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60 一旦の閉幕

 ヴォリオ様の許しを貰い、16才までの猶予も貰った。これからバハムートを使役して、なんとか生き延びなければ!


 両拳を握りしめ意気込んでいたら、不意にバハムートが俺の頭からパタパタと飛び上がった。


「ん? どした?」


 ふとバハムートを見上げて、気を抜いた瞬間……。


 ドゴォ!!


「フグゥ!?」


 何度目になるだろう……ミーシャの鉄拳制裁が容赦なく俺に振り降ろされた。


 体が壊れたおもちゃのように何度か跳ね、白井◯三ばりのひねり回転をつけながら地面に叩きつけられながら、徐々に勢いが無くなって最後は力無く横たわる。


「きゃあぁぁぁあ!! ミーシャ!やり過ぎだよぉ!! アルトちゃん!! アルトちゃん!! しっかりしてぇ!!」

『クッ……クゥゥ』


 ソプラが全力で走り寄ってきて治療魔法をかけてくれる。


 薄れゆく意識の中見上げると、ソプラが俺を抱き抱え、涙目になりながら治療魔法をかけてくれている。そして、その背後には怒りを通り越して引きつった笑顔のミーシャがいた。


 あぁ、早速ソプラを泣かせてしまった。ごめんな。


 というかミーシャさん……その笑顔、非常に怖いです……。俺はあと何度、死の淵を彷徨えば良いのでしょうか?


 ソプラのおかげで全身の痛みが和らいだが、次は生きていられるだろうか……もしもの時のために辞世の句の事を考えていたら、逃げていたバハムートが再び俺の頭に着頭した。


『大丈夫だ。それくらいで死ぬわけなかろう、そこの者もギリギリ意識を保てるよう加減して攻撃しておるしな』


 俺の顔を覗き込みながら、ミーシャの鉄拳制裁を分析して教えてくれる。というか、ズキズキ痛む頭の上に乗るとか、コイツワザとやってんのか?


「むしろこの痛さを感じるんなら、意識刈り取って欲しいんだけど!? てか逃げるな! 主人を助けろよ!!」


『うーむ……こんな時は殴られる方がいいとムジュラが言っておったのだが……こちらの世界はちと違うのか?』


 バハムートが小首を傾げながら、眉間にしわを寄せる。


「殴られて良いわけあるか!! イタタ……瀕死になりかけてるんだぞ!? そもそもムジュラって誰だよ!?」


『異世界召喚より帰ってきた我の友人、魔界ナマコのムジュラだ』


「そうか……もし、ムジュラに会った時は切り刻んでナマコ酢にして食ってやるわ!! ぐぅぅ……」


「アルトちゃん、そんな大声出すと頭、痛むよ!?」


 ソプラの治療魔法をかけてもらったけど、まだ大声出すたびに頭が割れそうに痛い。


「大声出せるくらい回復したようね? アルト……あと2、3発我慢なさい」


 指をポキポキ鳴らしながら、笑顔のミーシャさんが近づいてくる……いゃあ! 来ないで!!


「だめぇ!! あと2、3発ってアルトちゃん本当に死んじゃうよぉ!!」

『クックッゥ!!』


 ソプラが涙目になりながら、両手を広げて俺の前に立ち庇ってくれる。ニワトリも翼をバタつかせてミーシャを威嚇する仕草を見せている。


「どきなさいソプラ。この惨事も国王陛下への暴言もどれだけの事をしでかしたのか、わかっていないの?」


「それでもだめぇ!! アルトちゃんにお仕置きするなら、わたしミーシャの事、嫌いになるよ!」

『クックゥ!』


「……ソプラ」


 あぁ……今、俺の目の前には小さな勇気ある天使が降臨なされておる。なんと健気で神々しい……大好きだ。


 そして、ソプラの気迫に押され、歩みを止めたミーシャにバハムートが声をかける。


『やめよ……1発は見逃すが次はないぞ』


 バハムートが頭の上で魔力を練り上げる。頭の上に乗っているからだろうか? 俺にもその魔力の密度がよくわかる、何やるかわからんがこれはやばそうだ……。


 しばらく睨み合いが続き、ふとミーシャの握り拳が緩み、降ろされた。


「……ふぅ。わかったわ……。でもねアルト、次やらかしたら、もっと強く行くからね」


「は……はい」


 ギロリと睨みを効かせてくるミーシャに反論はできません。てか、もっと強くやられたら死にます。間違いなく。


「よかったねアルトちゃん」

『クックゥ!』


「ありがとうソプラ」


 ソプラの笑顔を見たら、心の底から落ち着くのがわかる。改めてソプラの為に生き延びねばと決意を固める。


 ミーシャの怒りが一旦落ち着き、ホッとしたら。


「ホッホッホ、バハムートとは、こりゃまたとんでもない召喚獣じゃのぉ」


「ジジイ!?」


 いつの間にかチューバのジジイが髭をわしゃわしゃしながら後ろに立っていた。


「アルトぉ!! チューバ先生に向かってジジイとはなんだ!?」


 俺のジジイ発言に一旦落ち着いたミーシャに青筋が立ち、ギロリと睨んでくる。


 しまった。口が滑った。


「ホッホッホ、ちと嫌われてしもうたかな? 国の為とはいえ小さな女の子を危険に晒すようなことをしてしまったのは事実じゃからな。……すまなかったのう」


 そういうとジジイは膝をつき深く頭を下げてきた、土下座だ。


「チューバ先生!?」


「ちょっ!? 何やってんの!? 土下座とかやめてよ!! そりゃちょっとクソジジイとかは思ったけど……それでも、そこまでしてもらおうとは思ってないから!! 顔上げてよチューバ様」


 いくらクソジジイでも、さすがに土下座はあかん! 国でもかなりの立場にありそうな人が、こんな小娘に土下座はあかん!


「ホッホッホ、ありがとう。アルトちゃんは優しいのう。しかし、カルロスも幼い時は、わしのことをクソジジイ、クソジジイと言っておったではないか。お互い様じゃ」


「うっ……それは……」


 顔を上げたチューバ様がニカッと笑い、ミーシャはどこかバツが悪そうに顔を背ける。


 俺はまだ膝を地面についたままのチューバ様を立たせて、式典用の豪勢なローブに着いた土埃をパンパンとはたき落としてあげる。


「ありがとう。さてと……えらく小さくなってしまっておるが、その頭の上のがバハムートなんじゃろ?まさか生きている内にバハムートをこの目で見る事になるとは思っても見んかったわい……」


 チューバ爺さんがマジマジと興味ありげにバハムートを見る。


『ふむ、この者も只者ではないな。纏う魔力が他の者とは明らかに違う……。顔は笑っておるが、隙を見せれば高威力の魔法がいつでも飛んでくるぞ』


 バハムートが警戒し、目を細めてチューバ爺さんを見るが、当の本人は無反応だ。


「え? 隙って何? チューバ様もバハムート狙ってるの?」


 俺の一言にチューバ爺さんがピクッと反応する。顔から笑みが消え、右足を軽く後ろに下げた。


「アルトちゃん……どうしてそう思ったのかな?」


「え? いや、バハムートがそう言ってたから……」


 バハムートを指差し、そう言うと。


「!?……言ってた!? まさか!? 意思の疎通ができるのか!?」


 チューバ爺さんが目を見開き驚愕の表情を見せる。


「あれ? さっきから喋ってますけど……チューバ様は聞こえないの? ヴォリオ様はバハムートと普通に喋ってたけど……」


「国王陛下が!?」


 チューバ爺さんが眉間にシワを寄せ難しい顔をしている。どうやらチューバ爺さんには、バハムートの声は聞こえていないみたいだ。


 耳が遠いって訳でもなさそうだけど、なんか条件でもあるのだろうか?聞いてみるか。


「なぁ、喋れる条件ってなんかあるの?」


『さあ? わからぬ』


 なんもわからんかった。軽く呆れた表情でなんで喋れないのかバハムートに聞いてもわからなかったとチューバ爺さんに教えてあげると。


「ふむバハムートの意思の問題ではなさそうじゃ……もしかしたら、あの召喚魔石に吸い込まれた光輝く魔力に何か秘密がありそうじゃな……」


 少し目を閉じて考え込んで、再びチューバ爺さんが俺をジッと見て真面目な顔をする。


「すまんがアルトちゃん、後でバハムートの話を聞きたい。この騒ぎが落ち着き次第で構わんから、バハムートと話をさせてくれんか?」


「俺は大丈夫だけど……どうする?」


 一応、確認でバハムートを見る。


『我は構わんが』


「大丈夫だそうです」


「ありがとう……後始末はわしらがやっておく。落ち着いたら使いを出すので一旦、宿にでも戻っておいてくれ。カルロス……頼んだぞ」


「はい」


 チューバ爺さんはミーシャに俺の事を頼み、ヴォリオ様の後を追って行った。


「とりあえず宿に帰るわよ。……本当、アルトと一緒にいると心休まらないわ……」


「申し訳ございません……」


 こうして大混乱の王前の儀は、とりあえず終わったのであった。

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