死にムートのツノにしがみついている状態だ!


(ぐぅぅ……もう無理! ムート止まって!!)


『なんだ? もういいのか?』


 スピードが徐々に緩み、やっと息ができるまでになると。


「ブバァ! ハァ! ハァ! あれ以上の速度は無理だ。息できねぇ」


『あれくらいで根を上げるとは……軟弱だな』


「うるせぇ! こちとらか弱い女の子なんだぞ!? ムートこそ、もっとこう……風圧を避ける風魔法とかないのか?」


『ない』


「……そうですか」


 うーむ、空は飛べても精々100km/hくらいか……もう少し装備を整えたらいけるか? ゴーグルとか風よけとか。


「あーぁ、髪がボサボサだ、帰ってソプラに解いてもらわないと……ん?」


 ふと下を見ると、青々とした草原の中にぽつんと映える赤色が……。


「モンの花? にしてはデカ……いや、違う! 人だ!」


 その人は、モンの花の様な赤い鎧を着て、周りに魔物もいるのに草原の中に大の字で横たわっていてピクリとも動かない。


 なんであんな所で大の字で寝てるんだ!? もしかしたら、魔物にやられて動けないのかもしれない。


「ムート! あの、赤い鎧の人の所へ行って!」


『うむ』


 急速旋回で鎧の人の所へ急降下する!


 近づいた所で飛び降りて安否を確認する!


「大丈夫ですか!?」











「くかーーーー」


「寝とるーー!!」


 めちゃ寝てた。真っ赤な鎧の人は金髪ロングのキレイめなお姉さんだった。


 はぁ!? なんでこんな所で無防備に寝てんのこの人!? よだれ垂らして、変な夢見てんのか「お肉まてぇ……」とかニマニマして寝言いいながら爆睡しとる。


 呆れて物も言えないが、とりあえず周りが魔物だらけで危ないので起こす事にした。


「おねーさん! 起きて! こんな所で寝ちゃダメだよ!」


 ゆさゆさと体をゆすり起こす。


「……ん? はぁ!! 肉ぅ!?」


 お姉さんはガバッと起き上がり、辺りを見回す。そして……。


「肉は!?」


「しるか!!」


 俺を見るなり肉ってなんだよ! まだ夢の中にいるのか!


『なんなのだこいつは?』


 ムートがぽふんっと俺の頭の上に乗る。お姉さんはそれを見ると。


「わぁ! 美味しそうなトカg、ヘブゥ!?」


 いきなりムートに飛びかかってきたお姉さんはムートのしっぽでしばかれた。余程痛かったのだろう……奇声を上げながら転がり回っている。


 10分後……。


「すいませんでした。つい美味しそうと思って……」


 お姉さんは正座して謝ってくれた。


「うん、こっちこそムートがすんませんでした」


 このお姉さんは王都からきた冒険者で、魔物狩りをしていたのだが、途中で腹が減りすぎて動けなくなってしまい、体力回復の為にとりあえず寝ていたのだそうだ。


「あのぉ……君みたいな子供に頼むのも申し訳ないんだけど。食べ物を少し分けてくれないかな? お腹空いて動けないんだ……」


 腹から尋常じゃない程の腹の虫を鳴らし、照れ臭そうに頼んでくるお姉さん。


 なんだこの人、腹に魔獣でも飼ってんのか!? こんな凄い腹の虫、聞いたことないんだけど……。


 お腹空いてるのはわかった。ここで見捨てていくのは何か可哀想だし、会ったのも何かの縁かと思い食料を少し上げることにした。


「しょうがない、ムートお姉さん掴んで飛べる?」


『うむ、そのメスが暴れなければ大丈夫だ』


「よし、じゃあお姉さんちょっと動かずに我慢してね」


「君は誰と喋ってるんだ? それに我慢って何をするんだ?」


 お姉さんがキョトンとした表情をしているが、腹の虫は凄みを増すようにドンドン大きくなっていく。早く行かないと魔物が寄ってきちゃうよ。


「よし、行くよ!!」


「よしって……えっ? ちょ!? イャァァァァァァァァァァァア!!」


 俺はムートに乗り、ムートはお姉さんの腰を掴み飛び上がる。


 爽やかな草原の中にお姉さんの悲鳴と腹の虫が響き渡り、急いでみんなの元に戻るのだった。

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