65 バハムートの宅配便
「白金貨10,000枚いぃいいいい!?」
俺は力の限り叫んだ!
無茶だ! 一般の村娘がどうこうできる額じゃねぇ! ザックリ円換算すると……10億!? 無理無理無理無理!! 何考えていらっしゃるのヴォリオ様!?
「国王陛下、それは余りにも無謀な金額ではないかと」
ミーシャが立ち上がってヴォリオ様に抗議してくれた。
いいぞ!! さすがミーシャ様!! もっと言ってやってくだせぇ!!
「ふむ、本来ならば間違いなく死罪だが、バハムートがいる限りそれもできぬ。我が国の全勢力を持ってしても太刀打ちできないだろうからな。
それを、相互干渉無しと言う要望も付けて野放しでは、他の臣下や国民にも示しもつくまい。
会場の修繕費用のみにしたのは、かなり譲歩したのだが……建て直しの方が良かったか?」
ヴォリオ様が片眉を上げて頬杖をつき、ミーシャを凝視する。
「うっ……も、申し訳ありません」
ミーシャは俺に“すまない”というような表情を見せて、静かに着席した。
ミーシャさぁーーん!? も少し頑張ってよ!! 早いよ!? 諦めないで!! 諦めたらそこで試合終了ですよ!? ミーシャさぁーーん!?
「で、アルトよ。それで良いか?」
俺が絶望的な表情でミーシャを見ていたら、ヴォリオ様がまたニコリと微笑んでくる。あっ……これはアレです、逃げられないやつです。あの笑顔はズルいです。
「アルトちゃん……」
『クゥー』
ふと、隣を見るとソプラが今にも泣き出しそうな目つきで俺を見ていた。
あぁ……泣かないでソプラ。
……そうだよな、もし死罪だったらソプラとも即お別れだったわけだし。会場ぶっ壊して王前の儀もめちゃくちゃにしたのに、修繕費用だけで許してもらえるのは、かなりの優遇処置と思っていいのかもしれない。
まぁ額は途方も無いけど、ムート使って何とかしよう。そうさ、生きていればなんとかなる!
「大丈夫だよソプラ」
俺はソプラにニコッと笑って、ヴォリオ様の方を向き立ち上がる。
「つ、謹んで、お受けいたします……」
深々と礼をして修繕費用を支払う事を示す。
「そうか……金額は酷だが、そなたの言い分を聞ける最低限の処置と思ってくれ。仕事はここに署名もした、各ギルドマスターが考えてくれるだろうから、バハムートといっしょに頑張ってくれ」
「はい!」
『うむ』
「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」
ヴォリオ様の発言に、各ギルドマスターが不意打ちをくらったような表情でヴォリオ様を見る。
皆様凄く驚いておりますね。そりゃそうでしょう。取り扱いを一歩間違えば、国が滅びる超巨額負債の核爆弾少女を働かせろって上から命令されたんだし……。
でも、もう後戻りはできないの。制約もしてしまったしね。ここはひとつギルドマスターさんたちに良い仕事を紹介してもらって、負債の早期完済をさせてもらいましょう!!
「よろしくお願いしゃーす!!」
今度は元気よくギルドマスター達がいる方に深くお辞儀をした。
顔を上げると、ほぼ全員が引きつらせた表情で俺を見ていた。
おやおや、そんなに嫌かい? 自分で言うのもなんだが、見た目は結構プリティーな女の子ですよぉう!? 怖くないよぉ?
『お主、露骨に嫌がられとるな』
うるせぇ! 黙ってろ!!
* *
その後、ヴォリオ様と各国のお偉いさん方は退室して、俺たちと各ギルドマスターは部屋に残された。
そこからは話し合いというより、なすり付け合いの応酬だった。
「バハムートの戦力を有効活用するならば、魔物狩りの冒険者ギルドなんて最適なんじゃないのか?」
「バカ言え! 会場でリエルと暴れまわった時の事を思い出せ!! あの小さな火球であの威力なんだぞ!? 魔物の殲滅が先か、辺り一面荒野になるのが先か考えろ!」
「よく見たらこの子、中々かわいい顔してるじゃないか? 芸能ギルドで1発当てるってのはどうなんだ?」
「あなた、扉の前でこの子達を待ち構えていたシアン様に同じ事言えますの? ケンカでもして、バハムートの琴線に触れる事があれば国が滅ぶのよ!?」
「そう言えば料理が得意って言ってたな。商業ギルドの飲食店で働かせたらどうだ?」
「バハムート使って料理なんかできるか! 料理どころか店が丸焦げになるわ!」
ギルドマスター達は、必死で俺とバハムートを押し付けようと口論が続いている。
「中々いい仕事決まらないね」
「そだねぇ」
『クックゥ』
『ZZZ……』
ソプラと俺はクーちゃんをもふりながら、白熱する口論を眺めていた。ムートは全く興味ないみたいで、テーブルの上でお腹見せて爆睡中だ。
最初は俺も話し合いに参加して希望を言ってみたんだけど、全て却下されてしまった。
・ドラゴン討伐からの素材採集
ドラゴンの素材はたしかに高価だが、その素材はほぼ死体から回収した物だそうだ。
基本群で行動し、一匹でも討伐したら群で報復に来て、その後も暴れ狂い手が付けられないので周辺各国はドラゴン討伐を禁止しているようだ。はぐれドラゴンなんかは400年以上前に一匹観測されたぐらい稀なことだと言う。
ーー却下。
・バハムートの鱗を売る
バハムートの鱗を加工して売れば良いのでは? ムートに頼んで一枚貰い、ギルドマスター達に見てもらった。
非常に素晴らしい素材だが、これを加工するには今の技術では100年はかかりそう。
ーー却下。
・ムカつく隣国を焼け野はr……
ふざけんな!!
ーー却下。
バハムート使えねぇ……。クーちゃんの方がどれ程有能かよくわかる。この平和な時代に、バハムートのような過剰戦力は本当に無駄だ。
腹を無防備にさらけ出し、羽をピタピタ打ち付けてグースカ寝ているバハムートを見て……ん? 羽?
「なぁ、おい。ムート起きろ!」
『む? なんだ?』
「おまえさ、もう少し大きくなって俺を乗せて飛ぶ事できるか?」
『お主くらいなら、今のままで乗せても掴んでも飛ぶ事くらいはできるぞ』
「他に物が増えても大丈夫か?」
『大丈夫だ』
「わかった! ありがとう!」
『?』
そうだよ、バハムートが火球を放つ以外にも使える物があるじゃないか!
俺は思いついた仕事を伝えるべく、急いでギルドマスター達の所に走り寄った。
「すいません! 俺いい事思いついたんです!」
「アルト黙ってなさい、今真剣に話してるんだから」
話し合いに加わっていたミーシャもイライラしてるのか、怪訝な表情で俺を見てくる。
「いや、本当にいい案思いついたんだ! ミーシャ! 俺『宅配便』やるよ!」
「は? 宅配便?」
「そう! ムートがさ、俺と荷物くらいなら今のままでも乗せて飛べるらしいんだ! だからどんな所でもすぐに荷物を配達できる、宅配便ならできそうだと思って!!」
俺は自身満々に告げた。
そう、戦うだけがバハムートじゃない! 空を飛べると言うアドバンテージを活かして配達業をやればいいのだ!
まぁ、発想は某ジ◯リ映画からだけど、それを言ってもわからないから黙っておく。
「ほう! そりゃいけるんじゃねぇか? なぁ!!」
「えぇ! 素晴らしいアイデアだわ!」
「あんな小さくても飛べるんだな」
「そうとなるとギルドは……」
皆が一斉に1人のギルドマスターを見る。
「えっ!? わっ……私の所ですかぁ!?」
そこには、注目を浴びうろたえる1人の細身のおっさんがいた。
「宅配便って言ったら運輸ギルドだろう? ピッタリじゃねぇか!」
「そうね、荷物持って飛ぶだけだし、危険もなさそうね」
「よし! これで解決! いゃー良かった良かった! じゃあ後はよろしく頼むわ!」
「いや、あの、ちょっ……えええ!?」
うろたえるおっさんをよそに、次々とにこやかな表情を見せて席を立つギルドマスター達。どうやらすんなり俺の案が通ったらしい。
ミーシャはため息ついてこっちを見ている。話し合いがやっと終わって安堵したのだろう、ご苦労様でした。
俺は未だオロオロしている、運輸ギルドのギルドマスターであろうおっさんの前に歩いて行き挨拶をする。
「アルトです! よろしくお願いします!!」
「えっ? あの……はい、運輸ギルドマスターの……デリバーです。よ、よろしくお願いしま……す」
ガックリと肩を落として、燃え尽きたジョーみたいに椅子に力無く座るデリバーさん。元気だしなよ、俺頑張るからさ。
外を見ると日も落ちて、すっかり夜になってしまった長い話し合いは終わり、ようやく俺は『バハムートの宅配便』として運輸ギルドで働く事になったのだった。
やっと本当のタイトル回収です。次回からがようやく本編になります。長すぎですよね笑
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