59 アルトの決意
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「王様が帰れって言ったのに断るなよ……」
『例え人族の王と言えど、何故我が主以外の命令に従わねばならんのだ?』
「じゃあ、俺が帰れと言えば帰還するのか?」
『……本心は絶対嫌だが、お主が言うなら帰還しても良い』
あら? 以外と素直に言うこと聞くじゃない。これは何としても早く帰還してもらわねば。
『……が、我を帰還させればお主は即、殺されると思うぞ……』
「はぁ!?」
唐突に変な声が出た。何で俺が殺されなきゃならん!? 王様自身がバハムートを帰還させればこの惨事を不問とし、それ相応の報酬を約束するって言ってたんだぞ?
そりゃバハムートって言うやばいのを召喚してしまったけどさ!即殺されるのはおかしくない!?
『先程の国の長だが、懐に武器を握りしめておった。平然な態度をしておったが刺し違える覚悟でもあったのだろう……我が素直に帰っていたならば、主は二度と我を召喚できぬよう、その場で切り伏せられていたはずだ』
「まじか……」
殺されたかも知れない状況を思い出し、ぞくっと背筋が凍る。
大昔、地形を変えるほどの強さを持った青目の魔女に、一撃で致命傷を負わせるバハムート……。
コイツか暴れればこの国もあっという間に滅ぶのだろう……会話ができるとは言うが本当にこんな化け物を俺が飼いならすことができるのだろうか……。
『……しかし、我に対する国王の威圧、短期間で危険と判断し単身でも行う行動力、言葉を交わせる事を知り国の利益となるか計算する速さ、迷いが無く鋭い……この国は、良い王がいる中々の国のようだな』
バハムートが含んだ笑いをし、ヴォリオ様を褒めてくる。俺今しがたその良い国王様に殺られそうになってたんですが?
「ちょっと待てよ?つまり俺は、このままバハムートを帰還させると危険物扱いで国に殺される。帰還させないとこの惨状の責任を取らされ殺される。そして、逃したリエルからも命を狙われ続けると……?」
あれ? どっち道、殺される!? もしかして完全に詰んだ?
例え虎の威を借る狐もとい、バハムートの威を借るアルトとなっても、ずっと殺されるかもしれないという緊張感の中で生活したくない。でも生きるにはバハムートの存在が不可欠……。
今後の暗い人生に思いを巡らせているとバハムートが話しかけてきた。
『主が我を使い、国に有益な存在となればせめて国からの抹殺は無くなるだろう?少しくらい働きを見せ、後はのんびりする。簡単な事だ』
いや、簡単な事とか言うがめちゃくちゃ難しい事言ってんだからな!? 例えるなら、小娘1人に核爆弾使って国に有益な存在になれって話だぞ!? できるか馬鹿野郎!!
「じゃあバハムートはその簡単な事に対しての案はあるのか?」
こんな無茶振りを言ってくるバハムートだ。考えも無しに言ってくる馬鹿野郎でなかったら何か案でもあるんだろう。
嫌な予感しかしないけど……。
『ふふん、簡単なことよ。平和とは言うが国とは常に争いがあると言うもの。我が少し本気をだしてこっそり迷惑な隣国の1つや2つを火の海に……』
「できるかボケー!! 一発でバレるわ!! 『国との戦や争いごとには一切関わらぬ』とか言ってたのを即破ってどーする!!」
『いや、だから……こっそりとだな……』
「こっそりと国一つ滅ぼされてたまるか!! お前の価値観はこの世界では違うの!! 俺が考えるからちょっと黙ってろ!!」
軽くドヤったバハムートがシュンとなり、拗ねたのか頭の上で丸くなる。
案の定だった……ちくしょう!! 何とかコイツを使える有益な方法を考えないと俺が詰む!! でもどうやればいいのか検討もつかん!
もう何をどうしていいのかわけわからん! ぐちゃぐちゃ頭を掻き毟り抱えていると……。
「アルトちゃん……」
「!? ……ソプラ」
そこには心配そうに瞳を潤ませ、顔を覗き込む……ソプラがいた。
その顔を見た瞬間、バチンッ! と頭の中に衝撃が走った! 頑丈に伏せていた記憶の鍵が開いたかのように、あの時の事がフィードバックする!
そうだ……思い出した。俺は何を悩んでいるんだ。ソプラにこんな顔させてどうする! 一度リエルに殺されかけたあの時、ソプラを笑顔を見たいから生きたいと言ったじゃないか!!
ソプラの顔は死の淵で見た、悲しい顔のソプラと重なり、俺の生きる意味を理解する。
俺は異世界転生してきた身だが、この世界が大好きだ!
生まれてきたこの国も好きだし、何より大切なソプラがいる。シーラ、ダン、ミーシャ……他にも大事な人がいっぱいいる。
こんな事で殺されてたまるか! 国の有益なんて関係ない! ソプラを笑顔にする為なら、なんでもやってやるさ!!
ごちゃごちゃしていた頭の中が一気にスッキリした。
「ありがとうソプラ」
「え?」
一度目を閉じて深い深呼吸をする。再度目を開いた時には、もう迷いはなかった。口元は微かに笑みも溢れていた。
「国王陛下から夕刻まで時間を貰ったわ……。短い時間だけどバハムートと話をして……」
「いや、その時間は要らないよ」
「ちょっ!? アルト!?」
ミーシャの制止を振り切り国王陛下の元へ走る!
「国王陛下!!」
近衛騎士に囲まれた国王陛下の前に立ち止まり、決意を固めた目を向ける。
「わたし……いや、俺は! 大事な人の笑顔が見たい! その為には死んでなんかいられない! バハムートの帰還は正直難しいけど……この惨事の責任も取るし、褒賞も要らない! ……その代わりみんな笑顔にしてみせる! バハムートと一緒に、今以上の幸せな国になるように頑張るから!! だから、時間をください!! お願いします!!」
全て言い切って腰を90度に折り、お辞儀をする。俺の誠意伝わってくれ!
「小娘の分際で、この様な事態を起こしておきながら、国王陛下に何という口の聞き方を!! そこになおれぃ!!」
近衛騎士の一人が槍を構えて俺に向かおうとするが、スッと横から腕が伸び近衛騎士を制止させる。
「陛下!?」
最初難しい顔で話を聞いていたヴォリオ様の口元が徐々に緩み、そして。
「……クックック……ハーッハハハハハハ!!」
「え?」
ヴォリオ様が豪快に笑い出した。それだけでビリビリと空気が振動する。思わず顔を上げると、近衛騎士の人もビックリしてるみたいだ。
「中々、面白い娘だ! 肝も座っておる! 全員笑顔か、実に愛らしい……バハムートもそれで良いのか?」
『我はアルトの召喚獣だ。さっきも言ったが、全てはアルト次第だ……』
キリッと顔が引き締まり、俺とバハムートをしばらく見据えて
「よかろう、アルトよ。バハムートの力を使いこなし、この国に無くてはならない存在になってみよ!!」
「はい!! ありがとうございます!!」
再度ビシッとお辞儀をすると、ヴォリオ様は顔を上げる前に、慌てる近衛騎士をよそに、踵を返して一緒に歩いて行った。
よっしゃあ! ヴォリオ様の許可も貰った! やってやる、やってやるぞぉおお!!
プランは真っ白だけどね。




