6 運命の出会い
ベルンに着いた。
町の周りは高さ3mくらいのレンガの城壁でグルリと囲まれていて、その外側には草原と畑が広がっていた。
ダンは荷車を城壁の外側にある小屋に止めて、ジムを荷車から解放して見張りをしておくよう命じた。
魔物もいるので番犬よりよっぽど優秀だ。
俺達は荷車を降りて、徒歩で街中に入った。
ベルンの町は賑やかだった。
イリス村とは違い、建物は木造2階建も多く見られ、区画も整っている。
宿屋や飲食店、小さな武具屋、服飾類や日用品の商店など一通り揃っていて、夕暮れ前だがそれぞれの店も活気があった。
ダンが町の入り口近くにある建物の中に入り、俺とシーラは外で待っていた。多分ここが木材の売買をする所なんだろう。
しばらくしたらダンが誰かと一緒に出て来た。
「おぉー! 久しぶりだなシーラ! この子は2人の子供か!? いやーべっぴんさんだ!」
身長はダンより頭一つ大きくガタイもいい、真っ黒に日焼けした肌、髪は黒でボサボサ、無精髭も生やしている。
服装は綿の濃いグリーンのズボンで上はボタンを留めず、はだけた汚れたYシャツを着ていた、袖がパツパツで今にもはち切れそうだ。
そんな元気ハツラツなおっさんがシーラの前まで歩いてきて、俺に目線を合わせるように片膝をつきながら座り込んだ。
「はい、お久しぶりですマルクさん。相変わらずお元気そうで何よりです。ほら、アルトご挨拶して」
シーラが両手で俺の肩を掴み、ぐいっと自分の前へ押し出して挨拶を促してくる。
「初めまして、名前はアルトです。7歳です」
軽く背筋を伸ばし、無難な挨拶をしてお辞儀した。まぁ、7歳児の挨拶ならこんなもんだろう。
「おお! しっかりしてるじゃないか! 噂は聞いてるぞ! 小さくて可愛いが、時折おっさんみたいな看板娘だとな! ハハハハハ!」
そう言いながら右手で俺の頭をゴリゴリ撫でてくる。
ぐおおおお! 手もごつくて大きく、まるで野球のグローブで撫でられてるみたいだ。
せっかくシーラが髪をクシで梳かしてくれたのに、見事にボサボサになってしまった。
「アルト、この人はマルクさん。俺やシーラがここに来てから、今の住む場所や仕事をくれた恩人なんだ。将来もし、この町で困った事があったらマルクさんを訪ねるんだぞ」
俺が頭をゴリゴリされている中、ダンが苦笑いを浮かべながらマルクの紹介をしてくる。笑ってないで止めてくれよ!
「あらあーら、珍しい人が来てるじゃなーい?」
シーラと俺の後ろから、一癖ありそうな野太い声が聞こえて来た。
振り返ると、かかとの低い黒のヒールを履き、足を肩幅に開き左手は腰に当て、獣の後ろ足を右手に掴み胴体を肩に乗せてかかえる、身長2mを超えるムキムキマッチョな修道服の『シスター』が立っていた。
「わぁ! カルロス! 久しぶり! 会いたかったよー!」
シーラが弾けたように走り寄り、満面の笑みで再開を喜んでいる。
「んもぅ、シーラったら。此処ではミーシャでしょ? ふふっ、でも久しぶりね、元気だった?」
「ははっ! ごめんなさい。子育てで忙しくてしばらく来れなかったけど、おかげさまで頗る元気よ!」
どうもこのゴリマッチョとシーラは長年の付き合いみたいだ、てか顔も角ばっていてタラコ唇、うっすらとヒゲの剃り跡も青いし、完全に男だろあれ。
俺が完全にドン引きしていると。
「おぅ、ミーシャ。今日も狩りかい?」
マルクが、からかうように声をかける。
こちらに気づいたミーシャが恥ずかしそうに。
「いやねぇ……レディに対してカリだなんて……。お・は・な・つ・みよ❤︎」
ミーシャが左手の人差し指の中程を口につけ、ウインクしながら言い放つ。
「肩に乗せた獲物と、お前の羞恥心の基準がわからねぇよ」
マルクが呆れるように軽くため息をつく横で、俺とダンは密かに頷いた。
「その子がアルトちゃんね? シーラの小さい時とそ〜くりね。あの頃を思い出しちゃうわ〜」
左手を頰にあて、遠い目しながら斜め上を見つめ、昔を思い出すような仕草をするミーシャさん、キモいから勘弁してください。
「今日はもう遅いから、明日教会に顔を出そうと思ってたんだけど、町の入り口で済んじゃったわね。ん?ミーシャの後ろにいる子誰?」
シーラがミーシャさんの後ろにいる小さい人影を見つけて尋ねた。
「あーぁ、この子は3年くらい前にうちに来た女の子で、ソプラって言うの。引っ込み思案で中々外に出ないから、たまにかr……お花摘みに外に行ってるのよ。ちょうどアルトちゃんと同い年のはずよ。ほら、隠れてないで挨拶なさい。」
今、絶対狩りって言いかけたよね!どうして頑なにお花摘みにこだわる!?
シーラがしゃがみこんで、まだ隠れている少女に優しく語りかける。
「初めましてソプラちゃん、恥ずかしがらないでお顔見せて欲しいな♪」
するとミーシャさんの服の裾を握りながら、ジト目の少女が前に出て来た。
淡く青いショートカットの髪、白くきめ細やかな肌、身長は俺と変わらないくらいで、小さいながらも修道服を着ていた。
「ソプラ……です」
大きく丸い、どこまでも透き通るような青い瞳を潤ませながら、両手をお腹の所で交差させ丁寧にお辞儀した。
「青い……瞳……」
ダンがボソリと呟くと同時にソプラがビクッ! と硬直し、そのまま少し悲しげな顔で俯いてしまう。
それを見てシーラが眉根を寄せ、振り向きダンを睨む。
ダンはすぐさま我に返り、罰の悪そうに顔を歪め視線を逸らす。マルクは目を閉じ、黙ったままだ。
一瞬にして場が凍りつくような緊張感が走る、まるでタブーに触れたように……。
しかし、俺はそんな空気なんて関係なかった、目の前の美少女を見た瞬間に、体中に雷に撃たれたような電流が走り微動だにできず、目が釘付けになってしまっていたからだ。
決して俺は、ロリコンではない。
むしろ、シーラのようなナイスバデーのお姉さんが好みだ。なぜ、今の俺と同い年の子供にこんな感情を抱くのか……?
だが、思いとは裏腹に俺の中の直感と言うか、止める事の出来ない感情が爆発するのが早かった。
「可愛い……。スッゴイ可愛い! なに!? その、透き通るような瞳! やばい! スゲー!!」
「「「「「えっ?」」」」」
ソプラ含めた5人が、キョトンとした顔で俺を見る。
俺は反射的に声を上げてしまい自分でもビックリしていた、考えるより体が先に動いた感じだ。
しょうがないじゃん。
こんな美少女初めて見たし、吸い込まれそうな瞳に周りすら見えなくなり、感動すらしてしまったんだから。
思わず走ってソプラに詰め寄り、ソプラの両手を握り締めて口走ってしまった。
「好きです! 付き合って下さい!!」
「「「「「えぇえぇええぇえええぇええええぇぇぇええぇえええぇえええええ!!!!!」」」」」
こうして俺はソプラと出会った。