66 運輸ギルドへ
話し合いが終わった後デリバーさんが「仕事の詳細を説明するので、明日運輸ギルドに来てください」と悲壮感たっぷりに場所と時間を教えてくれた。
ちなみにソプラは各ギルドから熱烈な勧誘を受けたが、まだ決めかねているので保留という事になっている。俺とはえらい違いだ……。
俺たちは一旦馬車で宿へ帰宅。結構な夜中に宿に到着すると、心配していたユーヤさんのダイレクトアタックが炸裂。
夕食は話し合いの途中に軽食が振舞われたので体を拭いて寝る事になった。俺たちは精神的にも疲れ切っていたので、すぐに夢の中に落ちていった。
そして朝……。
『ーーーー!!』
俺とソプラはベットから飛び起きた。
「ぐおおおおおおおお!! うるせぇええええ!!」
「クーちゃん!! 起きた!! 起きたよぉ!!」
『ぬうう!?』
クーちゃんの朝の発声で、またもやご近所にご迷惑をかけたと謝って行く。これは早めに王都を離れないといけない。
昨日はあの鳴き声で起きなかったのか……信じらんねぇ。
その後、朝食と身支度を済ませ、ユーヤさんから見送られ、ミーシャの案内の元、全員で運輸ギルドへ出発した。
* *
「ここかぁ……結構大きいな」
「立派な建物だねぇ」
「王都のギルドはどこもでけぇなぁ……」
『このような物を作るのか、人間とは器用なものだな』
『クックゥ』
『キュー』
運輸ギルドは、赤煉瓦造りの大きな建物だった。真ん中に受付、隣には倉庫のような建物もあり左右に3棟くらい連なっている。俺とソプラとドーラで見上げていたらミーシャから催促が来る。
「ほら、ぼーっとしてないで早くこっちきなさい」
「「「はーい」」」
ミーシャに連れられて中に入ると、台車を押す人や書類整理をする人や荷物・手紙の受付に並ぶ人などで、ごった返していた。
「さて、案内人がいるはずなんだけど……」
「中も凄い人混みだな」
「どこに行けばいいんだろう?」
「あそこの受付なんじゃないか?」
ミーシャが辺りを見回し、3人で話してたら。
「あー!! 来てくれたんですねー!! お待ちしてましーーヘブゥ!?」
横から大声で声かけてきて、そのままロングスカートの裾を踏み、勢いよくすっ転ぶお姉さんが……。ん?この人って……。
「……もしかして、フィルさん?」
「はい! そうです! 覚えててくれたんですね!! ありがとうございます!!」
ガバッと上半身を起こし、にこやかに返事をしてくるのは、王都にきた時に俺たちをスカウトしにきたフィルさんだった。いや……それより。
「うん、それはいいんだけど。スカートめくれてパンツ丸見えだよ」
「フギャーー!?」
フィルさんが慌てて立ち上がりスカートを直したが、周りを見ると数人の男共がニヤつきながらこっちを見ていた。
あっ、また涙目になってプルプルしてる。本当この人、天然属性半端ないな……でも、俺も朝からいい物見せていただきました。ありが……ソプラ、横からそんな目で見ないでください。
「はいはい茶番はいいから、あなたここの職員なんでしょ? ギルドマスターの所に案内してくれる?」
「えっ? はっ、はい! こちらです!」
まだ涙目のフィルさんは、俺たちを連れて二階の部屋に案内してくれた。
* *
「ギルマス! ギルマス!! 見て! 見て! 見てくださーい!! 私、ついに……ついにスカウト成功しましたー!!」
扉の前に到着するやいなや、ノックもせずに両開きの扉を勢いよく開け放つフィルさん。
「うわー!! フィッ……フィルさん!! いつもちゃんとノックしなさいと言ってるでしょ!!」
「そんな事より見てください! わたし、スカウト成功したんですよ! 声かけた人が運輸ギルドにきてくれたんですぅ!!」
「はぁ……朝から君の高い声は、頭に響くから黙ってくれ……」
朝からすでに疲れていそうなデリバーさんに追い打ちをかますような、ハイテンションのフィルさん。
デリバーさんも、この天然娘に手を焼いているようだ。
「おはようございます。デリバーさんアルトを連れてきましたよ」
「「「おはようございます」」」
うなだれているデリバーさんに全員で挨拶をする。
「おはようございます、よくおいでくださいました。では、皆さんそこの椅子に座ってください」
「はぇ!? なんでギルマスが皆の事知ってるんですか?」
デリバーさんが俺たちを知っている事に驚きを見せるフィルさん。
「君は朝礼聞いていたのか?」
「いやー朝弱くて……立ったまま寝てました」
デリバーさんが呆れ顔でフィルさんを見……いや、あれは諦めた顔だな。
「そこのアルトちゃんが国王陛下勅命により、うちに来る事になったんだよ」
「へぇ〜……えぇええええええ!? 国王陛下勅命!?」
めっちゃビックリしてる。そりゃそうだよな国王陛下勅命でくるなんて普通ありえな……。
「わたしのスカウトで来たんじゃないんですかぁ!?」
「驚いてたのそっちかよ!!」
フィルさんは「初のスカウト実績がぁ〜」とか涙目になりながらデリバーさんに食い下がった為、他の職員に強制連行されていった。
その後、デリバーさんより運輸ギルドの仕事内容と賃金について説明をしてもらい、俺が文字や数字を読めるか簡単なテストを受けた。
テストの結果は平民の女の子としては飛び抜けていたようで、大人や商人と変わらぬ識字力と計算力だったようだ。
だからといって、いきなり報酬の良い仕事にありつける、と言うわけではないようだった。
運輸ギルドにはF〜Aまでの配達ランクがあり、手紙の配達から少量の食品・資材等の運搬まで幅広く、距離も遠くなるとより高ランクになるようだ。
まずはFランクの依頼をこなして実績を作り、ランクを上げていかないといけないらしい。
どんなとこでも、まずは下積みを積まないと上には行けないという訳だな。
「じゃあ、まずは何からやればいいの? 早くランク上げて稼がないといけないから、サクサクできる仕事お願いします」
「そうですね、早くランクを上げるにはまず郵便配達ですね。ギルドに届いた手紙を指定の場所まで配達するのが仕事です。中には文字の読み書きができない人もいるので、追加料金で代筆や読んであげることも仕事になります。
アルトちゃんの住むベルンでも多少は依頼があるから、まずはそこで頑張ってごらん」
「はい! ありがとうございます!」
「そうだ、バハムートに乗って運ぶんだよね? その……町中では、あまり大きくならないでほしいんだ。みんな怖がってしまうからね……」
デリバーさんがムートに向かって申し訳無さそうにお伺いを立てている。そんなにかしこまらなくてもいいのに……。
「ムート、人が住んでるとこでは、あまりそれ以上大きくなるなってさ」
『うむ、わかった』
ムートがコクリと頷くと、デリバーさんはホッと胸を撫で下ろしたように息を漏らした。
「じゃあ最後に、今の大きさでどれくらいの荷を運べるか検査したいんだけど、いいかな?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあこっちについて来て」
* *
デリバーさんの提案で、俺たちを隣の倉庫の一角に移動した。
倉庫の天井は結構高く、周りには色んな木枠に入った荷物が積んであり、職員が引っ切り無しに荷物の仕分けを行なっていた。
「この辺りでいいか、荷物はその辺の物を順番に持ってもらうから、まずはアルトちゃんがバハムートに乗ってもらえるかな?」
「はいよ! みんなちょっと離れてて、ムートも準備いいか?」
『うむ、大丈夫だ』
俺はムートの首と羽の間に足を通して跨り、ムートが魔力を込めると、羽をバタつかせもせずフワリと浮き上がった。
「いやー飛べるものですね」
「おおー飛んでる飛んでる! いいなー」
「わたしも昨夜乗せてもらったけど、気持ちいいよ」
「魔量が多いから成せる事ね、普通はあの小ささで人を乗せて飛ぶ事なんて出来ないわ」
倉庫の上の方をスイスイと飛び回り乗り心地を確認する。ムートが調整してくれているからなのか、あの高い所から落ちたようなズーンとする感覚もないし、座り心地も良く快適だ。
何よりめっちゃ楽しい! 空を自由に飛び回るのめっちゃいい! 転生してよかったと思えた1つの瞬間だった。うん、実に良い。
「アルトちゃん、まずはここの荷物を持ち上げてもらえるかな?」
デリバーさんが指差した先には、見た目10キロくらいの麻袋があった。
「ムート、まずはアレ持ち上げてみて」
『あんな小さいもので良いのか? もっと重そうな物でも大丈夫だぞ?』
「まずは徐々に見ていくからいいんだよ」
『うむ、わかった』
結果としてムートは、俺を乗せたまま100キロくらい楽々持ち上げて飛行可能だった。
しかし、町中でもし荷物が落下でもしたら危ないとの事で、初めは20キロくらいを上限にして安全性を確認して行こうということになった。
その後、運輸ギルド職員への紹介や契約書などの手続きも終わり、お昼過ぎには宿に帰って、ベルンへの帰宅の準備をした。
ベルンに帰ってからは初の仕事が待っている……バリバリ頑張らないとな!
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